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だんちょーの経緯  作者: nanodoramu
四章 団長補佐 守られしもの
53/121

③ 真面目に不真面目 ~仏頂面と不良娘~



 父は蛇竜騎士団の団長。


 強く、真面目で、不器用で優しい父だである。

 たまに、真面目すぎてポカをやらかすこともあるが。


 母は元々父付きの侍女、だったらしい。

 優しく、そして真面目な母である。


 初めは侍女として、真摯に仕えていた。

 けれども、そこは男と女。


 互いに真面目な一面、相性が良かったのだろう。

 二人は結ばれた。


 四子、男児二人、女児二人に恵まれる。


 優しい父と母。

 彼女は末の娘として生まれた。


 そして、兄二人と姉一人に囲まれて彼女は育つ。

 真面目な家族に囲まれて。

 自身も真面目であろうと育っていった。


 月日は流れ、兄は二人とも、騎士団へと入り家を出た。

 姉も、伯爵家に嫁入りした。


 兄姉全てが、家を出て、初めて気がついた。


 ああ、なんて気楽なんだろう、と。


 そして自分で思った気楽という言葉に疑問を抱く。

 頭の悪くない彼女はそこで自覚した。


 ああ、そうか、私は真面目なのが嫌いなんだ。


 彼女は天才でもなく、馬鹿でもなかった。


 ただ普通の能力で。


 真面目に生きていただけだ。


 親に言われるまま、兄姉の真似をして。


 けれども気づく、そして思ってしまった。


 何のために真面目に生きてるのだろうと。

 誇り? そんなものはない。


 家のため? どうせ嫁ぐ、嫁がされれる、関係ない。


 誰かのため? 家族に血縁以上の思い入れはない。


 ではなんのために?


 そこで母の言葉を思い出す。


 母は言う、教養を身につけ、良い家に嫁げと。


 それが女の幸せだから、と。


 今までは疑問に思わなかった。

 はい、と頷き受け入れていたであろう。


 だが、気づいてからそうは思わなかった。

 彼女を支配した感情は一つ。


 ふざけるな!


 ただ、只管に怒りがこみ上げた。


 ふざけるな! ふざけるな!


 女の幸せ?


 そんなもののために自分は十何年も、それだけの為に生きてきたのか。

 それだけの為に育てられたのか。


 つまらない! 楽しくない! 面白くない!


 いい家に嫁ぐ事が幸せなのか?


 確かに、普通の女性ならそう思うかもしれない。


 けれど……普通とは何だ?


 けれど、少なくとも、私の幸せはきっとソレじゃない!


 それは確信だった。

 少なくとも彼女にとっては。

 その日から彼女は生き方を変えた。


 けれども十数年、生きてきた生き方を変える事は難しく。


 真面目に不真面目に生きる事にした。


 手始めに、女は普通しない事に取り組んだ。

 男のような言葉を使い。

 剣を持ち、体を鍛えた。

 それをみた母が悲鳴をあげた。

 怒る母に、初めて口答えした。


 父を呼ばれて怒られた。


 けれども、父にわざと飄々とした態度をとった。


 のれんに腕押しと言わんばかりに。

 何を言われても受け流した。

 父の言う事など全てわかっていた。


 そして、いつも言うのである、女らしくしろと。


 だけど、彼女は従わない。

 そんな彼女に父は、最後に諦めたように一言呟いた。


 これが運命なのだろうか、と。


 父らしくない言葉だと。

 不思議に思う彼女。


 けれども、ソレ以上何も言わずに父は去っていった。

 程なくして彼女。


 フェイト・ケドラスは女騎士団に推薦された。


 


 

***






「フェイトさん!フェイトさん!」


 騒がしい。


 名前を呼ばれている気がする。

 その声は最近よく聞くようになった友人のものだった。

 そして、ゆっくりと意識が覚醒する。

 目の前には、泣きそうな顔でこちらを見つめる友人の顔があった。


「五月蝿いよ、リラ。どうしたのそんなに泣きそうに成っちゃって? 怖い夢でもみたのかい?」


「フェイトさん!」


 名前を叫びながら、フェイトに抱きつくるリラ。

 遂には涙はこぼれてしまう。


「どうしたんだい?」


「覚えてないんですか?」


 覚えてないのか? と聞かれればわけがわからない。


 自分はそもそもなぜ寝ていたのか……。

 辺りを見回す、ここは救護室である。

 なぜだと考え、そして、思い至る。


「ああ、そうか……私は死んだのかな?」


「生きてますよ! アリシア様が助けてくださったんです」


「そうかい、それじゃお礼を言わなければね? アリシアさんは?」


「フェイトさんを治療してすぐ、王宮へ増援の旨をお伝えに向かわれました」


「……あんなポワポワしてるくせに仕事はきっちりこなすんだからすごいやね」


 そう言うと、フェイトはベットから降り、体を伸ばした。


「うーん」


「まだ、安静にしてらしたほうがよいのでは?」


 すぐさまリラが、注意する。

 けれども、フェイトは意に介さない。


「いや、いいよ……体は……動く、結局あれは何だったんだい?」


 思い出されるのは、深淵よりも深い、黒い瞳。

 見た瞬間から先の記憶がない。


「わかりません……」


 リラが言葉を濁したその時だった。

 空気が変わる。

 世界が隔絶したような、けれども何かに包まれたるような感覚。

 そして、再びあの重圧が襲いかかる。


「これは……」


「どうやら宿舎にまるごと結界を張ったようですわね……」


 いつまにかリラは頬を光らせ感知の聖痕(スティグマ)を発動させていた。


「私はどのくらい、寝ていたのかな……?」


「三時間ほどです」


「てことは、あれは、増援とやらが到着して戦闘を開始したのかな……?」


「恐らく……」


「向かおう……何かできるとは思わないけど……」


「眼がさめたら、事が終わるまで退避しろとの事ですが……」


「……私が聞くと思うのかい?」


「思いません、さぁ行きましょうか?」


 そう言うとリラはフェイトに片手平剣(ブロードソード)を渡す。


「……リラには負けるよ」


 リラは不敵に笑う。


 二人は温泉に向かい歩き出す。






***




 アリシアが王宮に駆け込んですぐ、フランシスは騎士団を要請した。


 それも少数精鋭である。

 アリシアが話す事が真実ならば、謎の相手は……。

 神話を生きぬいた魔物。


 時を奪うもの(カトブレパス)である。


 眼が合うだけで、そのものの時を奪い、殺す。

 魔眼である。


 セシリアが倒れただけにすんだり、フェイトが死にまで至らなかったのは守りの聖痕(スティグマ)のおかげだろう。


 蛇女(ラミア)を活かした意味はわからない。

 恐らくは同じ魔物としての何かがあったのだろうと思うが。

 普段は姿を現さず、時の狭間に身を隠し、食事の時だけ姿を現すというその魔物。


 神話では、十二使徒ハーリム・サイシアスの神獣、不死鳥(フェニックス)倒されたとされている魔物である。


 十字教、エフレディアの加護があるこの地に。

 そんな魔物が潜んでいようとは、フランシスも、誰も思ってはいなかった。

 フランシスは聖騎士(パラディン)を全員下がらせた。

 戦える女性を集めているといっても、まだまだ騎士としては未熟な物が多い。


 正面から、戦ったら何人命を落とすかわからない。

 いくら守りの聖痕(スティグマ)があるとはいえ、魔法の使えない女だけでは分が悪い。


 今ここで騎士団の聖騎士(パラディン)達を失うわけには行かなかった。

 尚且つ、犠牲が増えれば増えるほど、時を奪うもの(カトブレパス)は力を増す。


 故に少数精鋭である。

 そのため現場に寄越されたのは、案内のアリシアを除けばたった二人。


 たった二人である。


 一人は、蛇竜騎士団、副団長。


 土壁のジョーイ。


 そして、蛇竜騎士団、団長。


 氷結のヴァイス。


 蛇竜騎士団の二大巨塔である。


 アリシアと二人は温泉の横に佇んでいた。


「ジョーイわかるか?」


「ああ、びんびんくるぜ」


 何かを感じ取っているのは二人の表情は険しい。


「あそこの温泉の吹き出し口です……」


 アリシアが岩陰を指し示す。


「ありがとう。お嬢さん、では下がっていなさい」


 ヴァイスがそう言うと、アリシアは、小さくお辞儀をして、物陰に潜む。

 どうやら様子を伺うようだ。


「しかし、どうやって炙りだす? やっこさん食事の時しか顔を出さないんだろう。時の狭間に隠れるってなんじゃらほい?」


 ジョーイが不思議そうな顔をする。


「俺にもわからん……、わからんが……とりあえず空間自体に攻撃をする……もしそれに反応して出てきたら。出てきた所を攻撃しろ」


 つまり、行き当たりばったりである。

 とは言え、騎士団の任務は戦争以外はそんなものでもある。


 臨機応変、それが基本だ。


「わかったが。いつかみたいに、全力だしすぎんなよ?」


 思い出すように、苦笑するジョーイ。


「……加減はしよう、だがあいにくと不器用でな……ではいくぞ」


 軽いやりとりを終え、ヴァイスが呪文を唱え始める。

 長い、長い呪文だ。

 普通の魔法ならば、数秒で唱えられるそれは。

 数十秒にわたって唱えられた。


 そう唱えられて展開するのは、戦略魔法である。

 魔法の順位は規模で表示される。


 攻撃魔法は主に三種類にわけられる。

 対象を個別に選択する小規模のものを戦術魔法。

 対象を複数選択できるものを作戦魔法。

 対象ではなく範囲を指定して行うものを戦略魔法と呼ぶ。


 戦略魔法級になると本来一人で発動するのは不可能と言われる領域である。


 なぜなら、莫大な小魔力(ポリ)と精密な小魔力(ポリ)操作が必要になるからだ。


 そのため本来は、複数人で役割を分担し、行うのが正しい戦略魔法である。


 しかし、ヴァイスはそれを一人で事も無げに成し遂げる。


 ヴァイスは尋常成らざる小魔力(ポリ)を保持し、さらに精密な小魔力(ポリ)の操作を得意とする。

 本来、戦略魔法は失敗すると、運が良くて魔力枯渇、下手をすると体がはじけ飛ぶ。

 常に死と隣り合わせの魔法である。


 けれどヴァイスは表情一つ変えずにそれを成し遂げる。

 得意な魔法が氷魔法という事もあるだろう。


 汗一つ流さず、冷静に、淡々と魔法を紡ぐ。

 無表情に、できて当然と言わんばかりに。


 故に、ついた二つ名は氷結。


 魔法の詠唱が終わり、静かにその名が紡がれる。


氷結聖域(アイスサンクチュアリ)……」


 ヴァイスを起点に広がる魔法陣。

 地熱で温かいはずの地面は、ぬくもりを無くし霜が降りる。


 流れ出る温泉は静かに、その動きを止めた。

 白銀の世界がそこに顕現する。


 氷結聖域(アイスサンクチュアリ)


 指定した空間を氷の指向性をもった魔力で包む魔法である。

 空間内の氷を自由に防御と攻撃に使い分ける。


 ヴァイスの切り札でもある。

 しかし、開幕から切り札を使う辺りどうやら本気である。


「寒い寒い、しかし騎獣を使えたらいいんだけどな……なんでもここには翼竜(ワイバーン)すらいるそうじゃないか?」


 ジョーイが思い出すは自分の愛竜、蛇竜(ドレイク)のニーナである。

 しかし、騎獣を王宮の土地に通すのにはそれは面倒な手続きが必要になる。


 五箇所は書類を通さなければならない。

 フランシスが無理を通そうとしたものの、エフレディア王国とて一枚岩ではない。


 変異蛇竜(ウィアードドレイク)の事件の時にすぐに翼竜騎士団がやってこれたのは例外中の例外である。


 むしろ最近セシリアの無理を通すために色々やったのが裏目にでて、フランシスは強く出れなかったのである。


 そのため騎獣は用意できなかった。


「慣れない騎獣に乗ってもどうにもならないだろう、それに翼竜(ワイバーン)は気性が荒い……認められなければ食われるぞ?」


「怖い怖い……」


 ジョーイはおどけるように笑う。


一角獣(ユニコーン)は使えるらしいが、使ってみるか?」


 ヴァイスはうっすらと笑みを浮かべる。


「俺はまだ死にたくねえよ」


 ジョーイは仕方ない、とばかりにため息をつく。


 そんなやりとりをしていると、ピシピシと氷が割れる音がする。


「どうやら、やっこさん無事に出てきそうだぜ」


 凍りついた温泉が、ピシピシ音を立ててと割れていく。

 それも、先ほどアリシアが指し示した岩陰を中心にだ。


 牛のような何かが姿を現しはじめる。

 それを確認したジョーイは呪文を唱える。


砂針四重奏サンドニードルカルテット


 岩陰の上空に、砂が集まり、巨大な針が四つできあがる。


 それは岩陰を囲むように浮いている。


十字砲火(クロスファイア)!」


 針が四本、同時に岩陰めがけて突き刺さる。


 かに思えた。


 けれども針は砂に戻り、散っていく。


「あれが時を奪うって事か?」


「だろうな……身体強化を忘れるな、結界を常に展開しておけ」


「わかってるって」


 瞬間、聞こえる、雄叫び。


「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」


 響く重低音。

 そして重圧。


 氷の上には、眼を開いた時を奪うもの(カトブレパス)が、その四足で立っており。


 その単眼でヴァイスとジョーイを見つめていた。


「うひょー、これが神代の魔物ってか、ありえねーよ」


 軽口を叩くもすでにジョーイは結界を展開していた。


「ガリガリと削られてるぜ……見られてるだけでこれかよ……」


 視線を合わすだけで削られる結界。


 ジョーイは恐ろしい相手だと少しばかり引け腰だ。


「時間をかければこちらが不利になる……俺が前にでる。後衛は任せた」


「うぃーす」


「いくぞ!」


 ヴァイス言葉とともにかけ出す。

 一足飛びに時を奪うもの(カトブレパス)に近づく。


氷結(フリーズ)


 すると、時を奪うもの(カトブレパス)の上に直径五メートルはあろうかという、氷塊が出現する。


「押し潰せ!」


 約二十五トンにもなるそれが、時を奪うもの(カトブレパス)めがけ降り注ぐ。


 けれども、ザンッと氷塊は中で二つに割れる。


 見れば時を奪うもの(カトブレパス)の角が伸び、縦横無尽にしなっている。


 角で切り裂いたのだ。


 切られた反動で時を奪うもの(カトブレパス)を避けて落下した氷塊はガシャンッとけたたましいを立てて砕け散る。


 その音を合図にか、時を奪うもの(カトブレパス)の二本の角がヴァイスに向かって突き出される。


「させねえよ! 土壁(アースウォール)


 詠唱破棄、ジョーイが最も得意とする魔法である、土壁(アースウォール)


 土壁がヴァイスを守るように展開される。


 けれども、一瞬角の勢いは削がれるものの、土壁をものともせずに突き進む。


 ヴァイスに角が刺さる。


 時を奪うもの(カトブレパス)が微笑った気がした。


「ヴァイス!」


 ジョーイが叫ぶ。


 そんな、馬鹿な!


 土壁(アースウォール)はジョーイがもっとも得意とし、あらゆる戦場で、ジョーイの二つ名に成るほど使い込まれた魔法である。


 それがほんの一瞬しか耐えられない。


 なんだそれは、どんな威力をしてやがる!


 けれども、次の瞬間。

 ヴァイスの体が、角が刺さった所からヒビが入る。

 徐々に広がり……そして砕けた。


氷結(フリーズ)


 そして何処ともなく声が聞こえると、砕けた破片が色を無くし、水になり、氷になり、時を奪うもの(カトブレパス)の角を土壁もろとも、凍らせる。


 時を奪うもの(カトブレパス)の単眼がその大きな目をさらに大きく見開いた。


氷結(フリーズ)


 間髪いれずに再び声が聞こえると、今度は時を奪うもの(カトブレパス)の四肢が凍りつく。


「これで、動けまい……氷結(フリーズ)


 そして、氷は時を奪うもの(カトブレパス)の体を、徐々に覆い尽くす。


氷砕(ブレイク)


 最後に呟き、時を奪うもの(カトブレパス)が砕け散る。


 悲鳴すら許さない。

 圧倒的な魔法。

 消える重圧。


 それは時を奪うもの(カトブレパス)が死んだことを指し示す。


 気づけばヴァイスはジョーイの横に立っていた。


「いつから偽物になっていた……」


「初めからだ」


 淡々と言い切るヴァイスにジョーイは、そうか、としか言えず項垂れる。

 そこに感じるのは、自分とヴァイスとの圧倒的な差。


 詠唱破棄とはいえ、自分の土壁は一瞬で切り裂かれたというのに、ヴァイスの氷は時を奪うもの(カトブレパス)を葬るほどに強力だった。


 時を奪うもの(カトブレパス)が本気をだせば、その瞬間ジョーイなど睨まれただけで死んでいただろう。


 本気を出させるまえに、敵を油断させ、一気に畳み掛ける。

 言っている事は簡単だが、それを成すのは簡単な事ではない。


 何処も団長ってのは、どいつもこいつも人間やめてんな……ジョーイはそう思わずには居られなかった。 


「俺来る意味なかったな……」


 ジョーイは不貞腐れるように言い放つ。


「そうでもない、土壁はいい目眩ましになった」


 慰めてるつもりなのだろうか、馬鹿にしてるようにしか聞こえないが、付き合いが長いジョーイにはこれがヴァイスの素だということが理解できた。


「さいですか……」


 何も言うまいと思う。

 

 時を奪うもの(カトブレパス)が死んだのを確認したのか、ヴァイスは氷結聖域(アイスサンクチュアリ)を解除する。


 白銀の世界が終わりを告げ、元の温泉がそこに姿を現した。


「終わりましたか……?」


 すると、アリシアが駆けつけた。


「ああ、終わったよお嬢さん」


「有難うございます、何とお礼を言っていいか、私達では戦う事も困難でした」


 アリシアは深々と頭を下げる。


「だろうな、結界を張れねばあの重圧は耐え切れまい……」


 アリシアはその言葉にぎゅっと唇を噛む。

 お前ではダメだ、そう言われた気がして、ひどく落ち込んだ。


 アリシアは歯がゆかった。

 クリスの居ないここを預かったのは私なのに、なぜ私は何もできないのだろうと。


 ただ只管に自分に腹が立った。

 怒りが度をこし、眼に涙を貯めるほどに。


「ここも仮にも騎士団なのだから、精進を怠らないようにな……」


 ヴァイスはアリシアを何と思ったのか、そう激励すると踵を返し、王宮へと向かう。


「気にすんなってお嬢さん……、相性が悪かっただけさ、逆に俺たちじゃあんたら……聖騎士(パラディン)には勝てない……とは言いたくないが、きつい。まっ適材適所って奴だ」


 ジョーイがアリシアを慰めた。


「ありがとうございます……」


「構わないさ、またな」


 そう言うとジョーイも去っていく。




***

 



「出番なかったですね……というかあれフェイトさんのお父上じゃ?」


 戦闘の様子をリラとフェイトが脱衣所の影からこっそりと覗いていた。


「おやじー……、無愛想すぎんだろ……、あそこで笑いかけたら、普通は乙女瞬ころじゃね? アリシアさん泣きかけだよ、何言ったし」


 フェイトは憤慨した、仮にも娘の命を救った恩人にあの態度は無いだろうと思う。


「既婚者ですから、そこは良いのではなくて?」


 リラが取り繕うものの、ぶつぶつと考え込むフェイト。


「そうだけどさー、いや待って。女性にモテるおやじも想像できないから別にいいんだけど……」


 自分の中で結論をだしたのか、頷いている。


「しかし、強かったですわね……」

 

 リラは戦闘を思い出したのか、神妙な顔をしている。


「……案外強かったんだね、二つ名はあるとは聞いてたけど」


 フェイトも、意外だ、というような顔をした。


「ご存知なかったんですか?」


「いやぁ私さ、家じゃ最近まで淑女してたし、騎士の話されたら、まぁ大変なのね、まぁすごいのねって適当に言ってた、そう言う風に教えられてたし。まぁ……有り体にいえば興味も無かった」


「そうですか……」


「あれっ。つうか、私がやられた事、話聞いてるはずだよね? 見舞いなし?」


 半ば勘当に近い形での騎士団への推薦ではあったが、別段仲は悪くなかったと思うのだが。


「おやじいぃぃぃぃ……」


 それは落胆か、それとも怒りか、フェイトの声が虚しく響き渡った。

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