三話 行路 創世の欠片
騎影が森を駆け抜ける。
その数や、二十五。
遠くに見えたと思った瞬間、それは目の前に存在した。
常人には視認するのが難しい程のその速度。
けれども、森の木々にあたりもせずに駆け抜ける。
獣道すらない場所を、悠然と突き進む。
なればそれは馬ではない。
幻獣と呼ばれる生き物だ。
かの神話の時代。
世界には、動物と人族と魔族しかいなかった。
けれども、魔族が人族を蹂躙し、それを救うために神より使わされた十二使徒。
その騎獣、十二獣。
光竜ミナクシェル以外は、神話の中で命を落とす。
けれど、その亡骸や血液から産まれたものがあった。
それが十二獣の力を受け継いだ獣達。
それが幻獣である……。
先頭を走る騎影は2つ。
黒い影、木々の間を飛び跳ねるように駆け抜ける。
一見すれば単なる黒い虎。
けれど、その動きは虎の遥か上を行く。
柔軟な筋肉、体をしならせ、バネのように走り抜ける。
黒虎である。
騎士の背中に乗せてなお、森を我が庭とばかりに駆け抜ける。
それに続くのは二頭の一角獣。
黒虎とは真逆のその色は、森のなかであってもよく映える。
白い体に銀の鬣。
そして、貫けぬものなどないと言わしめる、その一角。
薄く見える緑の膜は魔法によるもの。
おのが背中に載せた乙女を守るためにに発せられるそれは、風による至高の守り。
いと気高き、純血を司る幻獣である。
黒虎の後を優雅に続いていく。
その後に続くのは、二頭の白獅子。
白き鬣の獅子は、王者の風格を纏わせ走り抜ける。
自身に、敵など居ない、そう思わせるだけの迫力がある。
威風堂々と駆け抜ける、その姿は、見るもの全てを敬服させるだろう。
そして、その後ろ。
続くは鷲獅子達。
獅子の体に、鷲の翼と頭を併せ持つ。
陸では獅子の如き動きを見せ、空では鷲の如く狡猾だ。
陸空合わせもつその動き。
一度狙われたのなら、彼らを容易に退ける事はできないだろう。
そして殿を務めるは。
蒼馬。
蒼いと黒の縞模様の体に、金の長い鬣。
見るもの全てを畏怖させる、その姿。
その黒きに瞳に見つめられたものは己が死を知る事になるだろう。
地面を一蹴りすれば、ふわりと空を跳ぶその姿。
風に鬣が靡けば、その姿は雲の上を走るがごとく。
ただ優雅に、空を駆ける。
「あと三キロほどで森を抜ける。森を抜けたら、航空騎兵は斥候を、何かあればすぐに連絡するように」
一角獣から聞こえるクリスの言葉。
一角獣による風の魔法。
それによって、救出隊すべてに声が届く。
全員から了解の意が帰ってくる。
このまままいけばものの五分とせずに森を抜けるだろう。
何事もなければいいが、と気を配る。
千里眼を発動させる。
今のところは何もない。
救出隊の動きに支障はない。
倒れていた、地象騎士団のデスターも気づけば、鷲獅子に騎乗し、危なけ無く追走している。
まずは及第点かとほくそ笑む。
そしてクリスは考える。
陛下を襲ったもの、襲われた理由。
陛下が向かおうとしたのは何処だ?
何をしに?
成れば出てくる答え。
イスターチアか、もしくはすでに同盟国のノーザスが裏切っているかである。
エフレディアを相手取れる国など、そうは居ない。
エフレディア近辺では同規模としてはノーザス、その上の規模となると海隣のイスターチアしか存在しない。
エフレディアの、陛下の行動を予測して罠を張ったのならば、まだいい。
けれど、仮に陛下の行動がほかの国に筒抜けであれば、内部に裏切り者がいるだろう。
今回の陛下のノーザス訪問は、あくまでも非公式であった。
同盟の強化を水面下で行っていたのである。
その内容をしるとなれば、それこそ王妃、大臣くらいのはずである。
陛下が襲撃されたのは、国境にある、霰の渓谷と呼ばれる場所である。
切り立った山々に囲まれ、霰の渓谷しか、陸路では北にぬけることはできない。
常に霰が降り注いでおり、気温は低く、視界も悪く、足場も悪い。
生物すら住んでいないと言われる所だ。
地元の者ですら、近寄らない。
その渓谷がノーザスとの間にあるために、エフレディアとノーザスは行き来が困難で、普段は船で海を大きく周り行き来する。
けれど、今回の同盟の強化はイスターチアの不穏な動きをいち早くさっちして陛下が、ノーザスとの同盟を確固たるものにしようとしたのだ。
迅速な行動が必要だった。
すでに国は戦争に向けて動いている。
そのための布石の一部であった。
そして、護衛には火竜騎士団という、エフレディアでいえば二番という戦力を保持する騎士団だ。
船を使えば、二週間は掛かる道のり。
馬で陸路ならば使えば一週間。
幻獣で陸路ならば、三日。
三日である。
さらに火竜騎士団の護衛だ。
おそらくは籠に乗せての移動であろう。
それこそ今回の奇襲は、予め情報を得て待ちぶせでもしないと、成し得ない事である。
クリスが王妃から聞いた話だけでは、これを予想するだけで精一杯だ。
ともあれ、裏切り者がいようと、王都には翼竜騎士団が残っている。
王妃様の問題はないはずだ。
しかし、こちらの情報がもれている場合。
この救出部隊も妨害が入る可能性がある。
森はまだいい、ここのエフレディア領内で、大規模な部隊を伏せておくことなどできはしない。
次に心配なのは、森を抜けたあとの平原だが、平原などの見晴らしのいいところで妨害なども戦略的にはありえない、それこそ大群でも用意しなければ。
となると、その先にある霰の渓谷、仮に妨害が入るとしたら、そこの入り口だろうとクリスは予想する。
「平原に出ます!」
その時クリスに風の魔法によって流れてきた、先頭の猛虎騎士団の声が聞こえた。
「斥候をだせ! ガレッド頼むぞ!」
「了解しやしたっ」
クリスの声に、ガレッド率いる五騎の鷲獅子にまたがった騎士達が先頭へと躍り出た。
***
ふと、めさが覚めた。
感じるのは顔の痛み。
鼻が痛い。
触ってみれば、曲がっている。
歯が痛い。
触ってみれば、欠けている。
なぜだ、と朧気な頭で考える。
そして、思い出すのは見下したかのような女の顔。
瞬間、頭に血が上るのを感じる。
苛立ち、起き上がろうとして、手を地面につける。
けれども、手をつく地面がない。
僅かにバランスを崩す。
バンラス?
目先に見えるは木々の葉の連なり。
腹に違和感。
触れば、何かに縛り付けられている。
背中の感触を、確かめる。
触れる羽毛。
「……なんで、縛られてんだ」
おそらくは、何かしらの幻獣の背中であると予測する。
ふところに手をいれ、短刀を取り出し、縄を切る。
ずり落ちそうになるも、直ぐ様態勢を立て直し、それに跨った。
「鷲獅子か……」
すでににつけられている手綱を手に取り、辺りを見回す。
どうやら、すでに救出隊は出発したようで、己が鷲獅子に縛り付けられ荷物のように運ばれたという事か。
驚きを通り越して、呆れてくる。
そこまでして、自身を連れてくる必要があったのだろうか?
自分でしておいてなんだが、あの態度は一時的にとはいえ上官になるものにすべきものではない。
王妃のお遊び騎士団の癖にとか、女の癖にとか、考えでるのは否定ばかり。
けれども、思い出すのは見えない拳。
腹を打たれたと気づいたときには、すでに膝を地につけていた。
直ぐ様、起き上がろうと思ったがそれよりもはやく、髪を掴まれた。
そして耳元でつぶやかれた言葉の、恐ろしさ。
「お前のような馬鹿がいるとやりやすい」
そして、気づく言葉の意味。
見せしめに使われた。
ただただ、屈辱である。
確かに女が、と完全に舐めていた。
女だろう? 戦えるわけがない、魔法を使えないのだ。
戦場で何ができる? 何も出来るはずがない、魔法を使えないのだ。
何も出来ないはずだった。
けれども、奴はたった一撃で自身に膝をつかせ、僅か二発めで意識を刈り取った。
デスターは騎士である。
横暴を語るが、それは騎士の威厳を保つため。
己が騎士団の強さをしらしめるため。
騎士は戦場でこそ生きる。
けれど、そんな戦場に戦えぬ女などがいて何になる?
足手まとい、ただその一点。
戦場で恐ろしいものは、強い敵ではない。
無能で弱い味方である。
なれば、それを排除しようとするのは当然の事だった。
そんな思いでとった行動だった。
けれども結果は、真逆。
一瞬で強さを見せつけられた。
つまり、完全に使われた。
そう思うと、舌打ちの一つもつきたくなる。
自身より遥かに強い女。
魔法も使わず、使えず、身体能力だけで己が意識を刈り取った。
否、自身が意識を刈り取る事など、力づくだけでやれることではない。
顔にふれ、ダメージを確かめる。
歯や鼻が折れている。
けれども、これならば回復魔法で即座に癒せる程度だ。
しかし、逆に言えばそれだけで他にダメージは存在しない。
おそらくは、二撃めの狙いは顎。
脳を揺らして意識を断ったのだろう。
なれば、持ち得るのは戦闘知識と実践でそれを使える経験か。
なるほど、喧嘩を売った相手が悪かったとデスターは理解する。
真に王妃様の直属なれば、普段は皇族の護衛として火竜騎士団が詰めている。
それを差し置いて、さらに最強と名高い翼竜騎士団を差し置いて指揮権を委ねられる事はある。
「ふん……」
前方に見える銀の髪。
顔は見えない。
「しかし、赤竜は人がいねえから兎も角、他の三竜が何もいわねぇのは気になる」
王妃から、すでに事を聞いており、出来レースか。
事実はわからないが、しかし、三竜が異を唱えない、という事は団長から圧力がかかっている可能性がある。
なれば、団長達に圧力を掛けられる人物とは何だ?
王妃が圧力をかけた可能性もあるが、それにしては、あの場で奴のとった行動にたいしては王妃も眼を見開き、驚いていた。
あの跳ねっ返り王妃にそこまでの演技ができるわけがない。
「斥候をだせ! ガレッド頼むぞ!」
聞こえる奴の声。
それに従う面々。
承服しがたいが、すでに、事態は動いている。
デスターとてエフレディアの騎士だ。
なれば、この事態、失態を犯そうとも、それ以上の栄誉を手に入れなければならない。
ため息をつく。
自身も騎士として動くしかないか、とデスターこれ以上の考えを放棄した。
***
王宮の政務室。
フランシスは陛下にかわり指示を飛ばす。
「そう、東は翼竜の主力を、西は国境街の騎士団に警戒水準をあげるように、伝達。南は水竜騎士団がいるでしょう? 一応こちらも警戒水準をあげるように、北は通常どおり、巡回以外の翼竜は出さないで」
「御意っ」と短い返事。
伝達係の若い火竜騎士は直ぐ様、軍部へと駆けていく。
フランシスは侍従達に向き直り、言葉を発する。
「枢機卿は……下手に刺激しなくていい、通常通りを貫きなさい。気取られてはダメよ?」
畏まりました、と恭しく返事をするのフランシス突きの侍従達。
「お忙しいのですね……フランシス様は……」
その様子を静かに見守るのはテレサ・ケルメル王妃。
第二王妃である。
「そう思うなら、手伝ってくれてもよいのよ?」
「ご冗談を……私に軍務などわかりはしません、私は外交、貴方が軍務、そう取り決めたはずでしょう?」
妖艶に微笑う、テレサ、けれどもその顔は半ば扇で隠れており、完全には伺いきれない。
「エフレディアの名を頂けるのであれば考えなくもございませんが?」
僅かテレサの眼に欲望の火が灯る。
けれども、フランシスは一瞥すると、鼻で微笑う。
「ふん……、私一人で十分よ、それよりも第三以下の王妃達の動向には気をつけなさいよ」
そう言うと、フランシスは書類に眼を通す。
「貴方に言われるまでもありません……私とて陛下でなければ、エフレディアの名になど興味はありません、売女が如く神殿に尻をふる小娘達くらい、抑えて見せましょう」
そう言うと、テレサはその笑みを深めた。
「なら、いいわ……」
フランシスは短く返答する。
テレサとフランシスは別に中が良いというわけではない。
嫌いあっている、というわけでもない。
同じ夫も持つものとして、通じる所がある、というくらいか。
テレサはもともと、ギリアスの許嫁であった。
ケレメル家は、王家である。
エフレディアに併合された、今はなき小さな王家。
その最後の姫がテレサである。
幼き頃から王家に陛下に嫁ぐために教育された。
陛下はテレサよりも若い。
許嫁が決まった時も何を馬鹿なと驚いた。
自分より若い陛下、けれどもテレサは努力した。
その結果が報われたのである。
普通は子を成すために、陛下よりも若い王妃を娶るのが普通である。
それなのに、テレサは王妃として選ばれた。
それはとても名誉な事だった。
けれども。
その名誉は無残にも破られた。
公爵家であるとはいえ、ぽっとでのフランシスに第一王妃の座を奪われたのだ。
思う所がないわけではない。
けれども、自身の愛する男が選んだ女なら。
そう思い、身を引いた。
だが、その座を望んでいないわけではない。
機会があれば、フランシスを蹴落とすくらいはするであろう。
しかし、あくまでそれはギリアスが陛下であればである。
ギリアスが陛下でなければ、テレサは第一王妃の座になど興味はない。
まして、現在は陛下を脅かすものが、近くにいる。
なれば、別段フランシスと手を結ぶのに躊躇はしない。
鬱陶しい、権力だけに近寄る蝿のような小娘共を蹴散らす事くらい、造作もない。
ギリアスの叔父であり、枢機卿である、ライラールが王権を狙うのならば、それを撃退することこそ自身の仕事である。
敵なれば容赦はしまい。
それに尻をふる売女共など、物の数にもなりはしない。
陛下がいないと知れば、何処の子ともしれない子を孕んだと言い出し、王権を狙いに動くだろう。
そうなれば、事である。
そして仮に陛下がお亡くなりになれば、その子を陛下とし、摂政としてライラールがつくもの可笑しくはない。
何しろ陛下の叔父で、枢機卿だ、血筋も問題ない。
血筋の事を理由に、現在の摂政を蹴落としそれくらいはやるだろう。
そうなれば、エフレディアはライラールの言いなりだ。
第一王妃と第二王妃こそ、王族の血脈ではあるが、どちらにも子はいない。
フランシスはともかく、テレサは今年で三十を超える。
子供はもう絶望的だと思っていい。
第三から第七までの王妃はライラールに寄越された、小娘たちだ。
子供……、跡継ぎを残すという点ではテレサではそれに及ばない。
それほどまでに、王家は十字教と関わりが深いのだ。
小娘達ほどではないといえ、フランシスもまだ若い。
テレサとしては、フランシスに早く身籠って欲しいのだが。
女の癖に軍務ばかり熟しているとは、どういうことか。
普通の女性は軍務に明るくない。
原因は解っている、おそらく幼なじみで親友という侍女であろう。
騎士だの剣だの振り回しているのが親友ならば多少は覚えてしまうというものだ。
そして、おそらく、それに関して何かしらの特殊な経験があるのだろう、でなければこうも軍部を動かす女性など居やしない。
テレサとしては軍務よりも、夜の……閨の仕事を熟して欲しいと切に願う。
淡々と書類をこなすフランシスに視線を向けるテレサ。
けれど、フランシスはテレサの視線など気にもしない。
わざとらしく溜息をつく。
とっとと、子供ができてしまえば、自身も諦めがつくというのに。
まったくこの女は、小憎たらしい。
「何よ?」
ため息に気づいたのか、フランシスは眉根をあげてテレサを睨んだ。
「別に……、なんでもありませんわ」
「そう、なら部屋に戻ることね、……あと普段より護衛を一人増やしておきなさい」
これである、他人の心配などしている状態ではないだろうに。
狙われるのはテレサよりも、自分のほうが優先度が高いだろうにこの発言だ、おかげで憎もうとも憎みきれない。
懐刀であるセシリアさえも、救出隊に加えたのは些か早計ではないのかとさえ思う。
もっとも、それほどまでにギリアスに対する愛が深いという証でもあるのだろう。
テレサとて、手を拱いてみているのは癪であるが、自身にできる事は知っている。
「では、御機嫌よう。貴方も精々寝首をかかれないように」
「御機嫌よう。肝に命じておくは……」
テレサの警告をどうとったのか、フランシスは自嘲的な笑みを浮かべた……。
***
パチパチと焚き火の音が響き渡る。
焚き火を囲むは紅い騎士服の男と一人白い装束を身にまとったギリアスである。
「敵の様子はどうだ?」
「今のところ、気付かれた様子はありません。団長の結界は一流ですからね」
誇らしげに語る若い騎士。
名前をロンドベルという、騎士団でも副団長につぐ実力者である。
「そうか、ファーフニルの二つ名は結界だったな……しかし、火竜を軒並み失ったのは痛かったな……」
そう言うと、途端に顔を伏せるロンドベル。
己が相棒を失い悲しいのだろう。
ギリアスは迂闊な事を言ったかと、僅かに後悔する。
「そう……ですね、不死族に殺されるくらいなら、いっそこの手でと思いました」
「……そうか」
僅かな違和感。
「ええ、あの悲鳴、何も解らず死んでいく、火竜達。馬鹿野郎め、悲鳴ってのは恐怖があってこそだろうに、せっかく不死族の癖して不意打ちとかなんなんだよ、不死族ならもっと数でせめて、じわじわと嬲るように殺しに掛かるのが常道だろうが、もっと恐怖を演出しろよ、これだから素人は……」
ギリアスにはわからない事を呟き始めるロンドベル。
「そうか……」
「そうなんすよ、そのくせ不死族自体は感情がないから、倒しても全然面白くないですし、やる気でないっすよね?」
何を言ってるんだろうこいつ、と別の意味で後悔するギリアス。
「そうか……」
「やっぱり、殺すなら人間がいいっすよね、怖がるし、逃げ惑うやつとか最高ですね。で、やっぱり女ですよね、俺無事に返ったら絶対そういう娼館に行きます、陛下もどうすっか?」
「……そうだな、考えておこう」
仮にも自国の王を娼館へ誘うこの騎士は何なのだろう。
おまけにものすごい、加虐趣味だ。
というか、そういう娼館あるのか?
娼館と聞いて思い出す、そういや、あの時娼館にセシリアが突然現れてびっくりしたなぁと。
あれフランシスにバレてないよな?
なんだかんだで独占欲の強いフランシスだ。
第二王妃や第三王妃は許してくれても、娼館に行ったのは許してくれまい。
帰ったら探りをいれてみよう、と心に決める。
「……けど、俺ならこの場合、もっと絶望させてから……」
今だに何かを呟いているロンドベル。
ギリアスは結界を張ったのちに、見回りにでた、二人の騎士を思い出す。
団長はなかなかに堅物だが、熱い男である。
あの若い騎士も軟派な雰囲気があったが、話をするにはロンドベルよりましであろう。
早く帰って来ないかな……、こいつに護衛されんのなんか嫌だな……。
横には怪我をして動けない騎士が二名魘されるように、眠っている。
否、眠らされたのだ、ロンドベルの手刀によって。
はじめは仲間のために、と思ったが。
話を聞いている限りだと、拷問の仕方も熟知している。
拷問の仕方を熟知してるということは、人の体の作りを熟知しているという事である。
なぜなら、殺さないように情報を引き出す必要があるからだ。
手刀も騎士としておさめた技術かと思いきや、趣味の技術である。
「やっぱり若い女っすよねぇ……、まぁ男でも子供なら……」
性癖を暴露するな、聞きたくもない。
同意を求めるな、なんて答えればいい、俺はノーマルだ!
というか、こいつほんとに騎士か。
なぜ赤竜騎士団に居るし、つうか赤竜騎士団ならおそらく貴族だろう。
家名は知らないが、もし知る機会があれば覚えておこうと心に決める。
もちろん要注意という意味でだが。
「その時の内蔵のはじけ方がですねー」
しらねーよ! 楽しそうに話すんじゃねーよ!
他の騎士、早く帰ってきてええええ。
ギリアスは何かがガリガリと削られるのを感じた。
後書き前書きって何書くか悩む。




