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だんちょーの経緯  作者: nanodoramu
三章 Daughters of the tragedy Country of the wasteland
41/121

Ⅷ Preparatory steps

改修



 砂漠の中にそれはあった。


 切り立った崖に囲まれたそこは、知らなければ決してたどり着くことはできなだろう場所だった。

 そこにはいくつかの家屋がみえ、色々な荷物が運ばれてきているのがわかる。

 載積場である。

 本来王に献上される品々を検分し、選別するのがこの場所なのだ。

 そのため外部に場所は漏れることはなかったのだが。


 一人の半吸血鬼(ダンピール)によってその情報は反抗勢力(レジスタンス)にもたらされた。

 そんな載積場の遥か上方、崖の上には十数人の人影が外套(マント)をはためかせていた。


「見張りはいないか……準備はいいか?」


 一人の女性が他のものに確認する。

 銀の髪を風に靡かせ、その紅い瞳には光が宿り、遥か下方を見つめている。


「ああ」


「構わない……」


「おっけーだ!」


 あちらこちらから準備が出来た事を知らせる報告をされる銀の髪の女性。


「ヒイロ……風の精霊は呼べたか?」


 銀の髪の女性がヒイロと呼んだ少女を見つめる。


「いっぱい呼べたよ、クリスねーちゃん、着地のときだけでいいんだよね?」


「ああ、十分だ……では行こうか」


 そう言うとクリスはヒイロを抱きかかえ、崖を飛び降りる。


「クリスに続けー!」


 大柄な銀髪の女……ユカラが叫び、飛び降りた。


 次々に飛び降りる外套(マント)を被った者達。

 切り立った崖はとても高く二百メートルはあるだろう。

 一見集団自殺にすら見えるその行為。


 けれども、全員音すら立てずに柔らかな砂地に着地する。


 風の守りだ。

 ヒイロが呼んだ風の精霊の力により、高所からの落下速度を押さえ衝撃なく着地する事ができたのだ。


「見事だ、ヒイロ」


 クリスがヒイロが褒める。


「お礼なら精霊に言ってくれよ、クリスねーちゃん。アタイは頼んだだけだからさ!」


「そうか、ならば精霊に感謝を」


 クリスは笑い、ヒイロを降ろした。


 そして腰の鞘から細剣(レイピア)を引き抜き、聖痕に小魔力(ポリ)を巡らせた。


 クリスの聖痕(スティグマ)がいくつか輝く。

 細剣(レイピア)を構え、思いっきり投げ放った。


 ドンッという空気を切り裂く音がして、辺り一帯に風や砂がまい上がる。

 続いてドンッと何かを突き破る音が聞こえる。

 そして最後、ドスンッと何かに突き刺さる音がした。

 細剣(レイピア)が反対の崖に到達し、突き刺さったのだ。

 

 その音を聞いてか、何人かの黒装束が屋内から出てきて、辺りを確認している。


 そして、クリス達に気づいたようだ。

 それを確認したクリスは高らかに叫ぶ。


「愚かなるウェスタリアの兵士たちよ! 我らは民を虐げる暴虐の王から、友を! 家族を! 仲間を! 取り戻しに来た! その心に真に国を思う気持ちがあるならば囚われた人々を解放せよ!」


 けれども、反応はなく沈黙のみが帰ってくる。


「既に傀儡か、それとも兵士の心が腐っているのか……どちらだろうが下手に反応があるよりやりやすくていいが」


 挑発的な笑を浮かべるクリス。

 その時、一本の矢がクリスに向かって飛んできた。


「わかりやすい返答だ」


 クリスは言いながらも矢を目前で掴み取った。


「ふむ……矢か、ヒイロ、風の精霊に弓の軌道をそらすよう頼んでくれないか?」


「任せてくれよ」


 ヒイロは胸を張る。


 その姿は戦場にあるというのにどこか微笑ましい。

 クリスは矢を高く掲げ言い放つ。


「この矢が返答というならば、貴様らの命もこの矢と同じものと思うがいい!」


 クリスその矢をへし折った。


 しかし、クリスが喋る間に屋内から少しづつ黒装束が出てきてその数を増やしていった。


 その数二百はくだらない。


 屋内から崖したまでは遮るものはない。

 黒装束の一人が剣を振り上げた。


「おおおおおおおお」


 それを合図に他の黒装束達が怒声をあげなら、クリス達に向かって走り出した。


「さて行くか? 予備の槍を貸してくれ」


 クリスは反抗勢力(レジスタンス)の一人から槍を受け取ると、そのまま一人で前に駆け抜けた。


 味方の誰もがギョっとし眼を見開いた。


 速い……、砂の上だというのに鎧をつけたまま振れもしないで駆け抜ける。


 あっと言うまに黒装束の目の間に到着するクリス。


 けれどもクリスは一人。

 黒装束達の波に飲み込まれると、誰もが思った。

 けれどその瞬間、半数以上の黒装束が姿を消した。


 否、よくみれば黒装束のいた場所には大きな穴が空いていた。


 消滅の聖痕(スティグマ)をすでに発動させていたのだろう。


 そしておそらく黒装束達はそこに落ちたのだろう、しかし砂地のためか徐々に穴は埋まり始めている。


 生き埋めだ。


半吸血鬼(ダンピール)! 居るんだろ? こんな雑魚では相手にもならんぞ?」


 クリスは挑発的に笑う。


 すると奥にいる、黒装束がきょろきょろしはじめた。


 そして、少しだけ前にでて、クリスを確認すると。


 背中を向けて逃げ出した。


「おい?」


 すぐに他の黒装束にうもれて見えなくなる半吸血鬼(ダンピール)と思わしき者。


「どいつもこいつも……半吸血鬼(ダンピール)ってのはどんな教育されてんだ!」


 イラだちととも言い放つクリス。


 若干すさんでいるようにも見える。

 それも当然であろう。


 国の施設を襲撃し続けはや一ヶ月、いくらか半吸血鬼(ダンピール)らしき者を見つけたり、煽りだしたりしたものの、その尽くがクリス達聖騎士(パラディン)を見ると逃げるのだ。


 例えウェスタリア側が優勢な戦場でもそれは変わらなかった。

 どうやら聖騎士(パラディン)に相当根深い何かがあるようだ。


 半吸血鬼(ダンピール)の態度にイライラしているクリスの後ろから。

 静かに影が忍び寄り、その白刃をクリスに振り下ろそうとして。


 剣が飛んだ。


 気づけばクリスのもつ槍の石づきが、振り返りもせずに剣の柄を跳ね上げていた。


「俺に不意打ちが効くと思うなよ?」


 クリスの瞳には十字の光が灯っていた。


 クリスが振り向くと同時に黒装束の首が飛んだ。


 見れば斧槍(ハルバート)がその首を飛ばしていた。


「急ごしらえにしては悪くない……、クリスあまり前にでるな、我々は囮なのだろう?」


 ユカラが残りの面子を引き連れて、クリスのすぐ後ろにまで走ってきていた。


「現状雑魚しかいないし、俺に注意を向かせれば敵の狙いがテートから俺に変わるかもしれんからな」


 表情(かお)に心配をにじませてクリスが言う。


 現在テートは反抗勢力(レジスタンス)の拠点に預けている。


「そうか……ならば私でもいいだろう!」


 そう叫びながら斧槍(ハルバート)を振り回し、黒装束の中に突撃するユカラ。


「……いいけどさ?」


 釈然としない面持ちのままクリスも後に続いた。


 




 



 




***












 眩いばかりに光輝く黄金の調度品。

 謁見の間だというのに陽光は入り込まず、明かりは蝋燭で賄っている。


 左右には黒装束の男たちが左右に控えている。

 どれもが屈強な戦士であり、装備一つとってみても一流といっていい品物ばかり。

 けれどもその目はどこか虚ろで虚空を見つめている。

 そんな男たちに守られているのは、あどけない少年のような顔だちの王、ヒヘト・ウェスタリアである。


 その肌は病的にまで白く髪は白、そしてその目は血を連想させるほどに紅かった。

 ヒヘトは玉座の上でただ静かに嘲笑っていた。


 王の前には数人の献上品(さらわれた人々)が並んでいる。


 どれも美しく若い娘達だ。

 それを見てヒヘトを黒装束の一人に目配せをする。


 すると数人の黒装束の男たちが献上品を奥へと連れて行った。

 そんな娘達を気にもせずにヒヘトは献上品(さらわれた人々)を持ってきた者に声をかけた。


「いつもより大分少ないね……?」


 語りかける声は優しくも聞こえるが、言ってる内容は糾弾にほかならない。


「盗賊団がやられてからというもの、抵抗勢力(レジスタンス)の抵抗も強まり……」


 声をかけられた半吸血鬼(ダンピール)は言い訳をするが、ヒヘトは歯牙にもかけない。


「それをどうにかするのが君たちの仕事じゃないかな? エルーニ?」


 静かに話しかけてはいるものの、その顔に笑みはない。


 エルーニ、彼女は現在いる半吸血鬼(ダンピール)の中では最古参にあたる。


 特徴もなく平凡な銀の髪に青い瞳、ウェスタリアでは珍しくもない赤褐色、背も高くもなく低くもない凡庸な体。


 半吸血鬼(ダンピール)の中でも地味と言える部類である。


 だがその地味で目立たないがために、長生きは出来ていた。


 しかし、今回……本当の最古参になってしまった(………………)半吸血鬼(ダンピール)である。


 そして、最古参の努めはリヒトの傍仕えである。


「集積場が襲われまして……集めて居た献上品がほぼ奪われました……」


 その言葉に、一瞬だけヒヘトの表情(かお)が困惑の色に染まる。


「集積場が? あそこは内部の者しか知らない場所じゃなかったのか?」


「どうやら……レティが抵抗勢力(レジスタンス)に寝返ったようです……」


 絞り出すように言葉をはエルーニ。


「レティ……レティ……、誰だったかな……?」


「末の妹に御座います……」


 その言葉に思い出したようにああ……と手を合わせるヒヘト。


「僕の記憶が間違っていなければ、レティには献上品集め(盗賊団)を任せていたんじゃなかったけ?」


「……集積場にて献上品を待っていた所、時間になっても現れませんでしたので、斥候を放った所……途中の橋は焼けただれ、さらに先には使っていた盗賊団と思わしき遺体が散乱しておりました。死体の形跡から何かと戦闘をしたものかと……恐らくは抵抗勢力(レジスタンス)に強襲、拿捕され……その後寝返ったものと思われます……」


 淡々と事実を告げるエルーニ。


「へぇ……いくら末の娘とはいえ、抵抗勢力(レジスタンス)如きにしてやられるとは思っていなかったなぁ?」


 感嘆の声をあげるヒヘト、けれども怒りがこみ上げているのか、その青白い肌に薄らと赤みがさした。


「どうやら母体候補が抵抗勢力(レジスタンス)に加わったようでして……集積場から逃げ帰った者の話ですと聖騎士(パラディン)が居たと……その時レティも連れ立っているのが確認されています……」


 その報告を聞くと途端に大きな声で笑い出すヒヘト。


「アッハッハッハハハハハハッハハハ」


 狂気を含むような笑い声、ヒヘトはしばらく笑い続けていた。


「……」


 エルーニはただ沈黙を貫いた。


 静かにし、ヒヘトの感情が収まるのを待つのがエルーニにがこれまで長生きできた秘訣でもある。


 ピタリと笑い声が止まり、ヒヘトがエルーニに声をかけた。


「愉快だとは思わないかエルーニ?」


「何が? でございましょうか……?」


 慎重に言葉を紡ぐエルーニ。


 この男の前で粗相などすればいくら実子とはいえ首が飛ぶ。


「何が……? 全部さ! 母体候補が見つかったと思えば、そいつは抵抗勢力(レジスタンス)に入っているというじゃないか? いずれ自ら僕の手のひらに転がり込んでくるだろうがね! それに……レティもだ! 夢物語に聞かされた大戦の話、ある意味親の仇とも言える相手を使ってまで僕を倒そうとしている……これが愉快といえずなんと言える?」


 心底愉快だという笑みを浮かべるヒヘト。


 エルーニはただ怯えるしかなかった。


「君たち半吸血鬼(ダンピール)は、吸血鬼(ヴァンパイア)である僕には決して勝てない……」


 言いながら目を細めるヒヘト、瞳が黒く怪しい光を帯びる。


「ヒッ」


 それを見て小さな叫び声をあげる、エルーニ。


 エルーニの瞳もつられるように黒く光り始める。


「怖いかい……? 怖いだろう……? 半吸血鬼(ダンピール)は所詮吸血鬼(ヴァンパイア)の失敗作。ほんのちょっと小魔力(ポリ)をいじるだけで暴走する」


 エルーニの瞳の光が段々と収束していく……。


 そして……プチンッと音を立ててエルーニの両目が弾けた。


「っうあ……」


 急激に失われた視界、痛みはない。

 けれども突然の出来事に錯乱するエルーニ。


 瞼は空いているはずなのに視界に映るものは暗闇のみ、立つこともままならず腰を落とす。


「なんで……見えないの……」


 眼球のなくなった虚ろなそこからは涙が流れ始めた。


吸血鬼(ヴァンパイア)の失敗作である君たち半吸血鬼(ダンピール)は傷の再生さえままならい、霧になることもできず、血を吸って下僕を作ることもできず、母体になれず、おまけに魔眼さえもお粗末な劣化品……ただ体が少し丈夫なだけの猿人(ヒューマ)と何も変わらないじゃないか……?」


 嘲り罵るヒヘト、その眼差しは無機物をみるかのように冷淡だ。


「それが僕に歯向かうって? これが絵空事じゃなかったなんていうんだい?」


 玉座を下り、足音もさせずにエルーニ歩み寄る。


「利点があるとしたら、血の美味しさくらいの癖にね?」


 その言葉に、後ずさりを始めるエルーニ。


 しかし無情にもその背中はすぐさま壁につき当たる。

 またもや黒装束に視線を送るヒヘト。


 すると黒装束の二人が動き出しエルーニを左右から持ち上げた。


「いやあああああああああああ」


 玉座にエルーニの悲鳴がこだまする。


「うるさいな、君の代わりくらいはいくらでもいる。死んだらまた産ませればいい……おっとこれも利点だったね?」


 笑いながら、嘲りながら、リヒトは口を大きく開いた。


 その口には人族では有りないほど発達した牙が四本。


「ああ・・ああっ」


 恐怖で喋ることもままならないエルーニ。


 誰でもいい……、誰か助けて……この化物を殺してよ。


 祈るエルーニ、けれども祈りは届かない。


 ヒヘトの牙がエルーニへと突き刺さる。


「んぐぅううう」


 余りの痛みに歯を食いしばる。


 エルーニの頭に走馬灯が流れはじめる。


 母の事、今までの苦しい生活の事、姉妹の事、全てが流れ最後に一つ末妹の顔が浮かび上がる。


 レティ……一族を、皆を救いなさいよ……私をこんな目に合わせて……じゃないと許さないんだから、ね……。


 血を吸われながらも、気丈に一族のことを思うエルーニ。


 けれども徐々に意識が薄くなり、自分の体から何かが抜けていくのを感じている。


 同時に薄れる恐怖。


 恐怖がおそれた先にエルーニに訪れたもの、それは怒りだった。


 むかつくなぁ……このクソおやじ……何様なんだよ? ああ……王様か……でもそしたら私……姫だろ? 普通姫ってもっと、オホホ、ウフフな生活してんじゃないの?何この扱い?


 ふつふつとエルーニに恐怖を覆すほどの怒りが湧き上がる……。


 もう……どうせ死ぬし、いいや。


 エルーニは最後の力を振り絞り、ヒヘトの首筋に噛み付いた。


「?!」


 驚き目を見開く、ヒヘト。


 思わず自分が血を吸うのは辞めてしまう、しかし、その間にも血は吸われ続ける。


 ヒヘトの血が、エルーニへ流れ込む。

 すると、死にかけていたエルーニにわずかだが活力が戻ってくる。


 もっと……欲しい。


 吸い出したら止まらない。


 吸い尽くさんが勢いでその血を吸っていく。


 思わず飛びすざるヒヘト。


 しかし、よほど強く噛み付かれていたのか、少しばかりの肉片が飛び散った。


「エルーニ……貴様……僕の血を!」


 荒い息を吐き、片膝をつきながら激昂する。


「父さんの血って美味しいのね……」


 静かに喋るエルーニ。


 口からヒヘトの血をたらし、その姿はとても官能的に見える。


「きっさまああ……僕の……高貴な血を……!」


 顔を真っ赤にさせて叫ぶヒヘト。


「僕の血をっ僕の血をっ僕の血っおおおおおおおおおおおおお」


 そしてヒヘトは激昂し、その瞳が黒く輝き、大魔力(モノ)を集め始めた。


「人の血を吸ったくせに自分の血を吸われると怒るなんて、器のちっちゃい男……」


 その言葉をきっかけに、ヒヘトは怒りのままに魔眼を発動した。


「消え失せろ! くそがああああああ」


 瞬間、無数の針が虚空から召喚され、黒装束の男ごとエルーニの体を余す所なく貫いた。


「はぁはぁ……くそっ、この(アマ)……」


 こちらが本性なのだろう。


 口調が酷く乱れ、もはや先ほどの物静かな青年とは似ても似つかぬほど所作も荒れている。


 針だらけになり、黒装束は霧のように霧散してしまった。


 そこには大きな血だまりができ、エルーニの体ももはやただの肉塊にすぎない。


「持っていかれた……くそがっ!」


 しかし、なおその肉塊に罵声を浴びせるヘヒト。


 謁見の間ではしばらくの間、罵声が止むことはなかった。










***




 








「あれが王か……」


 クリスは静かに呟いた、その瞳には光を宿している。

 玉座の間での一部始終を視ていたようだ。 


「また千里眼(ソレ)か? 何をみているんだ」


 ユカラは不思議そうな顔で問いかける。


 囚われの人々の奪還の後、まだ注意があちらに向いている間に間髪いれずに王宮の物資を焼くためだ。


 そのため現在二人はウェスタリアの宮殿の裏手にある食料庫に忍びこんでいる。


「ちまちまとした作戦ばかりで暇でな……宮殿の内部を……少しばかり偵察を……」


 今までの作戦は載積場への襲撃、人々の奪還。魔法兵(ゴーレム)の待機所における魔法兵(ゴーレム)の破壊工作や武器の収集、人員の増強。そして今回の食料庫への襲撃という、決して派手ではないのだけれども、どれも必要な事である。


「国を落とすのだ、誰でも慎重になるだろうさ? しかし、純度の高い酒は巻終わったぞ……まったくもったいない、後は火をつけたら撤収するが……」


 未練がましく酒の事を考えているユカラ。


「もったいない……別に酒でなくてもいいじゃないか……油や火薬だってあるだろうに……」


「油や火薬では匂いがきついからな仕方あるまい……、リガルトは人為的な発火だと悟らせないためだとか言ってなかったか?」


「そう言うならそうなんだろうが、勿体無いと思ってしまうのはどうしようもない」


 心底残念だというように、肩を落とすユカラ。


「大して強くもないくせに、大概なやつだ……」


 そう呟き再び宮殿の玉座のほうを睨むクリス。


「気になる所でもあったか?」


 ユカラが不思議そうにクリスを見つめた。


「いや、なんでもない……」


 弱っているとはいえ今は夜だ、吸血鬼(ヴァンパイア)が相手なら襲撃は夜明けまで待つべきだろう。


 ――あんたの行動が無駄にならない事を祈るよ。


 クリスは名も知らぬ半吸血鬼(ダンピール)に対し、静かに冥福を祈った。


 

 


 


 




 







 


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