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だんちょーの経緯  作者: nanodoramu
五章 戦争 国の行く末
73/121

二話 乗り越えるために

幻獣は創作を含みます(´・ω・`)

 王都ミナクシェル郊外の森の中。

 そこはちょっとした、動物園のような雰囲気になっていた。


 竜だけでも翼竜(ワイバーン)を筆頭に、岩竜(ロックドラゴン)風竜(ウィンドドラゴン)火竜(レッドドラゴン)蛇竜(ドレイク)地竜(ストライダー)


 白獅子(シャイリーライオット)黒虎(シュバルスティガー)地象(アースディポン)朱蛇(アップルヴァイプ)蒼馬(スカイシーバー)まで居る。


 これほどの幻獣、なかなかにお目にかかる機会などない。

 それこそ戦争にでも成らなければ。


 それも二匹ずつだ、最も火竜(レッドドラゴン)は一匹だが。


 そんな感想を抱きながらも、クリスは自身が連れてきた一角獣(ユニコーン)へと跨った。


 集まった精鋭は、クリス、セシリア、ガレッドを含めて二十三名。

 それぞれが己が相棒と掲げる幻獣を従え、廃墟の前で最終確認をしている。

 すでに王妃は、団長達の手によって王宮へと送られている。


「よくぞこれだけ、中々に壮観だな、よい騎獣が揃っている」


 幻獣をみて感心したようにクリスは呟く。


 その言葉が聞こえたのか満足気に頷く騎士たち。

 中にはニヤつく者まで出る始末。

 ある意味当然だろう。

 態度こそ大きいが、クリスの見た目は、美しい乙女である。


 一角獣(ユニコーン)に跨っている時点でそれに拍車をかける。

 ここにいる騎士達は精鋭といえど、未だ若い。


 それが美しい乙女に、相棒である騎獣を褒められれば、それこそ自身が褒められたのかのように、喜びもする。


 次の言葉を聞くまではだが。


「だがダメだ、(ドラゴン)地象(アースディポン)は隠密には向かない。置いていけ阿呆共、それと朱蛇(アップルヴァイプ)もだ」


 一部の騎士。

 特に騎獣を置いていけと言われた騎士達は一気に冷水を掛けられた気分になる。


 一人だけ、「なぜ」という声があがる。


 その声の主は、最後に付け加えられた、朱蛇(アップルヴァイプ)を騎獣とする騎士。


「朱蛇のバズだったか? ……朱蛇(アップルヴァイプ)は寒い地方でその力を万全に発揮できるのか?」


 そう言われれば、朱蛇の騎士(バズ)は黙るしかない。

 クリス達が向かうのは北。


 雪国ノーザスとの国境である。

 常に雪に囲まれているノーザスは当然寒い。


 そして朱蛇(アップルヴァイプ)は寒さに強くない。

 ある程度気温が下がると、動きが鈍くなり、馬よりもその性能をさげる事になる。


 そんな状態では降りて戦った方がマシというものだ。


 むしろ自身の騎獣の生態すら把握していない無知を晒したようなもの。


 その顔は羞恥に歪む。


 これが精鋭とは笑わせる。


 これが末端騎士団の現状か……とクリスの顔が僅かに歪む。


 (ドラゴン)地象(アースディポン)は、言うまでもなくその巨体が大きすぎるのだ。


 今回の任務は、救出であって戦闘ではない。

 火竜騎士団を半壊に陥らせたのは不死族(アンデット)だという。

 陛下へ同行していた火竜騎士団の人数は百と三十。


 騎竜は五十だという、火竜騎士団における最高戦力を投入されている。

 それが瞬く間に半壊したというのだ。

 生半可な戦力で相手にできる数ではない。

 這々の体で逃げ出した、他の騎士たちも殆どが重症の者が多い。


 仮にこの二十五名を精鋭としても、どれだけの時間それに持ちこたえる事ができるのだろうか。


 なれば、今回の任務は索敵を主軸とした、情報戦。

 戦いは必要最低限に抑え、迅速にギリアスを救出しなければならない。

 例え犠牲を払おうとも、その犠牲が未来の団長達であろうとも。


「やれやれ、クリスも酷い事を言う、騎獣を置いていけなんて、騎士に言う事ではないよ?」


 すると、一人の金髪の男が進み出る。

 眼は切れ長で、たとえるならば優男という風体だ。


 名前をエンバス・リリィという。


 クリスの兄である。


「兄上……居たのか?」


 反射的に呟くクリス。

 恐らくは驚いたのだろう。

 眼を丸くし、ありえないものを見た様な顔をしている。


「……酷いな、君って奴は」


 エンバスは途端に表情を暗くする。


「生憎と兄上が強かった記憶が……」


 思わず、同意を求めてクリスはセシリアを見た。

 セシリアも意外そうな顔をして、クリスに向かって頷いた。


(ワタクシ)もないですね、雑兵に毛が生えた程度だと思いました」

 

 ここにいるの精鋭ばかり、というハズである。

 セシリアもクリスにエンバスが地竜騎士団にいる、という事は知っていた。


 けれども、まさかここに居るとは思っても見なかった。


「セシリア……兄にたいする口の聞き方が成っていないね……」


 エンバスはセシリアを睨む。

 するとセシリアはヒューヒューと下手な口笛を吹きながら顔を逸らした。

 それを見たエンバスは、苦笑しつつ、説明する。


「うちの騎士団は貿易、他国との外交まがいの事もするからね、強いに越したことはないけど、強さだけで選ばれるわけではないのさ……」


「チッ」


 宛が外れたとばかりに舌打ちするクリス。


 精鋭じゃねーじゃねえか、交代しろよ、という顔である。

 そんな思いを知ってか、エンバスはもう一人を紹介する。


「大丈夫さ……、もう一人は本当に強いからね、カインと言うんだ、セシリアはもう顔見知りかな?」


 進み出るのは、地竜のもう一人。


「カイン・グラニクスだ。よろしく頼む」


 中肉中背、黒い髪。

 その背に矛を背負っている。

 カインをみた瞬間セシリアは顔に敵意をむき出しにする。


「あの時の変態……!」


 思い出されるのは、孤児院にてセシリアに服を脱げと迫った記憶。

 表面上和解はしているものの、その後お茶うけをかけて一戦やらかした間柄である。


「変態……?」


 クリスが疑問に思ったのか問い返す。


(ワタクシ)に服を脱げと迫った変態です!」


 その言葉に、一気に辺りの温度が下がる。

 セシリアは刀に手をかけ、クリスも胡散臭いものをみるような眼でカインを見つめている。


 他の騎士も騎士にあるまじき不埒者という視線でカインを見つめている。


 周りの視線にさらされて、セシリアの言葉で思い出したのか、カインは慌てて弁解する。


「待ってくれ、あの時は勘違いというか……」


 しどろもどろになって弁解する。


「素行に問題はあるが、腕は確かだ保証する」


「エンバスっ、お前っ!」


 エンバスも半笑いでもって弁解にならない弁解をする。

 互いに、親しい間柄なのだろう、傍からみればそれはじゃれあっているようにも見える。

 話が進まないと思ったのか、クリスが声をかけた。


「今はそんなどうでもいい事は後でいい、兄上騎獣がなんだって?」


「どうでもよく無いです!」


「どうでもよくない!」


 奇しくも、同じ言葉を吐く、カインとセシリア。

 面倒くさそうに、それを見やるクリス。

 エンバスも、苦笑いしている。


 とすると、そこへ下卑だ声が聞こえる。


「地竜はもう、おべっかかよ? 見てみろあいつ男娼みたいな顔してるぜ?」


 高圧的な態度を取っているのは、地象騎士団の騎士。

 騎獣を連れていけないという事実に、苛立っているのか、怒りを隠そうともしない。


「誰が……男娼……だと……?」


 静かに、声を荒げるのはエンバス。

 穏やかだったその顔は怒りに歪む。

 目尻は釣り上がり、敵意を露わに、地象騎士団へと殺さんばかりの視線を向ける。


「お前以外に誰がいるんだよ、優男。その顔でもってその女共をたらし込む算段だったんだろ?」


 嘲るように笑う、黄色い騎士服の上に鉄属鎧をつけている、地象騎士団の騎士、もじゃもじゃの髪の毛。


 身の丈二メートルは超すかという大男である。


 背に背負う装備は大きな戦斧(バトルアクス)

 片割れのほうが、やめておけと制すものの、気にもせず言い続ける。


「公爵家だか、なんだかしらねーが、戦場は遊び場じゃないんだ、女や腕に覚えの無いやつは帰んな、指揮なら俺がとってやる」


 その言葉に反応したのは、エンバスだけではなかった。

 セシリアも目尻を上げて、呟いた。


「敵でいいすか……?」


 気づけば、すでに一角獣(ユニコーン)から下馬し、刀のふちに手をかけているセシリア。


「敵だぁ? やんのか嬢ちゃん?」


 それでも、その男は挑発をやめる事をしない。

 のっそりと歩いて近寄ってくる。


「セシリア、僕にも手伝わせてほしいな……」


 気づけば、横に並ぶのはエンバス。


 すでにその手は、腰にさげてある刺突剣(エストック)にかかっている。

 リリィ家の気の短さは、優男であるエンバスにも受け継がれているようだ。

 カインや周りが、急いで止めようと声をかける。


「何やろうとしてやがる! 一応俺たちは仲間だぞ!」


「お前ら何をしている! 今は陛下の御身を第一に考えるべきだろう!」


 皆が三人を止めようとするなか、クリスは無言で、大男へと歩いて行く。


「デスターと言ったか?」


 クリスは名前を思い出しながら確認する。


「おう、なんだ? あんたが今回の指揮なんだろ? 俺に指揮を譲る気になったか?」


 あくまでデスターは、挑発的に傲慢な態度をとる。


「指揮を譲る気はないが、中々いい事をしてくれた」


 対するクリスも挑発的に笑い返す。

 けれど、いい事と聞いてデスターの顔は不快気に歪む。


「あんだぁ? 頭おかしんじゃねえのか?この(アマ)


 次の瞬間クリスの笑みが深くなる。


 聞こえる、ダンッという衝撃音。


 直後デスターの体は前のめりに崩れ落ちる。


 腹を抱え、何があったのかわからない、そんな顔をしている。

 クリスはそんな、デスターの髪を掴み、頭をあげさせる。


 デスターの耳元に口を近づけ笑うクリス。


「生贄、ご苦労。お前みたいな馬鹿のおかげでやりやすい」


 そう囁く。

 すると、デスターの眼は信じられない者を見たかのように見開かれる。


「てめえ……」


 デスターは絞りだすような、苦悶の声をだす。

 そんなデスターをクリスは笑いながら顔に膝を叩き込んだ。


 メキリという音が響き渡る。


「へぶっ」


 情けない声をあげ、デスターは顔から血をまき散らしながら、地に伏せた。


 静かに、それでいて辺りに響き渡る声でクリスは告げる。


「次にふざけたものは殺す……今回の任務は陛下の救出にある。王妃様は仰られた、何を犠牲にしてでも助け出せと、意味はわかるな?」


 誰も、何も言葉を発しなかった。

 当然であろう、身の丈二メートルはこそうという大男が、少女の一撃で膝をつき、二撃めで地に伏せた。


 二撃目は辛うじて見えた、けれど一撃目を見えたものは果たして何人いたものか。

 精鋭、だからこそ驚愕するクリスの実力。


 そして王妃の伝文。


 なれば、クリスはここにいる者達の生殺与奪権を握っているに等しい。

 殆どの者が、静かに成り行きを見守っている。


 例外といえばセシリアくらいで、なぜか不満気な顔をしている。


 クリスは辺りを見回し、満足したのか、鷹揚に頷いた。


「騎獣が使えなくなったものは鷲獅子(グリフォン)を用意してる」


 そう言うと、廃墟の横を指さすクリス。

 そこには、鷲獅子(グリフォン)が二十ほど繋がれていた。


 クリスがウェスタリアから持ち帰ったものである。


 普通の馬では、幻獣の行軍についていくのは不可能である。


 そのため、一刻与えられた時間の中でクリスは、伝令を己が騎士団へと送っていた。


 そして、急遽鷲獅子(グリフォン)を連れてこさせたのだ。


「いくらか仕込んでんはあるが、気性は荒い、乗りこなせなければ置いていく。早く選べ。早い者勝ちだ」


 その言葉を皮切りに、騎獣を置いていくものは、雪崩をうつように鷲獅子(グリフォン)へと駆け寄った。


 とはいえ、精鋭というのは嘘ではないらしい。

 ものの数分もせずに、鷲獅子(グリフォン)達を従える騎士たち。

 見れば、エンバスでさえ乗りこなしている。


「あの……」


 そこで地象騎士団の一人が、クリスに声をかけた。


 横柄で大柄なデスターとは対照的に、小柄で挙動不審である。


「ラヴィだったか? どうした?」


「デスターはどうしたら……」


 いいでしょうか、という言葉は尻窄みで殆ど聞こえない。


鷲獅子(グリフォン)の背中にしばりつけておけ、手綱を引いておけば良い」


「へい……」


 返事をすると、ラヴィはそそくさとデスターの元へ向かう。

 他の騎士に手伝ってもらいながら、何とかデスターを鷲獅子(グリフォン)の背中へと縛り付けた。


「……では、準備は良いか?」


 クリスは厳かな口調で確認をとる。

 騎士は各々、返事をしたり頷いたりして返した。


「まずは森を抜ける、森を抜けるまで飛行は無しだ、先頭は猛虎の二人に任せたいが良いか?」


 クリスが見やるのは、黒と白の縞模様の騎士服を着る騎士たち。


「お任せを……」


「ういっす」


「その後、航空騎兵で偵察隊を組織する。怪我をしている所悪いが、道案内を兼ねてそちらはガレッドを班長に、蒼馬で行けるか?」


「もちろんで」


 然りと頷くガレッド。


「承りました」


「りょうかっい」


 蒼馬の二名も了承する。

 準備は整った、なれば後は進むのみ。


「これより陛下救出の任に就く……全員騎乗せよ、出発だ!遅れるなよ!」


 クリスの合図とともに、救出部隊は行軍を開始した。






***





 フランシスは王宮へと戻ると直ぐ様、団長達に指示をだした。


 普段通りにふるまえと

 神殿及び他国の細作に気づかれるな。


 そして、すぐに自身もいつもどおりの政務に戻っている。


 ポンっと判を押す。

 只管に書類を裁く。


 侍従(メイド)に休憩を勧められても断った。


 ただ、無心で何かをしていないと、ダメなのだ。


 何もしていないと、最愛の夫、ギリアスの顔だけが頭に浮かぶ。

 あんな浮気症の男でも、フランシスの夫である。

 まだ、死んだと決まったわけではない、けれど生きている可能性も低い。

 最後の会話は、臣下の前でキスを強請る、不埒な夫。


 あの時、照れずにキスくらいしてやればよかったと後悔する。 

 なれば、頭に浮かべば、涙くらいは出るものだ。

 けれど、フランシスは王妃だ、臣下の前で涙など見せられない。


 歯を食いしばり、王妃然であろうと務めるフランシス。

 その時から、フランシスは公務以外で口を開かなくなった。




 


***

 

 斬ッという音と共に、影を切り伏せる。

 影はその切られた胴体から発火し、黒墨となって燃え尽きる。


「はぁはぁ……、陛下はご無事か?」


 荒い息をつきながらも、無事を確認する。

 後ろから「問題ない」と返事が聞こえる。


 再び、前方に黒い影が見える。

 煌めくのは黒い剣。


 己が名前と同じ名をもつ愛剣で受け止める。

 キンとなる軽い音。

 そのまま、黒い剣をその使い手事押し返す。


 そして、そのまま蹴り飛ばす。

 カシャン、と軽いものが砕けるような音。


 それはまるで骨のような。


 否、骨のような、ではない。


 骨そのものだ。


 影の正体は不死族(アンデット)


 それも下位も下位。


 動く骨(スケルトン)だ。


 さして、強くない。

 けれども、戦うには注意のいる相手。


 カシャンと、また足音が増える。


 次に現れた動く骨(スケルトン)は鈍器を振るう。

 否、鈍器というにも、おこがましい。


 木の棒だ。


 ただの木の棒。


 それを最強の武器のように構えて振り下ろす。


 傍からみれば滑稽なことこの上ない。

 けれども、受ける男にとってそれは、戦慄足りえる。


 見たことのある振り下ろし。

 それは、ともに戦い、命を落とした仲間のもの。


「バレットォォォ!」


 叫ぶのは名前。

 かつて仲間だった男の、騎士の名前だ。


 木の棒を受け止める。

 木の棒であるというに、それは体の真芯に響く重みを持っている。


 受ける男の足が沈む。


 下は岩場だ、あり得ない。


 けれども、あり得るその事実。

 だんだんと、態勢を崩していく。


 とったとばかりに動く骨(スケルトン)が嗤う。


 カラカラカラカラと。


 声帯すらないはずのその体。


 けれども確かに嗤っている。


 カラカラカラカラカラカラカラ。


 ピタッと、唐突に嗤いが止まる。


 瞬間、熱風、木の棒を受ける男の後ろから。


 火の玉が飛んでいく。


 哂っていた動く骨(スケルトン)に、命中、弾ける。

 炎は瞬く間に骨に広がり、動く骨(スケルトン)は燃え尽きた。


 足音が聞こえる、今度は動く骨(スケルトン)ではなく、人の足音。

 後ろから、息を荒くし、一人が駆けつける。


「団長ご無事で……」


「助かった、礼を言う、だが小魔力(ポリ)は温存しておけ、何があるかわからん……」


 団長、火竜騎士団長、ファーフニル・エルトスはそう言うと、周囲を警戒する。


 すると、新たな気配。

 自身がいるのは洞窟の中、出口は見据える一つだけ。

 そして、そこには新たな影が、一つ生まれている。


 佇む動く骨(スケルトン)はカラカラカラカラ嗤っている。


「連中遊んでやがる……」


 悲観にくれる騎士の声。

 死んだ仲間の名前を、呟いた。


「遊んでいるということは、猶予があるという事だ、助けを待つ猶予がな」


 ファーフニルは極めて冷静につげる。


「そうですね……、それまで陛下をお守りしないと……、たとえ敵が元の仲間でも……」


 騎士は覚悟を決めた顔をし、剣を構えた。

 いい顔になった、とファーフニルは思う。


「しばらくは休ませてやれなそうだ、すまんな……」


「上等です、今は休憩なんか入りません、全部あいつらぶっ殺してから、思いっきり休みます」


「そうか……なればしばし、私の隣を任せよう」


「団長に隣を任せられるなんて光栄ですね、夢でも見てるようだ」


「案外、夢かもしれんがな……」


「団長も冗談って言うんですね」


 軽口を叩き合う。

 そこにあるのは共に戦った仲間にのみ生まれる友情か。


「俺、帰ったら、告白するんですよ、だからこんな所で死ぬ訳にはいかないんで!」


 ユラリユラリと近づいてきた。

 その動く骨(スケルトン)を叩き切る。


「そうか、ならば俺は娘の顔でも見に行こう……」


 ふと、思い出すのは、娘の顔。

 どれくらい会っていなかっただろうか、できれば娘には幸せになって欲しいものだと考える。


 新たに迫る動く骨(スケルトン)

 その剣ごと、叩き切る。

 燃え上がる、骨片。


 魔剣ファーフニル。

 それがこの剣の名前である。


不死族(アンデット)あいてには最高の剣ですよね。それって」


「確かにな……」


 剣に僅かに、気に払い、思い出す。

 娘に渡した剣は、娘の力になっているだろうか。

 そこにできた、気の緩み。


 狙ったかのように、放たれた一矢。


 ファーフニルの額めがけて飛んでくる。


「お義父さん!」


 騎士が剣で振り払う。


「二度もすまんな……、お義父さん?」


 ファーフニルの胸に走る疑惑。

 けれど、それはすぐさま氷解する。


「ええ、告白するの団長の娘さんなんで!」


「ま、まて……告白は、百歩譲って許そう、だがなぜお義父さんなんだ!」


 ファーフニルに走る動揺。

 カラカラカラ。


「なんでって、結婚を前提で付き合って、将来的に結婚するからですよ!」


「か、仮に付き合った後に、そうなるのは仕方ない……が、ちと早くないか?」


 焦る、ファーフニル。


 カラカラカラカラ。


「早くないですよ、それともお義父さんは、付き合った後にわかれるような不義理を俺がするとでも!?」


「そうは思って居らんが、だから、お義父さんは速い……」


 娘が嫁に言ってしまうとなると、寂しくもなる。

 けれど騎士団にいるよりはいいのかと苦悩する。


 カラカラカラカラカラ。


「俺が振られるわけないでしょう! 抱かれたい男ランキング火竜騎士団編、三年首位独走ですよ?」


「そうなのか? というかそのランキングなんだ!」


 首位独走?こいつ実は軟派野郎なのか?と騎士に疑惑の眼を向ける。


 カラカラカラカラカラカラ。


「知らないんですか?ちなみに団長は七位です」


「七位……」


 自身の順位にちょっと、喜ぶ、俺、結構いけてる?


 カラカラカラカラカラカラカラ。


「ちなみに、副団長は三位です」


「今、その情報必要か……?」


 相棒とも呼べる部下の順位は自分を大きく隔てて三つ上。

 確かに悪い男ではないが、それに負けるというの釈然としない。


 カラカラカラカラカラカラカラカラ。


「「うるさい」」


 声と同時にその手から放たれるのは、炎の嵐か。


 動く骨(スケルトン)達は、焼きつくされた。

 小魔力(ポリ)の温存しておけという話は何処へやら。


 もう少しだけ、火竜騎士団は持ちそうだった。



 



 


 


 

 

 


 


 



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