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だんちょーの経緯  作者: nanodoramu
五章 戦争 国の行く末
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プロローグ 破滅の足音

「ふざけてんの?」


 ここは王宮の後宮。

 フランシスの執務室である。

 フランシスは書類を睨みながら、怒りを滲ませて声を荒らげた。


「どうしたんですか? フラン」


 側に控えていたセシリアがすぐさま、様子を伺うように尋ねる。


「最後の読んでみなさい」


 そう言って、差し出される一枚の書類。

 セシリアは丁重にそれを受け取ると読みあげる。

 

「……結果、封印塚の用途は不明、精製物も不明。老朽化が深刻のため再封印を施す……」


 セシリアは報告書を読みあげた。

 それは先日、クリスへ同行させた、ジョーイより渡されたものである。


「何もわからなかった……と言う事よ、大の男が三人も揃いも揃って何をしているのやら……」


 後半、呆れた口調になりながらため息をつくフランシス。


「解らなかったんだから、しょうがないんじゃ?」


 セシリアがフランシスを窘める。


「あのねぇ……、時を奪うもの(カトブレパス)なんて伝説級の魔物が出てきたのにわかりませんでしたじゃ済まないのよ……、それに再封印済って……、逆にどうやったのよ?」


 そもそもなぜ封印されていたのか、何が原因で封印が解かれていたのかもよくわかっていない。

 それを調べに行ったというのに、これはどういう事なのだろうか。


(ワタクシ)にはよくわかりませんが……」


「でしょうねぇ……私にもわからないわ」


 そう言いながらも、フランシスは考える。

 不明、不明、で再封印、問題の先送りでしかないように受け取れる。


「……何かを隠している……? 何のために?」


 報告書を持ってきたのはジョーイではある。

 けれども報告書を作成したのはクリスだ。

 そして、ヴァイスもジョーイもこの報告書には眼を通したと言っていた。

 報告書の内容としては、探索後、不死族(アンデット)と遭遇、殲滅。


 生成路や循環路を探索するも何もなし。

 といった具合である。

 けれども、それではジョーイとヴァイスの態度が説明できない。


 ヴァイスこそ無表情であったが、ジョーイは明らかに眼が泳いでいた。

 あれは何かを隠しているという表情である。

 その場で問いただせばよかったが、今思うと悔やまれる。


 たかが不死族(アンデット)の群れ程度で遅れをとるような、大きな失敗をするような二人には思えない。


 隠したいような出来事が、それも大きなことがあったと言うことではないのだろうか。


時を奪うもの(カトブレパス)すら霞むような出来事があった? それも秘密にしたほうがいいような?」


 騎士が秘密にしたがるものを考える。

 それの多くは身内の恥や……、己の失態である。


「ジョーイがクリスでも軟派したのかしら?」


 ありえない話ではない、そう思うと笑いがこみ上げてくる。

 笑いをこらえるフランシス。

 ジョーイは城下では知られた軟派野郎である。


 すらすらと出てくる臭い台詞。


 世辞だと解っていても、フランシスでもげんなりする事がある。

 それを、クリスにするとなると、見た目は女でも中身は男である。

 複雑な心境で、ひきつった顔で、断るクリスが脳裏に浮かぶ。

 

 横目でセシリアを確認するフランシス。

 セシリアは不思議そうに書類を覗きこんでいる。


 クリスもあーみえて、リリィ家の血筋だ。


 セシリアをみてわかるように、クリスとて決して気の長い方ではないだろう。


 鬱陶しくなってボコボコにしたのが関の山か、と判断する。


 何しろ、翼竜騎士団の出でもある、蛇竜騎士団の二人では団長と副団長とはいえ、相手に成らない可能性すらある。


 ヴァイスは止めようとしてとばっちりを食らったという所だろうか、聖騎士(パラディン)に魔法は効かないし、相性最悪よね、とフランシスは己の中で結論付ける。


 ということは、事実何も無かったのだろう。

 クリスがあえて、自分に嘘をつく理由がない。

 そこまで考えて、フランシスは、書類に可決の判を押した。


「仕方ないわね……」


 急に物分かりのよくなったフランシスに、軽く驚いたセシリアだが、いつもの事なので気にせず、その書類を棚へとしまう。


 それからしばらく、他の書類などを裁くフランシス。

 セシリアは時々話し相手になりながらも、側に控えている。

 そして、そろそろ昼にさしかかり、休憩を入れようとした時だった。


 にわかに騒がしくなる、廊下。

 そして、聞こえる争う声。


 次第に喧騒は大きくなり、近づいてくるのが解る。

 そして遂にそれはフランシスの所までやってきた。

 ドンドン、と荒く叩かれる扉。


「王妃様、大変です! 火急の知らせが!」


 そう言うと返事も待たずに、赤い騎士服を着た男が一人駆け込んできた。


 セシリアは瞬間駆け出した。

 何処に持っていたのか、手にはナイフを構え、男の喉元向かって、突き出あげた。


「やめなさい!」


 セシリアはその一言でピタリと止まる。

 ナイフは喉元で止まり、男の喉には一筋の血が垂れる。


「下がりなさい」


 その言葉に、セシリアは再びフランシスの横に控える。

 男は一瞬のやりとりで、己が命が救われた事をしり、感嘆する。


「なんですかぃ? その娘っこは……」


 紅い騎士服に、灰色髪で何処かなまったような喋りをする。

 黒い短髪で壮年の男だ。


「そんな事はどうでもいいわ、火急とはいえここは後宮よ? 男が無遠慮に入り込んでいいものではないわ、よほどの事でない限りは貴方の首は飛ぶわよ?」


 フランシスは男の質問など意に返さない。


「そいつは、失礼。けれどできれば人払いをお願いしやす」


 気づけば、ドタドタと後宮の女衛兵や駆け込んできた男と同じ紅い騎士服を着た王宮近衛(ロイヤルガード)が詰めかけていた。


「ガレッド様、なぜこの様な!」


 紅い騎士服の王宮近衛(ロイヤルガード)は叫ぶ。


 なるほど、両方赤竜騎士団なのだろう。

 よくよくみれば、その壮年の顔には覚えがある。


「火竜の副団長ね……いいわ、近衛達は下がりなさい。何かあってもセシリアがいれば十分よ」


「娘っこ一人で、十分と……随分甘く見られて……るわけでもないか」


 セシリアを僅かに見やる、ガレッド。

 気づけばセシリアの手には、一本の刀が握られている。


 そのセシリアの姿に何かを感じたのか、ガレットは気圧されるように一歩さがった。


「敵ではないわ、剣を下げなさい」


「……はい」


 フランシスの言葉に、素直に刀を下げるセシリア。

 けれども、いつでも抜けるように、手は添えたままである。


「人払いを」


 フランシスがそう言うと、女衛兵や王宮近衛(ロイヤルガード)は礼をし、下がっていく。


 そして、それを確認してから、防音の魔法道具(マジックアイテム)を発動させるフランシス。


「これでいいわ……それで火急の用事とは何?」


 ガレッドが一人離れないセシリアを見るが、フランシスは良いと、眼で制す。


 ガレッドが、粛々と話し始める。


「ギリアス陛下が、同盟国ノーザスへ向かう途中国境付近にて、何者かに襲撃を受けやした、そして護衛についていた団長ともども行方しれずに……」


「なっ……」


 言葉がでない。

 ギリアスは幾日前に、ノーザスとの新条約調印のために向かったはずである。


 対イスターチアに置ける、防衛条約の。


「赤竜騎士団は何をしていたの!」


 フランシスは叫ぶ。


 その声には悲哀と憤りが込められている。


 愛しい夫であるギリアスが、行方しれずと聞いてはいくら王妃とは言え、声を荒げるな、というのは無理がある。


 護衛についていたのは、レイトの父でもあるファーフニル・エルトス率いる赤竜騎士団である。


 そしてこの男、ガレッドもだ。


「襲撃に気づいた時には、すでに騎士団は半壊……敵は不死族(アンデット)です、次々に味方が死に、竜すらも不死族(アンデット)へと成りました……ファーフニル団長は陛下の側へ居りましたので……、団長の事です、恐らくは陛下とともに未だ無事でありますが、けれども長くはもちません、早々に捜索隊を……翼竜騎士団を派遣ください!」


 初めは静かに話していた、ガレッドだが段々と息は荒くなり、最後は懇願するように叫んだ。


 仲間が殺され悲しくあるのだろう。

 けれども、自分が何もできずに逃げ帰ってきた悔しさもあるのだろう。


 そして、翼竜騎士団に頼らなければいけないという事実に。

 王都四竜騎士団などと言われているが、その実戦力比は驚くほどに大きい。


 赤竜騎士団はエフレディア最古の騎士団である、であるが、その戦闘能力は二番に甘んじる。


 王都最強、それすなわち翼竜騎士団である。

 数でいうなら蛇竜騎士団、地竜騎士団には及ばない。

 所属する貴族の数も赤竜騎士団よりも少ない。


 ならば、何が翼竜騎士団を最強と言わしめているか。


 確かに扱う竜の違いもあるだろう。


 けれど、火竜(レッドドラゴン)ならば翼竜(ワイバーン)に決して引けはとらない。


 むしろ竜としての位は火竜(レッドドラゴン)のほうが高いほどである。


 では何が違うのか。

 簡単な話。

 騎士の個々の強さが段違いに高いのだ。


 他の騎士団では、二つ名持ちなど、片手で数えるほどだろう。


 けれど、翼竜騎士団は違う。


 殆どの物は二つ名を持つし、例え持たなくても、その辺の二つ名持ちに決して引けを取らない。


 その筆頭たるグラン・サーシェスなど最たるものだ。

 過去の戦争ではたった一人で敵の本陣に殴りこみ、敵将軍を打ちとった経歴を持つ。


 ついた二つ名は制圧、制圧のグランである。


 そんな男が率いる騎士団、それが翼竜騎士団である。

 しかし、最強が故にそれを動かすという事は他国にいらぬ邪推をさせる。


 国内ならばまだしも、それが国境付近ともなると尚更だ。


「翼竜は出せませんか……」


 静かに吐き出すガレッド、その瞳には涙が溢れている。


 フランシスは静かにガレッドを見つめた。

 よく見ればその服は汚れ、血に塗れている。


 よほどの修羅場であったのだろう、ガレッドにも大小様々な傷が見て取れる。


 戦乱の中、この情報を伝えるためにどれだけの無茶をしたのか。

 本来ならば今すぐ、治療院に送るべきであろう状態だ。

 けれども、フランシスはすぐさまガレッドを慰労する事はできない。


 その前に聞かなければならない事がある。


「この事は他に……?」


「いえ、王妃様のみに御座います……」


 他の者に言えるわけがない、中にはこの騒ぎ、察する者も出てくるだろう。


 先日の変異蛇竜(ウィアードドレイク)の襲撃で大量の貴族や騎士が失われた。


 そして今度は、下手をすれば王までもが。

 今、エフレディアの国力は全盛期に比べ落ちてきている。


 諸外国にばれぬように、できるだけ、隠密に事をすませなければならない。


 翼竜騎士団を要請する事は簡単だ。

 けれども、翼竜騎士団はエフレディアの防衛を一手に司る。

 そのため他国の翼竜騎士団に対する警戒は大きなものなのだ。


 定期な運行以外で、それを使うとなると、当然それなりの理由が必要となる。

 王の不明を表にだせるかと問われたら、それは否だ。

 下手をすれば、気取られ、イスターチアに好機と取られ攻められるかもしれない。


 ギリアスとフランシスの間にまだ子はいない。

 これを機に枢機卿(カーディナル)が、王位を狙うかもしれない。


 それでは、リスクが高すぎる。

 フランシスとて、直ぐ様翼竜騎士団を派遣してしまいたい。

 彼らならきっと、素早く成果を上げてくれるだろう。


 王が生きていても、いなくても……だが。


「セシリア……」


 静かに己が侍従の名を呼ぶフランシス。


「はい」


 悩み、躊躇し、考える。

 翼竜騎士団が使えないとなると、動かせる騎士団は多くない。

 蛇竜は街の警備を担当しているため長期の任務では使えない。


 地竜は貿易の要、輸送やそれの護衛を主な任務で行っている、諸外国に覚えはいいが如何せん団長、副団長の交代があったばかりで、まだ安定していない。


 本来ならば、こういう時に動かすはずの火竜は既に半壊、城に残る王宮近衛(ロイヤルガード)くらいしか残っていない。


 となると残りはフランシスの実家のローズ家が保有する赤薔薇騎士団くらいしかない。


 しかし、ローズ家の騎士団は四竜騎士団に比べたら戦力に不満があるとしか言い様がない。


 二番手である、赤竜騎士団が半壊したのだ。

 私営騎士団では手も足もでないだろう。


 そこで一つの騎士団を思い当たる。


 表向きはフランシスの私営騎士団。

 けれど、本来は神託のために作られたクリスの騎士団。

 しかし、本来の用途ではない、これに使われるのは躊躇われる。


 そして、仮に使ったとしても精鋭か?と言われればまだ疑問が残る。


 確かに聖騎士(パラディン)ではあるが、全員女性なのだ。


 何処までの強さがあるのか、正直フランシスには判断がつかない。

 仮にも団長のクリスはよしとしよう、翼竜騎士団の出である、疑うべきもない。

 セシリアも、よしとしよう、その強さは何度も命をたすけられ身をもって知っている。


 だが、他の団員はと言われると、やはり疑問ではある。


 そこで、一つ妙案を思いつく。


 何も騎士団をまるまる使う必要はないのではないか?

 そう思えば決断は早い。


「王都と近辺の全騎士団の団長達に出頭命令を……できるだけ内密に、神殿には気取られないようにね」


 力強く、喋るフランシス。

 その眼は既に、先ほどの悲しみはなく、既に前を見据えている。

 セシリアとて、事の重大さくらいわかる。

 フランシスが悲しんでいれば、慰めようとも思う。

 しかし、それは必要がないように思えた。


 そのため、セシリアは何を言う事もなくフランシスに従い、了承する。


「畏まりました」


 セシリアは、そう言い残すとフランシスの命を遂行するため、静かに部屋を退室した。



 

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