④ 原因究明 ~獣の賢さ~
パッチャパッチャと水音がする。
温泉を覗き混んだり、お湯に手を突っ込んだり。
熱いのだろうか、若干頬を染めた女性が三人。
何かを探している。
「何もないですねぇ……、そちらは水の上からは何かみえますか?」
アリシアが温泉、お湯の上に立っているフェイトに尋ねた。
「特に変わった所は無いですねー、いつも通りの湧き出し口ですー」
異常なし……らしい。
「こちらも、同じく……、それらしき物は感知にも掛かりません……」
リラのほうも反応はないらしい。
頬に十字の光が灯っている。
進展のない事にため息をつく。
「となると、温泉に居たのはたまたま……なんでしょうか?」
偶然であんな化け物が居たらたまったものではないのだが。
アリシア達三人は、時を奪うものがここに来た理由……原因を探していた。
「たまたまって事は無いと思いますけどー、今思えば、私ら見逃された理由とかもわかんないですよねー」
フェイトは見逃されていないのだが、気づいているのかいないのか、飄々としている。
実際アリシアが治療しなければ、危なかった。
フェイトを治療するときに使った聖痕は二つ。
一つは、いつもの癒やしの聖痕に。
癒やしの聖痕は文字通り、対象に癒やしをもたらす。
つまり怪我を治すのだ、もっとも酷い部位の欠損は治せないが。
わずかだが、体力なども回復する。
そして二つめ、滅多に使う事のない解毒の聖痕だ。
しかし、解毒と言っても毒には多種多様な種類がある。
神経毒、麻痺毒、発熱毒、出血毒等……。
多種多様に渡る。
左の薬指で何の毒かを確認し、右の薬指で確認した毒を分解する。
一対一つの聖痕である。
二つの聖痕……、両方特殊系に分類されるものである。
今回は解毒の聖痕が役にたった。
時を奪うものの魔眼は命を奪うまでには至らず、動きを止めるだけにとどまった。
守りの聖痕のおかげではあるが。
それでも、体に麻痺という状況が引き起こされた。
なら、それを麻痺毒と仮定して解毒すればいいのである。
結構無理やりな気もするが、特殊系の聖痕なんてものは、概念的な物ばかりである。
つまるところ、やる気一つで解釈が広がる。
思い込みは大事である。
アリシアはフェイトの軽い言葉に僅かに頬を引き攣らせるが、あえて言わないほうが幸せな事もあるだろうと思い、かけようとした言葉を飲み込んだ。
するとリラがヴァイス達と時を奪うものの戦闘を思い出したのか、神妙な顔付きで呟いた。
「フェイトさんの父上が戦いになってる時はきっちり命を取りに行ってましたからね……」
思い出されるのは、鋭い、二本の角。
ジョーイの土壁を瞬間的に切り裂いた強力なものだ。
フェイトの剣で僅かに傷がついたものの、実際三人が相対したときに角を使われていれば、三人共死んでいたであろう。
「アリシアさんが初めに襲われた時も気絶しただけなんでしょー? その時はどんな感じだったんですか?」
「その時は、ベルちゃんと二人でお湯に……」
思い出すは昨夜の出来事。
特に普段と変わった事などは何もなかった。
いつも通りの時間に、いつも通りにベルサイユと温泉に入りに行ったアリシア。
「ベルちゃんってアリシア様のペットですよね?」
リラがアリシアに確認を取る。
「あーアレ……いつも思ってたけど、幻獣かなんかですか?」
フェイトも気になっていたのだろう。
ベルサイユについての詳細を求めた。
「蛇女っていうんですよ、魔物ですけどねー。大きくなったら私を背中に乗せてもらうんですよ」
「「えっ」」
リラとフェイト、二人の声が思わずはもる。
「えっ?」
「蛇女が原因じゃないんですか……?」
「ベルちゃんが?」
そんなわけないでしょう、と苦笑しながら手を振り否定する。
「蛇女って……魔物を引き寄せるとか……?」
リラが神妙な顔でアリシアに問いただす。
「無いですよぉ、むしろ雄の魔物に言う事聞かせる事ができるんですよ、自分より力の弱い魔物に限定はされますけど」
ベルちゃんじゃ小鬼がいいとこですけど、呟くアリシア。
「ほほう、生まれながらの女王様って奴ですか?」
フェイトが、それを聞いて羨ましそうな顔をした。
特殊な性癖でもあるのだろうか。
「女王様とは言い得て妙ですねぇ、けど、ベルちゃんならお姫様でしょう」
まだまだ子供ですよ、と苦笑するアリシア。
「自分より力の強い魔物の雄が居た場合は……?」
リラが何かに気づいたように、アリシアに問いかける。
「私も詳しいわけじゃないですけど、結局はその魔物の子供を孕むんじゃないですかねぇ? 言う事はきかないでしょうけど」
蛇女の特性はあらゆる魔物の子を産める。
これに限る。
どんな魔物でも雄が一匹いれば無限に増殖する事ができる。
魔眼などはおまけに過ぎない。
逆にいえば、増える必要がある魔物とは?
番を失った魔物なら……。
「厩に行って確認してみませんか……?」
「?」
アリシアには、リラが何を言っているのかがわからなかった。
厩に?なぜ?
けれども、しばし考え、やっとのことでそれに辿り着き、顔を青くした。
「まさか、そんな、ベルちゃんはまだ生まれて二ヶ月も経って無いんですよ?」
ベルサイユをアルザークの洞窟で引き取ってから、二十日弱である。
まだ体は出来上がっていない。
当然だ、幼体なのだから、成体にならない状態で、そのような事が起こるはずがない。
「アリシア様とて魔物の生態に詳しいわけじゃないのでしょう……?」
けれども、にべもなく一蹴される。
「むぅ……」
リラの言葉に、頬を膨らませるアリシア。
「何も無ければ、それでいいじゃないですか、ただの確認ですよ、確認」
フェイトがアリシアを慰めるようにその場を収めた。
三人は、厩へと足を進める事にした。
***
厩、べるさいゆ、と書かれた看板がかかっている、小部屋にベルサイユは眠っていた。
たっぷりと引かれた巻藁の上に、とぐろを巻いて。
そして、胸に抱えるように小さな卵、とは言っても掌くらいの大きさだが、を持っている。
「……」
「……」
「……」
三人は言葉もでなかった。
卵を確認して、そして。
アリシアは崩れ落ち、呟いた。
「そんな……私はもう、おばあちゃんですか?」
「気にする所そこ!? もっと他に言う事あるでしょ!?」
フェイトが思わず突っ込む。
「まぁ、最近の若い子は色々進んでいると言いいますしね……早熟ですわね」
リラも頬を染めながら呟いた。
「リラも何言ってんの!?」
三人共いい感じに混乱しているようだ。
予想はしてはいたものの、その予想が現実になってしまったのだから仕方ない。
騒いでいると、流石に五月蝿かったのだろう、ベルサイユが眼を覚ました。
「くぅ……?」
アリシアを見つめる、ベルサイユ。
不思議そうな顔をして、アリシアを見て。
己が抱える卵を見て。
交互に見返す。
そして卵を差し出した。
「えっ」
アリシア慌てて卵を受け取る。
卵は暖かく、柔らかい。
産みたてのようにも感じる。
ベルサイユは卵をアリシアに渡すと、また眠りについた。
「ちょっ、これどうしたら……」
いいのか、わからない。
孵化させていいものか、これがあの魔物……時を奪うものの卵なら、仮に孵ったとしても、アリシアの調教の聖痕でどうにかなるものなのか。
クリスならば、壊せ、と言うだろう。
しかし、愛蛇? であるベルサイユの初の卵である。
親心としては孵化させたやりたい。
けれども……。
アリシアが悩んでいると、フェイトがそれをひょいと取り上げた。
「あ……」
「ちょっと失礼……?」
卵をまじまじと見つめる。
何かに気づいたのか。
ふと笑って。
パクリとかぶりついた。
「!?」
驚愕する、アリシアとリラ。
二人を余所にフェイトは、はむはむと咀嚼する。
そしてゴクリと飲み込んだ。
「た……食べ……」
魔物の卵を食べた……? ベルちゃんの卵を? え? え?
もはやアリシアは混乱で頭がいっぱいである。
リラに至っては無表情で固まっている。
「ああ、これやっぱ食堂のゆで卵ですよ、おばちゃんが誰かが、おやつにあげたんじゃないですか?」
あっけらかんと言い放つフェイト。
驚く二人をみて笑った。
「……なんでそれをベルちゃんが、私に渡すんですかぁ?」
からかわれたのだ、とアリシアが気付き、若干不機嫌になるものの、理由を問う。
「……そりゃいつも、食べてる量が、量だから。じゃないですか?」
卵が、ベルサイユの物でなかったからか。
それともペットにまで、大食いと思われている事か、安堵と怒りが入り混じったような表情をするアリシア。
「まぁリラの心配はハズレって事で……」
フェイトが執り成す。
「ハズレならそれに越した事はないので、構いせんが……」
リラはほっと胸をなでおろした。
しかし、それならそうと、結局時を奪うものが温泉に居た理由がわからない。
まさか本当に湯治というわけではないだろう……。
「結局、理由はわかわらずじまいですねぇ……」
気疲れからか、アリシアは大きくため息をつく。
「そうですね、本当に何なのでしょうね……?」
「もう一度温泉に行きます? 犯人は現場に戻るって言うじゃないですかー」
何処か突拍子もない事をいうフェイト。
そもそも、その原因が、人、であるというわけでもないのだが。
「他に調べる所もないですしね……温泉に戻りますか……」
アリシアが踵を返そうとした時だった。
アリシアの騎士服の袖口を何かが引っ張った。
「なんですか?」
振り返ればそこには、一角獣が一匹、アリシアの騎士服の袖口を噛んでいた。
「ダメですよ、自分の場所から出てきたら、どうやって柵からでたんですか?」
元の場所に戻そうと、一角獣を引っ張るアリシアだが、一角獣はびくともせず、逆にアリシアを引っ張っていく。
「何処へいく気なんですか……わわ」
思わず、転げそうになるものの、フェイトがそれに気づき間一髪支える事ができた。
一角獣はそれすらも気に留めずに、厩の裏口へとアリシアは引きずっていく。
「一角獣、どうしたんですか? いつも大人しいのに」
「何か、見せたい物があるのかも知れませんね……乙女を守るという幻獣ですし、付いて行ってみましょう」
顔を見合わせ頷くフェイトとリラ。
「付いていくので、引きずらないでくださいぃ~」
ずるずると引きずられるアリシア。
他の一角獣の前をとおりすぎ、昼寝している翼竜の横を通りぬけ進んでいく。
厩の裏口付近になると、ふんふんと鼻を鳴らし扉をあけろ、と催促する一角獣。
やっと袖口を離され、開放され、不貞腐れながらも、扉をあけるアリシア。
袖口についた唾液をみて顔を顰めた。
「なんなんですか、もう……」
扉をあけると濃い緑の匂いが漂ってくる。
一面に森が姿を現した。
美しい森である。
もっとも、この騎士団の宿舎はそこを切り開いて作られたものであるが。
森の奥へ続くであろう、獣道に一角獣は進んでいく。
まるで付いて来いと言わんばかりにアリシアを見て鼻を鳴らした。
「付いて行きますか……」
アリシアはそうつぶやくと、しぶしぶといった感じ一角獣の後を追う。
リラとフェイトもそれを追う。
森に入ると昼だというのに、思ったよりも薄暗い事に気づく。
それだけ、木々が育っているという事なのだが。
いくらか歩くと、どうやら坂道を上がっているようだ。
何度か、坂を超えた。
森、ではあるのだが、ゴロゴロと大きな岩も多く、歩きにくい。
もっとも獣道なのだから、当然といえば当然なのだが。
いくら、歩いただろう。
ドスン、ドスンと不思議な音が響き。
人の話し声が聞こえてくる。
そして気づけば、急に明るくなり。
陽光差し込む、開けた場所にでた。
薄暗い場所から、急に明るい場所にで一瞬目がくらむ。
手で眼を覆い、光から隠していると、声が掛けられた。
「アリシア殿、それに、フェイト殿にリラ殿まで、どうなさった?」
レイト、である。
大きな声をあげて走り寄って来る。
「どうした? じゃないですよぉ、ここで何をしてるんですか?」
「何と言われましても、見てわかりませぬか?」
アリシアが訝しみながら、レイトを確認する。
騎士服は土で汚れ、手には矢筒を抱えていた。
「訓練ですか……?」
「左様。エンファ殿がな、セシリア様と立ち会った際に負けただろう? 己の力不足を嘆いてな。こうして有志と訓練をしているのです」
「そういや、そんな事言ってたねー」
フェイトが軽い口調で言う。
大方この態度でもって聞き流していたのだろう。
レイトの後ろを見れば、エンファにロッテ、他数名の土耳長が居た。
どうやら先程聞こえたドスンという音は矢が的に突き刺さる音だったようだ。
レイトの後ろではエンファが、岩のような何かに矢をどんどんと射している。
時折、射をやめ、何やら話し、そしてまた射始める。
「そうですか、それで何でこんな所で? 訓練場はあるでしょうに」
「必殺技は隠れて練習するものらしい、セシリア様が……」
アリシアは「はぁ……」と溜息をつく。
正直、副団長である、セシリアの性格は未だに掴みきれていない。
見るからに問題ばかり起こしそうな性格ではあるが、なぜあれほど強いのかも疑問である。
興味はないが。
けれど、どちらかというとアリシアにとっては苦手な部類であるのは確かである。
「所でアリシア殿達はなぜここに? 訓練に混ざりに来ましたか?」
「いいえ、私は一角獣に案内されて……」
といいつつ、一角獣を探すと、先ほど矢の的にされていた、岩のようなものへと近づいていく。
矢の雨の中もろともせず。
風の魔法だろうか、矢は一角獣にあたらず、それていく。
殺っきになって矢を射掛けるエンファ。
鼻で笑う一角獣。
「ハヤブサ丸ではないですか」
「ハヤブサ丸?」
「あの一角獣の名前です、鬣がほかの一角獣より長いのです、それが風に流れて鳥の羽ばたきに見えるのでハヤブサ丸と……」
「そうですか……、それでハヤブサ丸はよく来るんですか?」
「ええ、時たまああやってエンファ殿の相手をしてくださります」
エンファは矢を同時につがえ、放つ。
必中の聖痕を発動させている。
ハヤブサ丸は、ふん、と鼻息一つ。
角で全てを撃ち落とした。
それを見たエンファは愕然とし、膝をつき頭をたれた。
他の土耳長が駆け寄りどうやら、慰めているようだ。
ハヤブサ丸が勝どきだろうか、ヒヒィンと短く嘶いた。
「……ハヤブサ丸に連れて来られたんですけど、心当たりありますか?」
「ふむ? ハヤブサ丸に? ハヤブサ丸は賢いですからな……何か用事でもあるのでは?」
そう言われて、ハヤブサ丸を見ると、ハヤブサ丸は、首を上下させる。
「こっちに来いって事でしょうか……」
「でしょうな、どれ私も参りましょうぞ」
こうして、レイトを加えた四人でハヤブサ丸の所に向かう。
するとハヤブサ丸は、コンコンと前足で的にしていた岩壁を軽くこづく。
「その岩がなんかあるんですか?」
ふん、と鼻を鳴らすハヤブサ丸。
アリシアが近づき、岩壁を見る。
あちらこちらに矢傷だらけであるが。
何か、文字が書いてある。
古代語だ。
「こんな所に古代語……」
「古代語ってアレですか? 神官とかが式典とかで喋るアレ?」
フェイトが問う。
「古代語は、魔法のキーワードとかに使われるものですね、まぁ一般的には神官か、もしくは高位の魔法使いしか知らないでしょうね……」
この岩壁は、石碑か……何か名前のような物が読み取れる。
そしてよくみれば、中央のほうに僅かに光る水晶が埋め込まれている、砕けているが。
「時を奪うものをここに封じる……ハ…………ム…………イシ……」
口にだして読みあげる。
最後、おそらくは封じた物の名前の所はちょうど中心に来るようで、矢傷が集中していて読み取れない。
水晶といい、中央付近は矢傷が多い。
明らかに水晶を的にしている。
「時を奪うものって、あの魔物でしたよね……?」
リラが確かめるように口に出す。
「そうですね……恐らくこれは、封印塚でしょうねぇ……それが壊れて出てきたんでしょう……」
封印塚……、魔物を利用するために編み出された古代の魔法である。
依代に宝石を使用し、宝石に魔物を封印し、その力を使う。
恐らく、この石碑は何らかの装置なのだろう。
よくよくみれば、石碑は大分地下へと続いてるようで、中々大きい物のようだ。
なぜ王宮の土地に……、こんなものがあるのだろうか。
誰が何のために封印したのか。
なるほど、しかし、これなら納得もしよう。
エンファ達の訓練で封印装置の要で宝石、今回は水晶が壊れ。
時を奪うものが解き放たれた。
けれども、封印され、この装置で力を吸われていた時を奪うものに魔眼で殺すだけの力はなく、それこそ温泉で湯治を行っていたのだろう。
おそらくはアリシアを襲った時も、魔眼を使うのが最低限の小魔力しか回復していなかったのであろう。
そして、翌日である、三人の時も。
いかに二つな持ちのヴァイスとはいえ、あっさり倒せるとはおかしいと思ったのだ。
命を奪い、己が糧にするほどの力が戻っていなかった事が幸いか。
おそらく、出会いが数日も遅ければ、アリシアの命は無かったであろう。
そこまで考えてアリシアは思う。
「私の考える事じゃないですね、封印塚の事も合わせて王妃様にご報告しないと……」
「どうやら原因は掴めたようですね、しかし、これが封印塚ですか……初めてみますね……」
リラがまじまじと封印塚を見つめる。
古代の何かが、ここにあったのかと思うとなんとなく感慨深い気持ちにもなる。
しかし、ぱっと見はただの岩にしか見えない。
よくよく思えば、なぜ岩壁を的になどしたのか……。
気になり、問いかける。
「皆さんはなんでこの岩壁を的にしようとしたんですか……?」
「それはですね……色々話した結果。やはり矢でも岩くらい貫けないとな……という事になりまして、そこにちょうどよく、中心が光っている岩壁があれば的にするでしょう?」
レイトが成るべくして、成ったとばかりに言い放った。
その言葉を聞き。
そのせいか、どっと疲れが押し寄せて、思わずため息をつくアリシア。
結局、時を奪うものはもう討たれたのだ。
すでに安全であるから問題はない。
「しばらく、ここでの訓練は中止です……、普通に訓練所使ってください」
けれども、他にも似たような物があったらたまったものではない、そのためここは使わせない事にする。
この事も合わせて王妃様に伝えるべきだろうとアリシアは思う。
しかし、結局原因をたどれば、セシリアがエンファを倒したせいではないか……。
やっぱりあの人苦手だなぁ……、とそう思う。
「疲れました……」
思わず口からそんな言葉がこぼれ落ちる。
肉体的に疲れたわけではない、どちらかというと精神的な物である。
現状団長は居らず、副団長も滅多に来ない。
騎士団を預かっているのはアリシアなのである。
これが長というものの、気疲れなのだろうか。
だとしたら私はそういう役職には付きたくないなぁと、考えるほどには疲れている。
そして、その呟きを、思いを感じ取ったのか、ハヤブサ丸が、ヒンと一鳴き。
背中に乗れと促すように、振り返り、己が背中を指し示しす。
恐らく背中に乗れということなのだろう。
少しばかり、驚くアリシア。
「……あなたは……本当に賢い一角獣ですねぇ……」
アリシアはそっと、ハヤブサ丸の鬣を撫でた。




