少年達と光る魚
とある夏のある日。ある少年は幼馴染みの少女にいった。
「ねぇ、今日の夜、町の水族館へ行こうよ」
少年達の住む小さな町には水族館があった。それなりに人気だったが、いつのまにか廃館となってしまった。
そしてその廃館となった水族館にひとつの噂が流れている。
廃館となってしまったその水族館に夜な夜な薄暗く、不安定な電気が付く。というものだ。そのことを聞き付けた少年ははやる気持ちを抑えきれず、少女を誘ったのである。
少女はあまり乗り気では無かったが、彼女は魚が好きだった。そしてその水族館が好きだった。
少年の説得のかいがあって、少年達は夜の水族館へ行くこととなった。
ちょっとした肝試しに胸を高鳴らせて水族館へ赴く少年と、その後ろを恐る恐るついていく少女。
そこには本当に淡い光の照明がチカチカと瞬きをしていた。しかしそれ以外は何も見付からず帰ろうと思った矢先、一番奥の部屋に微かな光が見えた。
ドアを潜り抜けたその先で少年達が見た物は、ちかちかと瞬きを繰り返す不安定の照明と淡い光を纏って泳ぎ回る魚達であった。
トンネル型水槽から見える薄暗い水色の水を背景に、その光を纏った魚達は少年達の頭上でまるで、飛んでいるように泳いでいたという。
あまりにも幻想的な風景に二人は空けた口を閉じることが出来ず、ずっとその風景に目を奪われていた。
あまりに夢中で気が付くと、彼らはどこか知らない場所にいた。周りを良く見回してみると、彼らは水槽の中にいるようだった。
最初は驚いたが呼吸は出来るようだったので、彼らはこの水槽を探険することにしたのである。
この水槽は何故かとても広かった。どれだけ移動しても全体が見えてこない。どこをいっても魚がいた。様々な魚が泳いでいた。様々な色、様々な光。まるで全世界の魚達がここに集まっているような感覚。
夢中で泳ぎ回った。夢のような時間が過ぎ去る。でもいつしか体に疲労が溜まってきてしまう。
帰りたい。二人は帰り路を探し始めた。しかしいくら探しても見付かる様子がない。ずっとこの水槽に閉じ込められているのか。恐怖が迫り上がってくる。
そんな時だった。目の前に明らかに他の魚とは違う強い雰囲気を持った魚が現われたのだ。
その魚が流暢に人の言葉で問いかけてくる。
「ここを出たいか?」二人は力強く頷いた。
「鬼ごっこをしよう。無事逃げ切れたら外に出してあげる。でも負けたら君達も僕と同じ魚になっていつまでもここで自由に泳ぎ回ろう」
一方的な話だったがこの話に乗るしか外に出る方法はない。
水の中で、魚との鬼ごっこ。圧倒的不条理なゲームが始まった。
少年達は必死に逃げた。だが、最初からこの鬼ごっごの勝者は決まっている。
少年達の奮闘虚しく彼らは捕まってしまった。少年が少女を庇おうとしていると、ある異変に気付く。
その明らかに雰囲気の違った魚のお腹の部分から、異容な青白い光を放ち始めたのである。
その光は異様ではあったが、どこか優しげであった。
少年達はまるで何かに導かれるようにその光に手を伸ばした。すると今まで殆ど真っ暗だった周辺が突如として青白い物になった。
目の前に一人の中年の男がいた。
「恐かったかい?ごめんよ」そういって彼は話始める。彼が昔この水族館の館長だったがもう死んでしまったこと。あの雰囲気の違った魚が実は館長とすごく仲の良かった魚で、いつも館長の夢を聞かせていたこと。
「俺はいつしかこの水族館をもっと大きくして、本当に世界中のすべての魚を集めるんだ。そうしたら皆、本当にこの水族館を楽しんでくれるに違いない」
館長は死んでしまった。でも友だったこの魚は今でも尚、この夢を忘れず、叶えようとしている。あの水槽はその魚の強い思いの為せる架空の世界。
電気の力を吸収してこの世界を作り上げているのだという。その世界に二人の意識を吸い取られたのだという。
「もう、疲れただろう。そろそろお家にお帰り」
「おじさんは?」
「私はもう死んでしまったから。だからずっとこの魚と一緒に居るよ」そういってこの中年のおじさんが手を上げると二人の意識が闇に沈んだ。
「君達、大丈夫か」
起きてみるとあの部屋で寝ていた。
巡回中のおまわりさんがここ水族館から一瞬強い光がでている所を発見して不審に思い、館内を回っていたところ、二人を見つけたのだという。
どうしてここで倒れていたのかお巡りさんが聞いても、二人は首を横に振るだけだった。
仕方無いので、二人はおまわりさんにそれぞれの家に送り返された。
30年後。この町に新しい水族館が出来た。それはそれは大きい水族館で大きなトンネル型の水槽があった。特に人気なコーナーには薄暗い水色の水を背景に淡い様々な色の光を纏った魚がそれはそれは元気に泳いでおり、その光景は実に幻想的であると、世界中にその名が知れ渡っているという。




