Ⅹ Vanguard
改修
狭い部屋の中、机一つを囲むように数人が座っていた。
地図を見ながら何か会議をしているようだ。
「今まで立て続けに軍事施設を襲撃した事で国軍は国の施設への警戒を強め、躍起になって自分たち抵抗勢力を捕まえようとするだろう」
リガルトは地図に書かれている国の軍事に関係する施設にバツ印をつけながら語る。
バツ印をつけた所はすでに襲撃した場所である。
「残る国の兵力は三千ほどだと思われる。皆のおかげで大分減らす事ができた、まずは感謝を」
静かに礼をするリガルト。
「そして自分たちの規模も大きくなった歩兵ばかりだが八百……これで倍以上の差があるとはいえ何とか戦いになるだろう……しかし正面からは無謀としかいえない」
その言葉を聞いて周りにいる者達は苦いものを噛んだような顔になる。
「けれども、これ以上こちらに仲間が増える可能性はないだろうし警戒を強めた国軍相手に軍事施設の奇襲ももう無理だろう……しかし、手をこまねいているわけにもいかない、五百の魔法兵の修復が終わる前に我々は仕掛けなければならない」
魔法兵、それは魔法で動く人形の事を示す。
作るのに手間と時間と金がかかるが、一度作ってしまえば人以上の身体能力を持ち、恐怖を感じない、従順な戦士として猛威を奮う。
魔法兵一つで歩兵二十人の働きをすると言われている。
倒す方法としては体のどこかにある核に破壊するという簡単なものだが、鉄や岩でできた魔法兵の体の中にある核を破壊するなどそうそうにできるものではない。
現在は魔法兵の待機所を襲撃し、動いていない魔法兵の核を全て破壊してはいるものの、外装はそのまま残っているし、核さえ作ればいつでも復帰させる事ができる状態だ。
「近日中に仕掛けるぞ」
「どうするんだ?」
細身の青年がリガルトに問うた。
「まず七百人で王都に一番近い街の備蓄倉庫を攻める……そして国軍がきたら、負けたふりをして逃げる……いつもと違うのは逃げ切らないで相手を注意を惹きつけるということだ」
「そしてこの七百人にできるだけ注意を引きつけてる間に王宮を残りの百人で襲う、単純だがこれがもっとも成功しやすい、国王さえ倒してしまえばいいのだからな……」
「王宮にいる常備軍は三百だぞ? 百人で大丈夫なのか?」
「先日王宮の食料庫を焼き払ったのは何のためだと思う? 王宮の兵士は数を減らされているはずだ。ウェスタリアの主な幻獣騎士は鷲獅子だ……肉食で食料の消費が激しい幻獣だし……乗り手と一緒に半分以上が他の場所に回されているはずだ。そのため普段よりも高空警戒が薄くなっているはずだ」
「なるほど」
「そしてその百人は精鋭を送り込む……これは逆にこれ以上多すぎても目立つし、奇襲が失敗しやすくなる、そのためこの数だ。そしてその百人はクリスに率いてもらいたい」
周りの視線がクリスに集まる。
「城内の道筋はわかっているのか……?」
「残念ながら、詳しくは分かっていない。だがヒヘトの寝室が地下にあるという事はわかっている……」
言葉を濁すリガルト。
「なるほど地下か……らしいな……」
「何がらしいのかは自分にはわからないが……」
不可解だという顔をするリガルト。
「いやこちらの話しだ……それで決行はいつだ?」
「準備は整っている、今夜にでも行う事はできるが……」
「なるほど、早いほうがいいいならそれで構わん……そうだな百人もいらんというか……聖騎士だけでいいだろう、他は足でまといだ」
冷たく言い放つクリス。
その言葉に細身の男性が反応し、椅子を蹴飛ばし立ち上がった。
「おいおい、それはないぜ? いくら聖騎士が強くともおとぎ話の中じゃないんだ、それに俺たちだってしばらく一緒に戦ってきてあんたらの強さは見て知ってるが……、俺たちだって弱くはない」
拳を握る細身の男性。
「ベクトル……抑えろ……」
リガルトが制す。
「そうだな、弱くはない……ならば言い方を変えよう、邪魔だ」
そして冷たい視線でベクトルを見据えるクリス。
その視線に気圧され、一歩下がってしまうベクトル。
「奇襲は俺一人でいい。他は置いていってやる」
その言葉に今度はユカラが目を見開いた。
「私たちも一緒に行くんじゃないのか?」
「お前らに暗殺者の真似事ができるのか?」
「それは……」
ユカラは言いよどむ。
「王は既に視た、なんら問題はない。仮に吸血鬼だとしてもな……」
その言葉に騒めく、反抗勢力の面々。
驚いていないのは、元々知っているレティと聖騎士の二人だけだ。
「王が吸血鬼だと……? それは本当なのか?」
ベクトルが顔を強ばらせながらクリスに問いかけた。
「ああ、高位の魔法使いか聖騎士でもなければ魔眼だけでやられてしまうだろう……だから俺一人だ」
クリスはそう結論づける。
けれども、思わぬ所から声があがった。
「自分が付いていこう」
リガルトのその言葉に騒めく辺り、皆が止めようとする。
「総大将である、お前がやられたら元も子もないんだぞ? わかってるのか?」
クリスがリガルトを見つめる。
「……自分はもともと前衛型の魔法使いだ、従軍経験もある」
その言葉に面白いものを見つけたかのように目尻を釣り上げるクリス。
「実力が見たい……、そうだな……」
辺りを見回すクリス。
ユカラに視線を向けた。
「ユカラと手合わせでもしてもらおうか?」
***
黎明時、宮殿の裏口二つの黒い影が潜んでいた。
クリスとリガルトだ。
黒い外套を羽織り闇に溶け込むようにそこに佇んでいる。
「そろそろか?」
クリスが静かに呟いた。
そしてそのとき、宮殿の正面のほうから喧騒が聞こえてきた。
「時間だ、自分たちも動こう……」
リガルトがそう言うと静かに行動を開始する。
走り出す二人。
砂地ということもあり大した音も立てていないが、その速度は尋常ではなかった。
宮殿の三メートル近い外壁を音もなく飛び越える二人。
着地すら軽い音しかしない。
二人共なんの魔法も使わずにそれをやっているというのだから恐ろしい。
「まさかリガルトの腕が、ここまでのものとは思っていなかったぞ?」
静かに声をかけるクリス、その声はどことなく喜悦を含んでいる。
「好きで鍛えたわけではないんだがな……必要に迫られてというやつだ……」
その返答にクリスは面白そうに頬を釣り上げた。
クリスは眼に小魔力を送り、千里眼の聖痕を発動させた。
「どんな人生だったか気になるところだが……話してる暇はないだろう、ちょうどこの真下あたりに人気のない部屋がある」
足元を指差すクリス。
「便利な力だ……」
クリスの眼をみてリガルトは呟く。
「女は魔法が使えないからな、騎士にもなるとこれぐらいないとやってられんのだ」
「まるで魔法を使ったことがあるかのように聞こえるが……」
リガルトは疑問を口にする。
「さてな? 道を作るぞ」
リガルトを軽く流し、道を作るために、クリスは消滅の聖痕を発動させる。
左の人差し指に光が灯り、撫でるような仕草をする。
すると地面が溶けるように空に消え、直径一メートルほどの穴が空いていた。
「何度見ても反則だな聖騎士の力というのは……」
リガルトは穴を見て、クリスを見て感嘆した。
もはや驚きを通り越して呆れている。
「俺もそう思う……とはいえ、あまり連続で使えるものでもない、消費する小魔力の量は規模よりも、行使する回数に比例するんでな……入口はここでいいが……王はこれは……なんだ祭壇……? のような所にいるな……」
クリスは眼を細めて先を確認する。
眼が細かに動いているのは通路を確認しているのだろう。
「おそらく地下神殿だろう……、三日月教を国教としている国ならば宮殿には必ずあるものだ」
「なるほど……周りにほとんど人影はない、囮が効いているようで重良だ」
クリスは地面の下を見据え、ほくそ笑む。
「見張りの幻獣騎士も少なかったしな……おかげで未だ侵入はバレていまい」
「そうだな、ではいくぞ。ついてこい」
そう言うとクリスは穴に飛び込み、リガルトも続くように飛び込んだ。
音も立てずに着地するクリス。
すぐさま場所を移動する。
続けてリガルトもストンと軽い音で着地する。
どうやらこの部屋は倉庫のようで雑多なものが乱雑に放置されている。
「古い倉庫だな……埃が溜まってやがる」
嫌そうに呟いた。
「埃の貯まり具合からいって使われなくなって相当立つんじゃないのか?」
リガルトが舞い上がった埃を吸わないように服の袖で口を押さえている。
何を思ったのかクリスが乱雑に置かれている盃を手に取った。
軽く埃を振り払いそれを注視した。
「純金だな……魔法的なものはない……」
それを元の場所に戻すと床に投げられている鞘に入ったままの細身の剣を手にとった。
「こいつは……刀か?」
シャランと引き抜き刃を確認する。
「お……こいつは魔法武器だな、水の魔法か……」
次々に武器の鑑定を始めるクリス、本来の目的を忘れているようにも思える。
「クリス、自分たちは盗賊ではないんだぞ?」
そんなクリスをみてリガルトが呆れたように声をかけた。
「ああ、すまない、つい癖でな」
剣を元の場所に戻すクリス。
「事が終われば、自分が王になる……そしたらこんな物くらいは礼にやろう」
静かに言い放つリガルト。
「そうか……抵抗勢力ってのはそういうものだったな」
思い出したように呟くクリス。
事実、今まで忘れていたのかもしれないが。
「ああ、だから今は先へ急ごう」
真摯な瞳でクリスを見つめるリガルト。
「まぁそう焦るな……」
視線を流し、物色を再開するクリス。
リガルトが僅かに眉根を寄せるが、クリスは飄々としたものだ。
そこには大きな肖像画が掛けてあった。
ヒヘト王と王妃だろうか。
玉座に寄り添う姿が描かれている。
「そんなものを見つけてどうするんだ?」
リガルトが若干苛立ちを含ませながらクリスに問いかけるたが、クリスは気にもしないで絵を見据える。
「こういうのは大抵絵の裏って相場が決まってるんもんじゃないか?」
笑いながら腰にかけてある細剣を鞘から抜き、そのまま肖像画を縦に切り裂いた。
「ほらな?」
切った衝撃で肖像画から壁から外れ、そこには通路が現れた。
「祭壇に一直線だ、いくぞ」
リガルトはあっけに取られたのは、口をポカンと開けた。
「知っていたのか?」
「一応見えてはいたが……、でもな? 宮殿なんてのは隠し通路は一つや二つじゃないんだぜ? 王になるなら覚えときな」
言いながら、クリスは中へと足を進めた。
***
薄暗く蝋燭の炎だけが揺らめく大広間。
その中心に佇むようにその男は居た。
白の髪に紅い瞳、血の気のないような白い肌。
ウェスタリア国王ヒヘトである。
しかし、様子が可笑しい。
普段のような薄い笑ではなく、胸に手をあて苦しそうに目尻を釣り上げ苛立つように言葉を吐き出していた。
「なんで……僕が……くそっ……血が足りない……半吸血鬼共は……そうか騒ぎの鎮圧の指揮に向かわせたんだ……ああ、最近は献上品も少ないというのに……たかだが反抗勢力に何を手間取っているんだ半吸血鬼共は……」
そんなヒヘトを見つめる視線が二つ。
祭壇の影から、クリスとリガルトが様子を伺っていた。
「周りには誰もいないようだが……どうする?」
クリスが小声でリガルトに囁いた。
「まずはこれを試す……」
そう言うとリガルトは胸から筒を取り出した。
「それは……?」
「吹き矢と言うものだ、小さな針が対象めがけ飛んでいく暗鬼の一種だな……石眼毒牙竜と呼ばれる竜種の毒が塗ってある……」
「石眼毒牙竜!? 実在するのか……?」
小声で叫ぶという器用な事をするクリス。
「実在は知らないが、流れの商人から仕入れたものらしくてな、小瓶一つでウェスタリア金貨七枚だ……、効果が伴えば石眼毒牙竜だろうがなんろうが構わない……」
クリスを手で制すと大きく息を吸い込むリガルト、その後に吹き矢を構える。
ヒヘトは未だに悪態をつきながら下をむいている。
リガルトが「フッ」と吹き矢吹いた。
プスンと聞こえるか聞こえないくらいの小さな音がした。
「いつっ、なんかチクっとしたよ……なんか痒くなってきたし……ヤブ蚊かな? 人の血吸いやがって吸血鬼め……」
ヒヘトは何かを感じたのか首筋を摩っている。
「おい……なんか効いてねーぞ?」
「いや……あれでいい……」
首を未だに摩っているヒヘト。
「なんかざらざらしてきたな……あれ……」
言葉が途切れる。
「い……きが……」
見れば針の刺さった所から体が徐々に灰色に……石になっていた。
首に刺さったので首から変化していく。
口をパクパクと平開させるヒヘト。
まるで陸にあがった魚のようだ。
次第に石化は体重に広がり、やがて全身に広がった。
しばらくするとそこには喉を押さえ、苦悶の表情をする石像が出来上がっていた。
「あっけない……というか石眼毒牙竜の毒こえーな」
クリスは半笑いだ。
「事は成した、首をとって上に戻り勝どきをあげよう」
そう言うとヒヘトに近づいていくリガルト。
クリスもそれに続く。
リガルトがヒヘトの首を切ろうとの首を抑えようしたときだった。
「そんな男でも、今殺されると困りますの……」
広間に声が響き渡った。
「誰だ……?」
振り返るリガルト、けれど声の聞こえたほうに姿はない。
「いない……?」
喋ると同時にリガルトの裏で甲高い金属音が響いた。
リガルトが振り向けば、クリスが細剣を抜いて、赤髪の女に斬りかかっていた。
そして女はそれを手を交差させ、手甲で受け止めている。
どうやらリガルトを襲おうとしてクリスに止められたようだ。
ギリギリと金属の擦れる音が辺りに響き渡る。
「貴方、随分とお早いのねぇ……?」
女はすました顔で軽口を叩く。
「……何者だ貴様」
「シダーラと言うのだけど、覚えといてね可愛いお嬢さん」
シダーラは優雅に微笑む。
クリスに背筋が凍るような悪寒が走る。
クリスは相手を見据え、一気に三つの聖痕を発動させた。
両腕に灯る、剛力。
足に灯る、剛脚。
眼に灯る、千里眼。
手加減などするつもりも無いのか、手甲の上からギリギリと女を押し込み、徐々に壁のほうへと追い詰めていた。
するとシダーラはクリスの瞳を覗き込んだ。
「あら、あなた聖騎士? 聖騎士とはいえ女性を殴るのは忍びないのですけど……」
言葉が終わるかいなか、女は眼をつむり深く息をすいはじめる。
しかし、その隙を逃すクリスではない。
すぐさま、女の懐を狙って飛び込むように細剣を横になぎ払った。
けれどもギャリンと硬質な音がして、女の腹からほんの少しばかりの血が飛び散っただけだった。
硬い。
人の皮膚の硬さではない。
鋼鉄に切りつけているかのような衝撃が、クリスの手に走る。
僅かに手が痺れるクリス、心なしか細剣に歪みができたようにみえる。
直後に、シダーラは目を見開く。
お返しとばかりにシダーラの裏拳がクリスの側頭部に襲いかかった。
前に転がるように飛び出し、紙一重で裏拳を避けるクリス。
そのまま、受身をとりすぐさま細剣を正眼に構えた。
「あら……普通の子なら今ので終わってますのに……」
シダーラは不思議そうな目でクリスを見ている。
「リガルトっ! ……ぼーっとしてないでとっととヒヘトの首をとって逃げろ!」
クリスは叫ぶ、額には薄らと汗が滲んでいる。
なり行きを見ていたリガルトが、クリスのその言葉に我に返り懐から短剣をとりだしヒヘトに振り下ろした。
「させないでありんす!」
するといつのまにいたのか、どこからか銀の髪に青い瞳の女がリガルトの腕に飛びかかった。
「なんだお前は!」
もつれ合う、二人。
リガルトはそのまま、女を思い切り振り払った。
「ぎゃふっ」
小さなうめき声をあげて、壁に叩きつけられて悶絶する銀の髪の女。
「貴方、今。女の子を殴ったわね……?」
言うか早いか、シダーラは既にリガルトに肉薄していた。
シダーラの拳がリガルトへ叩きつけられた。
「ガッ」
鈍い音がしてリガルトが吹き飛び、祭壇へと叩きつけられた。
「リガルトっ!」
クリスは叫ぶが、しかし、リガルトは微動だにしない。
けれどもその間ににもリガルトにシダーラが迫る。
「ちぃッ」
クリスは悪態をつきながらも肩にある遠投の聖痕を発動し細剣を投擲する。
しかし、それを察知したのか、シダーラは後ろ飛びずさった。
ドコンと大きな音と共に衝撃がはしる。
シダーラがそのまま走っていたらあたっていたであろう場所に細剣が突き刺さる。
床に使われている石材が砕け散り、その場が陥没する。
「これはわたくしでも危ないですわね……」
狙撃の跡をみてシダーラが僅かに眉を潜めた。
その間にクリスはなんとか、リガルトとシダーラの間に立つことができた。
「無事かリガルト! 返事をしろ!」
シダーラを見据えたまま、リガルトに声をかけるクリス。
「うっ……、大丈夫だ……げふっ」
あまり大丈夫そうに見えないリガルト。
けれどもなんとか立ち上がることはできるようで、ゆっくりと立ち上がる。
「そちらのも案外丈夫ね……それともわたくしの腕が落ちたのかしら……?」
シダーラは喋りながらも距離をとり構えた。
「そこの黒耳長!動けるならヒヘトを治しなさい!」
シダーラは叫ぶ。
その言葉に、銀髪の女……黒耳長はふらりと立ち上がり。
ゆっくりとヒヘトに近づいていく。
それを見て表情を歪ませるクリス。
まずい……黒耳長だと……それも石化を解除できるほどの高位魔法使い?
クリスが黒耳長を狙おうと動こうとするが、それに合わせてシダーラもからだの向きを変える。
床に突き刺さった細剣を起点にするようにクリスとシダーラが睨みあう。
その時。
「わし、石化解除とかできないでありんす……」
広間に情けない声が響き渡った。
一瞬の空白。
シダーラの額に汗が一筋輝いた。
逆にクリスは黒い笑を浮かべる。
クリスのその顔に一瞬、シダーラは一瞬怯み躊躇した。
クリスはその隙に床から細剣を引き抜き、その勢いのままシダーラに向かって切り上げた。
シダーラは上体を逸らして紙一重で避ける。
しかし、当たらないことが計算のうちなのか、クリスは勢いのまま体を回転させ回し蹴りを放つ。
シダーラは手を交差させ、回し蹴りを受け止める。
しかし、踏ん張りきれないと思ったのか自分から後ろに飛び退いた。
「ふざけた威力ですこと……鬼の私を吹き飛ばすなんて」
そのつぶやきに一瞬だけ目を見開くクリス。
「やはりか……」
リガルトが呟いた。
「知っていたのか?」
クリスがリガルトに問う。
「同族くらいわかるさ……」
リガルトは苦笑する。
「お前も……鬼……」
なるほどそれならば、クリスと同じ行動を取れる体力にも頷けるというものだ。
「自分は隠していたつもりはなかったがな……」
「あら……同族でしたの? でも雄にしては随分か弱いのですね?」
シダーラはリガルトを見ながら挑発する。
「あんたこそ随分強いな? まるで雄みたいだ」
返すリガルト。
軽い言葉の応酬に互いに黙りこむ鬼二人。
リガルトがシダーラを見据えたままクリスに声をかける。
「こいつは俺が引き受けよう、その間にヒヘトの首を頼む」
「ああ、だが……」
クリスは言いよどむ。
「問題ない……先ほどは不意をつかれただけだ」
言い切るリガルト、その顔には自信が垣間見える。
「随分と甘く見られたものですわね……わたくし女の子じゃなければ手加減などしませんわよ?」
その言葉を合図にか、鬼二人は互いに目をつむり、息を大きく吸い込んだ。
二人が目を見開いた次の瞬間。
パアン!
ちょうど二人の間の中央で、重い物がぶつかるような激しい衝突音が聞こえた。
一度だけではない。
何度も何度も、幾重にも聞こえている。
音源を見つめるクリス。
そこではリガルトとシダーラが殴り合いを繰りひろげていた。
互いに避ける気もないのか、殴り殴られ。
超近接での激しい打ち合いだ。
衝突音に聞こえたのは拳が肉を殴る打撃音だった。
純然たる力のぶつかり合いが、そこにあった。
互いに、体は傷つきそれでも気にせず。
ただ只管に殴りあう。
それは、ある種の本能のぶつかり合いのようにも感じられる。
「激しいな……?」
クリスのつぶやきは虚しく、打撃音にかき消された。
改修




