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だんちょーの経緯  作者: nanodoramu
三章 Daughters of the tragedy Country of the wasteland
42/121

Ⅸ Ogress

改修

 




 灼熱の日差しが辺りに降り注ぐ。

 下手をすれば肺すら焼くでであろう高い気温。

 しかし、高い気温とは真逆の如く静まり返る街があった。

 ウェスタリア王国、王都グラナデウである。


 王都の大通りというには人はほとんど見当たらない、見つけたと思えばすぐに室内に入ってしまう。

 家はラライエの村同様、石や土でできているものが多く、半ば砂に埋まっている。


 そんな中外套(マント)を被ったかぶった二人が道を歩いていた。

 フードでよく顔は見えないが、銀髪の女性と痩躯の男性だ。


「王都でこれか……? こんな状況でよく生活していけるな?」


 銀髪の女性、クリスが疑問を口にだした。


「生活自体はきつくはない、こんな砂漠や荒野だらけの土地でも植物も育つし、それを食べる動物もいる、人々が食べていけるだけの量をとっても生態系は狂いはしない」


 痩躯の男性……リガルトはそう答えるが、表情はどこか沈痛な面持ちである。


「ふむ? そうなると恐怖政治というのはなんだ? 法律か?」


「そうだ、ウェスタリアで罪をおかした場合どんな罰を受けるか知っているか?」


「流石に知らんが……? 厳しいのか?」


「死刑だ」


「は? ……それは重罪人とかでもなくてか?」


「ああ、どんな小さな罪でも死刑だ」


「……」


「病気で体調を崩し稼げずに税を払えなくても死刑、親の居ない子供が僅かな食料を盗んでも死刑、役所に奏上しても死刑……そこに例外はない」


「なんだそれは? それで国民は黙っているのか?」


「初めは反感も多かったが……しかし、反対したものは全て死刑になり、やがて皆死刑を恐れ。法を受け入れてしまったんだ……」


「そんな事をしたら国から出ていく奴らで今頃周辺諸国は溢れかえっていると思うんだが……?」


「王都……クリス達は地下を通ってきたからわからないだろうが、地上を通れば検問があり、そこで莫大な税を取られるんだ……普通の民では決して払えないような」


「……」


「もちろん検問を無理やり抜けようとすれば……」


 リガルトはそういって指で首を切る仕草をした。


「……しかし、それでは国力は徐々に落ちていくだろう」


「そうだ……そんなことは誰だって少し考えればわかるのに、国は自分の首を絞めるような政策ばかり行う……死刑と先ほど言っただろう? ……けれども実際は宮殿に集められているらしい……盗賊団の事もそうだなぜわざわざ盗賊団など国が作り、人を……それも女性ばかり集めているのか……理由がわからない」


「もしかして、その法律ができたのは最近か……?」


「四年ほど前になるが……何か心辺りが有るのか……?」


「少しな……しかし、そうなるとヒヘト王はなりふり構ってられない状況ということか……」


 先日の件もある、確実に国王吸血鬼(ヴァンパイア)ヒヘトは弱っている。


 理由はわからないが、悠久を生きるという吸血鬼(ヴァンパイア)が仮にも母体と呼ばれる女性を欲しがるとい事は、後継が欲しいということだろうか?


 それも半吸血鬼(ダンピール)ではなく正当な吸血鬼(ヴァンパイア)が……。


「テートが狙われてなければ、待つという選択しも会ったかもしれないが……」


 クリス小さく呟いた。


「っと、ここだ」


 急にと立ち止まるリガルト、一軒の家の前で立ち止まった。

 リガルトが辺りを見回し、誰も居ないかを確認する。


 そして家の戸口を三回叩き、キーワードを口にした。


「窮鼠猫を噛む……」


 すると戸口が勝手に開いた。


「いこう……入ったら勝手にしまるように成っている」


 家の中に歩いてゆくリガルト、クリスもそれに続いた。

 中に入るとそこには、木箱が大量に積まれており、近くに壮年の男が一人座っていた。


 男はクリス達を見ると欠伸をして、立ち上がる。


「やっときたかリガルト。ご注文の品だよ、確認してくれ。加護付きの剣が三百に槍が三百、弓が百に矢が二千だ」


「わかった」


 そう言うとリガルトは一つ一つ木箱を確認し始める。

 壮年の男はどうやら武器商人らしい。

 リガルトが木箱を確認している間暇なのか、壮年の男がクリスに目を向けた。


「なんだい? このお嬢さんは抵抗勢力(レジスタンス)に女? ははぁ……さてはリガルトついにお前も嫁さんが来てくれたかぁ……」


 しみじみと語る男。

 それ聞いてクリスはゴミを見るような目で壮年の男を見ている。


「ただの護衛だよ」


 リガルトはにべもなく切り捨てる。


「女が護衛だぁ? そんなに強いのかこの嬢ちゃん?」


「エフレディア王国の聖騎士(パラディン)様だ、言葉に気をつけろよ?」


 リガルトは軽く笑う。


「あー……、そいつはすまんかったなぁ……ていうか本物……ですか?」


 急に腰の引ける壮年の男。

 額に汗がにじみ出ているのは暑さのせいだけではないだろう。


「……確かに聖騎士(パラディン)だが……、いつも思うんだがこの国に聖騎士(パラディン)はどのような形で伝わっているんだ……?」


 クリスは壮年の男に尋ねた。


「知らないので? いえ知らないのですか?」


 壮年の男は怯えたように丁寧に話す。


「別に普通に喋っていい、でどんな風だ?」


「えっとですね、この国の王妃様、第一王妃様なのですが……大戦……いえ聖戦でしたね、聖戦を生き残った黒耳長(ダークエルフ)なんですが……」


 その言葉に、レティの母親だろうか?と思案する。

 ふと、脳裏にレティの怯えようが浮かび上がる。

 酷いものだった。


「それで?」


「ウェスタリアは十字教圏じゃないのはご存知ですよね?」


「それくらいは知っているとも」


「王妃様はかつての聖戦で聖騎士(パラディン)に襲われたのですが……」


「戦争だし当然だろ?」


「ですよね、ですけどその襲われて自軍が壊滅し、エフレディアからウェスタリアに逃げるまでの逃亡記を執筆なされているのです……」


「そこでどんな風に描かれているんだ……?」


「物語は王妃様の視点ですが……次々に仲間が倒れて行き、ヒヘト王に助けられる所までが書かれています……」


「ちょっとまて……百四十年前の話だろ?ダークエルフの王妃はわかるが、王までなぜ一緒なのか疑問に思わないのか?」


「王は黒耳長(ダークエルフ)猿人(ヒューマ)混ざりもの(ハーフ)らしく、ウェスタリア王国の治世は二百年も前から今のヒヘト王ってことになってますね」


 それなら十字教圏でないのも頷けるし、王が吸血鬼(ヴァンパイア)だとバレていないのだろう。


「ウェスタリアから西や南は三日月教ですからね。猿人(ヒューマ)の十字教も表立って攻撃はできないし、他の部族もウェスタリアを攻撃できなかったんです。それこそウェスタリアを十字教が攻撃してしまえば聖戦以上の大規模宗教戦争に成りかねないですからね、だから聖戦で戦いから逃げた部族なんかは結構三日月教の地域に散っているんですよ」


「なるほど……」


 クリスは面白いことを聞いたなと思う。


 今後の方針に新たな目処がたった。


「ですから国境を超えるまでが逃亡記のほとんどですね、王に救われた所でお話は終わっています……」


「それで実際聖騎士(パラディン)は王妃に何をしたんだ……?」


「逃亡記のままの話でいいですか……?」


「ああ、かまわん、それでいい」


 おずおずと話し出す壮年の男。


「戦争では舌戦なんて日常茶飯事でしょう?」


「そりゃそうだな?」


「とある頭のハゲあがった聖騎士(パラディン)がいたらしいのですが……ハゲと言ったら憤怒の形相で襲いかかってきたとか……」


「そら聖騎士(パラディン)じゃなくても怒るだろう……」


 ハゲにハゲと言わないのは暗黙の了解である。

 気にしてないように見えて気にしてる人が多いのだ。


「いえまぁ、怒らせて罠にはめるつもりだったと書かれているんですが……落とし穴を作れば空を走り、他の罠もことごとく見破り、昼夜問わず襲撃し、山中では一人づつ仲間が殺されていき、国境沿いのギリギリの所では先回りして王妃様の当時夫だった人を殺して、首だけにして晒していますね、夫の護衛は五十人いたそうで……」


「たったひとりでか……?」


「ひとりだそうです……」


 思わず目を見開くクリス。


「それを経験して生き残ってるんだから王妃も大概だな……?しかし聴いてるだけだとホラ話にも聞こえるな……」


 実際はクリスもほぼひとりで五十人近い盗賊団を殲滅してるので人のことは言えないのだが、自分のことは棚にあげている。


「多少誇張はあるでしょうが、全て事実らしいですよ、ウェスタリアの王都では演劇として公開されてたりもします、結構面白いですよ?」


「なるほど……ウェスタリアにとって聖騎士(パラディン)は最強最悪の悪人って所か?」


「まぁ言ってしまえば……」


 言葉を詰まらせる壮年の男。


「どうりで怯えっぷりがひどかったわけだ……」


 クリスがレティの態度を思い出して苦笑したときだった。


「お話中悪いが確認は終わった、ではサイラス、できれば三日以内に届けてくれ」


 リガルトが確認を終えたのか満足げな表情で壮年の男……サイラスに告げた。


「あいよ、毎度ありー、しかしこんだけの武器を買い集めるってことはいよいよか?」


 途端に明るくなり、クリスに対する態度はどこにいったのか、軽い感じにリガルトと話し始めるサイラス。


 どうにもウェスタリアでは聖騎士(パラディン)が恐怖の象徴のようなものらしい。


「ああ……ではな、いくぞクリス」


 素っ気なく答えるリガルト、サイラスに視線も合わせずに出口に向かう。

 クリスも軽く手をあげるだけでサイラスに別れの挨拶をし、リガルトの後に続いた。


 大通りに戻り、元来た道とは違う方向へと歩を進める。

 すると徐々に人影が増えていく。

 ほどなくすると、広場だろうか人が集まっているのが確認できる。


 道行く人々もリガルトはどうやらそこに向かうのが伺える。

 まもなく、広場に到着する二人。

 そこは砂漠にあるというのに大きな噴水が設置されていた。


 周りには兵士が立ち並び、奥には小屋も見える。


「なかなか見事な噴水だな……?」


「ああ、王都で水は貴重でな自前の井戸を持っていなければ、区画ごとに決められた施設で配給を受けるしかないんだ、ここはその一つだ」


「だが水を貰いに来たわけではないんだろ? 俺たちは容器一つ持っていないぞ?」


「この国の実情を見せてやろうと思ってな……この国で……」


 リガルトが言いかけた時だった。


「いやあああぁ」


 近くで甲高い悲鳴があがった。


「なんだ……?」


 クリスがそちらのほうに視線を送れば、そこには兵士に捕まえられる一人の女とそれにすがりつく男の姿があった。


「お願いします、ほんの一部足りなかっただけではないですか! なぜ妻を連れて行かれなければならないのですか……! 次の納期にきちんと足りない分は払うと言っているじゃないですか……!」


 男は叫ぶ。


「うるさい黙れ、法に従えなかったお前らが悪いのだ! 余計なことで我々の手を煩わせるな!」


 けれども男は兵士に怒鳴られ、蹴られ、殴られ、傷だらけになっていく。


「この施設は一部の裕福層の国民以外は必ず利用する施設と言っていい、そのために税の徴収もこの施設が兼ねているんだ……」


 クリスの耳元に呟くリガルト。


「で、払えなかった奴らはああなると……?」


 その問いに静かに頷くリガルト。


「なるほど……わかったが……、抵抗勢力(レジスタンス)としては助けたいか?」


 クリスがリガルトに問うが、リガルトは渋面をしながら何かを考えている。


「止めておこう……街中で騒ぎを起こしては動きにくくなる」


 見ればリガルトは拳を強く握りしめている。

 動けないことが悔しいのだろう。


 実際ここで一人二人助けた所で焼け石に水であるし、軍事施設のないの街中まで過剰に警戒されては今後の行動がやりづらくなる。


 二人ともその事をわかっているため、目の前の出来事を見て見ぬふりをしようとした。


 そして二人が背を向けて、歩き出そうとしたときだった。


「ぬあああ」


 今度は兵士の者と思われる野太い悲鳴が聞こえた。

 思わずその悲鳴の方向をみる二人。


 女を引きずっていた兵士二人は倒れ、男をなぶっていた他の兵士たちもが倒れている。


 その女は、背中までのばした赤銅色の髪の毛をかきあげながら、そこに立っていた。

 焼け強くような外気温だというのに、それをものともしないような露出の高い服装をしている。


 肌は黄色でこの地域の出自でないことが伺える。

 目つきは鋭く、蔑むような目で兵士を見ている。


「彼女を連れておいきなさい」


 いたぶられて居た男に声をかける女。

 男はわけがわからないという表情をするが、次第に状況が飲み込めたのか、礼を言うと自分の妻を抱えて逃げ出した。


 周りで警戒にあたっていた兵士がそれに気づき、女の元へ駆けつける。


「貴様! 軍へ歯向かうのか!」


 兵士長だろうか、一人だけ他の兵士より少しばかり上等な装いをして兵士が奥の小さな小屋から出てきていた。


「軍? こんな獣ごとき集団が? いえ……獣に失礼でしたわね」


 その言葉に怒りを顕にする兵士たち。

 血気はやった一人の兵士が剣を引き抜き大上段から女に斬りかかった。


 女は右手を前に出すと。

 二本の指でそれを止めた。


 人差し指と薬指、剣戟を止めるにはあまりに儚い二本のそれで、兵士の剣はピクリとも動かない。


「な……ばかな……」


 斬りかかった兵士が呟いた言葉はその場の誰もが思った事だった。


「遊びにもなりません……」


 剣を指で抑えたまま、女は左足で男の股ぐらを蹴り上げた。


「うぎっ……」


 泡を吹いて倒れる男。

 男の倒れた所、股の周辺からは赤黒い血がにじみ出て地面に吸われていった。


 顔を引きつらせる男たち、兵士だけではなくたまたま配給に来てそれを見ていた民衆にも例外はなかった。


 無論、リガルトとクリスもだ。


「ありゃぁつぶれたな……」


「なんて酷い……」


悪魔(デーモン)の所業だ……」


(オーガ)のような女だ……」


 民衆がざわめきたつ。

 倒れた兵士をみて、他の兵士たちは思わず一歩さがった。

 クリスも思わず合掌した。


「さて……次に潰されたいのはどなたかしら? わたくし加減は苦手ですの」


 その言葉に旋律が走る男たち。


「来ないのならこちらから行きましてよ?」


 女が笑いながら、一歩踏み出した。


「そこまでだ、シダーラ」


 唐突に声がかかり、いつの間にか女……シダーラの腕を掴む一つの黒い影があった。


「あら?」


 不思議そう目を見開くシダーラ。


「見知った気配がきたと思えば、これはどういうことだい?」


 黒い影、白い髪に紅い瞳に白い肌。


 国王ヒヘトがそこに居た。


 国王の登場に一瞬ざわめく兵士や民衆。


 けれどもシダーラはだからどうしたとばかりにヒヘトに声をかけた。


「あなたですの? こんな胸糞悪い法律を作ったのは?」


 半ば喧嘩腰である。


「僕の国で僕がどうしようと君には関係ないだろう?」


 淡々と切り返すヒヘト。


「……そうですわねぇ、でもわたくしの前で女性を物みたいに扱うとどうなるかは覚えておいでですわよね?」


 ヒヘトを睨むシダーラ。


「……別に女性に限ったわけじゃないが」


 ヒヘトは僅かに言いよどむ。


「仕方ないので今回は貴方の顔を立ててあげましょう……議会の決定を伝えます、ここじゃなんですからとっとと宮殿に案内しなさいな」


 あくまでもシダーラは不遜に命じる。


「決まったのか……?」


「ええ……」


 神妙に頷くシダーラ。


 するとヒヘトは兵士長に声をかけた。


「象車を用意しろ、すぐに。国賓だ、丁重にもてなせ」


「は?」


 思わず声をあげた兵士長、目が点になっている。


「象車だ、大至急」


 繰り返すヒヘト、その声は苛立ちを含んでいる。


「ですが、その女は法律を破った者をかばい、あまつさえ兵士に怪我を負わせました……」


 気丈にも言い返す、兵士長。

 案外仕事熱心な男だった。


「そんな事はどうでもいい、とっとと用意しろ」


 けれどもヒヘトに一蹴されてしまう。


「は、はい」


 悲鳴のような返事をすると兵士長はどこかへ駆けていった。


「象車がくるまで、小屋に入る。ここは日差しが強くてかわなない」


「仕方ないですわねぇ、吸血鬼(あなた)たちは……」


 そう言うと連れ立って兵士の休憩小屋に二人は向かっていった。

 気づけば残りの兵士も見回りに戻り、辺りの民衆も何事もなかったのかのように振舞っている。


 民衆たちにもわけがわからないはずだろうが、これが恐怖政治というものか、静寂が辺りを支配していた。


「一旦、戻ろうリガルト」


 クリスがリガルトに声をかけるが、しかし、リガルトは動かない。


「どうした?」


 顔を覗き込むクリス、そこには憤怒の表情をしたリガルトが二人が歩いていく先を見つめていた。 


「直にあって王に怒りが湧いたか?」


 尋ねるクリス。


「それもあるが……あの女……」


 リガルトは眉間に皺を寄せながら何かを考えている。


「強かったな……知っている女か……?」


「ああ……だが……いや……まさか……」


 ブツブツと呟くリガルト、気にはなるものクリスはあえて追求することはしなかった。


 ふと先ほどの女を思い出すクリス。


 旧知の仲って奴か……? あの女が敵に回るとなるとまた面倒そうだ。


 つうか、案外戦える女っているもんだなぁ。


 いまだにブツブツとつぶやいてるリガルトを横目にクリスはしみじみと頷いた。




 





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