一話 騎士という生き物
エフレディア王国、王都ミナクシェル。
王宮から少し離れた、郊外。
森の中にあると薄暗い廃屋。
普段は、地元の漁師すら近寄らない、そんな場所だ。
だというのに、そこは人で溢れていた。
「白獅子騎士団、猛虎騎士団、到着しました!」
新たに人が増える度に侍従に呼ばれるのは、騎士団の名前。
到着するたびに、案内される席。
廃墟には不釣り合いな、大きな大きな円卓。
離された、席同士。
騎士団一つに儲けられた席は一つのみ。
けれども、それが当然の如く騎士たちは相並ぶ。
団長に椅子を差し出し、横に並び立つは副団長か。
後ろにつくは、その精鋭たる強者達。
誰も彼もが眼を見張る。
「風竜騎士団、地象騎士団、朱蛇騎士団、到着しました」
そして、竜騎士までも呼ばれている事に驚愕を禁じ得ない。
次の者がくるたびに呼ばれる、名前。
知るものが、見れば戦争でも起こすのであろうかという、面子である。
新たな者が入室するたびにおこるざわめき。
「蒼馬騎士団、地竜騎士団、蛇竜騎士団、到着しました」
次々と呼ばれる名前。
それを呼びつけた主。
王妃フランシス・エフレディアは奥でただ静かに椅子に腰掛けている。
横に控えるのはセシリアである。
侍従服を着用している。
今はフランシスの横に控えているが、先ほどまでは、到着した騎士団に水を配っていた。
「岩竜騎士団、到着しました」
またしても、竜騎士の名前があがる。
一体何を始めるのか、これだけの面子で何をするのか、集まる面子は、内容を予想し、模索する。
竜とは最高位の幻獣である。
竜の名を持つ、騎士団はエフレディアにしか存在しない。
それを、王都周辺から呼び集めるとなれば、それはエフレディアの総力にも等しい。
「翼竜騎士団、到着しました」
一際大きな、ざわめきが起こる。
「翼竜だと?」
「それほどの大事か?」
「しかし、火竜が副団長のみとはどういうことだ?」
巻き上がる疑問、けれどもそれの答えをしるであろう主は、沈黙を貫くだけ。
翼竜が案内されたのは、王妃が座る席のわずか横。
反対には本来在るべき、火竜の団長が席のはず。
けれども、団長は居らず、居るのは副団長のみ。
何かあったのか?誰もがそう邪推する。
「さて、いいかしら?」
凛と、響くは騎士団達を呼んだ主が声。
その声は力強く、それで透き通るように部屋へと響き渡る。
「まずは礼を言いましょう。早急な呼び立てだというのにも、この場に集ってくれた事に感謝します」
すると、緑の騎士服を着込みんだ年老いた騎士が、その白髪だらけの頭をさげるように、声を出した。
「もったいないお言葉に御座います」
座っているため、手の動作だけではあるが騎士の礼をする。
それを皮切りに、他のものも全員が合わせたように騎士の礼をした。
数秒、それを見届けたフランシスは声をあげる。
「礼はもう良いでしょう。本題に入るわ、ガレッド。説明をなさい」
「ハッ……」
名前を呼ばれて、立ち上がったのは、赤竜騎士団が副団長ガレッドである。
「先日、我ら赤竜騎士団は陛下と共に、防衛条約調印のために、ノーザスへ向かったのは皆さんご存知かと、思いますが……」
その言葉だけで、殆どの者は気づく。
「国境沿いの事でした……」
「能書きはいい、結果を言え! 陛下はどうなさったのだ!」
一人の、黄色い騎士服を着込んだものが叫ぶ。
騒然となるその場。
誰もが最悪を予想する。
「突然の大量の不死族の襲撃、我らは半壊、陛下は団長ともに行方しれずに……」
最悪……ではない、けれども、最悪の一歩手前。
そして最悪の可能性は高い。
「なんてことだ……」
悲観にくれ、自身の騎士団に慰められる若草色の騎士服を纏う者。
「貴様、おめおめと逃げ帰ってきたというのか!」
激怒し、手を円卓へと叩きつける桃色の騎士服を纏う者。
その拍子に、手が水が注がれていた杯に当たり、杯が溢れ、水が飛び散った。
「不死族だと?」
疑問に思い、いくらかの推測を立てるもの。
騎士然とし、立哨していたものすら格好を崩し、口早に仲間内で囁く者が多く出る。
場は騒然となった。
「黙りなさい!」
けれど、一喝。
フランシスの言葉に我を取り戻したかのように静まる騎士たち。
「ギリアスは生きているわ、私には解る」
「恐れながら王妃さま、一体どのような理由で……」
「勘よ、乙女の」
フランシスの場違いな台詞に、アンタ、乙女って年でもないだろう、そんな視線が突き刺さる。
けれど、そんな視線をもろとせず、続けるフランシス。
「赤竜の団長の二つ名を忘れたのかしら?」
「結界のファーフニル……」
誰ともなく呟かれたその二つ名。
結界、それは男ならば誰でも使える魔法の初歩の初歩。
詠唱すら必要のない、小魔力による防壁だ。
魔法や場合によっては物理衝撃さえ、防ぐそれ。
それを極限にまで鍛えた男。
それがファーフニル・エルトスという男である。
「そうでしたな……赤竜は……だからこそ王族の護衛をしているのでしたな……」
理解したのか、疑問を問うた黄色い騎士服の男は席につく。
「では、捜索隊の派遣を? まさか我ら団長、副団長が総出で行うわけではありますまい? 今、この時期、団長や副団長が王都を離れるなど、例え木っ端の騎士団だろうと命とりですぞ」
緑の騎士服をきた老人が粛々と話す。
けれども、そんな事はフランシスとてわかっている。
休戦している、というのにイスターチアとの緊張は日に日に高まりつつある。
何か切っ掛けがあれば、すぐにでも戦争になるだろう。
翼竜騎士団が筆頭とはいえ、木っ端の騎士団だろうといくらかの軍務を担っている。
軍務を担うものの頭をおいそれと遠出させることができるだろうか?
下手をすれば、騎士団長の不在を他国からの斥候に気づかれる可能性もある。
そこから、この事件が露見することにもなりかねない。
団長、副団長の居ない騎士団など、船頭のいない船のようなものだ。
何かが起こり騎士団の統制がとれなくなれば、場合によっては治安を荒らす原因にもなりかなない。
「とはいえ現場は国境付近。最強たる翼竜を派遣するわけにもいきはしない……そして、この面子、なるほどなるほど……」
緑の騎士服を着た老人は静かに、けれども全員に聞こえるように呟く。
翼竜騎士団を動かすということは、そういう事だ。
何かあったと、吹聴するような物である。
一人納得したかのように、頷く緑の騎士服の老人。
「ジェロモ翁よ、一人で納得してないで、教えて欲しいのだが」
群青色の騎士服を着た、壮年の男が、緑の騎士服を着た老人、ジェロモに声をかける。
「なんじゃい、フォーシム、わからんか? この招集、誰を連れて来いと言われた?」
「はぁ? 団長、副団長、並びに精鋭二名との事でしたが……」
ボケたのか、といわんばかりの顔でフォーシムと呼ばれた男は答える。
「そうじゃ、王妃さまよりの招集。四竜騎士団ならともかく、儂らのような末端の騎士団にまで、精鋭を連れて来いという。王妃様に顔をあわせる必要のある精鋭とはどのようなやつじゃ? お主はどのような基準で選んだ?」
フォーシムは納得が言ったという顔で頷いた。
「なるほど……、ではここにいるのは全て……」
「未来の団長、副団長候補じゃろう?」
その言葉に、場に走るのは僅かな緊張。
けれど、半ば確信していた者達は表情を崩さない。
むしろ、内面を悟られまいと無表情に務めるものも多い。
真逆、その事実を初めて知ったものは驚きとともに喜びの表情が垣間見える。
「なるほど、確かに精鋭ではありますが……」
「そして、その精鋭で陛下の捜索隊を設営するという事ですかな?」
ジェロモはくつくつと笑う。
「そうよ……」
静かに、フランシスは肯定する。
その肯定に辺りは、やはり騒然となる。
だが、フランシスは少し焦りもする。
冗談ではない。
深読みしすぎだ。
フランシスの判ではあるが、呼び出しをかけたのはセシリアである。
横目で伺えば、セシリアは無表情を装っているが上機嫌で辺り見回している。
それこそ恋する乙女のように。
フランシスも一応は、初めからこの結果になるように動いていたが、正直、団長と副団長を呼んでから精鋭を選出という事しか頭になかった。
余裕はなかった、しかし、現在一刻の猶予もない状況ではこれが最善であると理解できる。
なれば、セシリアを褒めてもいいが、きっと精鋭二名は実力を見てみたいとかそういう理由でつけたに違いない。
そんな幼なじみだ、自身が誰かを思い、悲観していようと気にはしない。
フランシスが泣けば泣いてくれよう、喜べば共に喜ぼう、だが、それだけだ。
その夫という注釈がなければ、王でなければ、ギリアスとて刀の露と消えていても可笑しくはないのだ。
セシリアにとって、ギリアスとはその程度であるのだ。
フランシスはセシリアの行動に頭を抱えたい衝動に駆られそうにはなるが、そんなセシリアの行動も今回は良い方向に働いた。
ならば、得てして言うまでもないだろう、勘違いさせておけばいい。
あとは、このまま進めてしまおう、そう思った時だった。
「では、王妃さま、どの騎士団が主導をとるので?」
ジェロモが問うた、その言葉が皮切りだった。
「やはり、四竜騎士団が?」
「いやいや、ここは風竜に……」
「……朱蛇こそ」
次々と口火を切る、団長達。
「待って頂きたい、猛虎を忘れてもらっては困る」
「影が薄いんだよ」
「蒼馬に言われたくはない」
「なんだと!」
四竜騎士団は、静かなものであるが、他はそうではない。
次から次へと、濁流のように自身の騎士団を押し始める団長達。
「地象こそは天下無双……」
「お前、翼竜の前でよく言えるな?」
「獅子こそ、獣が王、指揮となれば我ら白獅子にお任せを……」
「幻獣の王の竜がいるじゃねーかよ」
四竜騎士団は、そろって苦い顔をする。
誰もが、自身の騎士団の売り込みにやっきになっている。
互いに足を引っ張り、罵り合う。
もたざるものの焦りというのだろうか。
王妃の御膳である、陛下救出というその手柄。
当然指揮を握るものに、多く行くであろうその栄誉。
騎士団としてそれほど栄誉な事はないだろう。
それこそ、己が騎士団がその栄誉を手に入れる事ができれば、四竜騎士団に並ぶことも難しくはない、必死にもなるというものだろう。
「木っ端はここまで酷いのか……」
その場に高く透き通る声が響く。
それは給仕をしていた、一人の侍従から発せられた。
入り口で、到着の知らせを叫んでいた侍従である。
なぜか侍従服は水に濡れている。
「なんだと!」
真っ先に反応したのは、桃色の騎士服の男だった、その顔を憤怒に歪んでいる。
「侍従貴様!」
とはいえ、他の騎士も似たような表情をしている。
「あん? 反応したっていう事は木っ端の自覚があるんだな?」
けれども、侍従は続ける。
「無礼な! 侍従風情がその首打ち落とすぞ!」
桃色の騎士服の男は、眼を見開き、低い声で怒鳴り散らす。
「やれるもんならやってみろ、木っ端ぁ!」
けれども、侍従はその端正な顔を歪めて、罵詈する。
まさに一色即発。
桃色の騎士の手は既に、己が腰にある剣にかけていた。
「クリス様何やってんですか?!」
そこで止めが入った、ジョーイである。
慌てた様子で、クリスと桃色の騎士の間に入る。
「王妃さまの護衛だ、馬鹿野郎!」
クリスは叫び返す。
クリスの騎士団は王宮に一番近い。
というか、セシリアに直接呼ばれた。
急いできてみれば、廃墟へ行くという。
そのまま伝書を出し終わったセシリア共に王妃を護衛して廃墟まできたのだ。
とはいえ、緊急の案件、下手をすれば危険もある。
内密に事を進める案件でもある、成れば王妃の手勢でなければいけない。
とはいえ、普通の侍従を連れてくるわけにもいかない。
給仕などなくてもいいのだが、どこの誰が来たのかの確認くらいは必要であるし。
クリスならば門番代わりにもなるだろうとの事である。
「翼竜、てめぇら、笑ってんじゃねーよ出資者やめんぞ、このやろう!」
クリスがは、クリスを見て笑いをこらえてる、翼竜を目ざとく見つけたのか、叫ぶ。
「すまん……」
「グランもこう言ってるし、ここは俺の顔を立ててくれないかクリス」
「お前も笑ってたよね!?」
翼竜騎士団を相手に、大きな口を叩く侍従をみて、一部の騎士たちは旋律し、驚きを禁じ得ない。
なんだ、この侍従は。
しかも、出資者だと?
木っ端な騎士団ならともかくそれなりの規模の騎士団には出資者が付いているのは当然だ。
王都四竜騎士団とも成れば、それもかなりの上位の貴族がついても可笑しくはない。
そして翼竜騎士団についている出資者はリリィ公爵家。
しかし、リリィ公爵家の姫たるセシリアは王妃の横に付いている。
上の姉妹は既に嫁ぎ、王都には居ないはずである。
なれば、こいつは何者だ。
「どうした? 急に縮こまって、おい? お前らは相手をみてから喧嘩を売るのか?」
辺りの騎士のざわめき、思惑をとらえて、クリスはなお挑発をかける。
騎士たちに疑問よりなにより、怒りが先に立った。
「なるほど、リリィ公爵家ならば、その大きな態度も頷けよう。けれどこれは我々騎士の問題。口を挟まないで頂きたい」
案外と冷静になったのは桃色の騎士。
流石に公爵家相手は分が悪いとふんだのか、僅かに慇懃な態度をとる。
「その論理ならば、俺も騎士だ、口を挟んで何が悪い?」
場に走る動揺。
「馬鹿な、女ごときが騎士などと! 公爵家といえど無礼にすぎるぞ!」
にわかに沸き立ち、場のあちらこちらから殺気がクリスへと向けられる。
けれども、クリスは飄々としてそれを受け流し、笑みさえ浮かべている、嘲笑だが。
「……本当よ」
その言葉を呟いたのは、フランシス。
けれども、またしても場はざわめきに包まれる。
けれど、それを制するように今度は、ジェロモが声をあげた。
「もしかして、噂の女騎士団という奴ですかな? 王妃様の私営騎士団という」
「そうね、クリスはそこの団長」
フランシスの完結な返答。
その言葉に今度はクリスに対する視線が嘲りのものになる。
なんの事はない、王妃のお遊びの騎士団、騎士と名乗るにはおこがましい。
なれば、こいつは騎士の名に酔う小娘に過ぎない。
翼竜に強く出れるのは、出資者であるからか、と誰もが思う。
同時に、憐憫の視線も交じる。
何も知らない小娘を王妃が遊んでいるようにしか見えはしない。
けれども、場は更に混乱へと招かれる。
フランシスの一言で。
「指揮はクリスに取らせるわ」
「なんと!」
「馬鹿な!」
「ありえませんぞ!」
叫ぶ騎士たち。
当然だろう、こんな小娘。
指揮をとらせたならば下手をすれば、未来の団長候補が死兵となる。
誰もが驚愕し、旋律する。
四竜騎士団を除いてはだが。
「その娘は私よりも強い……」
ぼそり、と呟いたのは蛇竜騎士団の団長、ヴァイス。
「なんだと!」
「馬鹿な、氷結のヴァイスともあろう者が何を寝ぼけたことを!」
「本当だ」
ただ事実のみを粛々と語るヴァイスに、他の騎士たちは静まり返る。
ありえない、氷結のヴァイスよりも強い者など、この場に何人いる事か。
地竜は言うに及ばず、火竜は今団長が不在。
なればまともに戦えるという意味では翼竜のみではないのだろうか。
疑惑の視線がヴァイスとクリスを交互する。
「いいかしら?」
機会を見計らっていたのか、静まり返ったその場をフランシスはまとめにかかる。
「これは決定。団長達で唯一王都を離れることができるのはクリスだけ……他の騎士団が送る事ができるのは、団長ではなく、あくまも精鋭に過ぎない、団長であるクリスが指揮を取るのが当然というもの、何か異論はあるかしら?」
「……」
誰もが何も言い返す事はできなかった。
言い訳を挟むよちがない、家柄も、軍位もクリスが高い。
問題があるとしたら、女という点でしかない、それでも氷結のヴァイスよりも強いという。
ならば、挟める口など、誰が持っていようか。
「沈黙は肯定と捉えるわ、準備を整え次第、選抜された面子は一刻後ここに集合、事態は急を要するわ……解散」
フランシスは告げる。
その言葉に恭しく礼を返し、退出していく騎士たち。
「セシリア」
「はい」
「精鋭の名前を聞いておきなさい、あとでそれをまとめてクリスに渡すように、それで、貴方も捜索隊にはついて行きなさい」
「よろしいのですか……?」
「……貴方が行ったほうが、ギリアスも喜ぶでしょうよ」
憮然として顔で言い放つフランシス。
「はい?」
不思議そうな顔をして、それでも諾々と承るセシリア。
「クリス」
「ハッ、お呼びでしょうか」
名前を呼ばれ、フランシスの前に跪くクリス。
「アンタが、あんなに短気だとは思わなかったわ……、血かしらね……、まぁ私もイライラしてたからいいけど。渡すものがある、セシリアも一緒に」
「御意に」
それから、とフランシスは疑問を口にする。
「アンタ結構裏表激しいわね……」
割りと冷静なイメージがあっただけに、此度のクリスの態度にはフランシスも驚いた。
「女性相手ならば、兎も角。荒くれた野郎相手に優しくしてやる必要など、どこにありましょうか?」
なるほど男としては正しい、真理である。
クリスは結構フェミニストであった。
「アンタも男でしょうが?」
「成ればこそ、解ることもあります。男とは、騎士とは馬鹿な生き物故に……」
その言葉にうんうんと、頷いているのはセシリア。
アンタは女でしょう……。
フランシスは、はぁと小さくため息をついて、箱を指さした。
「もういいわ……開けてみなさい」
「はい」
セシリアがそれを開けると、出てきたのは青と白で彩られたの騎士服。
「これは……?」
クリスが問う。
「アンタ達の騎士団の制服よ、騎士団としては極秘の任務ではあるのだけど、いつまでも無地やお古の使ってるわけにもいかなしょう、着てみなさい」
その場で着替え出す、二人。
「いや、着てみなさいと言ったのは私だけど目の前で着替える? 男どもは出したからいいけど、セシリア、あんた弟とはいえ見られてていいの?」
「今は妹でしょう?」
「……そう」
「……」
余り他人を気にしない、という所を見る限りではこいつら姉弟であると思い知るフランシス。
とはいえ、クリスは後ろを向いて着替えているが。
着替えはすぐに終わった。
白を基調とし、合わせるように青い刺繍がいれてある。
胸に掲げる紋章は、小さな十字架、そしてそれを囲むように青い薔薇が咲いている。
「これは、騎士団の名前もお決まりに?」
「ええ、ローズ家の家紋をふんだんに使ってるんだから予想くらいつくわよね?」
フランシスの実家ローズ家の家紋は薔薇。
そして、新しい騎士服につけられた薔薇の刺繍糸の色は青。
「青薔薇ですか……?」
「そう、青薔薇の騎士団、一応神殿の兼ね合いもあるから十字はいれたけれど……それとこれ」
そう言って、椅子の後ろから取り出したのは一本の細剣。
「竜殺しという名剣よ、本来ならば結成式にでも渡そうと思っていたけれど、今は時間がないからできるだけの事はしておこうと思ってね……」
「これを俺に……」
鞘から引き抜くと、薄っすらと発光する刀身。
刻まれた文字は、古代語、意味は竜殺し……。
「っ有り難く、頂戴致します」
恭しくも受け取るも、竜の国ともいわれるエフレディアに存在してよい武器ではない。
この王妃も、なんてものを用意しているんだと、クリスは旋律する。
「フランシス様、私には、ないんですか?」
羨ましそうにそれを見つめるセシリア。
「アンタにはこの前、楓を打ちなおした、柊をあげたでしょう。我慢なさいな」
「はーい……」
不承不承に頷いた。
「ともあれ、これで準備は整ったわ、詳細は行軍の途中にガレッドと詰めなさい。時間との勝負よ」
「御意に」
短く敬礼するクリス。
「フランシス様……」
ジィーっとフランシスを見つめるセシリア。
「はいはい、わかってるわよ」
フランシスは静かに姿勢を正す。
こんな事をやるか、やらないかだけで士気と言うものが変わってくるのだ、セシリア……おそらくはクリスも、下手をすれば騎士という生き物全てがであるが。
「青薔薇の騎士団、団長、副団長に命じます。各騎士団の精鋭を率いてギリアスを救出しなさい。騎士が言う事を聞かなければねじ伏せなさい、足を引っ張る者がいれば殺しなさい。いずれ訪れる神託の時のためにも、あなた達の力、他の騎士団に魅せつけてやりなさい」
フランシスは告げた。
「了解いたしました」
「はいっ」
クリスは慇懃に、セシリアは嬉しそうに、騎士の礼をした。
もっとこう、格好つけたかった(´・ω・`)




