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 ざっざっざ、と足音をたてて歩く。仏頂面をしていると、向こうから勝手に人はさけていく。

 両国橋は夕刻と変わらず――いや増して人が溢れていた。

「むぅー……」

 麦穂色の髪をした娘が、難しそうな顔をしてうなっている。茶屋の店先で、退屈そうに足をぶらぶらとさせながら、いかにもご機嫌斜めの様子である。

 すったもんだした挙句、着物は花紫色の着物に花七宝というものに決まったらしい。大人っぽい色合いのはずだが、輪廻のような小さい子供でさらに飴を持っていると、落ち着きよりも華やかさが際立つから、着物というものは不思議である。

「あ、先生ぇ! 甘ちゃん!」

 手を大きく振っている輪廻に、鈴代は苦笑して手を振り返した。甘斗はむっつりとしたまま歩く。

「もう、遅いよっ! ……なんで汚れてるの?」

 三角にした目を丸くして、輪廻は首を傾げた。

「色々あったんすよ。いいですよね、輪廻さんは川に落ちなくって」

「ふぇ?」

 ますます分からなくなったような輪廻を見て、甘斗は大きくため息をついた。

 泥だらけの上に嫌な匂いがするものだから人が嫌そうな顔をして勝手に避けていく。

 何せ、どぶ川に転んだのだから仕方がない。折角の一張羅を汚して、鈴代はちょっとだけ泣いていた。

 ここに来る途中に浅草にも寄ってきたが、金魚たちの姿は消えていた。

 猫町がどうしたのかはわからない。今頃腹を壊してなければいいが。

 そういえば、この辺りで金魚に襲われている人たちを見た。その人たちが周りには見えていなかったようだと話すと、師は悪戯っぽく笑った。

「今日はお盆だから。お盆って、境が曖昧になる日なんだよ」

 答えになっていない答えに、甘斗は首をひねった。

 しばらく首をひねっていた輪廻だったが、気を取り直したようだ。

「そんなことより、あっちで独楽回ししてたの! はやくいこっ!」

「ちょ、ちょっと待って輪廻! それ静海から借りた服だよね? 汚したらちょっとまずいかなー、なんて? 弁償とか弁償とか……」

 輪廻に手を引かれて、鈴代は人混みへと消えていく。

 甘斗はため息をついて追いかけようとして、ふと歓声に顔をあげる。

 空に高々と本物の花火が上がっていた。

この夏に何度も見た。初めて誰かと一緒に見た花火だ。

 誰かを探して走り回って、それが当然だと思って疑いもしなかった。

 それがちょっとだけ、くすぐったく照れくさい。

 この明かりは江戸にいるならば、きっとどこにいても見える。

 今夜会った色々な人にも届いていることだろう。

 もう一度空を仰いでから、甘斗は二人を追いかけた。



お読み下さりありがとうございます。楽浪です。


今回のテーマはとりあえずたくさんのキャラを出すことでした。

ここまでで短編が一段落ついたので、総集編のようなものです。

ハロウィンやワルプルギスの夜、ミッドナイトサマー同様、盆の夜と妖怪は切り離せないものです。


この話で一応はむさしのシリーズはキリが良くなります。

また続きを書くこともあるかもしれませんが、ひとまずは終了となります。

ここまで読んでくださいまして、本当にありがとうございました。

別の場所か、別の話でお会いできることを願っていますが、ひとまずはお別れを。

ありがとうございました!


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