表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だんちょーの経緯  作者: nanodoramu
零章 過去の夢 一節 暗中模索
91/121

三話 羨望 

 それは盛大に執り行われた。


 公爵領を上げての結婚式。

 

 あらゆる貴族や平民が祝辞を述べる。

 

 リリィ公爵が直轄街。

 レストリアの街の神殿でそれは行われた。

 神官が祝辞を述べる。

 白い衣装を着込んだ、ナタリアとエンバスが誓いの言葉を掲げ。

 

 二人は契を交わした。


 瞬間、盛大な拍手。

 優雅に手を振る二人を皆は祝福した。


 その後はリリィ公爵領あげての祭りになった。

 三日三晩、祭りが開催される予定である。


 リリィ公爵領は、何処へ行っても祝福ムードと相成った。

 

 一人を除いて。


「浮かれている……」


 クリスは式には参加しなかった。

 社交上、必須ではない上に、今のクリスには時間が無かったのである。

 翼竜騎士団へ入団するまで後三日。

 それまでに、戦い方を確立させなければならない。

 

 入団すれば、いつ死んでも可笑しくないだろう戦場に容赦なく叩き込まれるだろう。

 

 故にクリスは一人、公爵家の裏庭で剣を振るっていた。

 季節は真夏。

 暑い日差しの中。

 汗がしたたり、練習着が体に張り付いた。


 手汗が滲み、剣がすっぽぬけた所で一端、手を止めた。

 剣はくるくると回転し、庭木に突き刺さる。


「重いな……」


 クリスは己が手を見やり呟いた。


 使っていた剣は、両手剣(バスタードソード)


 今のクリスの身長程もある両刃の両手剣である。

 男の時は、それがちょうど良かった。


 むしろ片手でだって扱えた。

 だというのに、今のクリスには手に余る。


 当然だろう、男の時に比べて、握力も腕力も体重も劣っている。


 特にネックなのが体重だ。


 男の時は体格が良い部類だったというのに関わらず、今のクリスの体格は女性でも小柄なほう分類される。


 さらに、筋肉も少なく実質の体重は半分と言って良い。

 更に身体強化の魔法の有無も関係する。


 魔法を使えない今、両手剣(バスタードソード)はクリスの身に余った。


 どうやっても、大ぶりでたたらを踏むのである。

 いくら技術があろうがこればっかりはどうにも成らない。


 クリスの本来の戦闘スタイルは、剛か柔でいうなら間違いなく剛である。


 というのも、この頃の騎士同士の戦闘方法による所も大きい。

 クリスが想定すべき相手は基本が人だ。


 剣を持ち、鎧を着こみ、魔法を使う、そんな対人戦を想定した場合、最も早期に鍛えるべきは剣である。


 確かに魔法は強い。


 一部の熟練した戦士の魔法や、合同で放つ戦略級の魔法は壮絶な破壊をまき散らす。


 けれども、魔法にも欠点はある。

 結界を除いて、全ての魔法には詠唱が必要だ。

 魔法は、効果や規模が大きくなればなるほどその詠唱すべき呪文は長くなる。


 もちろん詠唱破棄もできるのだが、大技で行える人材は多くない上に、勿論威力も下がる。

 故にほとんどのものは詠唱を必要とする。

 だからこそ、剣を鍛えるのである。


 理由は簡単だ。

 唱える前に切る、殺す、詠唱を妨害する事ができるからだ。

 そして、仮に魔法を撃たれたとしても結界があるのがその理由に拍車を掛ける。


 少なくとも男なら誰でも使える魔法、結界。


 燃費が悪く多様できるものではないが、しかし、余程の規模の魔法でもない限りは、一瞬の魔法を防ぎきるなら十分なのである。


 そのため対人戦は結果として、殆どの場合は剣と剣のぶつかり合いになるのである。


 しかし、鎧を着こむ相手を、斬り伏せるのは用意ではない。

 革製ならともかく、それなりの戦士なら加護の刻まれた金属の鎧を着込むのは当然だ。


 その鎧の上から、叩き切るとなると両手剣(バスタードソード)、最低でも片手平剣(ブロードソード)が必要になってくるのだ。


 木に刺さった両手剣(バスタードソード)を見つめるクリス。

 今の体では無理なのか、諦めの念が頭を過る。


 軽い両手剣はないものかと考えて、軽ければ意味は無いと思い直す。

 重さの加護もあるが、あれは元の剣が重くなければ意味は大きくない。


 ふと、頭を過るのは、末姉の剣。


 楓という、刀と呼ばれる両手剣である。


 アレほどまでの切れ味があれば多少軽くても問題ないだろうと、羨んだ。

 けれどもあれは国宝だ。


 流石にあれクラスの装備はクリスの資金では手が出ない。


「はぁ……」


 ため息をつき、木から剣を引き抜いた。

 汗で張り付く服が気持ち悪い。


 汗を流すかと、井戸へと足を進めた。


 今頃、他の家族はエンバスとナタリアの結婚式に参加しているはずである。

 準備もあいまり、公爵家に残っているのは少ない侍従(メイド)とクリスくらいの者であった。


 故にクリスは回りなど気にせずに、練習着脱いで裸になった。


「おう……絞れる、訓練しすぎだ」


 服を絞れば、汗がにじみ出る。

 流石に汗臭いと思ったクリスは、井戸から水を汲み。

 たらいで服を軽く濯いで、干した。


「この天気ならすぐ乾くだろう……」


 自身も水を飲み、水をかぶり、たらいで体を洗う。


「くあああ、この暑さに冷たい井戸水は染みる」


 今度はたらいに水を貯めて、クリスはゆっくりとそれに浸かった。


「効くなぁ……極楽だ……」


 夏の日差しの中、クリスはゆっくりと行水して、疲れを癒やす。

 家のものがそこに居てはできるものも出来はしない。


 貴族は誇りや仕来りを重んじる。

 公爵家となるともなると、普段は裏庭で行水など出来はしないのだ。


 とはいえ、室内に風呂が設置されている。

 普段はそちらで済ませるのだが。


 誰も居ないというに、沸いているわけもなく。

 自分で沸かすのも面倒なこの天気。


 残った少ない侍従(メイド)にやらせるのも気が引ける。


 故に裏庭で行水するくらい構わないだろうという軽い気持ちであった。


「気持ち良さそうですね?」


 寛ぐクリスに声がかかる。


「そりゃあもう……」 


 反射的に返すが、驚いて振り返る。


 そこには、青いドレスのセシリアが羨ましそうな眼をしてクリスを見つめていた。


「ずるいですね、式をサボって一人だけ水浴びなんかして……」


「姉上? 兄上とナタリアの式は終わったのか?」


「いえ、この熱い中やってられないので父上に言って先に帰ってきました」


 王や王妃も参列する、式である。

 あっさりとそういう事を許す辺り、アーノルドも娘にも弱いのだろう。

 特に末娘である、セシリアは溺愛しているようであった。


「というか、姉上は王妃のお付きではなかったのか?」


「今は、第二侍女(イザベラ)が変わってくれています、主催者側なのでお祭りが終わるまで(ワタクシ)侍従(メイド)業お休みです」


 そう言うとセシリアは物珍しそうにクリスを見た。


「ずいぶん可愛らしくなりましたねぇ……お姉ちゃんと呼んでいいのですよ?」


「遠慮しておく……」


 そう言うとセシリアは上から下まで見定めるようにクリスを凝視した。


「本当に女の子なのですね。(ワタクシ)、妹が居なかったので憧れがあるのですけど……」


「どんな憧れですか?」


「一緒に訓練したりしたいですね」


 ――別に男でも構わないじゃないか、と言いたく成るのをクリスは堪えた。


「後、あの騎士が強かったなぁ、あちらの戦士は魔法が上手いとか、どうやったら倒せるのかなぁ……とかドキドキする話し……恋話っていうんですか? そういうのしたいなぁって」


 モジモジと顔を赤らめるセシリアであるが、それは恋話ではなく、敵情視察だ。

 倒し方を考えられているとか、当人達からしてみたら別の意味でドキドキである。


「……普通、着せ替えとかじゃないのか?」


「クリスは着せ替えされたいんですか?」


「いや、女の子の遊び、というのも詳しくはないので想像だが」


「確かに、姉様達は(ワタクシ)を着飾らせようとしますけど……」


「けど?」


「ドレスとか動きにくいだけじゃないですか?」


「いや、まぁ、その意見には賛成だが、仮にも貴族の子女が言って良い言葉ではないような気が」


「そうですかね?」


「ええ、まぁ、多分」


 ある意味自信満々なセリシアの態度にクリスは逆に自信がなくなった。

 こういう姉なのだ。

 女のくせにというと差別的だが、その辺の男より余程合理的とも言える思考を持っている。


 形式や仕来りなど重んじる、無駄の多い貴族社会ではある意味異端である。


「クリスは騎士団に入るんですよね? いいですね、羨ましい」


 唐突なその言葉、にクリスは若干戸惑いを覚えた。


「羨ましいですか……?」


「はい、女性では、入れませんから」


 そう言って少しさびしそうにした。

 荒事の多い仕事である、騎士団に入りたがる女性などセシリアくらいしか聞いたことがない。

 戦闘狂だとクリスは思う。


「姉上なら、騎士団くらい入れそうだけどな……、そういえば、侍女の就任式で地竜騎士団の団長の腕を切り飛ばしたとか……?」


「ああ。ありましたね、そんな事」


「魔法も使えないのに、よくそういう事ができるな……」

 

 それはある意味賞賛だった。

 今のクリスではまともに剣を打ち合う事もできないだろう。

 だというのに、セシリアは仮にも騎士団長の腕を切り飛ばしたのである。


「楓はよく切れますし……それに」


「それに?」


「相手が何かする前に切れば良いんですよ?」


 当然のごとく言い放った。


「……なるほど」


 クリスはその言葉だけでどんな戦闘だったのか、理解できてしまった。

 ある意味セシリアの言っている事は真理である。

 

 何も難しい事はない、先手必勝である。


 とはいえ、セシリアの戦法は早々に真似できるものではない。


 魔法に頼らないたゆまぬ訓練。

 圧倒的な切れ味の武器。

 その戦闘における狂気とも呼べる執念が生み出した産物である。


 男の時では、気づけなかったが、女の体になってはじめて気づく。

 セシリアの異常性。


 地竜騎士団長に自分なら、今の自分なら何処まで刃向かえるか……。


 きっと、剣を打ち付けたところで負けてしまうだろう姿が、クリスには安々と想像できた。

 

「まぁ最後は魔法で縛られて負けましたけどね」


 そう言ってセシリアは微笑んだ。


「そろそろ着替えたほうがいいですよ、皆帰ってきます」


 セシリアは踵を返すと、主屋へと向かっていく。


 クリスは言われた通りに服を着こむ。


 既に服はからっからに乾いていた。


 そういえば、なぜセシリアは態々裏庭に来たのだろうとクリスは考えた。

 そして思い至る一つの可能性。


「慰めに来たのか……?」


 確かにクリスは色んな意味で落ち込んでいた。

 けれども、セシリアが慰めに来るなど誰が想像できようか。


「まさかな……?」


 クリスの呟きは、夏の暑さに紛れて消えた。




 

 


 

R15(*´ω`*)?

セシリア初めての姉属性((^o^)?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ