⑧ 王家の過去 ~とばっちり~
説明回。
広い、広い草原がある。
草原の中心には水路が交差し。
水路に取り囲まれたその中央には台座がある。
更に、その上に、手で覆えるほどの杯が。
真なる聖杯である。
ここは王都の神殿にある、聖杯の間だ。
「これを直に見るのも久しぶりっすね……」
長い髪を三つ編みにした聖騎士、ミイナが杯を手にとった。
すでに聖杯の儀は終わり、騎士団の合格者は全員が聖騎士に成っている。
ミイナは受験者が聖騎士になる様を見届けた。
その後こっそりと一人、聖杯の間に残った。
いつもの眼を細めた笑いは鳴りを潜め。
眼を見開き、真剣な面持ちで、聖杯を見つめている。
そして、両目に光を灯した。
千里眼の聖痕だ。
ありとあらゆるものを見通す力を宿す聖痕。
そんな力をもっているはずの聖痕を使っても。
それは只の杯にしかみえなかった。
「やっぱり、何も視えないっすね……」
ミイナは溜息をつく。
予想はできていた。
もとより、聖杯に与えられた力でもある。
ある意味当然といえば当然ではあるが……。
しかし、予測はしていたとはいえ、まったく進展の無い状態に落ち込みもする。
けれども、この結果に何処か安堵する自分に気づき、情けなくも感じる。
「やれやれっすね……」
独りごち、諦めたか、ミイナは聖杯を元の場所に戻す。
「くそじいいに見つかる前に戻るっすかね」
今頃地上では、成り立ての聖騎士達が、その力の説明を受けて、騒がしく成っている頃だろう。
何しろ百人以上もいるのだ。
試験に受かったとはいえ、まだまだ単なる烏合の衆にすぎない。
何しろ、殆どが一般の平民である。
聖騎士になった驚きで、人の話などすんなり受け入れられる状態ではないだろう。
おまけに、それを率いるのがアリシアだというのだ。
アリシアでは、大した統率能力もない。
あの小柄な聖騎士には悪いが、今回はちょうどいい機会だった。
聖杯の儀がなければ、いかに聖騎士といえど、この場所になど滅多に入れないのだから。
きっと、今頃アリシアは新人をまとめ切れずにあたふたしているだろう。
一人だけ、地下から遅く出るくらい気づかれもしまい。
仮に、気づかれたとしても、アリシア相手ならどうとでも誤魔化せる。
他の神官も、百人以上いる聖騎士にてんやわんやだろう。
となると、問題は大司教である。
現状ミイナの千里眼で姿を捉える事はできないが。
視えないという事は、居ないのであろう。
ミイナの千里眼は、知覚範囲だけなら大司教の千里眼を超えているのだ。
仮に千里眼から逃れる方法があれば話は別だが、まずそれはないだろう。
あるとすれば、既にミイナにも情報が届いているはずだから。
そして、この空間は一応は神殿の地下にあたる。
地下に階層を付けるとしたら地下五十階という所だろう。
その辺の井戸なんかよりも、遥かに深い場所にある。
それこそ、千里眼をもつ聖騎士以外では、上から下だろうと、下から上だろうと、例え魔法を使っても知覚できる距離ではない。
もっとも、聖騎士とその素質のある者以外はそもそも入れないし、確認しようがないのだが。
祭壇から、僅か十数歩。
出口向かって歩き、振り返る。
聖杯は既に遥か遠く。
千里眼がなければミイナでも視認すらできない距離である。
「本当に巫山戯た神のご加護っすね、時空の歪曲っすか。そもそも、悪意のない魔法が効かないってどうやって悪意を見極めてるんすか……」
苛立ちとともに吐き捨てる。
「まぁ、それもいつまで続くか知れたもんじゃないっすけどね」
けれど何処か楽しそうに呟くと、階段を登り始める。
一瞬の浮遊感。
視ればすぐそこは地上である。
すでに多くの新人達の姿が見える。
その姿を確認して、ミイナはアリシアに胡散臭いと言われたその笑みを、顔に貼り付けた。
「銀髪がこんだけ多いと眩しいっすねぇ……」
窓から降り注ぐ陽光が、銀髪に反射し、煌めく。
中を紛れるように、進んでいく。
やはり、まだ統率はとれておらず、騒がしい。
遠くでは、アリシアが大きな声をあげている。
手伝いに駆り出されているのは聖騎士だ。
とはいえ、騎士団の聖騎士は神殿の内部に詳しくはない。
神官をに案内されながら、それぞれ数人事別室に進んでいる。
手伝いの騎士団の聖騎士、女性神官、新人の聖騎士数名という組み合わせだ。
どうやら少人数づつの班に分け、聖痕の確認や説明をするらしい。
次々と人が減っていく。
ミイナが新人たちを見送っていると、アリシアが気づいたのか、ミイナの側へ駆け寄ってくる。
「ミイナ? 何処に居たんですかぁ? ミイナにも一つ、班を任せるんですから、サボらないでくださいよ」
「ちょっと、厠っすよ」
厠……古今東西、サボりの代名詞だが、事聖騎士に関しては意味をなさない。
「聖騎士に排泄は必要ないでしょう……」
からかわれたと思ったのか、アリシアは、むぅ、と頬を膨らませて怒っている。
「聞くのは野暮っすよ……アリシアも助平っすね」
「ちょっ、えっ、なんで……?」
混乱するアリシア、顔を赤くして、うー、だの、えー、だの唸っている。
どうやら上手くはぐらかせたようである。
そんなアリシアを横目に、余っている女性神官に声をかける。
女性神官も、気づけばもう最期の一人であり、新人も僅か二名だ。
おそらくはこの面子が最後なのだろう。
「余りが自分の受け持ちっすかね?」
「あ、はい。サーシャさんにエリスさんの二名です、私は助祭のタニアと申します」
「よろしくお願いします」
「よろしく頼むよ」
その紹介に、軽く笑顔で返すミイナ。
「自分はミイナっす、では行くっすかね?」
***
豪華といって差し支えない部屋。
綺羅びやかな装飾に、存外に可愛らしいヌイグルミがあちらこちら鎮座してしている。
フランシスの私室である。
セシリアは執務机の側で紅茶を入れている。
今日は侍従服だ。
「神殿には、隙を見せないようにね」
その言葉を掛けられたのは、騎士団の様子を報告し、帰ろうかという所だった。
部屋の主、フランシスは、厳しく言い放つ。
「解かっております」
すぐさま返答するその女性に、フランシスは眼を向けた。
執務机に座して腕を組むフランシスに、頭を垂れ、騎士の礼をとっている。
クリスである、翼竜騎士団の騎士服を着こみ、恭しい態度をとっている。
「第十三祭祀団、とか怪しさ爆発じゃないの……本当は受け入れ拒否したいくらいだわ」
フランシスは鼻をならす。
そんな、フランシスにおずおずと声をかけるクリス。
「フランシス王妃様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
「神殿が王室に深く関わっている事は、自分でもわかっているつもりですが、なぜそこまで警戒を?」
神殿と王室は切っても、切れない関係である。
十二使徒教が一つ、十二使徒、ヒューミィ・エフレディアを崇める十字教……神殿。
王国を建国した際、初代の王の王妃、エリザベート・エフレディアはヒューミィ・エフレディアの直系の子孫であるという。
方や、信仰の対象、方や、己が先祖である。
此の二つが王国建国当初より、手を結んでいる事など、ある種当然であろう。
事実、王国の建国時には神殿が力を貸したという記述が残っている。
警戒よりもむしろ親交があってもおかしくはない。
「貴方にそれを知る権利があると思う……?」
フランシスは冷たく言い放つ。
「僭越ならば、お控え致しますが……」
クリスは口ごもる。
公爵家ではあるが、事実上クリス個人には爵位はない。
政治も関与していない、単なる騎士団長である。
いわば、現場の一責任者にすぎない。
フランシスのように明確な王妃という地位があるわけでもないのだ。
恐らくこれはは政治に関与する質問。
越権行為に等しい。
だが、気になりもする。
神託の内容すら、告げられず。
警戒する相手の警戒する理由も教えられない。
流石にそれでは、どう動いていいのかわからない。
「……良いわ、一番の功労者は貴方だものね」
しばし、考え、フランシスは静かに頷いた。
「お教えくださるのですか?」
その言葉に頷くフランシス。
「良いわ……そうね、でもあまり時間もないし……しかし、セシリアに比べたら貴方は堅苦しいわね?」
「申し訳……」
クリスが言い切る前に、フランシスは手で制す。
「解っているは、貴方のその喋り方、それが本来のものではなくて、礼儀的なもだって事は……姉弟でも似てないなって思っただけだから」
「……」
何も言えず押し黙るクリス。
「そうね、騎士は本来そう在るべきものだものね、貴方の立場では尚更。本来では私に謁見することさえ叶わない。本来ならば例え貴方がセシリアの弟だろうと私は気にも止めなかったでしょう」
きっと事実なのだろう、淡々と言い放つフランシス。
横目でセシリアをみるが、セシリアは不思議そうに顔をかしげるだけだ。
「けれど何の因果か貴方は私の眼に止まった。初めは疑ったわよ? こんなに都合のいい存在がいるのかって」
思い出すかのように笑うフランシス。
「公爵家の庶子でそこそこ権力もあって自由に動ける。翼竜騎士団に四年在籍、戦争の経験あり、強さも泊も十分。尚且つ、失われたはずの変身魔法を使える。うってつけよね。今回の神託には……」
その神託の内容を知らないクリスには反応しようがなく、僅かに眉根を寄せた。
「そうね……これから話す事は他言無用よ、貴方も少し関係あるしね……」
静かに頷くクリス。
それを確認して、執務机にある、赤い鐘をチリンと鳴らした。
瞬間広がる得も言えぬ違和感。
感覚を阻害されるようなものか、とクリスは思い、僅かに眼を細めた。
セシリアなど急に挙動不審になり、くるくると辺りを見回した。
「へぇ、あんたら、わかるんだ、これ結構凄いらしいのにね」
クリスとセシリアをみてフランシスは、関心したように頷いた。
結界の類である、おそらくは、恐ろしく高度で緻密な。
現状必要な結界……遮音の結界か、とクリスは当たりを付けた。
けれども、薄い、一見して結界を張っているとは気づけないほどの密度。
「普通のじゃ、何か秘密事をしていると言っているようなものだしね、特別製よ」
流石は王女の私室、と言った所だろう。
千里眼を使えば解析できるかもしれないが、今するべき事ではないだろう。
「そうね、神殿をなぜ警戒しているか、だったかしら?」
その言葉に、頷くクリス。
「ありていに言えば……ですが」
フランシスは静かに語りだす。
「六年前の事がきっかけかな……、ギリアスに輿入れしてすぐの事だったんだけど」
「それって、まさか……」
思い出されるは、前王クライム・エフレディアの崩御。
フランシスがギリアスに輿入れして僅か三ヶ月後の事だった。
「ええ、察しの通り前王が崩御なされた時の話よ……、前王が崩御してすぐ神殿……十字教の権力者枢機卿が王位に就こうとしたの」
行き成りの爆弾発言である。
「枢機卿って十字教の実質の最高責任者じゃ……なぜ、そんな事が?」
余りの事に、クリスは狼狽してしまう。
「枢機卿は前王、クライム・エフレディアの兄に当たる、正当な王位継承者よ、ライラール・エフレディア。ギリアスの叔父に当たる人物ね」
思いもしない事に、絶句する。
関係が深いとはいえ、まさかそこまでのものとはクリスは考えていなかった。
「継承権だけでいえば、ライラールは今も昔も、順位だけは常に最高位だったわ……」
今も、という所で苦虫を噛み潰したような顔になるフランシス。
相当に、嫌いな人物のようである。
「過去の事は詳しくないけど、ギリアスの祖父に当たる人物。要するに前々の王ね、がギリアスの父である、クライムを選んだの。王になれなかったライラールは神殿に入ったわ……けれども、元から優秀な人物なのよね……腹立たしいことに、次々と階位をあげていき、今では枢機卿となってしまった……それで収まっていれば良いものを……」
「前王の崩御とともに、王位を手に入れようと?」
「ええ、当時、ライラールの継承権は一位、ギリアスは継承権二位けれども当然神殿に入ったライラールよりも、クライム王の政治を支えていた実子のギリアスが支持されたわ」
当然といえば、当然であろう。
勝者の息子と敗北者、どちらが陽の目を見るかというのは聞かずともわかる。
「けれども、ライラールはそれをよしとしなかったの。ギリアスは何度も暗殺者が差し向けられたは……、何回かセシリアが切り飛ばしてるから、聞いてみるといいわ……」
さらっととんでもない発言を聞いた気がする。
横に居たセシリアは思い出すように、「ああ」、と手を叩いている。
「その時、捕まえる事はできなかったのですか?」
「六年前よ? あちこちの国と小競合をしていた時期……敵国の密偵や暗殺者がわらわらと居たわ。それに紛れてライラールも暗殺者を送り込んだのよ……証拠なんてでやしなかった、全ては他国のせいってね」
なるほど、随分と狡猾な爺のようだ。
「……でもね、勿論他の継承権を持つものだって居たわ、けれども今はもうほとんど居ない……この意味がわかるわね?」
戦争雰囲気の高まっていた頃だ、多少強引なやり方でも、王位を長く開けるわけには行かない時期だ。
自分以外の継承権を持つものを暗殺したのだろう。
単純だが確実な、方法である。
「貴方のお兄さま、継承権九位のエンバス・リリィも巻き込まれたわ、そして行方がわからなくなった」
「それはっ……」
クリスに衝撃が走る。
思いもよらぬ、発言。
六年前……そして、エンバス・リリィの失踪。
それは、クリスが公爵家に認知された時期とちょうど重なる。
「そうよ、貴方がリリィ公爵家に正式に認知された理由よ……昔の名前はクリストファー・ラプンツェルだっけ?」
「ご存知でしたか……」
確認するように呟くクリス。
フランシスは頷いた。
「そうなんですか?」
不思議そうな顔をするセシリア。
「そうよ……、って、なんでアンタが知らないのよ?」
エンバス・リリィは当時、行方不明となったのだ。
戦争から逃げたのだ、なんだの言われていたが。
事実は王位争いに巻き込まれ、身を隠していたのである。
「ともかく……公爵家に男児はエンバスだけだった……けれども、公爵家の跡継ぎといっても王位継承権はある。だから巻き込まれた、当時跡継ぎの居なくなったリリィ家はわらにもすがる思いで貴方を認知し、後継者として教育した。エンバスが見つかるまで、だけどね」
「……」
言葉は何も出てこなかった。
過去を思い出すクリス。
商人の子供として、育てられ、これからもそうなのだと思っていた過去の日々。
唐突な出来事であった。
突然公爵家の使者がクリスの元に訪れた。
クリスは当初、父などどうでもよかった、公爵家に行く気もなかった。
けれども、母が嬉しそうに父を語り、行ってくれと懇願された。
あの人のためならば……と母は笑う。
ならば、行ってやるのも孝行か、とクリスは向かうことにした。
けれども、母が愛した人物は少なくとも、クリスを愛しては居なかった。
父と出会い、会話した。
けれども何処か態度はよそよそしく、当時は他の姉や義母は会話すら交わさなかった。
そして、名前を変えられ、厳しい教育の日々が始まった。
貴族たるもの……、その言葉一つで全て厳しさをごまかされた。
そして、二年が過ぎようとした頃、エンバスが見つかった。
エンバスが戻ってきてから、クリスはすぐさま翼竜騎士団へと入れられた。
当時は戦争一歩手前、何処の騎士団も人を欲していた。
おまけに、相手は東の大国イスターチア。
その時期に騎士団に入ったものなど、ほとんど居ない。
中には国を思い、志願するものも居た、けれど現在生き残っているのは少数だ。
戦争で新兵が生き残る確率は殆ど無い。
体の良い厄介払い、だったのだろう。
戦争の中で命を落とす事を期待されたのだ。
当時は、国のためだ、と言われ素直に騎士団に入団した。
けれど、今考えれば、道理で、と思う、理解できる。
結局クリスは、エンバスの代替え品であったのだ。
エンバスが生きていれば用などなかったのだ。
母を父を信じて、言う事を聞いていた自分が滑稽にさえ思え、呆れてしまう。
されど、結局クリスは死ななかった。
戦争は休戦し、王国は仮初の安寧を手に入れた。
けれど、公爵家に戻ってもクリスに居場所はなく。
かといって、母の所に戻って迷惑をかけるのも気が引けた。
だから、クリスはそのまま翼竜騎士団に残ったのだ。
「もしかして知らなかった? だとしたら悪かったわね……」
沈黙し続ける、クリスにフランシス気まずくなり、声をかけた。
「何となくは……わかって居ましたけど。こう改めて言われると……」
辛そうに返事をするクリスに何を思ったのか……、けれどもフランシスは話を続ける。
「継承権十位内で生き残ったのはライラールを除けばギリアスとエンバスだけ、ギリアスの護衛はガチガチに固めてたし、エンバスは早々に行方を暗ましてね、何処へ行ったのかと思いきや、神殿……それも教皇の所に駆け込んだらしいのよ」
教皇十字教における、二大当主の片割れである。
枢機卿が実権を握るのならば、こちは象徴を司る、と言った所だろう。
「エンバスのおかげか、継承権争いは教皇が出張ってね、王位欲しさに教徒を使うののであれば枢機卿を辞すが良いって、枢機卿に玉座の間で告げてね、その影響力は大きかったの」
教皇の実権は枢機卿ほど強くはない。
けれども、その発言、影響力は十字教で最も高いといえるだろう。
枢機卿の権力を使わなければ、王位にはつけない。
しかし、王位につこうとすれば枢機卿の権力は失われる。
ライラールは利益的な選択をしたのだろう。
しかし、教皇と枢機卿は事実上対立している、という事なのだろうか、でなければ止める事もなかっただろう。
どうやら神殿も一枚岩ではないらしい。
「それでも、ライラールは未だ枢機卿の地位に付いている……警戒しなさいと言った理由はわかったかしら?」
フランシスはそう締めくくる。
「委細承知いたしました……」
感情の無い声で返事をするクリス。
まだ、自分の事実に衝撃を受けているのか、何処か眼が虚ろだ。
「貴方も自分の父を恨まないであげてね、あの人も家族を、家を守るためにやったことだから……」
家族を守るため。
なるほど、確かにそうなのだろう。
最も、そこにクリスは含まれていなかったが。
「理解してます」
口からでた言葉はクリスが思っていたよりも平坦だった。
「そう……ならいいわ、今日はもう下がりなさい」
それ以上かける言葉もなく、クリスを下がらせるフランシス。
「失礼します」
クリスは踵を返すが、その背中には何処か哀愁が漂っていた。
「余計な事まで喋っちゃったかしら……?」
「どうなんですかね? というかそんな理由だったんですね」
初めて聞いたとばかりに、関心するセシリア。
「なんで、アンタが知らないのよ……」
呆れたような声をあげるフランシス。
「興味無かったし……男の時のクリスは可愛くないんですよ? 見た目は父上に似てるし、母上似の兄上のが可愛いです」
男相手に可愛いとか可愛くないが興味の基準のセシリア。
「アンタの基準がよくわからないわ……」
こんな姉が唐突に出来たのだ、一苦労だったろうに。
「あ、でも、兄上はクリスの事可愛がってましたよ?」
そりゃ、自分のせいで、無理やり連れて来られて、自分が戻ってきたら用なしじゃ、誰でも後ろめたく思うだろう。
優しいというのはその裏返しだろう、と憐憫の情を感じたフランシス。
「まぁ、いつかは知る事よ。これから神殿……十字教に関わってゆくし、騎士団長ともなると今度は政治も絡んでくるわよ……」
そう自分を納得させるように呟いた。
「私はなんで、兄上が狙われたのかわかんないんですけど……」
「……アンタは私の護衛してれば良いのよ、深く考えなくても」
不満気に「はい」と返事をするセシリア。
本当に、一苦労だ……と、フランシスは思う。




