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感染戦線  作者: ヘロおやじ
第 一 章 調 布 編
11/72

11.Pday 1日目

今回は2話続けて投稿します

誤字・脱字がありましたならご指摘下さい


AM10:20 調布飛行場脇東道路 航空宇宙センター分室前


 幸いゾンビ達は大騒ぎを始めた、他のドライバー達に引き寄せられ、此方の路地には3体程入って来たが、大半は空港沿いの道に散っていった。


 その3体も鬼山君と田所君が、即座に処理をして事なきを得た。


 俺はようやく落ち着いて、母娘に自己紹介をした。


「ご無事ですか? 私は甘莉と申します。


 他の三人は田中君、田所君、鬼山君です、全員私の部下です」


「た、助けて頂いて有難う御座います。


 私は佐田 光恵と申します、この子は娘の愛美です」


「そうですか災難でしたね、我々は飛行場から軽飛行機で福島の工場へ行く予定で調布に来たのですが、場内でやはりパンデミックが発生して離陸出来なくなり会社の寮へ戻る途中でした。


 佐田さんはこの近くにお住まいですか」


「いいえ、主人は長期出張で北海道に1ヶ月前から出ており、今回のパンデミックと戒厳令で私達は、私の福島の実家に避難しようと出かけたばかりなんです。


 マンションは調布市内に有るので、此処から10キロ以上離れています」


「分かりました、会社の寮は此処から500m程の所に有るので、取敢えず我々と同行しませんか?


 お嬢さんもいらしゃるし、このままでは避難場所も遠いですし」


「宜しいんですか? 私たちは助かりますが部外者を勝手に、寮へ連れて行ってはお困りになりませんか」


 ほう、この非常事態で此方の立場を慮れるのか、大した人だな性格は問題ないし常識も問題なさそうで好感が持てるな・・・・。


「ああ其の辺は大丈夫ですよ、これでも会社の代表をしていますので、其の辺は問題ありません」


「お兄さん社長さん?」


 愛美ちゃんが可愛い声で聞いて来た。


「はいそうですよ、お兄さんは薬屋さんや建築会社に輸送会社、警備会社と物作り会社の社長さんをやっています」


「うわーすごい、5つも社長さんやってるんだ」


「ええ、だから愛美ちゃんやお母さんが、我が社の寮に居ても誰も文句は言いませんから、安心していて大丈夫ですよ」


「ありがとうお兄ちゃん!」


「あの、本当に宜しいんですか」


「大丈夫です、これから行く寮は10LDKの三階建てですから問題ありません。


 たとえインフラが止まっても、自家発電の光発電機や電池で昼夜電気を賄えますし、上水も井戸があるのでお風呂も入れますし問題なくすごせますしね。


 食料や生活物資も、災害用に備蓄をしっかりしていますので問題は無いでしょう、確か子供用の衣服もデザインを考えなければ、備蓄分にスットックがあったはずだが、田中君どうだったかな?」


「はい衣料関係も男女共にカジュアル系を中心に、下着から服も各種サイズを取り揃え備蓄がありますので、問題ないと思います」


「・・・・・じゃあ、お言葉に甘えましてお邪魔いたします」


「お子さんもいらしゃる事だし、袖すり合うも他生の縁と言いますからね」


 そんな事を話ながら歩いていると、住宅街に入った辺りで先行して居る鬼山君が手話で注意を促し、デジタル無線インカムで通信して来た。


 骨伝導タイプのイヤホンマイクを使用して居るので、騒音下でも通信はクリアに聞こえる。


『前方50mにゾンビ発見、見える範囲で5体を発見するも、十字路のため死角に何体居るか不明』


『見える範囲を掃討後、PS(時限音響)弾で誘引後射殺で行こう』


『了解』


 他の皆に作戦を伝え、俺は鬼山君のガードに廻り、田中君は母娘の安全を確保し、後方は田所が警戒するシフトを組んだ。


 PS(時限音響)弾(Period sound bomb)とは簡単に言えば、キッチンタイマーに対衝撃性を持たせた対ゾンビ誘引弾の事で、0~1時間の間隔で大きな連続音を発生させる、タイマースイッチが付いた投擲しても壊れない音響弾だ。


 この他にテープ状のシリコンを市販のキッチンタイマーや、防犯ブザーに巻きつけ対衝撃性を強化する、止血にも使えるシリコンテープも、20mほど装備している。


 C国内で発生した時に[ライジングサン]の工作員が、秘密裏に捕獲したゾンビを研究した結果、通常人と比較して視力は低下し、嗅覚は通常人の3倍で聴覚の高音域が通常より、5倍ほど性能が上がっていることが、判明した時点で作られた機器である。


 そのほかに、大音量と香水の強い匂いででゾンビの、鼓膜と鼻の機能を一時的に麻痺させる音響・芳香弾も開発された。


 只、効果の範囲外のゾンビを誘引してしまう、欠点が有るので使用場所は屋内限定だが。


 パス・パス・パス・パス・パス


 リズムを取りながら鬼山がゾンビを狙撃後、十字路に10m程に近づきPS弾を丁度交差点の真ん中に投げた後、5mほど後方へ下がって電信柱の陰で銃を構えて待つ。


 3秒ほど経った後 ピピピピピピピ と言う、電子音がかなりの音で鳴り出した。


 しばらくすると4体のゾンビが、音に釣られてやって来た所を、鬼山に狙撃されて屍を晒した。


 更に10秒程待ってから、後続のゾンビが来ない事が解ると、伸縮製の金属棒にミラーを付けたサイドミラーを取り出し、注意しながら交差点に向かった鬼山君は、ミラーで死角を確認後PS弾を回収し音を止めた。


 安全を確保した後我々を鬼山君が呼んだ。


 全員が集まると鬼山君が言った。


「此処から寮まで後200m程ですが、住宅街に入ってしまい両サイドの視界が悪く、いつ襲われるか解りません。


 皆さん絶対大きな音を立てずに、注意して道の中央を進んで下さい。


 特に門扉が開いている家の前と細い路地、車の影は要注意です」


「分かった、隊列は今のままで良いかね?」


「このままで大丈夫でしょう。


 しかしもう少し間隔を詰めましょう、そうすればいざと成った時に、直ぐ対処できますので」


「了解、音に気を付けて行きますよ、ゾンビ化すると兎も角音と匂いに敏感になりますので注意して下さい」


 俺達は間隔を詰めて、道の真ん中を注意しながら歩き、幸い何事もなく寮に付いた。


「田中君、二人を連れて先に寮へ入ってくれ」


「はい代表」


 田中君が母娘を連れて先に寮へ入った後、俺は二人に言った。


「済まんが後一仕事だ、2区画先の道路にワイヤーバリケードを、寮を中心に設置したいのだが協力してくれ」


「[とおりゃんせ]を設置しますか?」


「ああ、出来るだけ壁に近い標識や、電柱を支柱に使って設置していこう」


 [とおりゃんせ]とは伸縮製の30cm~200cmの丈夫な2本のポールの間に、粗めの刺し網状のSライン製簡易バリケードで、1組最大30mの道を塞ぐ事が出来る。


 取り付け方はポールをワンタッチ金具で、標識のポールや電柱に固定した後、3m置きに特殊ペグを道路に打ち込み固定する。


 特殊ペグとは路面にペグを打ち込み、ボルトをrockの方向に回すと地中でペグから鏃の様にブレードが飛び出し、道路から抜け辛くなる固定装置が付いた物だ。


 [とおりゃんせ]で使われている5mm径のSラインネットは、支柱さえ持てば50kmで走って来た2000ccのセダン自動車でも、阻止出来る性能がある。


 流石に危険なので対人用に反射材の看板に、LEDで縁取りした[注意]の標識が2~3箇所にデカデカと結び付けてある。


 1箇所は脱出用に簡単に撤去出来るよう、リモコン式の爆発ボルトで固定した留め具と、ペグで出来た物を使っている。


 俺達は[とおりゃんせ]を装甲パジェロ改に、15セット程積み寮の廻りの50m四方の侵入路に設置して行った。


 その間5体程のゾンビが出て来たが、二人の元傭兵にとっては銃の的にしかならなかった。


 一作業終わり俺達は近所を見回ってみて、バリケード内にゾンビが侵入していないかを、確認して居ると近所の住民に出会った。


 俺達が行っている作業が気になって、コッソリ覗っていた中年女性だった。


「あの~あなた達何をしていたの?」


「あ、おはよう御座います、我々はその奥にある寮の社員なんですが、パンデミックせいで感染した、動く死体が発生し危害を加えて来るので、ワイヤーで出来たバリケードを道路に張って、奴らが町内に侵入し無い様にしたんです。


 町会の方に断りを入れてから作業をしたかったのですが、早めに手を打たないと手遅れになるので、先に設置してしまって申し訳無かったです。


 邪魔なようなら撤去しますが、そうすると奴らが侵入して、ウィルスを撒き散らし、感染者が次々に出て町内が壊滅してしまうので、慎重に判断して下さい」


「え・・・っと、じゃあ町会長の佐々木さんに相談しないと。


 ちょっと待ってて、直ぐ呼んで来るから」


「あ、待ってくd・・・・・もう逝っちまったよあのおばさん。


 ゾンビがまだうろついて危険なのに・・・・ハァ」


「流石に代表でもおばさんパワーには敵いませんか」


「ああゆうのの相手は、田中君が得意なんだがな・・・・。


 どうにも死んだお袋を思い出して苦手だよ」


「ですね・・・・故郷のおかんに感じが似ていて私もやりづらいです」


 さすがの強面の傭兵でもおかんは怖いとみえる・・・・・。


 暫らく待つとおばさんは爺さんの、手を引きながら此方にやって来た。


 町会長の佐々木何某と言う老人で、パンデミックの事は先程から日本全体で起き始めており、注意を促す放送を繰り返しTVで流しているので知って居るそうだ。


 政府では目に余る言動をしない限り、マスコミの報道に介入しない方針を取っており、正確な報道をするマスメディアには干渉しないが、恣意的に虚偽の報道を行った場合は即座に放送権の免許停止を通達している。


 その様な政府方針の為比較的自由に、パンデミックの取材は認められており、無論取材中警察や自衛隊の静止や勧告を無視して、死亡しても自己責任での事故として扱い、救助は行わない旨を了承し取材をするのなら、問題にはしないと予め警告していた。


 町会長の佐々木老人は、バリケードの設置を非常に喜んだ。


 日本各地の被害の様子はTV通じて流されており、何の手も打たない場合に街がゾンビに蹂躙される様子も放映されていて、町内会でも独自の手を打たないと町がゾンビだらけになり壊滅してしまうと、頭を痛めていた矢先の朗報だった。


「それでそのバリケードは、素人の女子供でも簡単に設置出来るのですか?


 もしも予備があるなら、是非販売して欲しいのです、町会費から捻出しますので出来るだけ多くお願いします」


 と頭を下げられた。


 俺は20セットを寄付する旨を伝え、取り付けも図解入の分かり易い取扱説明書とDVDが付いており、それを読めば素人でも2人居れば10m程の道路が10分以内、慣れれば5分ほどで設置が完了する事を伝えると非常に喜んだ。


 さらに[とおりゃんせ]のネーミングと、性能を教えると更に喜び、早速町内青年会・消防団の男手を集め、警備と設置組に分かれて作業を開始する事に成るそうだ。


 俺は会長さんを乗せ寮に行き、直ぐに使えるよう屋外倉庫に保管してある、[とおりゃんせ]20セットを積込み、町会の公民館に運び込んだ。


 俺は[とおりゃんせ]に付属のDVDを渡し、これを皆さんで見れば直ぐ設置出来る事を伝えた。


 後、ゾンビの特徴と効率的な倒し方や、先鋒に阻止や足止め用の盾と片手で振るえる、ハンマーや鉄パイプを持ったタンク役、中間に槍と1m程の鉄パイプ、刺股を持った槍兵、後に弓やボウガン、ボーラーの飛道具を持って全体を指揮する小隊長役3人陣形の取り方を教えた。


 そして、町会内の各家の感染者の有無と、発見した場合は回復の見込みは0%なので、即座に頭を潰す処理を徹底して公民館を後にした。


「これで拠点防御の手間が省けたな、更に広範囲に安全地帯が出来れば寮の安全確保も楽になる」


「全くあのオバさんに発見されたのは運が良かったですね。


 この辺は、元々農家だらけの土地のせいか、地主が力を持ているので都内みたいに、悪い意味で個人主義でなく一昔前の地域住民の力が強い土地柄のせいで、トップさえ押さえれば後は話が、通り易いのもありますね」


「ああ佐々木老人に話を通し、恩を売って置けばこの土地で、後々の我々の行動も楽になるな」


「田舎って、そう言う所が大きいですからね」


「福島で用地買収をした時は、それを知らないで変に回り道を、してしまった経験の賜物だね」


「正に失敗も成功の母ですね」


 俺達は地域住民のコミュニティへの、足がかりが出来た事に一息付いた。


 こればかりは有ると無いでは今後の展開を、楽に広げられるか地域と敵対するかの大きな違いを生むので、地味だが一番重要な事柄でもある。


 飛行場を、都内奪還の拠点の重要な一つと仮定すれば、近隣とのトラブルが無く友好関係を築けて置けるに越した事はないのだ。


 地方で工場用地取得で、やはりその地方独特の付合い方があり、それを誤った為に泣く々一等地を諦らめなければ、ならなかった苦い経験のたまものだ。


 逆に東京近郊の基地周辺には、所謂進歩的な住民が多く、学生運動華やかなりし頃から左翼系住民が多く転居して来て、自衛隊と対立して居るケースが多い。


 この様な事態になった場合に、周辺住民を慮って指揮官や兵が、部隊の移動を拒否するケースは皆無だったのだ。


 まあ普段の付合いを、悪くして居る隣人の都合は誰も気にしないだろうと、何故彼らは判らないのか理解に苦しむがね。


 一旦有事になった場合、同じ税金を払って居ても自分らを歓迎してくれる人達を命がけで守るのと、普段から文句ばかりを言って、攻撃して来る人達を命がけで守るのと比べれば、前者を当然優遇するのは当前だろうと何故理解出来ないのか。


 後で佐々木老人にはこれから貴重になる、フリーズドライの野菜詰め合わせ100食分と酒と甘味を届けておこう。


 こう言う付合い、所謂“結”が農村部では大事なのだ。


 俺達は寮に帰り、ひとまず寛ぐ事にした。





Pday 1日目

AM11:15 調布飛行場側 調布[ひよく寮] リビング


 ダイニングスペースにある80インチの、LEDTVが点いておりニュースチャンネルに番組を合わせていた。


 ソファーに座りながら俺は田中君に聞いた。


「都内と全国の状況はどうだい」


「完全にパンデミックですね、都内より地方の方がましですが、いずれは同じ状況になるでしょうね」


「他の国の情報も入っているかな」


「A国は大統領が空母に避難して、指揮を取る事にしたそうです。


 昨日の安部総理のパンデミック会見が早い対応の基になったようですね。


 R国は大統領が首都から離れず、陣頭指揮を取ると発言しているようです。


 C国は中央政府からの発表は無いですが、海軍と一部陸軍が沿岸部分で、ASEANの島嶼に侵攻しようとする勢力と、台湾・日本に攻め込もうとする勢力に別れて蠢動しています。


 尚K国と北はC国軍と応呼して、我が国を狙っているとの情報が入っています。


 ヨーロッパ連合は、各国が独自に動いてカオスですね、比較的まともなのはE国とD国ですが、E国はトンネルを封鎖し、大陸との通行を禁止して国内で対応しています。


 D国はゾンビの流入を阻止しようと努力していますが、地続きなのであまり効果はない様です。


 F国は端から諦らめ、政府がアルプス方面に疎開した模様です」


「我が国の対応と在日A国軍はどうだね」


「C国・K国の連合艦隊に対して、DDH2隻DDG5隻DD8隻による、対艦部隊を沖縄と九州の中央に待機させ、敵の侵攻を待ち構えています。


 残りの艦は弾道弾が発射された場合の、迎撃に本土に残す様ですね。


 在日A国軍は、日本と共同歩調を取る様です、共和党政権に成った賜物でしょうね。


 空自は嘉手納基地と福岡を中心に待機中ですが、AWACS2機を沖縄と九州に展開し、在日A国軍と協力しながら哨戒に当たっています。


 ASEAN方面は事前協議通り我社と、ASEAN海軍の連合艦隊に一任されます。


 我社の工場のあるパラナオ島は、ASEANの連合艦隊で守っておりますが、C国機と思われる偵察機が1日に、2回程偵察に接近しています。


 横山提督の連絡では計画通りで問題無しだそうです」


「フッ、横山提督らしいな・・・・、電算室の田神室長に連絡してくれ。


 C国軍が攻撃の兆候が有った場合、速やかに横山提督へ連絡し、こちらも予てからの予定通り、『作戦オペレーションリベンジ』を発動して良しと。


 後、我々の現状は連絡済かな」


「はい各セクションの責任者にはメール済みです。


 片桐指令官には先ほど、メール後に改めて電話を入れておきました」


「まあ早めに福島工場には行こうと思っているが、現状事態は流動的過ぎて下手に動けないので、此方が落ち着くまで定時連絡はかかさずすると、片桐指令に連絡を入れておいてくれ」


「分かりました」


 そこへ我々の分のコーヒーを淹れて、佐田婦人が持って来た。


 愛美ちゃんは、お菓子の入った菓子鉢を持って、お母さんのお手伝いをしている。


「あの、お仕事中でしょうが、コーヒーと甘い物でも如何ですか?」


「済みません、丁度喉が渇いたところですよ。


 愛美ちゃんはジュースが良いかな? 


 たしか奥の倉庫の冷蔵庫に、冷えたのが入っていたはずだったが」


「私が探して来ますわ代表。


 愛美ちゃんジュースはなにが良い?」


「うんとね、愛美はりんごがほしいです」


「じゃあ今持ってくるわね」


「申し訳ありません」


「おねいちゃん、ありがとう」


「フフ、はい直ぐ持ってきますね」


 田中君が席を立つと俺達は、コーヒーを飲み一息付いた。


「そう言えば佐田さん、旦那さんには連絡は付きましたか」


「昨日は携帯に継りましたけど、今日は通話を試しても“回線が混み合って繋がりません”ばかりです」


「メールはどうです」


「同じです、送れはしますが届いているかはわかりません」


「出張先は分からないのですか? 後失礼ですけど旦那さんのお仕事は?」


「主人の仕事は、POSシステムのエンジニアですわ、出張先は北海道にある製薬会社で、配送システムの不具合が有ったので、そのデバックをしに行ったんです」


「出張先の名前が解ると、通話出来るかも知れないですよ。


 私の会社は北海道にも支店がありますし、その専用回線を使えば市内通話と同じ様に、固定電話へ電話を掛けられるので、継がり易いと思います」


「え~と確か出張先の会社は・・・、ダメ思い出せない・・・」


「お母さん『きょくセイヤク』だよ」


「え?『きょくセイヤク』??」


「うん、父さんお出かけ前に、パソコンでホームページ見てたの、今度出掛けて行く会社だよって父さん言ってた。


 そこのホームページに『きょくセイヤク』ってかいてあったよ」


 大人達は皆で顔を見合わせて頭上に?マークを出している。


 そこへ田中君がジュースのペットボトルと、氷を入れたグラスを持って現れて開口一番。


「それって『あさひセイヤク』の事じゃないですか?」


「「あ?」」


「「あ!」」


 綺麗に2つに分かれた。


「だから『旭』って訓読みで『きょく』でしょう」


「「ああ!」」


「うん!キョクジツキの“きょく”だよ」


「ひょっとして内の会社に出張かな? そうであれば飛んでもない御縁だね!


 しかし愛美ちゃん良く旭日旗をしっていたなあ。


 田中君札幌支社へ連絡を入れて、ああ奥さんご主人の会社名は?」


「株式会社ルミックスと申します、主人は開発部ソフトプログラム課主任の佐田 和夫と申します」


「田中君確認頼む、しかし飛んでもない偶然って有るもんですね。


 まさか東京の田舎のこんな辺鄙な場所で、偶々関わった事故車両の乗員の旦那さんが、内の会社の札幌支社に出張中だなんて偶然は、何億分の1の確率なのか」


「ひょっとするとジャンボ宝くじの、1等当たりくじを引くのより大変かも知れませんな」


 田所君が、呆れた様な顔をして言った。


「お兄ちゃんは、お父さんにしごとをくれた会社の社長さん?


 きょくじつきは、いなかの義樹にいちゃんから、ぐんかんにつける日本のはたなんだっておしえてくれたよ」


 愛美ちゃんはきょとんとした顔でいった。


「うんそうみたいだね、御免ね愛美ちゃんこんな大変な時に、お父さんを北海道に連れてっちゃって。


 あと旗の名前を良く覚えていたね、エライな!」


「ううん、いいのおシゴトないと愛美や、お母さんがせいかつできないから。


 ハタは義樹お兄ちゃんがやっていた、ゲームがぐんかんがイッパイでてくるやつだったんだよ」


「まあせめてもの罪滅ぼしに愛美ちゃんと、お母さんを福島のお爺ちゃん・お婆ちゃんと、義樹お兄ちゃんのお家まで送ってあげるよ」


「え?お兄さんいいの?」


「うん任せておいてね愛美ちゃん」


「わ~!ありがとう」


「え・・・・宜しいんですか? そこまでお世話になってしまって」


「ええ私の師匠に奇縁は大事にしろと言われていましてね。


 普通の縁ですら本来並の事ではなく、それが今回の様な奇縁の場合は更なる継がりであり、蔑ろにするには障りが大きいそうです」


「佐田さん、代表はこう見えて、当代一流の陰陽道の大家なんですよ。


 だから目に見えない事柄に於いての、判断は蔑ろに出来ない方です。


 代表の隠れサポーターは実は現在政・財・官に大勢いますし、総理にもアドバイスをされている方です」


「別に私の力がどうのと言う訳ではないですよ。


 ところでご実家は福島のどの辺りですか、あと義樹お兄ちゃんとは誰ですか?」


「私の実家は、福島県の波江町という所にあります、義樹は私の高校生になる弟ですわ」


「え、波江町と言うと高背川と請度川の間に、挟まれた所にある波江町ですか」


「ええ、そうですが私の実家の場所が何か?」


「我社の福島工場は、多平山の敷地を買い取って、作った旭製薬福島工場なんですよ。


 実は今日の目的地が其処への、フライトだったんですよね」


「ええ!そう言えば多平山に、製薬会社が出来たと言って、父母が喜んでいましたがそこの社長さんでしたのですか?


 私の両親は田沢と申します。


 母は工場で賄いの仕事をしていますし、父も工場内の植木の世話や塩抜き堀の、見回りの仕事で雇って貰っています。


 津波で仕事が無くなって困っていた、町の救世主だともっぱらの評判です」


「何か気味の悪くなる位の御縁ですね・・・・・・。


 いよいよ貴方達母娘を、放置出来なくなりましたね。


 ここまで縁があるのは、何らかのメッセージがある場合が多いんですよ、それを無視するとろくな事がないんです」


「代表、佐田様とお電話継りました、どうやら支社に詰めて居たらしいですね」


「奥さん、愛美ちゃんお先にどうぞ」


「済みません、では・・・・・あなた! 私、光恵です・・・ええ・・・ええ。


 グス・・・・・・・愛美も一緒に福島の実家に戻る途中に事故に巻き込まれてヒック・・・ゴメンなさい。


 大丈夫二人共ケガはないわ・・・ええ、旭製薬の社長さんに助けて頂いて。


 今調布の寮にお世話になっています・・・ハイ、ハイ・・・。


 愛美お父さんから電話よ」


「うん!・・・父さん? うんだいじょうぶだよ・・・ちゃんとチャイルドシートつかっていたもん・・・。


 うん、こわくなかったよ! 社長さんのお兄ちゃんとオジさんたちもとてもつよくて、こわいお化けをすぐやっつけちゃうんだよ・・・・。


 ハイちゃんとお礼をゆってるもん・・・ハイじゃちょっとまって、

お兄ちゃんお父さんからでんわです」


 俺は愛美ちゃんの「おじさん」発言に、地味にダメージを受けた男二人に爽やかな笑顔で、親指を立てながら電話に出た。


「はい、もしもし始めまして甘莉と申します」


『大変ご迷惑をお掛けします、ルミックスの佐田と申します。


 この度は妻と娘を助けて頂き、お礼の言葉もありません』


「いいえ、奥さんとお嬢さんとはどうも御縁が深い様です。


 あなたとの御縁もそうですが、奥さんの実家のご家族とも、会社を通しての縁継がりが有る様なので」


『縁・・・ですか?』


「ええ、偶々私の会社へ出張をして居る旦那さんがいるのが一つ。


 我々が飛行場が閉鎖された為、偶々事故現場に歩いて移動していた時に知合ったのが一つ。


 福島のご両親が私の会社の工場に勤めているのが一つ。


 一つだけでは偶々で済みますが、三つ合わさると最早必然になります」


『そうですね・・・・一つなら偶然ですが三つ合わされば必然ですか・・』


「ええ、ご存知かは知りませんが私は少々陰陽道を修めています。


 陰陽道では奇縁・・・珍しい縁を大事にします。


 ですので奥さんと、お子さんは私が責任を持って、福島のご実家に送らせて頂きますよ。


 何、どの道我々もご実家のある波江町の近所の、福島工場へ行かなければ成らないので、ついでと言っては何ですが手間は一緒ですからね」


『でも足手纏いの子供を連れてでは、ご迷惑を掛けてしまうのでは無いのですか?』


「佐田さん、ご存知無いかも知れないですけれど、政府はこのパンデミックを乗り切る為に、首都を放棄して北海道に政府を移転して、道内のゾンビを掃討し反攻の拠点にして武器弾薬を量産し、8ヶ月~1年後に本土奪還作戦を行う予定です。


 このままご家族を放って置くと、ゾンビと無政府状態の混沌の中に、放り出す事になってしまいます」


『そ、それは本当ですか? 政府が首都を放棄するだなんて・・・』


「最早パンデミックが起こってしまったので、今更秘密では無いので言います。


 私は製薬会社で、ワクチンの製造工場を持っていますので、色々政府から情報が入って来ます。


 先ほど言った事も、首相から直接聞いた事実ですので、間違いがありません」


『そんなに大事なのですか、・・・・直ぐに混乱は収まると思っていましたが』


「C国のパンデミックは、結講早い段階で情報が入っていたのですが、左翼系の政党やマスメディアのせいで、公に出来なかったのです。


 仮に6ヶ月前の早い段階で発表していたら、荒唐無稽の発言として総理は野党や、左翼系マスメディアに追い詰められ、政権崩壊していた可能性がシュミュレーションでは95%と試算されています」


『そんな・・・・、もし民主党が又政権を取っていたら、震災の時と同じにどうにも手が打てない状態になって、大変な事になりますよ!』


「ええその通りです。


 そして日本が手を打たないで流れのまま、パンデミックが進行した場合、現文明が壊滅し全面核戦争が勃発し、人類が絶滅する可能性が97.8%。


 部分的に核が使用されて文明が16世紀位に逆行し、人類総人口の85%が失われる可能性が77.2%。


 仮に核が使用されなくても、ワクチンの製造が出来なくなり、人類絶滅になる可能性が65.7%。


 以上の数値が、現在最新の社会行動心理学の、カオス理論を取り入れてシュミュレーションを行った場合に、算出された日本が介入した度合いに因って出た結果です」


『・・・・ソ、そ、そんな恐ろしい事態なんですか・・・』


「残念ながらこれが現実です。


 それを回避する為、安部首相をトップとする、日本政府が早めに手を打ち、不確定要素の固まりである、C国がASEANや日本に侵攻するのを契機に、海軍の軍事力を壊滅し、C国を含めた全世界の核兵器を使用不能にする方策を取って、ソフトランディングを目指しています。


 最終的に日本が100%介入して、核戦争を回避した場合でも人的損失は、最悪地球全人口の70%以上が死亡する、との結果が出ています」


『しかし核兵器の使用を不可能にする技術など、何処にあるのですか?』


「佐田さん貴方はソフト関係の技術者でしたね。


 これは極秘事項ですが、聞く気はありますか?


 聞いてしまったら、後戻りは出来無い事に成りますが、当社に移籍をするつもりがあるなら、お話出来ますが」


『え? 何で行き成り私に、その様な重大な秘密を?』


「これは一種の感なのですが、理論的な帰結で出た結論では無い為、私の感は相当な確度で信用出来るのです。


 これが考えて調査した結果で出た結論なら、かなりのリスクを覚悟するのですが、感の場合は誤魔化しが聞かないので、自身でも確度が高い情報として頼りにして居るのです。


 だから私は感を大事にして居り、他人からするとかなり奇異な行動と映るみたいですが、今まで人事面や商売面でこの感に、裏切られた事はありません。


 その感があなたは信用出来、優秀であると結論を出して居るので、最高機密である情報も明かして大丈夫と、結論が出ているのです」


『…………、奇妙ですが私も昔から、代表と似た感がありまして、内の家内と結婚したのもそれに従ったお陰ですから。


 変な話、私も代表と初めてお話するのですが、通常は結構緊張する方なのですが、代表と話していてもあまり緊張をしませんし、何か懐かしい気分になりますね。


 解りました、実は我が社の上司から、昨日今後会社の存続が危ぶまれて居るので、覚悟をしておく様言われておりました。


 甘利代表、彼方が私を買って頂けるのなら、彼方の会社に忠誠を誓いますし、今日これから彼方が話す秘密は、組織の一員として秘守義務として守ります』


「有難う御座います佐田さん、我々は彼方とご家族を歓迎します。


 さて肝心のトップシークレットですが、実は当社では2年程前から極秘裡に、素粒子コンピュータを開発・稼働させているんですよ。


 後はわかるでしょう?」


『本当ですか!!


 凄い発明じゃないですか!


 ・・・・・!! そうか、そうだな素粒子コンピュータが開発されたなら、核兵器所か通常兵器ですら自由に出来る!


 と言うか戦争にすら、ならないな・・・・、トンデモないことになるぞ』


「そお言う事です、起きる被害は純粋にパンデミック禍のみに限定されます。


 どうです佐田さん、今の仕事より素粒子コンピュータ[おもいかね]の、管理者の一人として働いて頂けますか?


 我社では優秀なだけでは無く、信用出来る優秀な技術者を一人でも多く確保し、[おもいかね]オペレーターに成って頂ける、方が是非欲しかったので非常に助かります」


『ええ? 行き成りトップシークレットの固まりである、素粒子コンピュータのオペレーターですか?


 こんなポット出の新参者を、その様な大役に抜擢して宜しいんですか?』


「先ほども言った様に、私は奇縁を大事にする方ですし、優秀な技術者も幾らでも欲しいので大歓迎ですよ。


 それに私の行き成り人事は、皆慣れて居ますので、今更騒ぐ者は居りませんよ!」


『分かりました、昨日の上司の言からすると問題は無いと思いますので、取敢えず仮採用と言う形でお願いします。


 無論先程からの情報に関して、既に秘守義務が発生して居ると理解して居ますので、命に代えても知り得た情報は漏らしません』


「ええ、歓迎致します佐田さん、しかし真面目ですね貴方は。


 早速ですが苫小牧に工場がありますので、札幌が落ち着いたら空路で苫小牧工場に移動して頂きたいのですが、宜しくお願いします。


 居住設備も安全面も苫小牧工場の方が良いですし、何より素粒子コンピュータ[おもいかね]3号がありますからね。


 責任者の麻宮君には連絡しておきますので、宜しくお願いします。


 ああ、奥さんと替わりますので」


 唐突に佐田氏を入社させたが、《神》に能力を付与された時にどう言う訳か感が鋭くなって居て、ピンと来た場合した行動は大抵良い結果になるので、幹部達や近くに居る者も俺の感にまかせた行動や、人事を結講信頼している。


 田中君などは、又かみたいな顔をしておれを見ているし、鬼山君や田所君などはニヤリと笑い親指を立てた。


 愛美ちゃんが俺に聞いて来た。


「お兄ちゃん、うちのお父さんお兄ちゃんのカイシャで働くの?」


「うん、働いてくれるってさ!


 だから愛美ちゃんとお母さんも、この寮に居てもまるで問題はないんだよ」


「え~と、ここはシャインリョウだから、しゃいんの家族がいてもだいじょうぶなんだ!」


「それにお兄ちゃん達と一緒に福島の、お爺ちゃんお婆ちゃんの家に行っても大丈夫だよ。


 お父さんが福島工場に転勤になって、会社の乗り物で先に家族が社長さんと、一緒に行くのと同じなんだからね?」


「ふ~んだいじょうぶなんだ、じゃあいっしょにいこうね」


 そんな事を俺と愛美ちゃんが話していると、電話が終わった光恵さんが話し掛けて来た。


「あの、甘莉様有難う御座います。


 命を助けて頂いたばかりでなく、主人の再就職先も決めて頂き本当に、どんなにお礼を述べても追いつかないくらいです。


 改めてお礼を言います」


 深々と一礼されてしまった。


「いいえ、私は優秀な社員を集めるのが、趣味みたいな所がありまして此方こそ、お礼を言いたいくらいです。


 それに私は結講人を見る目があると言われています。


 その私の感に、貴女の御主人は合格であると、しきりに囁く所が有ったのでまるで問題は無いですよ」


「そうですよ佐田さん、我社の代表の人物鑑定眼は定評があるんです。


 私が今まで見てきて100%の勝率で、失敗したのを見た事がありませんから」


 俺は田中君に母娘の相手を任せ、書斎に向かう旨田中君に言い席を立った。


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