26.Pday 8日目
AM06:30 調布飛行場側 [ひよく寮] リビング
俺はいつも通りの鍛錬を終えて、コーヒーを飲みながら、リビングでネットのニュースを見ていた。
今日のニュースの1面も、ゾンビのスタンビートが取り上げられ、避難民に注意を呼びかけていた。
曰く、高い階層へ避難し、下の階には何箇所かバリケードを築けとか、避難所を囲うバリケードや、元々有った柵などの補強を考えるとか、結講有意義な対処方法が紹介されており、現場のプロの意見を参考に書かれた記事である事が、見て取れる内容になっていた。
そう言えば今日は、擁壁の工事を手伝う仕事が、入っていただけだった。
福島への移動の用意はほぼ終わって居り、後は車に荷物と人を積み、屋内のゴミを捨てて、セキュリティを留守モードにすれば、即移動出来る体勢に成っている。
勇太君の足も順調に回復し、予想より良い位だそうだ。
流石成長期の子供は、傷の治りが早い様だ。
今日、俺達は病院周りと町会からの安全な回廊を築く計画を、立てなければ成らない。
後は組立工場の囲いは、元々工場を囲っている鉄柵に、鉄板を補強する方向で工事中だが、やはり鉄パイプで支柱を補強した方が、ゾンビは兎も角暴徒は防げないだろう。
俺は地図ソフトの航空図を、タブレットに表示しながら案を考えた。
そこへ田中君と佐田婦人が入って来て挨拶した。
「お早う御座います、代表」
「おはようございます、甘莉さん」
「お早う、田中君、佐田さん」
「今日は移動は無く、町会で工事の打ち合わせと作業ですか?」
「ああ、他所へ行く予定は無いが、川向こうの病院と町会の往復はあるよ」
「そう言えば田中君、擁壁用の資材で鉄板と金属パイプは、どの位の余裕が有りますか、わかるかな?」
「かなりの余裕が有ります、初めは町会全体を鉄板擁壁で、覆う予定で集めましたが、今は8割以上をコンテナに変更したので、町を一周囲う程の資材が有りますね」
「病院の擁壁は南南東をコンテナで塞ぎ、崖側と川側は鉄板で壁を作ろうかと思っていたんだ。
崖側の際から20~30m位の木は一部除いて伐採し、見透視を良くして、侵入防止の緩衝地帯にし、森を残した場所へ罠を仕掛けて、下手に侵入しようとする気を、起こさない様にすると良いか」
「一箇所でも罠が有ったら、他にもあるのでは無いかと疑心暗鬼に成って、下手に侵入しようと思わなくなるでしょうね。
でもそこを突破する方法はあるのですか」
「私ならゾンビを使って罠を潰すがね、しかし中に遠隔操作の罠を仕掛けて、ゾンビがわなを粗方始末した頃を狙い、侵入する手を使うやつを狙って、ドカンとやるね」
「暴徒にされて一番嫌な手は何でしょう」
「火攻めかな? 火炎瓶などで攻撃されたら、道路際の家は予め避難し、燃料に成らない様に撤去しないと防げないからね。
後、予め野川からポンプで水を汲み上げ、消化ホースで消すシステムを作って置いて、いざ襲撃の場合にポンプを起動し、高圧水で火炎瓶のガソリンを一気に消化するのも手だね。
揚水システムの防弾対策は、確りしておき、ポンプも消防車を5台位入手して予備に使い、いざメインのポンプが故障や、破壊されても直ぐに手を打てる様、保険を掛けて置けば安全だ」
「確かここの消防団の備品庫に、浅水用取水装置が有りましたね。
その装置のシステムを再現して、常設の防弾取水装置と防弾配管を作り、野川に設置すれば消化用水の確保は、問題ないでしょうね」
「それは良い考えだ吉田君、早速町会の会議に計り、町内の数箇所に防火水槽を作って、暴徒の襲撃に備える様にしよう。
後、高水圧銃も馬鹿に成らない威力が有るから、擁壁の数箇所と町中の高い所の数箇所に放水台を設置し、暴徒やゾンビ、町内の火災に活用する方法をとれば、いい防衛・防災対策にもなるよ。
そして女性陣から元気な人を選び、防衛戦での消防隊を組織してもらえば、男手を戦力につぎ込めるので、より戦力が増すからね」
「野川の水も濾過して使えば、良い生活雑水に使えるのでは無いですか? トイレに井戸水を使うのは勿体無いですから」
「そうだね、トイレや生活雑水は野川の水や雨水を簡単に濾過した、雑水を使えば浄水である井戸の負担も減るからね。
只、トイレに使う水を別系統で、供給する仕組みを作るから、田嶋社長に相談しないと大変だが。
共同便所を作って夜や雨の日以外の昼間、出来るだけそちらで用をたす様決めて貰えば、大分井戸の負担が減ると思うがね」
確か簡単な濾過は、一番下に綿状の繊維・炭の砕いたもの・繊維・砂・細かい砂利・砂利だったかな? を敷いて置けば大きなゴミは取れるし、現在川事態も水を汚す生活自体が減って居るので、だんだん綺麗になりつつある。
そこへ通した川水を別の下方へ作ったタンクに溜め、雑水として使ったり、化学物質が混入していなければ、最悪煮沸して飲料水として使う事が出来るのか。
雑水使用時の配管内つまりの原因は、確かバクテリアや水苔等の生物由来が多いと、前に香港に出張した時、在住日本人社員から聞いた事がある。
香港も上水間系の入手に困って居り、アパート等では天水を使い、トイレやシャワーに使うので、シャワーを使う時に結膜炎等、眼の感染症に注意しなければ、成らないと注意を受けたな。
もし野川の水や天水を濾して、雑水に利用するならプール用の塩素剤を学校から入手し、雑水タンクに投入をしてバクテリア・水苔・大腸菌対策をして、トイレと消火用水以外に使わない様にしないと、雑水パイプがたちまち水詰まりになり、感染症の温床になるから注意しないと」
俺は今思い出した、天水や雑水間系の注意事項を田中君に話し、纏めて貰い後で町会の会議で、発表して置く様指示した。
そこへ鬼山・田所組に看護師組も起きて来た。
「「代表、お早う御座います」」
「「「「お早う御座います!」」」」
「皆さん、お早う御座います。
今日は病院以外の外出予定は、今の所ないですので看護師さん達は、擁壁作業中の事故対処用に、公民館へ2人程交代で詰めて下さい。
もしやる事がある場合、シフトを組ますので仰って下さい」
「では、公民館に詰めてない方は、長谷病院の薬や設備の点検作業に行きます」
咲山看護師が総括して言った。
「では重傷者が出た場合、病院の方へ搬送して欲しいので、長谷病院間系者は、病院の方へ詰めて欲しいと要請しておきます。
我々は[跳橋]経由で病院までの、擁壁工事の資材見積もりを、田嶋工務店の逆髪氏と一緒に行って出して来ます。
田所君は今日も装甲車両の改装をお願いする。
我々病院の擁壁工事見積もり前に、君が出した工場の擁壁強化の資材量を逆髪君に渡しておく」
俺達は朝の会議を終わらすと、朝食を食べにキッチンへ移った。
Pday 8日目
AM08:20 水原6丁目側 野川 跳橋上
俺と鬼山君、逆髪君の三人でここから長谷病院までの、ある程度正確な距離を測り、擁壁の資材が何れ程要るのかを算出する、為に今回は訪れた。
逆髪君は小径の1輪車のような距離計を持って来ている。
「しかしこの辺に、人の気配はまるで有りませんね、やはり長谷病院の影響でしょうか」
「それと町会の設置した[とおりゃんせ]の影響も、大きいのじゃ無いかな」
「そうですね、通れる場所は長谷病院を抜ける道か、徒歩で行く崖上の中学校の側を通る階段しか、選択枝がないですから。
駐車場から車で逃げて行くとしても、事故で道が塞がっている為、徒歩で中学へ避難していたら、ゾンビが内部で発生して仕舞い、ゾンビに成ったか何処かへ避難していったかですね」
「新しい住民ばかりの、住宅地の脆弱性がモロ出た感があるね。
これが古い住民が多ければ、水原6丁目の様に団結して、事に当たるのが当然なのだろうが、寄せ集めの都会出が多い新興住宅地だとそうは行かず、あっという間に崩れてしまうのだろうね」
「自然災害の時も、地域の間系が確りしていると、年寄りの避難何かが上手く行くそうですね」
「そうだね、新潟の震災の時などはそのお陰で、年寄りの被害は結講軽減されたらしいですからね。
しかし本当にこの辺に人の気配がしないね?
向こうの牧場の辺からは、8人位の気配がするけれど、崖下はまるでゴーストタウン状態ですね。
ゾンビは12体位気配が有るから、注意して下さい」
俺は目をつぶり、魔法を使い気配察知をし、周りの生存者とゾンビの数を皆に伝えた。
「ゾンビは近いですか?」
「この先に5体程いそうだね、それから牧場の裏手の森に3体、後我々が曲がった道と反対に4体いるね」
「でも少ないですね、これだけの面積に12体だけとは」
「多分牧場の方と近くのは、病院と住民かも知れないな。
奥のほうは解らんがね」
「お、早速お出迎えだな、逆髪君は計測を続けてくれ、私と鬼山君で対応する」
俺達の声を聞きつけたのだろう、3体のゾンビが次々と家の陰から出て来た。
俺は1体、鬼山君は2体倒し、気配を伺うと2軒先の住宅から、気配を感じた。
「鬼山君、右側2軒先の住宅の中から気配がする、倒しておいた方が良いな」
「どんな状況か解りますか?」
「玄関付近に2体溜って居るから、ドアを開けると雪崩出て来る可能性が高いな。
ドアは外に開くタイプだから、私が開けて陰に隠れている内に始末してくれ」
「了解」
俺は家に近づくと、近くに有った自転車を寄せ、ドアが全開しない様に細工をして、ジェスチャーでタイミングを知らせ、ドアを思いっきり開いた。
するとゾンビが2体、つんのめる様に出て来た所を、鬼山君が射殺した。
よく見ると中年夫婦のゾンビの様で、これで上の世界に行ける様、行く場所を教えてから天に上げた。
「これでここの近所は、牧場裏手に居るゾンビだけですね。
後で病院の方から回り込んで、始末しておきましょう」
俺達は距離計で計測しながら、牧場の方へ歩いて行き、曲がり角まで行った時、牧場の継ぎ目と森の堺を見ると、柵で塞がれていた。
これならば此処からゾンビは、出てこないようだ。
来るとすれば途中に有った、崖上へ通ずる階段付近だろう。
俺達は牧場の門の端に計測器を立てかけて、牧場に入り状況を聞いた所、ここで育てているのは肉牛であり、乳は多少は取れるがさほど量は無いとの事。
出来れば今いる牛達は潰して、彼らは町会の為働いた方が、良いと言う意見だった。
彼ら曰く、残った飼料も15頭の牛では、後5日分しか残って居らず、周りの草だけでは飛行場を活用出来るなら、足りるだろうがこの周りの草だけでは、餌不足で牛達の食料は不足し、餓死するだけだそうだ。
私は種牛1頭と雌牛2頭だけ残し、後の肉牛は町会で引き受け、三頭は誰かが世話を出来ないか訪ねた。
種牛さえ居れば牧畜は、ゾンビパンデミック終息後再開出来るし、そうすれば亡くなった牧場主の遺志も継げるのでは無いかと提案した。
再開するのであれば、旭グループが責任を持って融資する事を約束した。
その提案で牧場の場長が、では自分がパンデミック終息後、肉牛の飼育を行うという事で話がついた。
四頭位なら2人も居れば、この施設で充分世話も出来るし、餌も肉牛としてではなく、乳牛替わりであれば充分間に合うし、乳も町会に卸すぶんなら、充分な量が確保出来るそうだ。
これで町会は、当分乳製品確保に困る事は無くなるし、種牛が居れば美味しい和牛が又食べられるから、悪くは無い解決方法であろう。
他に養豚や養鶏の技術を持って居る、業者が居ればこの辺に受け入れられると、俺は思いつつ牧場を後にし、計測を又始めた。
Pday 8日目
AM09:20 調布長谷病院 前駐車場
「結講牧場では時間が掛ってしまったが、ようやく此処まで計測が終わったね」
「大体此処までが[跳橋]から361mですね、あと病院の裏手の森を縦断する柵が、何メートル居るかですね」
「目測だと500m位だからね、結講距離があるから早めに測ってしまおう」
俺達は都営アパートの、起点になる位置まで移動して、計測をはじめた。
「ウワー、こりゃ又酷い雑木林だな! マチェットを持って来て正解ですね」
「オットト! そうだね、これは思ったより酷いな。
お、此処にムカゴ発見! 自然薯が生えているねこれは、鬼山君そこに山ぶどうの蔓があるよ、上の方に山ぶどうの実があるぞ」
「代表の後にアケビが有りますよ、いい具合に口が開いて食べごろだ、そっちの木は山栗みたいですね、下にイガがおちていますよ」
「この辺は日本の秋の実の宝庫だね、後で皆で取りに来たらどうかな」
「伐採する時に採取したら、自然薯堀も重機が有れば楽だからね。
ゾンビはこの辺りには居ないね、崖の上には10体位の気配はするが、下のゾンビは多分牧場の牛の音に惹かれて移動したんだろうな」
「代表、気配を感じないですか? さっきから私も気配を探って居るのですが、まるで感じないので変だなと思っていたんですが」
「そうだね、病院の決壊で本当に殆んど人が、脱出してしまったようだ、やはり横の継がりの無い住民は、拠点防衛より個々での脱出を選択したのだろう、都営住宅の吉岡君が珍しいタイプなのだな」
「彼の場合、ゾンビも怖いが同じ位、通常人も怖かったのじゃないですか?
避難先で裏切られて逃走時に、ゾンビの囮に使われる可能性もあると思う位、酷い目に会ってきた可能性が高いですからね」
「彼は良く居る他人を賺す、嫌なタイプのヲタクではなく、趣味に没頭する技能者タイプのヲタクで、本来人付き合いも苦手では無い奴だ。
しかし彼に目を付けたのは、悪霊化人間だったのが最大の不幸だろうね。
本来なら友達付合いも程々にこなし、技術系の学校や企業に進み、一流の技術者に成長したはずなのだが、高校時代に悪霊化人間に目をつけられたのが最大の不幸だ。
その原因も友人を庇った所為で、結局その友人からも裏切られ、イジメを受けたのが応えたようだ」
「だから代表は、彼を何くれとなく面倒を見ているのですね、珍しく入れ込んで居らっしゃるので、あれ?っと思っていたのですが」
「それだけじゃなく、彼はこの町会で今後中心的な役割を果たす、人間になって行く気がしてしょうがないんだ。
だから逆髪君にもお願いするが、彼を気にかけてやってくれないか?
彼自身まだ、親友に裏切られた心の傷から立ち直って居ないから、他人に対して疑心暗鬼になり易い傾向が強いと思う。
しかし芯の部分は素直で優秀な人だから、心を許すと信頼に値する人だよ」
「へー! 代表が絶賛する人ですか? じゃあ何か特別を持って居る人物なのでしょうね。
逆髪君、代表の人物鑑定眼は定評があって、知って居る人は決して疎かにしないのだよ。
今までにこう言って雇った人は、大抵大きな仕事を成功させて、将来会社を背負って立つ人達に成長して居るからね」
「解りました、彼の援護をしますので、安心して下さい。
今後、スタンビートや暴徒の襲撃で、並みでは無い事態が起きるでしょうから、少しでも生存率を上げたいので、優秀な指揮官や技能者は宝ですからね」
「ああ、自分達の為だとおもって、付き合ってくれ。
心を開くと気持ちの良い男だから、そんなに心配していないがね。
後、奴が痩せるときっと多くの野郎から、嫉妬されるので注意が必要かな?」
「え? 彼は痩せると良い男に変身するタイプですか?」
「ああ、3ヶ月したら見違えるよ、俺が呪を掛けておいたし、副食を自由に食べられる程、食料事情は豊かじゃないからね」
「ゲ、やべえ! 代表が言うのなら、早めに看護師の榎下さんゲットしておかないと」
「そうしておいた方が良いですよ」
馬鹿話をしながら、俺達は道なき道を進んで行った。
「ハア~、そろそろ270mになります、迂回した距離を考えると260m位になりますか、そろそろゾンビが集っていた、牧場裏にでますね」
「ああ、前方にゾンビの気配がするね、木が多いので出会い頭のエンカウントに注意しよう。
鬼山君も気を付けて雑草の開墾をしてくれ」
「出会い頭ならマチェットで昇天させますよ、何せこのマチェットは関の名人に打出してもらった逸品ですから、ゾンビの5体や10体屁でも無いですよ」
鬼山君はパンデミック前に届いた、鍛造の特製マチェットを掲げると、惚れ惚れと波紋に見入った。
その姿に愛刀に見入る、国定忠治を連想してしまい、思わず笑いを噛み殺した。
「鬼山親分、どこぞの侠客の真似を止めて、前方注意!
その木の陰に回り込んだ奴が右手から出るよ、二代目小松五郎義兼で迎撃して!」
「フン! 私は国定忠治じゃぁござんせん」
見事ゾンビの首を薙いだ鬼山君が、見栄を切りながらセリフを返した。
「あ? 先程より1体増えて居るな、まだ8体いる。
崖上から落ちて来たかな?」
「先程より増えて居ると言うことは、我々の移動音を察知した崖上のゾンビが、柵か階段を転がり落ちて来たのかも知れないですね」
「上は確か国立天文台の施設が有ったから、そこの職員かのゾンビか紛れ込んだゾンビだろう。
結講敷地面積があるから、今感じるのは2体位だが、多分上の施設からのお客さんだな」
「やはり崖下と崖上の木を伐採して置かないと、暴徒の奇襲を受けたら、堪りませんからね」
「病院の屋上なら崖より高いから、狙撃もできるけれど都営住宅では少し低いから危ないね」
「甘莉さん、私も鬼山隊長程では無いですが、トラップには詳しいですので、後で鬼山隊長と田所副隊長にレクチャーを受ければ、結講嫌らしい罠を張ることが出来ると思いますので、勉強させてもらいます」
「では崖上5m程を伐採して、その奥と崖はあまり伐採しないで、凶悪トラップゾーンにすれば、迂闊に侵入しないでしょうからね」
「地図にはトラップの位置と内容を書いて、厳重に町会幹部が保管して置かないとね。
後人質を取られて、無理やり盗まされる可能性も有るので、ダミーの地図も用意して、対策を取って置かないと、悪知恵が回るリーダーが居れば必ずそうするよ」
「ええ、犯罪者の中にはサイコパスもいますからね。
サイコパスは知能が異常に高いし、悪知恵が働くやつが多いので、舐めて掛かると痛い目に会いますからね」
「だから逆髪君、相手を常に侮らず、自分が攻め手ならどう言う手を打つか、と言う発想で防衛計画を建てて行かないとね。
素人はつい此処まですれば大丈夫と考え、後手に回るから被害を増やすが、逆に臆病な程何重にも手を重ねるのがプロだ。
特に防衛戦の場合、一見素人から見ると無駄が多い様に見えるが、攻め手は一瞬の隙を突けば勝ちだ、と言うことがプロには痛い程解って居るからね、だから防備の素人は詰が甘く成り負けてしまうが、プロは無駄な行為をして居る様で、重複した罠を仕掛けているのだよ」
「と言う事は、プロは1つの罠に多くの意味を持たせるが、素人は1つの罠はそれだけの意味しか持たせない事ですか?」
「その通り! その点田所君の罠は巧妙だよ、その罠に引っ掛ると警報と同時に次の罠に誘導する、誘いに成っている。
更に罠を見つけて回避や、解除をしたと思うと次の罠に誘導する誘いになり、気が付くと何時の間にかダメージが蓄積されて、攻略作戦事態が頓挫したり、防衛側のアンブッシュ(待ち伏せ)作戦に誘導されて、部隊事壊滅してしまうのさ」
「トラップも奥が深いですね~。
そのレベルには中々到達しないでしょうが、崖側からの攻略を阻止する位は作りたいですよ」
「そうだね、
・・・・オットそろそろ団体さんの居る場所の様だな、鬼山君1時半の先6mに3体が固まっている」
「チッ!此方からでは低木が邪魔で狙撃は不可能、代表左に廻って狙点が無いか確認宜しく」
「了解!」
俺は左側に回り込むと、一部開けた場所があったので、そこから2体のゾンビを狙撃して倒した。
「可笑しいな? そちらへ一体距離を詰めて居るが、鬼山君見えないか?」
「え~と、確かに音はしますが姿が見e・・・わわ!」
ドシンと言う音と共に[バイパー]を連射する音が聞こえた!
「鬼山君! 大丈夫か?」
「え~大丈夫です、いきなりブッシュから手が出て来たので、驚いて尻餅を着いただけですよ。
どうも、足が悪いゾンビが這い寄って来たようですが、片付けました」
「視界が悪いから気を付けて行こう。
後、6体片付ければこの辺には居ないので」
「そうですね、子供のゾンビも森の中では脅威になるな」
「向かって10時の方向5mに2体、鬼山君挟み込もう、私は右へ行く」
「了解、左へ行きます」
俺達は逆髪君を中心とした、逆三角形の陣形で視界の悪い林で、ゾンビを挟み込む形で進行した。
「前方1時、2m先に2体発見」
「こちらも視認した、撃て」
「始末した、残り4体」
「逆髪君、異常は無いか?」
「こちらは問題有りません」
「チッ! 次の1団はバラけているな。
鬼山君左の一体が突出して居るので、そちらはまかせた。
位置は10時・5m先、次が11時・10m、もう一体は2時方向7m先だ。
私は2時方向を殺る、君は10時を、残りは挟み込んで、以上」
「了解!」
フォーメーションと目標を決めると、各々一体ずつ倒しもう一体は、狙点を取り易かった俺が仕留めた。
「残りは一体だ、位置は1時方向20m先だ。
前方5m先は森が切れて、広場か公園状に成っている様だ」
「やれやれですな、ようやく足場が良くなるのか、これで測定も楽になる」
「ああ、ゾンビも15m先に一体で終わるから、後は上から参戦者が居ないのを祈ろう」
「しかし、ブッシュでのゾンビ戦は厄介だな、此方にはある程度気配を察知出来る者が居るから、これで済んでいるが普通、一般人が森へ迂闊に入ったら直ぐに餌食ですね」
「上の天文台公園と崖の森の間30m位に、フェンスを張ってゾンビを放したら、下手な罠より効果的かも知れないですね」
「それも欠点が有るよ、まずゾンビの所為で罠が張れなくなる、次にゾンビは音で誘引されて誘導が効くので、拠点防御には向いていない、以上の理由から残念ながら却下だね。
只、相手にサイコパス系の軍師が居たら、ゾンビを誘導か捕獲して半日か1日放置して、罠の大半を無効化してから侵攻されたら痛いね。
それを防ぐ為には、罠もリモコン点火型の物を用意して、対策を取れば効果的だよ。
例えばこの間手に入れた、クレイモアやC-4を使った、遠隔操作系のトラップを幾つか仕掛け、起動すればかなりの牽制にはなるからね」
「じゃあ、第一段階として通常のトラップを森に仕掛け、それに警報器か無線マイクを仕掛け、トラップに掛かったのが人間だった場合、尋問か様子をみて暴徒か一般人か見分け、暴徒なら襲撃を警戒し監視を強化する。
第二段階はトラップにゾンビだけが掛かり出したら、襲撃の予兆のレベルが上がった事を警戒して、仕掛けたマイクやセンサーで一帯を監視し、襲撃の予兆があった場合は遠隔爆薬を起動して、襲撃者を排除すると言う事で良いでしょうか?」
「それで良いとおもうが、鬼山君どうだろう?」
「そうですね、後は町会の周辺パトロールを不定期に行い、相手に時間を読ませないと言う事と、パトロール中は必ずうちの装甲車両を同行させ、移動中や停車中も一定間隔を開けておく事と、避難民を妄りに助けない事ですね。
何故なら、町会のパトロール中と言う事は、ギャング共も必ず知って居ると思った方が良い、だから必ず隙を見て町会に入り込み、内部から破壊活動を行う人員を、送り込もうとするはずで、その手のスパイは女子供も使うと思って間違いないよ」
「それが一番怖いね、私が人を助ける場合はその人物を〝視る"事で判断しているからね。
只無闇に助けている訳ではなく、感に引っ掛った場合は基本的に助けないのだよ。
だから勇太の居た集団を助けた時も、暫く監視して相手の人となりを〝視て"決めていたのだから」
「そうですね、代表の人物鑑定能力と言うか、その力は半端じゃ無いレベルですからね。
C国やK国のスパイが会社に偽装入社をしようとしても、100%ブロックしてしまうほどだからね。
最早霊感レベルだから皆信用して居るのさ」
「へ~スパイの侵入も察知してしまうのですか?
それは凄いな、プロ相手に10割で勝てるのはやはり霊感レベルなのでしょうね」
「それより前方に最後の一体が居るよ! 森も切れているし直ぐにみえるから。
鬼山君宜しくお願いするよ」
「ハイ! ・・・・・発見、・・・・終了です」
最後の相手は中学生位の制服を着た少女だった。
どうやら崖上の中学から、落ちて来たお客さんの様で、中学は避難先になる前、既にゾンビに汚染されてしまった様である。
「中学はダメだった様だな、初日から気配が薄いと思っていたが、この娘を見てみるとやはりだな。
そうだ逆髪君、何れ野川の水を取水して防火用水や、生活雑水に利用するだろうから、その時用に上の中学校からプール用の、塩素剤を入手して置いて欲しいのだよ」
「プールの塩素剤ですね、解りました調達しておきます。
しかし学校ならひょっとすると、地震用の備蓄がある可能性も有りますね、合わせてそれらも確保しておきます」
「ああ、充分可能性が有るな、乾パンや長期用の水にアルファ米に缶詰等だろうが、病院の保管庫に移動しておけば、いざと言う時の非常食になるだろう。
しかしあそこは豪雨の時、野川が氾濫した場合に地下は、水没する可能性があるから、なるべく上方階に備蓄しておけば安心だ」
「日あたりの悪い病室を1つ潰して、保管室にしておけば良いので、部屋は多く有るから大丈夫ですね」
俺達は、今後の調達活動の予定等を話しながら、測量を終わらせた。
「大体540m程有りましたが、多分20~30mは迂回に使いましたので、後でGPSの測地データと、地図で照らし合わせて直線を計り直すので、かなり正確な数字が出るでしょう」
「おや、GPSのマッピング機能も着いて居るのですか?」
「ええ、それにほら此処にCCDカメラも着いていますので、大体の障害物になる木の本数や、地面の状況も実測距離やコンパス方向・経度・緯度数値入で撮影されて居るので、後の工事見積りも楽なのです。
実はこれ旭工機製の徒歩実測機[メートル・ウオーカー]なんですが」
「ああ、知らなかったよそんな便利な物を開発したのか、旭建設とタイアップして開発したのだな。
多分[ライジングサン]用電子戦闘サポートシステム[えびす]さん(EBSS:Electronic battle support system)の、劣化版コピーだろうね。
機能が似ているから、応用技術で作ったのだろう」
「[えびす]さんですか、ずいぶん福福しいシステムですね」
「まあ当て字なんだが、Electronic battle support systemの略だよ。
戦闘服に付いている、HUT型バイザーシステムの正式名称さ。
本来の機能は、後方のHQからの指示を写したり、敵性個体の識別や支援レーダー等の情報から分析された、情報を地図に映したり、リンクシステムを実装した武器に連動した、照準システムもある。
自身のメディカルチェック情報を送信して無事を知らせたり、映像を記録して後の反省会の資料に使ったりと、他にも色々な機能があるのさ」
「成る程、戦闘用支援システムの劣化版か・・・
通りで丈夫且つ故障しないと思いましたよ、しかしこのバイザーがそんなハイテク機器とは知らなんだ。
精々ナイトeyeの受像機だけだと思って居ましたよ、そこまで多機能・ハイテクの支援システムの一部とは気が付かなかったです」
「皆に渡したのは小型PCを付けてない、簡易版だからね。
フル装備は要人警護や対テロリスト作戦等、難易度が高い作戦に用いられる。
通常警備ではナイトeyeとGPSシステム、メデカルシステムに記録映像と無線機位しか使わないし、HQシステムが無いと使用出来ないから意味ないので、使っているのはナイトeyeと無線機だけだ」
「それでもこの機能ですか、この装備をつけてHQの支援を受けた部隊と、エンゲージしたくは無いですね、気がついたら全滅寸前に成るのが見えて居るので」
「さてと、先程の分かれ道奥の住宅街に行って、残りのゾンビを全滅して帰りますか」
「後4体で終わりか、そう言えば階段の道へ[とおりゃんせ]を、後で張って置きますか?」
「そうだね、今が1030だから1100には帰れるだろう、その後で崖上に設置して帰れば、1130には戻れるな。
ではサッサとゾンビを片付けて、[とおりゃんせ]を私と鬼山君で設置して昼飯だな」
俺達は奥に残ったゾンビを片付けに、道を急いだ。
8日目
PM12:15 調布飛行場側 [ひよく寮] リビング
俺と鬼山君はゾンビを片付けて、崖上に[とおりゃんせ]を設置した後、田嶋社長と今後の打ち合わせをして、帰って来た。
逆髪君は持ち帰ったデータをPCに入力して、見積りの結果を出す為奮闘して居るようだった。
田嶋社長曰く、スペースのある病院側は、整地してフルサイズ40ft(12.2×2.44×2.59)を70台と20ft30台で塞げれば良いらしい。
近くにあったコンテナヤードには、40ft500台と20ft880台あり、内冷凍コンテナ40ftが30台に20ftが50台有った。
町内用に10台の40ftコンテナに、6台の20ftコンテナを充てたため、冷凍食品だけで2年は自足出来る量が、ストック出来たそうだ。
残りの冷凍コンテナは、協力自治体への供与品として、ストックしておく予定だそうだ。
我々が福島工場に移動した翌日、又八王子の配送センターに、ソーラーシステムを余分に調達に行く予定なので、場長に連絡を入れて起き、責任者を田嶋社長で登録しておいてもらった。
町会長が言うには周りの無事な自治体、2団体と協調路線が取れて、水原町6丁目町会が支援する形が出来たそうだ。
2つの自治会長共、佐々木会長の餓鬼の頃からの喧嘩友達だそうで、まあ信用は出来る連中らしいから安心出来る。
又、将来的に崖上にある天文台と、中学校のも防衛上確保する方向で、作戦を立てた方が良いと進言しておいた。
敵を高所に望むのは、戦略上危険極まりない状態なので、人員の都合が付かない場合、崖上に出城を築きエンジンモノレールを、物資搬入用に鉄板で防護した軌道を走らせる様示唆した。
砦はコンテナ2個重ね24個で囲えば、兵舎兼倉庫に使えるし上に鉄板の防壁と銃眼を着ければ、見張り台兼・防護壁として使え、火攻めに有っても防火構造なので、地下を掘って置けば充分凌げる砦になる。
又中央に40ft2個と20ft2個の3階建ての、本丸と言うか砦の本拠を作り、屋上に防弾仕様の物見台を作れば、立派な監視塔兼城砦の出来上がりだ。
この砦を作って置けば、他の部分を占拠されても、防衛拠点として此方が占拠していれば、簡単にはこちら側が優勢になるので、是非作っておく様進言した。
その他病院やアパートの崖側の窓と通路へ、防弾の雨戸や通路の防護鉄板を着ける事も提案した。
以上の提案を寮に帰って、文章に纏めて佐々木会長に提出する、書類を一通りまとめ終え、リビングにやって来た所だ。
「やあ田中君、待たせたね。
済まないがこの書類を後で、校正しておいてくれないか。
出発前に佐々木会長に提出する、要望書なのだが」
俺は田中君にUSBメモリーを渡した。
「はい校正しておきますね、崖下の森はどの様な状況でしたか」
「ゾンビは少なかったよ、しかし秋の恵はあちこちで見かけた。
ムカゴやアケビに山栗などが自生していて、後で防壁工事をする時に収穫すると重機があるから手間が無くて良いな」
「良いですね、秋の恵を収穫ですか? 東京とは思えない贅沢ですね」
「まあパンデミックが落ち着いても、人口は少ないままだから、又自然がだいぶ回復するだろうね。
この辺もそう簡単に人口は戻らないだろうから、住宅やアパートの整理をしなくては成らない。
食料増産も視野に収めて昔の様な小作農以外の、大規模経営の農業会社を作り、収益と生産のバランスが取れた農業と、手間暇掛けた高級ブランド野菜を手がける農家を、支援して行けば良いのではないかな」
「戦後農政の脱却ですか、後は地域に合った農業制度を作り、地方自治体が国内問題を解決し、対外的な問題を国が力を注ぐ体制を、作れるかどうかでしょうね」
「それはこれからの課題だね、只人口は今までの様に、急激に回復はしないのではと思っているがね」
「う~ん、そうですね、昔の様に無目的に際限無く人口が増える事は、無さそうですから」
「8千万から6千万位が列島で、何か有った時に食わせて行ける人数じゃ無いかな。
それ以上だと国内生産量からすれば、餓死者が出るからね。
足りない労働力はロボットで補い、人は名人的な技術を身につけたり、もっとゆとりの有る生活をしながら、満足を得られる技を身に着ける制度が有っても、良いのでは無いかと思うよ」
「どうして、多様な価値観を持った文化が、発達しないのでしょうね。
価値観がお金をどれだけ稼げるか、しか無い世の中は無味乾燥だと、良い加減気付無いものですかね」
「江戸時代の方が今より余程、価値観が多様だったからね。
でなければ左甚五郎の様な、職人は生まれなかっただろうし、今では尊敬もされないから、今の世がどれだけ優れて居るか、と言われればそれ程と言うしか無いよ。
確かに今の方が女性の権利が、確り認められているが、その反動として女性のストレスによる病が、昔より多くなっているしね」
「良い事ばかり強調していますが、何かを行えば必ず反動が帰って来るのは物理法則で当前ですが、社会でも同じだとおもいますわ。
原発を作れば安い電気は売って貰えますが、果たして放射性廃棄物は幾ら掛けて処理するのでしょうね?
C国の様に後発の発展途上国は、先行して居る先進国の公害問題があり、将来どうなるか解っていたにも拘らず、儲けだけに執着した結果、今回のパンデミックが起き世界に被害を撒き散らした。
そして儲けた金と心中した馬鹿な民族と、今後世界中から嫌悪と嘲笑をもって、T民族が遇されるのを許したのですからね」
「日本の様に結果が解らないから、汚染物質を撒き散らした場合と違い、既に公害を出せば儲けには繋がらなくなると、結果が出て居るにも拘らずあの国は公害国家に成ったからね。
確信犯以外何者でもないよ、しかしヨーロッパやA国はあの国を煽り、今回の事態を招いた共犯者だからな。
彼らにはキッチリ共犯者としての、責任を取って貰う」
「そうですね、C国だけに罪を擦り付けて自分達は、被害者と言う態度を取らせる訳には行きませんね。
彼らの所為でC国がどれだけ増長し、アジアの国々に迷惑を掛けたか知れませんから」
「まあ、同調して馬鹿をやった間抜けな連中も居たがね」
「ああ、海賊行為で利益が出ると思った、偉大?なる民族の方々ですね?」
「償いはキッチリ取って貰うから、あの侵略民族は自分の出自を、もっと真摯に受け止めるべきだったな」
「そうですね、大体源C鮮半島人の遺伝子を、継承して居るのは我々日本人なのに、自分達は満州族とモンゴル族の合の子で、侵略者のD隷として作られた、D隷民族の子孫である事が、遺伝子調査で判明した事を知らない国民達ですから」
「まあ彼らは一生浮かばれない存在だからね。
蓋を閉めて放って置けば勝手に自分達で、今回のパンデミックも解決出来る、優秀な民族だそうだから。
望み通り日本人のお世話に成らないで、自力で解決するだろう」
「お二方共、もう直ぐお昼ですので」
「ああ、有難う御座います佐田さん! 今日は何ですか?」
「今日はチャーハンと水餃子に東坡肉、それにトマ玉ですわ」
「東坡肉とトマ玉ですか! 嬉しいな両方共大好物なんです」
「おにいちゃん、お母さんのトンポロウはおいしいの!
トロトロで、フアフアで、しゅんってきえちゃうんだよ!」
「へ~、トロトロで、フアフアで、シュンって消えちゃうんだ!」
「うん、これつくるとお父さんおさけいっぱいのむんだ!」
「じゃあお休みの前じゃないと大変だね」
「そうなの、だからきんようの、ゆうごはんのときにつくるの」
余程嬉しいと見えて、愛美ちゃんの言葉が幼児返りをして居るな。
と言う事はとても期待出来る味、と言う事なのか?
佐田婦人の料理の腕と、愛美ちゃんのこの態度からすると、期待は嫌が上にも急上昇だな。
「他の皆もそろそろ帰って来る頃だな、早速キッチンへ行くか」
俺は田中君と鬼山君を誘い、キッチンへ行く様促した。
「そう言えば先程ナース組が、帰って来ましたから、勇太君の具合を見てから、降りてくるでしょう」
「勇太君の具合は順調かね?」
「やはり子供は一旦治り出すと、回復が早い様ですね。
バイオパットとの相性も良い様で、今朝辺から歩いてトイレに行き出しました」
「フルメタルジャケットの盲管銃創だが、超音速での損傷だから従来の治療法だけだと、2週間以上は歩くまで掛るのだが。
幾ら代表の治療を受けたとしても、3~4日でもう歩けるのは凄いな。
技術の進歩と言うが、外傷治療の革命ですよこれは」
「今の所軍間系と治安間系に優先して供給して居るが、後ひと月位で落ち着くから、民間用に流れるのは年末位だね。
これで傷による後遺症害や、救命率が上がればこんな良い事はないね」
そこへ田所君が帰って来て、看護師達も1階にある勇太君の部屋から出て来た。
そこには瀬川看護師に付き添われた、勇太君も一緒に部屋から現れた。
「皆さん、今日から勇太君も皆さんと一緒に、ご飯を食べる事になりました。
さ、勇太君ご挨拶は?」
「あ、あの皆さん、助けて頂いて有難う御座います。
お陰でもう歩ける様になりました」
そう言うとペコリと頭をさげたので、何時の間にかみなが拍手を始めた。
佐田婦人等は、うっすらと涙を浮かべている。
「良かったな勇太君! 後はあまり無理はしないで少しずつ、慣らして行こう。
明後日は少し強行軍になるが、私や逞しい“お兄さん”達が居るから、大船に乗ったつもりでいてくれ。
愛美ちゃんの介護も有るから、大丈夫だろうけれどね」
愛美ちゃんがニッコリ笑って「ハーイ」と答えると、一部オッサンからの冷やかしがあり、勇太君は顔を赤らめていた。
イジリ甲斐があるね~初な少年は。
その後、昼飯は充分堪能しましたよ! 箸で切れる東坡肉は絶品でした!!




