35.Pday 11日目
AM05:48 福島県双葉郡浪江町請戸港 「モーニングサン」艦上
ここは嘗て東日本大震災前に、太平洋に面した何の変哲も無い漁港であったが、現在は旭製薬の専用埠頭が増設され、震災後の復興が著しい地域の代表になっている。
俺が転生する前の世界では、放射能汚染で今だ手付かずの状態であり、震災直後の状態を残すタイムカプセルの様な、廃墟を晒すゴーストタウン状態だった。
しかしこの世界では俺が歴史に干渉し、震災前にワザと不具合を起して炉心を停止させて置き、その間に傍の低山山頂に重機倉庫と、ディーゼル発電機3機を格納して置いた為、津波に因る循環水停止に即座に対応出来、最悪の事態を免れた結果により無事な地域と成っている。
無論TVの人気娯楽番組の「the ○○ダッシュ」の村も、師匠である百の命の司であるお爺さんも元気な世界である。
我々は昨晩、新請戸港の旭埠頭に停泊をして一晩を過ごした。
港自体は、新港の旭埠頭側は警備の関係上、優遇措置として浪江町請戸小谷地地区を買取し、大掛かりな倉庫を築き周りを高い津波用防波堤で囲い、災害に強い港作りを目指して要塞化しておいたので、ゾンビの侵入を阻んで居る。
新埠頭は防波堤を旧港から南に向けて広げ、2.5倍の大きさに拡張してあり、10万t級の貨物船も係留出来、復興のシンボルとして町民に受け入れられている。
又JR常盤線も双葉駅より新港経由・浪江駅行きの支線も出来、交通の便も良くなり更に発展を遂げつつある。
港街も震災後3年で、嘗ての漁港としての賑わい以上の活況を呈しており、地域の街も周りの復興の進まない地域の住民を受け入れ、人口も膨れ上がった結果、工場と地域住民の関係は良好である。
新請戸港の賑わいは道路行政にも波及し、常盤高速の浪江町ICも一足早く開通し、更に交通の便が良く成った結果、旭工機の組立ラインも新たに街へ誘致される事となった。
何故今更ここへ旭工機のラインを持って来たかと言うと、津波に因り破壊された原発を解体する為、新たな方式の研究や素粒子コンピュータを利用した、建築用ロボットの開発を行う為である。
通常のリモコンや遮蔽措置では数十Sv/hの環境下で、真面に電子機器は作動しなくなる為、どうしたら超高濃度放射線内でロボットや作業機械が、狂い無く動けるかを検証し滅亡後のC国やK国の原発を、処理出来るのかを現在研究中である。
俺は船縁に出て朝日と星空の共演を眺めながら、コーヒーの紙コップを片手に佇んでいた。
そこへ月夜野船長がやって来た。
「お早う御座います代表、船上での鍛錬も良いものでしょう?」
「お早う船長、ああ船の上で潮風にあたりながらする鍛錬も、乙なものですね。
憂さが晴れると言うか、溜まった悪い気が潮風に溶けて行く様で、山とは違った気分の良さがありますね」
「しかしこの辺は良い、幾つかの峠を閉鎖して域内のゾンビを一掃して居る所為で、車限定で女子供でも安心して移動出来ますからね」
「南は熊川に架かる橋から、とその他山側の峠道に北は南相馬町との間の峠を塞げばこの地域は、スタンビートからの被害をそれほど受けずに済みますからね」
「そうですな、切り通しや橋で大型トレーラーとトラックの事故を装い道を塞いだり、崖崩れを偽装してここを陸の孤島として隔離に成功しましたからね」
「そうでもしないと、ここの住民に要らない被害が出て、治安が悪化して域内の統治が上手く行かなく成りますからね」
「そうですね、現在の物資の備蓄を考えると域内の住民、3万8千名で5年分の備蓄ですから充分でしょうが、他の地域から2万も来れば厳しいですから」
「それを警戒して各道に、ナチュラルな罠を4重にして設置して有りますから、自動車に乗って簡単にこの地域への避難は、出来ない仕組みにしましたからね」
「歩きで来る根性がある避難民は助けるが、数自体はそんなに多くないでしょうな。
後は武装船舶に因る海側からの襲撃に、気を付けていないとなりませんから」
「中型の高速ミサイル艦が10隻と、レーダー網が有るので其の辺は問題無いでしょう」
「例のマレーから買い付けた、200tの高速船を改装したミサイル迎撃艦ですな。
機関も武装も強化した中型艦で、ハプーン4基とシースパロー6基、近接対空・対小型船舶用には 3M47 [グブカ]システム2基と20mmガットリング砲1基にキャリバー50・2基とHOS-303短魚雷発射管2基の武装で速力も50ktでしたか」
「まあ民間の武装船にはオーバースペックですが、我社はいつ海外の武装勢力に、襲撃を受けないとも限りませんからね」
「まあこの「モーニングサン」以外にも、2隻の武装商船もローテーションで詰めてますし、港には対艦・対空・対地のレーザー砲と100m装甲反射プリズム照準タワーが有るので、域内は滅多な事ではやられませんからな」
「レーザー砲に関しては、工場内にも同レベルの砲が有りますから、空や地上から襲って来ても一薙で、蒸発してしまうでしょうけどね」
「航空戦力に関してもヒューズ500MD改武装ヘリ10機と、ウルトラライトプレーンの対地航空戦力があるので、油断しなければ大丈夫でしょうし、内部は統制が取れた自治組織と、工場委員会で風通しの良い2つの組織がありますので、外部勢力に取り込まれる恐れは無いでしょうな」
「田舎だから地域住民の結束力が強いですからね。
何代にも渡って何処其処の○○家の息子は、どうとかの住民情報はプライバシーなど、有って無きが如くですからね。
それを嫌がって都会に出ると、都会の人は冷たいと言って、戻ってしまう人が居たりで、見ていると人って我侭なんだなと思いますね」
「ああそうですな、海自に居た頃は毎年若いのが入隊して来るのですが、地方出の隊員などは今代表が言った事で、人間関係が上手く行かずにノイローゼに成り、自殺騒ぎを起こすのが結講居ますからね。
自衛隊等では全国津々浦々から、隊員が入隊して来るので特定地方の、暗黙の了解が通用せずに昔から地方出身者が多い、東京型の対人方式を取るので、最初は戸惑う者が多いですが、暫くするとほぼ順応するのですが、中にはね・・・・・・」
「我社も同じ問題を抱えて居ますが、カウンセラーが相談に乗れる様に幹部を指導して居ますが、やはり取り零しも出て来てしまいますね。
当たり前だと思っていた、出身地の常識が実は地域内の暗黙の了解に過ぎなかったと、早く気づいて自身である程度対応出来る、柔軟性のある人ばかりではないですからね」
「そうですな、こればかりは本人が納得して、自身を変革しないと他人では手の出し様が無いですので」
「その点同じ地方の人間が纏まって居る場合、間に柔軟なその地方出身者が居れば、緩衝材に成ってもらえるので楽ですね」
「その通りですな、日本人は意外と他の民族より、其の辺の柔軟性は抜群ですので、馴染むのは早いと思います」
「後は余計な法律が適用出来なくなった御蔭で、農地の脱塩作業が捗る事。
今年中に域内の農地を80%完全脱塩して、来年の秋には水田や畑の殆どで、従来の7割位の収穫が望めますから、この辺の食料問題は見透視が立ちましたよ」
「例の[まりも]が完成したのですか」
「ええ、試作のXG-501[まりも]が漸く完成しました」
「しかし初めに見た時は何の冗談かと思いましたが、その能力を聞いて更に驚きましたからね。
1cmのセラミック球でどうやって農地に溜まった、塩分を吸着するのかと思ったら、特殊な藻のが成長する時にナトリュウムも吸着するのを利用して、塩分を集める等考えもしなかったですからな」
「ええ、何と旭工機の社員が開発した方式ですからね。
元々農家出の研究員でしたが、セラミック濾過を専門に研究していて、アフリカの塩湖に自生する藻が塩分を取り込む事を研究していて、新たな製塩方法を開発し将来は、スペースコロニー内の排水からの製塩・脱塩サイクルを研究中でしたからね」
「こう言う自由な研究をするだけの、経常利益を上げてそれを効果的な方向で、再投資出来る会社だから他国の、スパイに狙われるのでしょうな。
自身で研究開発の努力をせずに、他人の成果を奪う事ばかりしていると、企業も国も何れ立ち行かなくなるのが、見えないのでしょうな」
「C国の商業関係の幹部と数年前会った時、仕切りに松下K之介氏を褒めて居ましたが、話を聞いていてああコイツは本質が解って無いなと思いましたよ。
彼の会社が国内の技術系会社の技術を奪い、発展を遂げていった事を褒めていた様ですが、実はあの方は独自の販売方法を、企業努力で新規開発していた実態を理解していなかったのです。
だから単なる収奪型の経営をして、会社を発展させた経営者として共感を持って話していましたが、事実は其処にあるのではなく、新たな経営方式を開発した、経営技術者と言える方だったのですがね」
「ふむ、どちらかと言えばユダヤ商人的な、大きなルールを作り利益を上げるシステムを作ったのですね」
「そうですね、彼の方の家は代々商家で、家訓が有ったそうですが、一子相伝の教えだったらしいのです。
後国内では自動車メーカーのT社のオーナー一家も、古い家系で家訓が大事にされて来た様ですが、長く続く商家には独自の家訓がある見たいですね」
「ある意味成り上がりと違い、数百年続く家系には家訓があり、それを大事にする家は代々栄、大事に出来なくなった時に絶えるのでしょうかな」
「その一番良い例が天皇家でしょうね、日本で一番長く絶えずに形は変わるが、憲政は衰えないですから秘められた、家訓が相伝で伝わっているのでしょうね。
しかし他の流血を伴う革命をする国々は、その家訓が続かず3百年位で王朝が衰退し、墜落してしまうのでヨーロッパ等の各王家は、天皇家には偉そうな態度を取れないのです。
しかしK国は大馬鹿をしました、その天皇家を馬鹿にした態度を国際政治の場でしてしまったのですから」
「あれはしてはいけ無いことですな、あんな事を自国の大統領が発言したので有れば、自国は国際政治が解らないアホ国家であると、宣伝するのと一緒ですから。
それにヨーロッパの王政を取って居る国も、王政を舐めているとK国に敵愾心を植え付けられた、と理解しているのに気が付かない見たいですからな」
「まああの国は後1~2ヶ月の命でしょうから、我が国にこんな御時世なのに拘らず、戦争を吹っ掛けた余裕のある国なので、放置しておけば良いのですよ」
「全くですな、今のパンデミックに晒されている世界で、他所に喧嘩を売る暇がある余裕国家に、手を差し伸べる必要は無いですな!」
俺達は思わず顔を見合わせ、彼の国の支離滅裂さに苦笑いをしてしまった。
Pday 11日目
AM06:30 福島県双葉郡浪江町請戸港 「モーニングサン」艦上
俺と船長は艦内に入り、俺は風呂場にあるシャワーを浴びて、汗を流して食堂に向かった。
この艦は燃料電の燃料を作る段階で、かなりの量の真水を精製するので、通常の外洋商船と違い豊富に真水が使えるので、風呂やシャワー・ランドリーの施設が充実して居る。
フルの乗船定員の1千人が乗船しても、余裕で風呂やランドリー等の水を賄える給水能力がある。
通常航々では逆に真水を廃棄して居る程の、豊富さで清水が作られるほどであり、水と光を燃料に航々する為に食料さえ有れば、無補給で5年以上航々が可能である。
俺は日課である朝のニュースを調べたり、各部署のリーダーからのメールに回答をしたりしながら、朝食が出来上がるのを待っていた。
世界の状況は、政府や官庁専用の衛星回線型ネットで、割合と海外のニュースも豊富に入って来るが、やはり小国では通信が途絶した所や、陸続きの国等はゾンビに呑まれてしまった所が、出初めており予断を許さない状況は変わり無いようだ。
小国でも諸島国家郡は意外と持ちこたえている国が多く、観光に力を入れて無かった国が、感染者が少なく早めの対処が功を奏し、無事な事をアピールしているのは、ある意味皮肉であろう。
旭グループも太平洋側の列島諸国への、BBLSGシステムを格安で提供して来た結果、各諸島国家は電力の需給率が100%を超える場所が、増えた所為で近海の漁業に電動モーターを使う、省エネ漁船が増えて食料の需給率が上り、交易途絶に打たれ強い国家郡が出来上がったのだ。
無論その音頭を取ったのは横山提督が率いる、未来アジア戦略研究所のNPO法人であった。
産業革命&エネルギー革命後、諸島国家は貿易途絶に弱い体質が出来上がり、現在に至って居るのだ。
石油1極依存に因るエネルギー支配は、地球温暖化やモスレム勢力の不必要な台頭をゆるし、地球世界への環境的・政治的負担は歪な形で、ストレスを解消出来ずに、負担を掛け過ぎて居るのだ。
しかしこの度BBLSGユニットの発明により、一極集中が終わろうとしており、パンデミックと言う不幸な災害であるが、これを逆説的なチャンスと捉えたのが横山提督である。
世界対戦の様なある種制御不能の状態と、恨みが恨みを呼ぶ憎悪の連鎖である戦争と違い、パンデミックの場合は敵が目に見えないウィルスである為に、世界の枠組みを掛け替えるチャンスと捉えたのである。
要は戦争で一つの小国が滅びるのと、パンデミックと言う災害で国が滅ぶのは、人々に与える精神敵な負担がまるで違ってくるのだ。
戦争で地球の人口が半減するのと、疫病に因って半減するのとでは恨みのベクトルの向きが、まるで違う方向へ向く事により、報復に因る滅亡戦争に向かい辛い空気が、国際与論に起こる。
仮に小説によくある国家が核に因る、先制攻撃でイニシアチブを取ろうとしても、旭工機が開発した素粒子コンピュータ[おもいかね]に因って阻止されても、ウィルスの壁に阻まれて素粒子コンピュータを使った妨害をした、犯人を特定出来ずに手を拱くしかないのである。
仮に日本が行ったと疑おうとも、国内にゾンビが溢れかえる現状では、どの国も日本にまで出向き武力に因る占領も出来ない。
そして手を拱いている間に我が国は着々と戦力増強や、ネット回線に因る工作を行い、社会が安定する頃には覆せない程のアドバンテージを持ち、新たな世界の枠組みの中心に位置する為に、気がついた時には手遅れに成って居る戦略を取って居るのである。
仮に取れる戦略は、コンピュータを使わない水爆等の戦略核を作り、日本の近海で潜水艦に因る核爆発を起こし、日本を放射能で覆って滅亡させる、核に因るテロ行為だろう。
しかしパンデミック下で、全ての回線や通信を傍受されて居る現在では、完璧な隠蔽工作は事実上不可能であり、必ず情報の漏洩が起こる為に、その手の工作は返って気取られ易く成り、手痛い反撃を招くフリーハンドを日本に与えるだけに成る。
提督はそこを狙って、ワザと情報をリークする戦略をも考えているようだが。
昨日のダーティーボム輸送船の事例は、丁度パンデミック発生と対C国戦の端境期に起こった、隙間を突かれた事件だったので後手に廻ったのだが、相手のミスが大きかった為無事で済んだ、ある意味非常に危険事例だったのだ。
所謂〝魔(間)″を突かれたのだ。
ベテランで腕っこきの傭兵や、歴戦の陰陽師もこの〝魔″を突かれると、呆気なく命を落としてしまう、恐怖の瞬間なのである。
これに掛からない為には、日に一回は必ず心を澄ます時間が有ると、予感と言うか神の囁きと言うべき、〝注意″が降りてくる場合があり、難を避ける切掛けになる事が多いと、師匠が言っていたが確かにその通りだと思う。
この手の予感はかなり小さな囁きで、もたらされるので注意が必要だ。
おれが昨日の事件を反芻していると、田中君が食堂にやって来た。
「お早う御座います代表、今日はいよいよ上陸ですね。
福島工場には3ヶ月振りに来ましたが、だいぶ店や民家が増えていますね、域内にも自動車が行き来してますし、パンデミック中だとは思えない位賑わっていますね」
「お早う田中君、そうだね先程も船長と話していたけれど、早い内に道路封鎖の偽装事故や崖崩れを起しておいたので、域内にゾンビが入り込まなかったのが、大きな要因だよ」
「域内の人はそこ事を知っているのですか」
「警報が発令される3日前に、地域の顔役には連絡をして備えていたが、住民に知らせたのは総理の会見後に、ゾンビの侵攻を防ぐ措置として、道路を通行止めにしたことは伝えたよ」
「反響はどうでしたのでしょう」
「例のK林省の映像を見て、町長は逆に感謝されたそうだよ。
今は境界部分に鉄条網と鉄柵による、阻止線を引く工事を住民総出で、行なっているそうだ。
港は倉庫に隠して置いた200tミサイル艦10隻を出して、海側からの襲撃に備えて居るので安心だし、レーザー砲が港と工場に各1基ずつ配備されているから、滅多な事では守りは破られないよ」
「「ながと級」に積んである多目的レーザー砲と、高さ100mの反射プリズム照準器でしたよね?
空母機動艦隊でも全滅される過剰戦力ですね。
まあウィルスのワクチンを研究開発して居る、工場の守りですから過剰では無いのでしょうが・・・・」
「まあ最悪ICBMで狙われても、大気圏外のミサイルでも消滅させられるからね」
「それを考えると過剰とは言えませんね」
「後は旭工機の組立ラインと、開発工場が出来た御蔭で、通常ライフル弾や拳銃弾の増産を、一緒に移転して来た下請け企業に振った御蔭で、国軍にかなりの数を納入出来るのは有難いね」
「そう言えば新型銃弾の量産試作も、そろそろ仕上がった頃ですね。
ロールアウト後の先行量産試作のテストを、ここで行うのでしょうか」
「7割の7千発は北海道の師団にて、検証中だが残りの3千発はこちらで、最終テストを行い5日もすれば、量産に入る事になるよ」
「まあゾンビ相手の対人破壊弾ですから、ジュネーブ協定は無視の人体破壊を主眼に置いた、炸裂弾や成形炸薬弾ですからかなりの効果が期待出来ますね」
「散弾銃のスラッグ弾タイプの炸裂弾は、1発で通常手榴弾の2/3位の威力が有るので、半径3m以内のゾンビは活動停止、又は行動不能に成る位の威力はあるそうだ」
「それをAA12のドーナッツマガジンで、13連射したら下手な榴弾をばら撒くより、より悲惨な結果が予想できそうですね」
「AA12のライセンスは高過ぎたので無理だったが、イズマッシュ・サイガ12のライセンス権は取れたので、軍用散弾銃として正式採用が決まり、量産が始まったので効果が期待出来るよ」
「まあ元がAK-47ですから、タフで丈夫でしょうから使える銃でしょうが、量産性は良いのでしょうか」
「AK-47が元だから部品も少なく、量産も簡単で作り易い銃らしいね、UZと合わせて一般の兵には受け入れられると思うよ」
「[バイパー]の弾の強化も済んだのでしょうか」
「炸裂弾は比較的早くに開発が終わったので、すでに量産はかなりの弾数を生産出来たのだが、衝撃弾は少々難航しているね」
「衝撃弾と言うと、装甲種が出た場合に爆発の衝撃で、内部組織を破壊して脳や関節を壊す弾ですよね?」
「今回開発しているのはポンプキンソン効果に因る、スポール破壊による内部破片に因る損傷を与える弾では無い。
炸裂に因って発生性する内部組織を破壊する衝撃波の、最大効率を上げる周波数を特定して、浸透勁と同じ効果を出す弾丸の開発を、主眼に置いているのさ。
もしこれが開発出来ると弾丸がヒットした瞬間に、人体に悪影響を及ぼさず一時的な麻痺だけで済む、新たな麻痺弾を拳銃弾でも開発出来るからね」
「パンデミック終息後の治安維持や、警備に使用出来るから利益も齎しますから、期待出来る商品になるでしょうね」
「現在使用して居る形状記憶ゴムの麻痺弾だと、ボディアーマーを着られると効果が出ないが、これが完成すると鎧を着てもその下に浸透するから問題は無くなるね。
後は炸薬の種類や積層具合に因る、製法や配合で殺活自在の弾丸が出来るし、長距離狙撃の場合何で死亡したか原因が解らない、暗殺者御用達の弾丸も作れるからね」
「と言う事は亜音速弾で、必殺の弾が作れると言う事に成りますから、対ゾンビ戦にはサプレッサーと合わせて、効果的な武器になりますね」
「そう言う事! だから開発に手間は掛るが、その価値は充分有るよ」
「猟師さんも喜びますね、威力の少ない弾で猪や熊等の、中・大型の獲物もあまり傷つけなくて、捕る事が出来ますから」
「そうだね極端な話5.56mm弾で、象やサイ等の大型獣も狙えるから、規制が掛かりそうだが」
そんな事を話して居ると、看護師達と佐田さん母娘に勇太君が、食堂に集まって来た。
因みに鬼山・田所ペアは一足先に、所用で福島工場へ朝一で移動していた。
「やあ、皆さんお早う御座います」
『お早う御座います!』
「皆さんお集まりの様だから、今日の予定を話しておきます。
これからAM07:30までに朝食を終えて、07:50までに左舷のこの食堂がある階にある、階段前までに集まり08:00に港へ上陸の後、迎えのバスに乗り08:40までに福島工場に着の予定です。
工場へ着いてからの予定は、到着後に伝えますので到着後は、工場の民生担当部長の長島氏が伝えますので、彼女に良く聞いて下さい。
佐田さんは長島部長に家族が入居して居る、家族寮に案内して貰いますので、皆の説明の後一緒に部屋まで案内して貰って下さい。
勇太君は佐田さんに頼んで置いた通り、暫く一緒に暮らして見て今後の身の振り方を、1月後にまた相談しよう」
「はい!」
勇太君が元気良く返事をした。
彼は暫く佐田家にお世話に成って、療養と勉強をしつつ将来の展望を、探って行く事になった。
愛美ちゃんは勇太君の事を、実の兄の様にしたって居るし、勇太君自身も妹に憧れを抱いていた様なので、佐田家にお世話になるのは、旦那さんが単身赴任状態の佐田婦人にとっても、新たな刺激に成って生活に張りが出て、プラスに働きそうだった。
後は光恵婦人のご両親との相性だが、弟の田沢義樹(17才)君は年の離れた姉だけの姉弟だったので、弟が出来た様だと大変喜んで居るそうである。
姉曰く、家の山猿に勇太君が感化されそうで、今から心配だそうだと言うので、もう親バカかと皆から笑われていたのだが。
それから皆でイングリッシュ風の朝食を済まし、食後のロイヤルミルクティーを楽しんだ後、其々の部屋に行き後片付けをして、タラップのある廊下に集まった後、17時間ぶりに陸地に上がったのだった。
そして工場から迎えの小型バスに乗り、津波よりの復興を遂げつつある、浪江町の町並みを見ながら工場へ向かった。
Pday 11日目
AM08:40 福島県双葉郡浪江町請戸 大平山近辺
この辺の山は元々請戸の田畑の水源である、山で有ったが東日本大震災での津波災害により、海岸から1km以上内陸にある田畑にも、海水が被り深刻な塩害を引き起こし、海岸側に有った民家もほぼ壊滅状態に成ってしまった地域に残った、緑の島の様な低山である。
震災後1年した現地に、旭製薬の福島工場を建設する案を地元自治会に提示し、地権者に腹を割った態度で土地を譲って貰い、地元の復興を約束して山の緑を極力残す案で工場を作り、町民の雇用を積極的に推し進めた。
その結果、現在では福島県随一の復興を遂げた成功地区として、近隣の注目を集める程の、モデル地区として躍進を遂げつつある地域として、地元民もかなりの割合で満足感を感じている様だ。
会社自身も地元の行事や祭りに積極的に参加し、会社傘下の病院を作り福利厚生に寄与したり、域内のネット環境を整備して東京並の情報発信地になるイベント等を行い、海岸部の対津波対策にも積極的に技術を投入し、災害に強い地域を作りつつ共に発展する、会社と地域をスローガンに域内の住民と、発展を共有して居る会社と認識されている。
その為、旭系列の企業がする大概の計画は、地元に受け入れ易くなる素地が出来て居るため、新たな工業団地や企業誘致の活動に、地域を上げて協力する体制が整っており、小型飛行機の滑走路や新港の独占権を認める、協力体制も整い旭製薬の城下町の様な感を呈する状態である。
その様な状態である為、パンデミック発生後に地元自治体と連携し、感染拡大阻止を目指して域内を隔離する為の、偽装事故を装っての道路封鎖や人工災害である、偽装崖崩れ等の工作を地元警察も巻き込んで行い、他地域より安全な地域の確保に成功して居る。
さらに地元の古老や元猟師の協力を得て、林道の封鎖や廃道の封鎖を積極的に住民を巻き込んで行い、封鎖をより強力な物にして居る。
又、家屋の対ゾンビ・対暴徒対策も積極的に行い、地域事に5m程の鉄板柵を設け道には対トラック用の、コンテナゲートを作り緊急事態になると、各ゲートが閉じられる様週1で訓練が行われている。
この御蔭で域内はゾンビが侵入してしまっても、即座に対応を出来る体制になっている。
これには地元青年団や消防団の組織が非常に役立った。
この消防団組織はほぼ軍隊調の組織であり、[バイパー]と[ライジングサン]の戦闘服を支給し、射撃訓練や他地域に遠征して実戦を行えば、比較的速やかに自警団戦力になるので、[ライジングサン]の傭兵チームに鍛えられ、新たな地元防衛の自警組織の一員に成って、警察官と共に治安の維持に貢献して居るのだ。
地元の警察自体も現在が、非常自体下であると認識して居る為、平時からリタイア警官の受け入れや、[バイパー]の納入等で繋がりがある旭グループとの連携には、県警幹部の同意が得られた事でスムーズに行った。
その他では、他の地域で地元警察が、次々と壊滅してしまった現実を鑑みて、地域住民と協力して対処する以外、自身が生き残る事が出来ない事を認識した様で、連携は多少動脈硬化気味の署員は居たが、他の生き残る事が最優先である署員に、拘束されてしまう一幕もあった。
そして何よりも、現政権の総理大臣からの「要請」が有った為、最後まで抵抗していた自治体の、一部勢力も住民から総スカンをされる所か、命さえ狙われかねない状況に成って、初めて現状がサバイバル優先に、成った事に気がついた様だ。
中には今だサバイバル優先が解らない、原理主義者が少数居るが、地元のオバちゃん達を敵に回して居る為、一挙一答足を監視されており、全ての情報が警察に上がって来ているのが実情だ。
その様な感じで比較的安定して居る福島工場に来た我々を、地元の人達も歓迎してくれた。
地元では旭製薬関連の企業に就職して居る人達が、6割を超えて居る為か、ゾンビウィルスの抗ウィルス剤研究の最前線だと言う、認識を持った住民が殆どで、そこに会社の代表が入ったとなると、どう言う事かが解ったのだろう。
こちらの予想より遥かに盛り上がった人達が、お祭り騒ぎを始めたらしく、工場長も流石に地域との兼ね合いで、俺の出馬を求めて来たのだった。
福島工場の工場長である 矢島 稔 工場長と、警備主任である 富塚 悠隆 警備主任から俺は、取締役室にて報告を受けている。
ここは通常の会社の役員室とは異なり、生体認証とオーラパターン認証により[おもいかね]が入室を管理しており、[おもいかね]の最上級端末が設置してある特別防護室でもある。
「・・・と言う訳で、お忙しい所申し訳有りませんが、地元の有力者を交えた飲み会を企画したので、代表の出席を是非お願いしたいのです」
矢島工場長から地域住民との懇親会の出席に関する要請があった。
「・・・・・・・判りました、では接待の席に付きますがそれだけでは済まないでしょう?
私の名で工場や地域の警備以外の方々に、C-5番倉庫にある酒類と食材を開放しますので、大宴会を行います。
急な事ですが会社の食堂だけでは、賄いきれないでしょうから、地元の料理屋や宿の方々へ、食材や米・酒を提供してパーっとやりますか!」
「それは良い考えだと思います、やはりゾンビウィルスの蔓延により、皆のストレスが溜って居るでしょうから、この辺で一度発散する事は地域の安定に繋がるでしょう。
何より代表の音頭でそれをしたと言う事が、地域との関係をより密にしますから」
「ではこの辺で一度派手にストレス解消をしますか、無論警備の方は手を抜かない様に、釘を刺して置いて下さい。
今の所は周りの地域に不穏な動きは有りますか?」
俺は警備主任の富塚主任に質問した。
彼は戦闘状態になるとこの福島工場の最高指揮官になる、[ライジングサン]の指揮官である。
「小規模なスタンビートは近隣で起こって居ますが、周りの〝草″に聞いてもこの地域が、安全地帯だとまだ気取られて無いので、今の所特に大きな動きはありません。
偶に都市部からUターンして来て、身内を頼った人達が徒歩で山越えをして、域内に入ってきた人達が8組み20人程居ますが、彼らもDNA検査で出自がハッキリしていますから、今の所問題を起こす気配は無くて地元に溶け込む努力をしていますよ」
「周りが安定して居るなら問題は無いですね。
私が工場内を〝探査″しても、怪しい気配は有りませんでしたから、外からの浸透も今の所無い様です。
まあパンデミック前に計画された事は、今回の海路の旅で殆んど潰しましたから、当分はパンデミックにかまけて、家にチョッカイ掛ける暇は無いでしょう」
「では私は皆に宴会の準備を指示して来ます。
規模が大きいので予定を調整しておきますが、2~3日以降に予定を出しますので、その時は宜しくお願いします」
「取り敢えず今日は、地元の有力者との飲み会と言う事で、予定を開けて起きますよ」
「その席で祭りの事を発表しますので、有力者も巻き込めば事はスムーズに運びますから、お願いいたします」
そう言うと矢島工場長は、段取りを決めるため席を立っていった。
「そう言えば富塚主任、近海のソーサスの設置は終わりましたか?」
「ええ、最後の大陸棚間際の部分の設置も無事済みました、これで小型潜水艦や無音潜航に因る浸透は、充分防げる体制になりました。
しかしナチュラル・ノイズを利用した、アクティブ・バッシブソナーなど良く思い着くものですな。
そんなもの使われた日には、私の様なアナログ軍人はお手上げですよ」
「発明品の原理や作り方は専門家に任せて、現場はどう使ってやるかが大事でしょう。
それよりも相手が同じ性能の探知手段を、持って居るか居ないかを指揮官は考えれば良いでしょうから」
「そうですな、最近の車は素人では手が出せなく成ってしまいましたが、逆に故障が少なく成って敢えて手を出さないでも、故障の心配無しにドライブを楽しめますから」
「その通り車のユーザーは全て知る必要は無いでしょう、どう走りどう止まりどれくらいまでタイヤが持つか、どう扱えばより速く長い時間性能を落とさないで、扱うかが解かれば良いのですから」
「そう考えれば気は楽ですな、別に新しい機構の車を作るのは私の仕事ではなく、どう扱えば性能を引き出せば良いのかが解る立場が、今更ながら指揮官の仕事ですからね」
「まあ新しい戦闘機械が発明されると、勉強しなければ成らないのが指揮官ですが、その機構をより詳しく理解して居る技官を上手く使うのも、指令官の仕事と割り切ってしまえば良いんです。
後は使う段の要点が、解かれば良いのですから、そう割り切れば楽な物です」
「しかしレーザー砲にナチュラルノイズ・ソナー、素粒子コンピュータにレールガンですからね、こうも新兵器がゾロゾロ出て来ると、要点を理解するにもロートルには時間が掛かります」
「得てして時代の端境期は新たな兵器や、発明品が大量に出来て来る物です。
WW2中では戦闘機は一気に発達しましたし、それまで無かったロケット兵器やレーダー・ソナー等の探知装置も発達したのです。
当時の指揮官達も今の貴方と、同じ悩みを持ったでしょうね」
「時代は変われど皆同じ苦労をするのですね」
「まあ産業革命以降の指揮官の悩みでしょうね、その内ロボット歩兵やパワードスーツ見たいな、SFじみた戦争に成りそうな予感がしますよ。
現に我社では後3年を目処に、介護介助型ロボットを実用化する計画ですし、そうなればその技術は軍事関連にも応用されますから」
「介護ロボットの実用化ですか、確かに[おもいかね]でAIも発達するでしょうし、設計のシュミュレーションも速く成りますから、夢物語では無いですね。
この間出来た旭工機の試作工場でも、対高濃度放射線下での人型ポットの試作品が、稼働して居るのを見せて貰いましたが、あれを見た時昔読んだSFで、ハイン○○ンの「宇宙の○○」が現実になるのか、と感慨深く成りました」
「あれは確かにパワードスーツ以外の何者でも無いですからね。
高濃度放射能物質が暴露して居る環境下で、遮蔽をしながら作業するには、重い鎧が必要ですしそれには、その鎧を動かすパワーアシストが無いと、1歩も動けないですからね。
只、あのままだと現実的では無い自重に成り、作業所では無くなるので、放射能への防壁を少し工夫する事にして、軽くて放射能に対して防護出来る装甲を今開発中なのです」
「速く其れが出来ると開発も速くなるのでしょうね、しかしそうなるとますます、パワードスーツ開発に成ってしまいますね。
代表、前から聞こうと思っていましたが、パンデミックが終息した場合、次は宇宙開発を行う予定はありますか」
「・・・・・ええ、一連の事が済んだらまずマスドライバーを、赤道付近の場所に建設する予定です。
しかし場合によっては、その計画は早まる可能性も有ります。
A国やヨーロッパ連合・R国辺りが取る戦略に因っては、制宙権を確保する前提で戦略を立てて、臨むしか事は納まらない可能性が高いからね」
「やはりあの噂は事実でしたか・・・」
「噂と言うと、どんな物ですか?」
「高温超伝導物質を開発出来たと言う噂です」
「ええ、その噂は事実ですよ、225Kで電気抵抗が0に成りましたから、その結果低圧下でも働く実用的な、超伝導誘導物質が作れる事になりましたので、低価格な費用でシャトルを重力圏外へ、打ち上げられるので。
更に言えば実用的な価格で、レールガンが作成出来る様に成りましたから、長射程の実態弾を打ち出す砲も、開発して居ます」
「ますますSFの世界に入りつつ有るのですね、私も浮かうかしてられないですな。
気が付くと時代に取り残された、ロートル兵の出来上がりでは洒落になりません」
「頑張って勉強して下さいね、解らない事が有れば私が知って居る限りの事は、教えますのでドンドン聞いて下さい」
「その時は宜しくお願いします。
後、今後の脱塩作業の進捗状態を伝えたいと思います、3月一杯までに作業は終える予定ですので、来年の米や野菜の作付けの作況指数は80を超えると予想しています。
用水も工場を作る時に水源に注意して、建設した為湧水や溜池の水は問題無く利用出来ます」
「では食料自給の見通しは充分だな、水産業もバイオ燃料が有るので、油の心配はしなくて済みそうだし、住民の同意が得られたらゾンビを材料にバイオ燃料を作る事にするか」
「それは持って行き方を誤ると大変な事になりますね、しかしゾンビを駆除後に出る遺体を、一々火葬にする燃料も人手も無いから、どうにも手の打ち様がない事を訴えるのが一番でしょう」
「新たな感染症が起きる温床になりうる事を、訴えるしか無いですな。
ゾンビパンデミックの再発が起きる可能性を、全面に押し出して行き正面から説得するしか、他に方法は無いですからね」
「下手に隠して後で知られた時の、ダメージの方が大きいですから下手に隠さず、堂々として皆に発表したら良いと思います」
「やはり富塚主任もそう思いますか、私も問題が問題だけに始めから正直に訴えて行こうと思っていました、結果議論が紛糾しても構わないと思います、只処理工場は九州に改造を依頼した15万t級タンカー改造工場を使う予定です」
「そうですね死体の処理工場が、地元に出来る事を喜ぶ住民は、居ないだろうと思いますから。
工場は海上で処理を行えば、問題は無いでしょうから」
「まあ工場と言っても、バイオ系の施設ですから化学プラントの様な外観で、培養槽が4つ有るのが目立つ一見天然ガス輸送船に見えるので、違和感は無いでしょうがね。
浮かべたままと言う訳には行かないので、瀬戸内海の無人島にメンテナンスの基地を作り、そこを母港にして運用して行く予定です。
3隻とも全ての艤装は済んでいますので、直ぐに稼働出来る用意は出来て居るので」
「色々問題は尽きないですが、今の内に課題を全て浮き彫りに出来れば良いのですがね。
後からちまちま出てこられるより、最初に全て現れた方が手間が無くて良いですから」
「やはりゾンビ由来のバイオ燃料は気味が悪いのですかね、ちゃんとお払いはして居るから本来問題は無いのですが、人の気持ちと言うのは難しいですね」
「全くですな」
俺と富塚主任は顔を見合わせると、思わず苦笑いをして笑ってしまった。
又少々遅れてしまい申し訳有りません。
今回から新章福島工場編がスタートです、お楽しみ下さい。




