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だんちょーの経緯  作者: nanodoramu
四章 団長補佐 守られしもの
51/121

① 戦闘狂とユカラ教 ~その出会いは必然で~

口調間違えたたので修正

 広くもなく、狭くもなく。

 華美でもなく、質素でもなく。

 けれども最低限失礼にならないような、調度品が置かれている。


 来賓室。


 騎士団の宿舎に作らているそこは、文字通りに来賓を通すための部屋である。

 アリシアは、来賓室のソファーに腰けかる女性……フランシスのためにポットから紅茶を注いだ。

 フランシスの頬はほんのり赤く染まり、髪は僅かにだが湿り気を帯びている。


 先ほどまで、温泉に浸かっていたためである。


「どうぞ」


「ありがとう、頂くわ」


 フランシスは口を付けると思わず眼を見開いた。


「いい茶葉ね……」


「らしいですね、私には違いがわかりませんが……」


 言いつつも、自分のぶんに口を付けるアリシア。


「私は果実汁(ジュース)のほうが好きですけどねぇ……」


 苦いのか、顔を僅かに顰めた。


 そして、お茶に初発されたのか、アリシアのお腹からくぅと小さい音が聞こえた。


「食べてないの?」


「流石に王妃様を、お待たせするわけには行かないので……」


 聖騎士(パラディン)の食べる量は、多い。


 多いとなると時間もかかる。

 特にアリシアほどの量となればそれは顕著である。


 フランシスはそんなアリシアを見て関心したと微笑む。

 話をきりだした。


「それで、公募の件なんだけど、その証の見分けのできる聖騎士(パラディン)ってのはこの騎士団にいる?」


 首を横に振るアリシア。


「生憎と千里眼を発現している聖騎士(パラディン)は、現状クリスだけですね……」


「そうなのね……、ということは結局クリスが帰ってくるのを待つしかないのかな? 仮に公募しても選別で弾かれたりしたら、面倒だしね……」


 公募で集めて、入団試験……その後に選別、と考えると試験に受かっても聖騎士(パラディン)に成れないものが出てくるかもしれない。


 試験として行うのは、身元の確認及び、動機の確認等が主である。

 表面上、他の騎士団同様、体力測定なども必要なので行うが。


 実際は聖騎士(パラディン)に成れればそれだけで、身体能力を底上げされるので、本当に表向きだけだが。


 しかし、仮に試験は受かったのに選別で落ちました……では受験者も納得がいかないだろうし、他の所で問題がでる可能性もある。


 逆に選別の階段を通らせてからの試験というのは、先に神殿を通してしまうというのも問題がある。


 表向きは王妃であるフランシスの私営なのだから。

 選別に弾かれたのなら、そのものから神殿に行った話は漏れるだろう。


 とすれば、勘の良い者なら、神託にたどり着く者もでるだろう。

 仮に選別の階段を通らせたあとから、身元の確認などをしていては遅すぎるのだ。


 フランシスの不安を感じ取ったのか、アリシアがおそるおそる提案する。


大司教(アークビショップ)様が、千里眼をお持ちなので、お願いしてみましょうか?」


「あの爺に借りは作りたくないから遠慮しておくわ……」


 一瞬頭に、ハゲた爺が笑う姿を思い浮かべて、消し去った。


 あの爺はいつも人を見すかしたように笑っている、信用ならない。


「そうですか……となると、ミイナ……と言う聖騎士(パラディン)が一応、予定としては騎士団に来るんですが、その子も千里眼を持っています」


「なんだ、他にも居るのね?」


 フランシスも僅かに期待する。


「ただ、ミイナの部隊……神殿騎士団(テンプルナイト)の第十三祭祀団……というのですが、部隊ごとここに来る予定ではあるのですが、第十三祭祀団じたいが、任務に付いているので、いつこちらに合流できるかはわかりません……」


「なんだ……結局ダメなのね……、とういうか第十三祭祀団が、まるごとって事はそこは女性だけなの?」


「はい、女性の聖騎士(パラディン)だけで構成されていますね」


 素直に答えているアリシアだが、フランシスは不審に思う。

 神殿が騎士団の掌握を企んでいるのなら、その十三祭祀団とやらが肝であろう。

 警戒しておくことに越した事はない。


 フランシスが思案にくれていると、アリシアが不思議そうに、「どうかしました?」と首をかしげた。


「なんでもないわ……そうね、クリスが戻ってきたら、試験と一緒に選別を行えばいいわ、受付だけ始めましょう……役所に宣伝の広告は置いてあるから、しばらくすればいくらから人は集まるんじゃない?」


「何人くらい集まりますかね……?」


「さぁ? 荒事でも大丈夫なんて女性、そうそう居ないと思うけど……」


 騎士の世間体のイメージは荒事を主な仕事としてる事だろう。

 もちろん、他の仕事もあるのだが、それが国民に伝わっているかというと話は別だ。


 しばらく首をひねるものの……答えなどでるはずもなく。


「次の話にしましょう、騎士服についてね、いつまでも無地とか他の騎士団の着せとくわけにもいかないし」


「フリルがいいです!」


 その話題になった途端。

 アリシアは元気よく食いついた。


 フリル……、それは貴族が使う高級刺繍である。

 主に女性に人気の高い、白いふわふわである。


「悪いけど、それは出来ないわ……」


「……そうなんですか?」


 先ほどの元気が嘘のように、アリシアは消沈する。


「既存の物の形を変更するのは原則として禁止。色の塗り分けだけね、あとは文様、っとこれは騎士団の名前にも係るんだけど……」


 フランシスは悩む。


 騎士団の名前と胸に付ける紋章は切っても切り離せない。

 騎士団の名前の付け方には三種類ある。


 一つは家紋の紋章に関わる名前。

 こちらは主に私営の騎士団に使用される。

 リリィ家の白百合やローズ家の薔薇などだ。

 もっとも家紋のない貴族もいるのだが……。


 二つ目はその騎士団の代表イメージのような幻獣や戦術やそのあり方を示す紋章。


 翼竜騎士団の翼竜(ワイバーン)や蛇竜騎士団の蛇竜(ドレイク)がそれに当たる。

 結果として、紋章は身分証のような物でもあるし、何よりあるとなしとでは格好良さが違う。

 騎士というのは格好が付かなければいけないのだ。


「名前と文様ですか……? うーん」


 アリシアが思い出すのは実家の事。


 スワン家の家紋は白鳥である。


 騎士団もなく、さして爵位も高いわけでもないのによく紋章なんてあったなと思いもするが、だからどうしたという話なのだが、ふと思い出しただけで特に意味は無い。


「紋章もねぇ……、うちのローズ家の文様使う? 表向きは私営騎士団だし、神殿にちなんだ名前も紋章もつけられないしねぇ、赤薔薇で……うちの実家の騎士団とかぶるけど。かといってもリリィ家の白百合もかぶりだし、名前もそのまんまだしねぇ……」


 ふと来賓室の窓を見やるフランシス。

 厩が目に入る。


「何か代表的な、幻獣を使うつもりはないの? 厩には色々いたし」


「クリスは竜が好き見たいですけど……今厩にいる翼竜(ワイバーン)三匹はおとなしいですけど、他の竜ってどんな感じなんでしょうか?」


「竜ねぇ……他の竜……」


 よく護衛として駆り出される蛇竜騎士団を思い出す。

 感想としては気持ち悪い、と即答できるだろう。


 けれどもこの場でそれを口にだすのは憚られた。


「竜はやめときましょう、ほら、お金もかかるし」


 押し通した。


「女騎士団って名前じゃやっぱり不味いんですか?」


「別にまずくはないけれど……、格好付かないでしょう? それならまだ、エフレディア王国第三十七中規模騎士団のほうがマシじゃない?」


「その数字なんか格好いいですね。というかそれはなんでしょうか?」


「正式名称よ、騎士団の。少なくともエフレディア王国公認の全ての騎士団にあるわ。例えば翼竜騎士団なんかはエフレディア王国第二大規模騎士団だったかしら……」


「翼竜騎士団ってクリスの居た所ですよね? 第二って事はそれなりに古いんですか?」


「王国建国当時からあったらしいわ……」


 少しばかり話がそれたりもしたのの、その後何やかんやと案を出しあうが、なかなかしっくりするものがない。


 そういえば、と手を叩くアリシア。


「セシリア様にはお聞きに成らないんですか?」


「セシリア? ああ無理無理、脳筋だから……」


 にべもなく一蹴する。


「そうですか……でしたら名前と紋章はクリスが帰ってくるまで保留でいいんじゃないですか? ……それまでは女騎士団で……」


「そうねー、仕方ない……か、結局殆ど決まらないわね……」


「そうですね……力に成れず申し訳ありません」


「良いわよ、セシリアじゃ話にもならないから……」


 フランシスは何処か黄昏れる。


 ふと、アリシアが壁掛けの時計を見れば、時刻はすでに正午を回ろうとしていた。


 思ったより話し込んでいたのだろう。


「休憩がてらお昼でも……」


 言いかけた時だった。


 バンッ。


 唐突に来賓室の扉が開かれた。


「アリシアさん、けが人です! 治療を!」


 小さな聖騎士(パラディン)……シトリが息を切らして駆け込んできた。


 どうやら、アリシアがご飯を食べれるのはもう少し先になりそうである。






***





 時間はすこしばかり遡る。

 それは食堂でアリシア以外が朝食をとっている時であった。


「こんにちわ!」


 大きな声をだして、食堂の扉をあけた奴が居た。

 わずかに騒然とする、食堂。


 不思議そうに声の方見やるのは土耳長(アマゾネス)達。

 僅かに顔を懐かしそうに顔を綻ばせるのは、レイト達である。


「初めての人たちは、こんにちわ! お久しぶりの人たちは、お久しぶり!」


 随分と頭の悪い挨拶である。


(ワタクシ)が副団長のセシリア・リリィです、よろしく!」


 大きな声で宣った。


「おぉ……」


 呟き一人だけ拍手するレイト。


「ほら、拍手、ほら、拍手」


 周りを急かした。

 まばらに拍手が響き渡る。


「うぇーい、ありがとー! 普段はフランシス様の護衛でこれないけど、副団長ですよ! 今日は時間がとれたので訓練に参加しますよ!」


 若干はしゃぎ過ぎのセシリア、子供のようである。


 すると、セシリアが入ってきた扉から一番近く……つまり食堂のおばちゃんから一番近い場所に陣取っていた、一人の聖騎士(パラディン)が声を掛けた。


「随分、脳みその軽そうな副団長ね……? つうか、あんた強いの?」


 強気で、短髪の聖騎士(パラディン)がセシリアを睨んでいた。


 土耳長(アマゾネス)出の聖騎士(パラディン)、エンファである。


「強いと聞かれるとどうなんでしょう?」


 セシリアは悩む。

 セシリアは戦績はむしろ負けのほうが多いくらいである。

 戦っている相手も相手なのだが。


「あーでも、戦うのは大好きですよ?」


 そう言って頭が悪そうな笑を浮かべた。


「エンファ殿、セシリア様は特殊な変異蛇竜(ウィアードドレイク)と戦って生還した実力の持ち主だ。強さは保証しよう」


 いつの間にかレイトが歩み寄っていた。


蛇竜(ドレイク)って事は竜種ね……その特殊なのは何がどう特殊かは知らないけど竜と戦ったっていうなら、その実力見せてもらえないかしら? 私は自分より弱い人に従うなんて嫌よ?」


 ふふん、と挑発的な視線をセシリアに向けるエンファ。


「実力ですか、立会でもします?」


 セシリアはいい事思いついたとばかり、提案する。


「ソレでいいわ、朝ごはん食べたら相手してあげるから、先に訓練場で待ってなさいよ」


「構いませんよ? じゃぁ先に行ってますね」


 するとセシリアはすぐに訓練場に向けて歩いて行ってしまった。


「じ、自分も行きますっ」


 レイトが慌てて後を追う。 

食堂は僅かに騒然とする。


「あんたは、どうしてこうユカラ様以外にそうなのかな~?」


 エンファの横に座っていた一人がそう呟いた。


「ロッテ五月蝿い、団長は……仕方ないとしても……あんなのに従うなんて聞いてないもの、ロッテだってそうでしょ?」


 何かを思い出したのか、団長の部分で僅かにエンファは口ごもる。


「それはそうだけど~、それでも最低限の礼儀ってものがあるでしょう~」


「だって、あんなのほほんとした顔で、強くなんて見えないじゃない、竜種と戦ったのだって一人でとは言ってないしね、何とでも言えるわ、私達は何年も魔物と戦ってきたのよ?」


 そういって、ふん、と鼻を鳴らした。


「好きにしたらいいわ~……」


 呆れたように声をあげるロッテ。


 土耳長(アマゾネス)の頂点ともいえるユカラも、クリスに敗れた。

 それを見て一番怒っていたのはエンファなのに、学習しなかったのだろうか。


 名前を聞いた限りでは副団長は、あの団長の身内ではないか。

 呼吸が怪しくなるまでユカラ様を殴った……。


 何か嫌な予感がする。

 ロッテはそれが杞憂であって欲しいと願いながら、少し冷めてしまった食事を胃に収めた。




***




「先ほどはなぜ、言い返さないのですか?」


 廊下を歩く二人。

 レイトが駆け寄り、セシリアに疑問をぶつけた。


「なぜって部下が上官に逆らうのは基本ですよ? そこから生まれる友情があるのです、それが騎士という者です」


 セシリアは朗らかに言い切る。


 セシリアの聖書(バイブル)、白騎士物語には、悪辣な手を使っても勝てばいいのだという上司に向かって、主人公が殴りつけて、返り討ちにあってボコボコにされて、その後少しづつ騎士団を変えていくというストーリーがあるのだが。


 まず上司は部下をぼこぼこにしないと、とセシリアは頭で考えていた。


 とはいえ、そのストーリーだとセシリアは悪役上司なのだが、その辺には気にしないのであろうか。


「なるほど、自分には考えも及びませんでした……深い考えをお持ちで……流石副団長ですね!」


 レイトは真面目な顔をして、「うんうん」と頷いていた。


「副団長と言われると照れますね」


 セシリアは、はに噛んだ。

 誰もまさか、物語と同じことをしようとしてるとは夢にも思うまい。




 

 


 

***




 場所は変わり訓練場。

 既に周りには取り囲むように人だかりができている。


 皆、興味津々なのだろう。


「それで……ルールはどうします?」


「参ったと言うか、武器を飛ばされたら負けでいいわ」


「では、審判は不詳の私めが、できれば聖痕(スティグマ)の使用も禁止させて頂きたいのですが、良いでしょうか?」


 レイトが名乗り出る。


「構いませんよ」


「構わない……」


 二人共了承する。


 聖痕(スティグマ)を使えば、危険度が上がる。

 多少の怪我程度ならアリシアに頼めば治してもらえるが、流石に死人は生き返らせることはできない。


「では互いに構えて」


 手を上げ。


 二人共、武器を構える。

 武器は訓練用の刃を潰した片手平剣(ブロードソード)である。


「開始!」


 レイトが手を振り下ろした。


 合図を聞いた瞬間、まずは小手調べと、エンファが踏み込む。


 けれども、その瞬間。


 セシリアは既に視界に居なかった。


「え?」


 同時に、キィンっと軽い音がする。


 僅かに衝撃を感じ、音を追う。

 すると構えてたはずの、剣が手から離れていて。


 首筋に片手平剣(ブロードソード)がつきつけられていた。


(ワタクシ)の勝ちですね」


 セシリアが微笑み、剣を下ろした。


「そこまで!」


 レイトの声が響く。


「何したのあんた……?」


 半ば呆然としたように、エンファは口を開く。


「剣を打ち上げただけですよ?」


 セシリアまるでなんて事はないと言わんばかりの表情だ。


 何を馬鹿なと、エンファは思う。

 カチンと来た。


 自分が踏み込もうと瞬間にすでに姿は見えなかった。


 聖騎士(パラディン)とはいえこちらも、聖騎士(パラディン)なのだ、むしろ下地としては猿人(ヒューマ)のセシリアよりも、土耳長(アマゾネス)のエンファのほうが上である。


 なのにこの結果だ。

 エンファには意味がわからない。


 思案し……一つの可能性にたどり着く。


聖痕(スティグマ)、使ったんでしょ?」


 聖痕(スティグマ)を使えば、意味の分からない現象にも説明がつく。


 聖騎士(パラディン)になった、仲間たちや自分の聖痕(スティグマ)でさえ、到底信じられないような効果があるのだ。


 仮にも、副団長と名乗るからには、相応の聖痕(スティグマ)を持っていたとしても不思議ではない。


「いえ?」


 けれども、セシリアは否定する。


「気になるならもう一度やります? 聖痕(スティグマ)使ってもいいですよ」


「武器を変えるわ……ちょっと待ってなさい、聖痕(スティグマ)も使う」


「お二人共、それは!」


 二人の会話にレイトが驚き、諌めようとするが。


「構いませんよ」


 セシリアは、楽しそうに微笑んだ。


 けれども、エンファにはそれが無性に腹だたしかった。


 すました顔しやがって、今に見てろと。


 エンファは訓練場の脇にある、訓練用の武器庫の扉を開いた。


 そして、刃引きのしてある短剣(ダガー)と、長弓(ロングボウ)と穂先が鏃ではなく、布で包まれている矢を取り出した。


 けれども、それを見とがめたロッテが、流石に諌めようと声をかける。


「ちょっと、訓練用とはいえ聖痕(スティグマ)使って弓なんて洒落にならないわよ~」


「私が得意なのは弓なの!」


「なら、的当てとかで競いなさいよ~」


「あいつに打ち込みたいの!」


「やらせないわよ~」


 ギャーギャーと騒ぎ出す、二人。


 けれどもそこへセシリアもやってきて。


「構いませんよ?」


 一言、微笑んだ。


「言ったわね、あんた後悔させたやるんだから!」


 ずんずんと、訓練場の中心に向かって歩いて行くエンファ。


「あの、副団長さん……」


 ロッテが遠慮がちにセシリアに話しかけた。


「何ですか?」


「その大丈夫なんですか~? エンファはあれでも私達の中じゃ弓の腕はピカイチですよ~?」


「問題ないでしょう」


 そう言うと、セシリアも踵を返し訓練場へと向かった。






***





 仕切り直し、先ほどよりも遠い距離に対峙した二人。

 エンファ今か今かと開始の合図を待っていた。


 脳天に風穴あけてやる……。


 そう、思い聖痕(スティグマ)を発動させた。

 灯る十字の光。


 左眼に光る鷹の目の聖痕(スティグマ)、右中指の必中の聖痕(スティグマ)


 エンファに発現した聖痕(スティグマ)は四つ。

 土耳長(アマゾネス)達の中では平均より一つ少ないという、所だが。


 弓の得意なエンファにはまさに、天恵といえるものだった。


 鷹の目の効果は身体強化系で常時効果は望遠機能である、発動効果は動体視力の上昇だ。


 そして、必中……発動効果は文字通り狙った所に攻撃があたるというものだ。


 特殊系に分類され、常時効果は僅かに手先が器用になるという程度だが、剣だろうと弓だろうと投石だろうと攻撃は必ず当たるのだ。


 届く距離で、尚且つ、障害物がなければという注釈はつくが。


 エンファはその二つを光らせ、今か今かと開始を待ちわびていた。


 セシリアとエンファの距離は二十メートル。

 この距離なら弓で外すこともないし、近づく前に撃ち抜いてみせる、とエンファは意気込んだ。


 セシリアとエンファの間に立つレイトが大きく声をはりあげた。


「開始!」


 エンファはセシリアの状態を確認しようと鷹の目で見据えた。

 セシリアは剣を抜きもせず、鞘に収めたままである。


 自然体でエンファに歩いてくる。


 なんだあれは?

 

 当たらないと思っているのか?


 それとも当てないと思っているのだろうか?


 訓練用の弓なら問題ないと思っているのか?


「馬鹿にしてっ」


 弓を構え引き絞る。

 全力で弦を引く。


 弓が軋み、悲鳴をあげる。


 やがてしなりは最高潮に達する。


 聖痕(スティグマ)の力か僅か穂先に光が灯る。


 もうどうなろうと構わない。


 狙うは顔面。

 あのすました顔に一撃を叩き込む。


 そして、集約された力を解き放つ。


「死にさらせえええええ」


 放たれた矢は空気を揺らし。

 空間を切り裂いた。


 一瞬の風切り音。


 そして、矢はセシリアの額めがけ、一直線に進んでいく。


 殺った!


 当たると確信した。


 否、聖痕(スティグマ)の力を含めて当たらない事などありえない。


 そして、エンファが心のなかで勝利を叫んだ時。


 セシリアの手が()れた。


 一瞬の空白。


 何が起きたのかは、わからない。


 セシリア手が()れた瞬間、矢が消えた。


 いや、消えてなどいない。


 エンファの、鷹の目の聖痕(スティグマ)によって強化されたその眼には、地面に落ちていく砕けた矢の残骸が写っていた。


 何を馬鹿な……矢をあの片手平剣(ブロードソード)で叩き落とした、というのだろうか。


 昔ならいざしらず、聖騎士(パラディン)によって強化されたこの体。


 そんな事はありえない……けれど、いつかの記憶がよみがえる。


 人の矢を手でつかみ捕り、嘲笑する豚鬼(オーク)達。

 セシリアのすましたその顔が豚鬼(オーク)にだぶって見えた。


「ざけんなあああああ」


 咆哮。

 共に再び弓に矢をつがえ、感覚をあけずに放っていく。


 けれども、全てセシリアの手がぶれるたびに矢は消える。


「これなら!」


 同時に矢を三つ、弓につがえる。

 本来ならば何処へ飛ぶかもわかったものではないその邪法。


 放たれ、滅茶苦茶に飛び散ったその矢達。

 三本の矢は弧を描き、空を駆ける。


 意味もなく、飛び散った。

 本来ならそうなる結末だ。


 しかし、必中の聖痕(スティグマ)による補正でそれは可能となる。

 

 そして、それは、本来ならあり得ない軌跡を描き、セシリアへ複数方向からさし迫る。

 

 僅かにセシリアの表情が驚きに染まる。

 けれども、セシリアはすぐさま顔に笑を浮かべる。


 一歩下がり、一閃。


 その一太刀でその全ての矢をたたき落とした。


 エンファに走る衝撃。


 なんで、あれが防げるんだ!


 反則だ! おかしいだろ!


 叫びたくなる衝動がその身を駆ける。


 だが同時に、見えた。


 セシリアの抜剣術。


 今までエンファの鷹の目をもってしても、ぶれているようにしか見えなかったそれが。


 挟撃に驚いたせいで剣速が鈍ったのだろう、初めて見えた。


 そして理解する、勝てない……と。


 そして、挟撃の後笑みを深めたセシリアの顔も見えた。


 けれども、エンファにはそれが恐ろしくみえる。


 近寄られたら殺される。

 恐怖がエンファを駆け抜けた。

 こちらは殺す気でやったのだ、向こうに殺されたって文句は言えない。


「ユカラ様……」


 呟いた言葉に込められた意味は、悲観か絶望か……。

 思わず涙が溢れていく。


 けれども気丈に視界の邪魔だと瞬きをして振り落とす。


 口に塩の味が伝わる。


 しょっぱいな、と思った瞬間。


 セシリアが視界から消えていた。


 先ほどの、突きつけられた剣がエンファの脳裏に蘇る。


 全力で後ろに飛び退いた。


 けれども、衝撃は後ろから来て。

 後ろに飛んだせいで、衝撃と相まって。


 エンファは前のめりに顔から地面に突っ込んだ。

 エンファの意識があったのは其処までだった。




***





「やり過ぎました……寸止めしようとしたら後ろに突っ込んでくるのは予想外ですね……」


 セシリアは独りごち、倒れているエンファを見やる。


 顔から地面に突っ込んだせいかもしれないが、どこか呼吸がおかしい気がする。


 キュヒューキュヒューとかキュヒヒヒとか聞こえてくる。


 抱き上げ、頬を軽く叩くも反応はない。


「……」


 レイトや土耳長(アマゾネス)達が駆け込んでくる。


「すいません、治療お願いします……」


 セシリアは頭をさげる。


「エンファ殿、しっかりー!」


「僕がわかる? 眼を冷ましてー」


 レイトとシトリが必死に声をかけている。


 それでも、意識はもどらない。


「僕、アリシアさん呼んでくる……」


 シトリがかけ出した。


 レイトに半ば抱えられるように宿舎へと向かうエンファ。


 その場には、セシリアと他の聖騎士(パラディン)が残された。


 ロッテは思う。


 やっぱ団長の身内だなこの人……。


 加減とかないよ~。


 思い出されるのはボコボコに殴られた、ユカラの顔。


 血の気が引ける。


 セシリアがふと、顔をあげた。


「他の人もやります?」


「遠慮します」


 それは誰の言葉だったか、それとも全員の言葉だったかは定かではない。


「そうですか……」


 セシリアは項垂れた。


「加減しなさいよね、訓練で人死んだら意味無いでしょうに」


 気づけばフランシスが其処に居た。


「すいません、思わず……」


「そんなに強かったの?」


「強いというのとは別ですね、弓は上手でしたが、素直すぎますね、あれでは獣は狩れても、王都の騎士団には勝てないと思います」


 セシリアは講釈を述べる。


「ま……いいわ、アリシアは聖騎士(パラディン)なら体の一部が欠損しても、治せるって言ってたから呼吸が怪しいくらいじゃ問題ないでしょう」


 辺りを見回すフランシス。


 残った聖騎士(パラディン)……主に土耳長(アマゾネス)達は何かをささやき合っている。


「あんたらもお開き、ちょうど昼だし、ご飯いきなさい」


 パンパンと手を鳴らして追い払うフランシス。


 流石にフランシスが王妃、ということは知っているのか、特に何も言わずに解散する聖騎士(パラディン)達。


「とんだ、副団長様ねまったく……」


「すいません……」


「今日は泊まれるから様子を見ましょうか」


「はい……」


 この件からしばらく土耳長(アマゾネス)達がセシリアを怖がるように成るのだが、それは仕方のないことだろう。


 そして、フランシスとセシリアのせいで朝昼食べそこねたアリシアがご飯に有りつけたのは、日が傾きそうな頃であった。






***







 当たらない。

 当たらない。

 いくら射っても当たらない。


 距離を取り、再び射るも、かすりもしない。

 全てが叩き落とされる。


 そして、それは笑いながら近寄ってくる。

 気づけばそれは居なくなり。

 悪寒が背中を駆け抜けた。


 振り向けば、それが笑いながら剣を振り下ろしていた。


「ひあっ」


 そこで、エンファは眼を覚ました。


 まとわりつくような不快感。

 体中が汗に塗れている。


 荒い息をつく。

 そして、辺りを見回した。


 既に薄暗く、日も落ちているのだろう。


 みれば自室ではない、白を基調とした内装の部屋。


 薬臭く、僅かに鼻につく刺激臭。


「救護室……?」


 思わず、呟く。


 ふと記憶がよみがえる。


「私は……負けたのか……」


 こみ上げる悔しさ、そして同時に自分が情けなくもなる。

 あれだけ、大口を叩いて置いて、一方的に負けるなど。


「くそっ……」


 のほほんとした、あんな戦場もしらなそうな女に一方的に。


 ユカラ様に顔向けができない。

 悔しさのあまり思わず、拳を叩きつける。


 ごんっと軽い音がして、寝ていたベットが凹んだ。


「何をしてるのかな~」


 エンファに声がかかった。

 声の元をたどれば、扉の所に痩躯の聖騎士(パラディン)が立っていた。


「ロッテ……笑いに来たの? 無様に負けたアタシを……」


 思わず自嘲気味に問いかける。


 けれどもロッテは頷いた。


「うん、笑いに来た~。ばっかじゃないの~?」


 その言葉に眼を見開くエンファ、涙がこみ上げてくる。

 普通こういう時って慰めにくるもんじゃないのか、と憤る。

 しかし、言い返せないで口ごもる。


 自分でも馬鹿な事をしたと思っている、けれどもなぜか無性に腹が立ったのだ。


「仮にも副団長だよ~? それに名前聞いてなかったの~? セシリア・リリィだって、団長さんと姉妹だって話だし~。むしろ肋骨が逝ったくらいで良かったじゃない~」


 それは慰めなのだろうか、それとも皮肉なのだろうか、いまいちエンファにはつかめなかった。


 しかし、団長と姉妹……となると、この程度で済んでよかったのかもしれないと思えてしまうから不思議である。


 何本も肋を折られ、顔を腫れさせて、それでも、クリスと戦った、ユカラの顔を思い出す。


「ユカラ様……」


 その言葉にロッテの顔付きが変わる。


「エンファはさ~、何のために団長に付いてきたの~?」


「何の……ため?」


「そう、もしかしてユカラ様のため、とか言っちゃう~?」


「そうだ、それ以外にありえない」


 何を馬鹿な事をと一蹴する。


「エンファがさ~、親をなくしてユカラ様の所に引き取られたのは皆知ってるよ~。それに恩義を感じてユカラ様に尽くしている事も~」


「何がおかしい?」


「おかしくはないけど、もう良いんじゃない~?」


「何がいいのだと……」


「ユカラ様に依存するの~」


「何を馬鹿な! 私は依存してなど!」


 思わず声を荒げる。


「依存してないって言い切れるの~?」


 けれども、冷たい瞳で射抜かれた。


「……くっ」


 言い切れない自分に歯噛みする。

 エンファの原動力はユカラである。


 他には何も必要としない。

 親を亡くし、絶望に暮れていたエンファを救ってくれたのはユカラだ。


 その年は、作物が不作の年だった。

 そして、疫病が流行った年でもある。

 栄養不足に疫病、エンファの両親はあっさりと逝った。


 そして、エンファも疫病にかかっていた。

 疫病で死んだ者の子供など、誰も引き取りたくはない……。


 本人も疫病にかかっているならば、尚更だ。

 けれども、村長夫妻が引き取った。


 ユカラの母による解毒の魔法。

 否、解毒などという生やさしいものではない、体を作り替える魔法だった。


 疫病の効かない体……毒の効かない体へと、術者にも被術者にも負担の大きい耳長(エルフ)の禁忌魔法。


 体を作り替えるという特性から、子供にしか使用できず、尚且つ負担の大きさから一人のみにしか使えない。


 そんな魔法を掛けられ、生き延びたその生命。

 代償が無かったわけではない、その証拠にエンファの右目は見えていない。


 土人(ドワーフ)製の義眼である、精巧に作られ左目と同調して動くので普段はそうとはわからないが。


 処置を受け、疫病にかかったもので唯一救われたのがエンファだった。

 となると、やっかみを受けるのは当然……というべきだろう。


 家の子供は死んだのに……、なぜ。

 家の夫も助けられたんじゃないか……?


 大人はまだいい、思いこそするが、村長であるダライに慰められ。

 村長の妻である、イーリアに逐一理由を説明され、すごすごと引き下がる。


 けれども、子供はそうはいかない。

 行き場所のない怒りや悲しみを止めておく事はできなかった。


 そして、そのはけ口はエンファへと向いた。


 お前がいなかったら家のねーちゃんが助かったんだ!

 お前がいなかったら家の父さんが!

 疫病持ち、こっちくんな!


 日々の精神的苦痛。


 エンファは自分は生きていていいのだろうかと、思うようになるのに時間はかからなかった。


 命を救われた、というのにエンファは精神が死にかけていく。

 次第に思いは強まり、遂には死にたい、と思うようになっていた。

 けれどもそこで、救ってくれたのがユカラだった。


 初めは行き成りできた妹に、おっかなびっくりだったユカラだが。


 惨状に気づけば早かった。

 いじめられれば、すぐに助けに来てくれた。


「うちの妹に何をする!」


 そうさけび、いつも助けてくれた。

 そしてエンファが、死にたい、といえば決まって言うのだ。


「家族が死んだら寂しいだろう?」


 家族、なのだろうかと初めは半信半疑だったエンファだが、ユカラとしだいに打ち解けていく。

 心が死にかけていたエンファを、ユカラが甲斐甲斐しく世話をした。

 食事を食べさせ、勉強を教え、狩りを教え、戦う術を教えた。

 そして、エンファもいつからかエンファはユカラを慕うようになっていった。 


 エンファは二度救われたのだ。


 ユカラに尽くすのも、その頑張りを褒めた貰いたい。

 頑張ったなと笑って欲しいからなのだ。

 ただそれだけのためなのである。


「見てて、痛々しいのよ~。ユカラ様、ユカラ様って……ユカラ様だって迷惑してるとは思わないの~?」


 けれども、その言葉に打ちのめされる。


「そんな、私は……何のために……」


 ユカラ様が迷惑、まさか……。

 涙が湧き上がり、頬を伝う。


「だからさ、もう……自分の道をみつけなさいよ~」


 静かにけれど、力強くロッテが言い放つ。


「自分の……道……?」


「そう、ユカラ様をみてて思わないの~? もうユカラ様はご自分の道をお見つけになっているのよ~?」


「ユカラ様が……どんな道を……?」


「団長の横に立ちたいんじゃないかな~、いつか恩は返すとか言ってたし~」


 強く言い切るロッテ。

 勢いにおされ、エンファは視線を下げた。


「ならば、ユカラ様に付いていくのがわたしの道だ……」


 けれど女々しく、小さく呟いた。

 それを聞いて、ため息をつくロッテ、畳み掛ける。


「気に食わないってだけで副団長に喧嘩をふっかけるあなたが~? そんなのについてこられたらユカラ様だって迷惑よ~」


 更に言葉を重ねる。


 「今はいいけど、ユカラ様だって女の子なのよ~? 今はエンファを大事にしてくれるかもしれないけどこうやって村を降りてきて~、いつかはエンファ以上に大事な人を見つけて、結ばれるかもしれないじゃない~? その時エンファはどうするの~?」


「それは……ユカラ様がその辺の男となど……」


「むしろユカラ様なら~、一族のためにとか言って子供を残すくらいするわよ~」


「……私がが男だったら」


 良かったのにと、言葉は飲み込んだ。


「男だったら蛇女(ラミア)の襲撃の時に死んでるから~」


 しかし、見透かしたようにロッテが詰める。


「……」


 ロッテは言い過ぎかと思いはしたものの、更に追撃をかける。


「それに、この騎士団に入ると決めた時、団長は言ってたよね~、抜けるのは自由だって、命を救われた上に、自由までくれるんだよ? 私はその言葉を聞いて団長に付いて行こうと決めたわ~」


 強い意思でエンファの瞳を見つめるロッテ。


「それがあんたは何なの~? 副団長が気に入らないから喧嘩売る? 馬鹿じゃないの~? 副団長というからには、少なくとも団長が決めた人なのよ~? それを信じられないっていうの~?」


「私は……」


 信じられない……当然だ。


 過去の体験から、エンファは同じ土耳長(アマゾネス)だろうとユカラ以外は信用などできない。


 疫病にかかった途端見捨てられた、その生命。

 前日まで仲良く話していた友達が、掌を返したように離れる現実。

 エンファにはユカラしかいなかった。

 だからこそ、ユカラのために尽くしてきた。


 けれどもそのユカラが迷惑だと思うのなら……。


「わかった……私はユカラ様に付いていくのは止める。私はユカラ様の横に立ちたい」


 エンファのその言葉に、ロッテが僅かに眼を見開く。


 やっと、依存を辞めさせる事ができたのか……と思い微笑んだ。


 けれど、次の言葉で突然冷水を掛けられたような気分になる。


「私は騎士団を出ようと思う……」


「いいの、それで~? ユカラ様にあえなくなるよ~?」


「構わない、修行の旅にでる」


 エンファの瞳には強い意志が宿っていた。


「そう……それがエンファの道なら止はしないわ~でも戻ってくるんでしょう~?」


「ああ、ユカラ様の隣に立てるような立派な男になって戻ってくる」


「そう、頑張ってね~はぃ?」


 思わず変な所から声がでた。


「世界は広い、男になる魔法くらいきっとあるだろう……私はそれを探しに行く」


 なんだ、この発想。

 何処をどう飛躍したらそうなるんだ。


 ロッテは思った、そういえばこの子、馬鹿だったな~と。


 どうしよう、この馬鹿止め方がわからない。


 ロッテが頭を抱えた時だった。


「旅にでる必要はないですよ……」


 セシリアがそこに居た。


「副団長……?」


「……どういう意味でしょうか~?」


「……話は聞かせてもらいました、大丈夫です、騎士団にいても……性別を変える魔法でしたよね、それならクリスが……」


 セシリアはバンっと頭を叩かれる、。


「ア・ン・タ・な・に・言っ・て・ん・の?」


 フランシスがそこに居た、その背中に鬼人オーガを幻視するほど怒っている。


 そのまま、セシリアに足をかけ、転ばし踏みつけた。


「団長……が使えるのですか……?」


 期待のこもった瞳でフランシスを見つめるエンファ。


 フランシスはため息をつく。


 変身魔法の事を言うわけにはいかず、思案する。


「まだ研究中のはずよ……これは極秘裏に進めてる事だから他言はしないように……もし可能ならアンタにも施せるかどうか掛けあってあげるわ」


 そう誤魔化した。


「有難うございます!」


 喜ぶエンファ、頭まで下げた。


「だから、アンタもこの騎士団で素直に訓練しなさい」


「はい!」


 仮に尻尾があれば、ぶんぶんと振るような喜び具合である。


 こいつ、セシリアに似てるなとフランシスは思った。

 真面目な馬鹿というところが特に。


「所でお二人はなんで、こんな時間にこんな所へ~?」


 ロッテが気になり尋ねると。


「出歯亀よ。文句ある?」


 堂々と言い切られ、さすがに追求しずらい。


「まぁいいわ、アンタも喧嘩なんてぽんぽん売るもんじゃないわ、ろくな事にならないわよ」


「フラン重いですよ……体重増えました?」


 その言葉に目つきをするどく、足に体重をかけるフランシス。


「ふぎゅっ」


「こいつみたいにね……」


 足をぐりぐりしながら、フランシスは下をみやる。


「明日も朝から訓練でしょう? 二人共自室に戻ってもう寝なさいな、騎士は体が資本よ? 私はちょっとセシリアと話があるから、このままこの部屋使わせてもらうわ」


 撤収とばかりに、部屋を追い出された二人。

 部屋の中からはフランシスの怒鳴る声が聴こえる。


 半ば唖然としてしまう。

 そして二人して顔を見合わせた。


「アタシ……強くなる……ユカラ様に見合う男になるために」


 エンファは決意した瞳で力強く言い切った。


「そう~、がんばってね~」


 もうやだ、このこ~……。


 ロッテは頭を抱えた。


 




 

 


 








 




 


タイトル詐欺に見えなくもない

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