Ⅳ Extermination
改修
闇の中を走る影が三十ほど、殆ど音も立てずに進んでいく。
全員が黒装束を着込み、顔を布で隠している。
半数以上の黒装束をが大きな麻袋を抱えている。
袋の中からはくぐもった声が聞こえる。
人が入っているのだろう。
中には暴れるものもある。
だというのに、その足は僅かにも乱れはしない。
黒装束達は、静かに迅速に事を運ぶ。
まもなく、黒装束達は一枚の大きな岩壁の前に足を止めた。
そこで、黒装束達は岩を数度叩いた。
すると、岩に縦に亀裂が走る。
ゴゴゴッと大きな音を立てて、岩は観音開きに左右に開いた。
岩に見えるがそれは大きな扉であったのだ。
中には闇が広がり奥は伺いしれない。
しかし、手前には洋燈や松明、剣や鎧、他にも食料が置いてあり、生活臭さがにじみ出る。
ここが一種の活動拠点という事である。
そして、風の流れがあることから何処かに繋がっているのだろう。
奥に続く道には線路が引かれ線路の上には大きなトロッコがいくつも置いてある。
黒装束の男たちはトロッコに次々と袋を乗せ始めた。
袋の中身が動くためそれなり大変そうである。
時折「動くなっ」と黒装束たちが袋に声をかけている。
それでも動く袋もあるため、時折殴り、蹴り飛ばす一部の黒装束。
「もう少し丁寧に扱えっ、傷かついたら商品価値が下がるだろうがっ」
乱雑に袋を扱う黒装束を叱咤する、大柄な黒装束。
トロッコには着実に袋が詰め込まれていく。
トロッコに袋を詰め終わった頃。
少しばかり辺りを確認する大柄の黒装束。
微かに感じる違和感。
「なんだ……?」
再び辺りを確認し人数が少ない事に気づいた。
慌てて声をかける。
「おい、足りてねーぞ? お前ら、誰が来てない?」
その声にどよめきが起こり、互いに顔布を外し確認し合う黒装束達。
しばらくし、確認が終わったのか、一人の黒装束が声をあげた。
「ペチン、トルタ、タジマ、クロイチ、ナシコミ、タヤ、レイド、ナンクム、チマが居ません……」
その発言に騒めく黒装束達。
「居ないの多すぎだろ!? もっとはやく気づけよてめーら!」
大柄な黒装束が怒鳴り散らす。
そして、細身な黒装束に話しかけた。
「頭、仲間が随分と居ません……おそらくはやられたものかと……」
少しばかり悔しそうに報告をあげる大柄の黒装束。
「ラライエの村に我らに対抗できるような手練の戦士がいたのですか……?」
首を傾げる頭と呼ばれる黒装束、年が若いのか声は女のように高い。
「今までも、一人、二人ならやられた事はありやすが、この数は……」
驚きを隠せないのか大柄な黒装束が、言葉を濁した。
「昨日、ゲハラも殺られたばかりだというのに……、村への偵察は何か情報を持ち帰ってないのですか?」
頭は丁寧な口調で問いただすが、言葉には怒気を含んでいる。
苛立っているようだ。
ゲハラは馬鹿だが腕は立った。
ゲハラの抜けた穴を埋めるのはそれなりに大変なのである。
頭は顎を手で触りながらため息をついた。
すると怯えたように、小柄なチョビ髭を蓄えた男が頭の前に進み出た。
「女の旅人が三人ラライエに立ち寄ったそうですが、それ以外にめぼしい情報と呼べるようなものは……」
「女の旅人ですか?」
ふと頭の脳裏に不安がよぎる。
――ゲハラを殺したのは銀の髪の女ではなかったか?
聞いたときは頭とて何を馬鹿なと思ったものだが、偵察がそんな嘘をつく意味がない。
まさかと思い、頭は聞き返す。
「はい、女だけ三人ばかりとか、外套を見る限り東の国のものかと、一人はさっき攫った中に紛れていますし……女だけなんで別に何も報告もせずとも問題はないかと……」
挙動不審なぐらいに、ちょび髭の男は狼狽えた。
「馬鹿野郎! 必要かどうか判断するのはてめぇじゃねえ!」
大柄な黒装束が一喝した。
ちょび髭の男は縮み上がったのか、「ひっ」と小さな声をあげた。
大柄な黒装束は掴みかかろうとする。
しかし頭がそれを制した。
「良いです、ジスタン。ですが次からはどんな細かい事でもできるだけ報告するように……。トロッコに詰めたその旅人の女を連れてきなさい」
「はいぃぃぃっ」と情けない悲鳴をあげてちょび髭の男とほか数人が頭の命を聞いてトロッコに向かい袋を漁る。
袋の上のほうにある小さな覗き穴を覗いている。
「あ、こいつかな、でかいし」
「こいつ酔っ払って寝てやがったんで、簡単に浚えたんですよ」
「肌色はうちらと似てるけど、この髪の毛、東ってより北の奴じゃね?」
話しながら袋を外し、大柄の女をトロッコから担ぎ出す。
頭の前にいそいそと運び込む。
「こいつです、頭」
一人がフードを外し、その長い銀の髪を垂らした姿が顕になった。
「銀髪の女……」
頭が誰へともなく呟いた。
まさか――。
頭の視線の先で女は眠りこけている。
一人が軽く頬を叩くが反応もしない。
「外套も外しなさい」
一人の黒装束が女の外套を外す。
するとそこにエフレディア王国の騎士服が姿を現した。
「なんだこいつの服? 女の癖してエフレディアの……衛兵の服……?」
ジスタンが不思議そうに検分する。
「騎士服……銀髪……っ! 目の色を確認しなさい!」
叫ぶ頭、何かを焦っている。
「へいっ」とジスタンが女の瞼を開き確認する。
流石に瞼を開けば、女は多少反応を見せるが、それでもまだ寝ている。
「紅です、頭ぁ」
それを聞いて頭の脳裏に最悪の状況がよぎる。
「首を落としなさいっ早くっ!」
もはや悲鳴のような声で叫ぶ頭。
「へ? せっかくの商品を……、上玉ですぜ? せめて理由くらい……」
ジスタンの言葉は続かなかった、入口のほうから大きな音が聞こえたのだ。
パンッと聞こえる断続的な破裂音。
音がする度に倒れる仲間達。
パンッと聞こえるたびに仲間が倒れていく。
暗視の呪文をかけてはいるが、何かが飛んできていることしかわらない。
弓矢よりも遥かに早い。
「伏せろっ! 結界を張れ!」
ジスタンは伏せながらも警戒を促した。
しかし、伏せさせた仲間の一人が飛来する何かにあたる。
当たった瞬間、頭部が弾けた。
飛び散る脳漿、血まみれの骨の欠片。
即死である。
悲鳴を出す暇すらない。
伏せた者もお構いなしに、飛来物はその頭だけを狙ってくる。
腕で頭を守ったものは腕ごと弾け飛んだ。
「なんだよ、これはっ! 結界はどうした!」
「張ってます! 張ってますけどおおおおお、ぶはっ」
一人がジスタンに答えるものの、叫びながら命を落とした。
飛来する何かは結界すらも突き破り、黒装束を襲う。
断続的に聞こえる破裂音に衝撃音、洞窟が揺れる。
しばらくの後、音が途絶える。
洞窟の外からは届かない直線で届かない場所、物陰にいた頭とジスタン以外は全てが首をなくしている。
そこには乾いた地面ですら吸いきれないような血だまりが出来ていた。
「くっそ!? 何が……」
叫ぶジスタン、だが最後まで言葉を発する前に、彼の頭は首から離れていた。
暗闇の中、一つの影が白刃を煌めかした。
「盗賊と言ってもこの程度か……まぁ俺でも反則くさいとは思うがな」
この場には似つかわしくないような綺麗な女の声が洞窟に響く。
綺麗な声に反して粗暴な言葉遣い。
大柄な女とは別の、銀の髪に紅い瞳の女が、クリスがそこに悠然と佇んでいた。
それを見て腰が抜けたのか、座り込み涙を流し、鼻水を垂らしながらな後ろに下がる頭。
「あっ……あっ……」
恐怖でもはや声すらでないのだろう、嗚咽のようにも聞こえる。
「お前が頭か……? まったく手間を掛けさせてくれる」
クリスが声をかける、手には銀色に輝く細剣が握られている。
「パ……聖騎士……なんで、こんな所に……」
必死に声を搾り出す、盗賊の頭。
それを聞いて、クリスは目を丸くする。
「へぇ、知っているのか……? まぁ……聖騎士伝説はいくらかあるが……」
クリスはすこしばかり思案する。
けれども、「別にいいか」と剣を盗賊の頭の首元に添える。
「さて……その首、もらおうか?」
ニヤリと笑うクリス。
「っ!」
クリスの笑みを見た瞬間言葉にすらならない悲鳴をあげる盗賊の頭。
そして、そのまま気絶した。
「……本当に頭かこいつ?」
臆病すぎだろうと言う言葉は飲み込んだ。
頭の足元には血ではない水たまりができている、洞窟の血の臭いに混じる尿の匂い。
「……盗賊の頭の割には臆病だな……顔くらい拝んどくか?」
細剣で黒装束の顔布を破り、顔を覗くクリス。
黒に近い褐色の肌に、透き通るような銀の髪。
青い瞳は虚空を見据えている……半開きだが。
しかし、顔立ちは調おっており綺麗と可愛らしいとの間だろうか、パッと見では性別はわからない。
「女か……?」
ついでにと、胸の辺りの服も少し切り裂いてみる。
そこには何重にも巻かれたサラシが見え、わずかだがサラシの裏から膨らみが主張していた。
「女だなぁ……」
旅の目的を思い出すクリス。
――話くらいは聞いてみるか。
たまたまそのへんにあった手頃な袋にソレを詰めるクリス。
詰め終わった頃に床に転がるそれに目が行った。
「おい、ユカラ。いつまで寝てるんだ」
腹を蹴飛ばしユカラを起こす。
「……なんだ!? 敵襲か!? 暗いぞ!ドワッ」
飛び起き周りを見回すユカラ。
しかし暗くて何も見えず、血に滑って転ける始末だ。
それを見て思わずため息をつくクリス。
「仕方ないな……」と呟き、 胸元から丸い玉を取り出し、少しばかりの小魔力を込める。
小魔力を込めると玉は光だし中に浮かんだ。
「これで見えるか? もう事は終わってるが……」
照らされた辺りを見回すユカラ、血の海である。
「これはお主がやったのか? 容赦がないのぅ……蛇女をやったのと同じ方法か?」
ユカラは辺りを見て、顔を顰め、匂いを嗅いで鼻をつまむ。
そして、呆れたように尋ねた。
「ああ、もっとも投げたのは細剣じゃなく、其の辺に落ちてる小石だけどな」
クリスは肯定し、左手にもったいくつかの小石を見せる。
「小石でこれか……、巫山戯た威力だな」
驚きながらも感心はしている様子のユカラ、血の海を観察している。
「お前の聖痕でも似たような事はできるさ、早く覚える事だ」
「私はどうも同時発動というのが苦手でなぁ、一つ一つなら簡単なんだが……」
試しに小石を一つ手に取るユカラ、右手の甲に十字の光が灯る。
手をにぎにぎと平開し調子をみるが、小石をくだいてしまう。
「調整が上手くいかぬ……」
「……脳筋」
「むぅ……」
ユカラは、納得がいかなという表情で唸る。
「聖痕はあとでいい、それより、トロッコに攫われた女が積み込まれているから、助けてやれ……」
クリスはトロッコ指し示す。
「助けてやるのは、構わないが……攫われた女とはなんだ?」
それを聞いてクリスは心底面倒そうに深くため息をついた。
***
ラライエの村ではかがり火が煌々と焚かれていた。
襲撃があった広場を囲むように、木で防柵が作られている。
半裸の男が防柵の中に走り込んでくる、走っていたのか息を切らせている。
「ダメだ村長……、どの家も軒並み男は子供含めて皆殺し、女は姿が無ぇ……多分さらわれただぁ……生き残りは広場に残った奴だけだど……」
訛りの強い半裸の男が、村長に告げる。
「そうか、ありがとうヤスケ、ゆっくり休んでくれ」
ヤスケに告げる村長、ヤスケは舞台で剣舞を披露していた男の一人だ。
村で一番の戦士である。
そのため盗賊の襲撃時もそれなりに戦えてはいたのだが。
ほかにも何人か戦士はいるものの、剣舞のあと疲れた状態での不意打ちだ。
生き残れた物は多くはなかった。
なんとか生き残ったもので防柵こそ施したものの、皆疲れきって座り込んでいるものも多い。
「なんと言う事だ……くそっ……シャルティア……」
村長は娘の名前を呼んだ。
目は赤く、泣きはらした跡がある……。
村長だけではない、村人は一様に嘆き悲しみ、家族或いは友人の事を憂いてる。
「今、クリス様……団長が盗賊団の後を追っています、いずれ何らかの進展があるでしょう……」
テートが村長を慰めた。
「ああ、ありがとうございます、騎士様……クリス様のおかげで私の命も救われましたぁ……しかし、騎士様も女性……相手はおそらく、悪名高いサイレント盗賊団です、大丈夫でしょうか?」
ラライエの村で生き残ったのはわずか三十人、もとより百人もいない小さな村だったのだ。
クリスが盗賊を蹴散らしながら追いかけて行ったあと、混乱する場を収めるために自分たちの素性を語ったテート。
他国で女とはいえ、騎士であると。
その肩書きはそれは戦士こそ居るが対人経験の少ないこの小さな村では十二分に役に立った。
「うちの団長様は、そこらの盗賊がいくらいようと負けるようなお方ではありませんのよ……。しかし、今までこの村にこういった事はなかったんですの? 戦士が居るということは手馴れたものも多いはずなのでは?」
いくら相手が手練の盗賊団とはいえ被害が大きすぎた。
ほとんど全滅と言っていい、それともこれが盗賊団の手口なのだろうか。
そうだとしたら、恐ろしい盗賊団である。
テートは訝しむ。
「なにぶん、谷以外なにもなく、目立った産業もなく、娯楽もなく、国境沿いとはいえこんな土地を欲しがる国もなく、おかげで戦火もなく、谷の村同士で小さな諍いこそありますが、大きなものなど今まで一度もありません、平和な所でして……戦士と言いましても狩りにでる連中をそう呼ぶだけでして、狩猟なら得意なんですがねぇ対人経験のあるものは殆ど居らんのですよ……」
三十人生き残ったのが奇跡であった。
「……そうですか」
クリスの増援にいけそうな面子を見繕おうとしていたが、不可能そうな事にテートは歯噛みする。
「本来なら領主様の兵隊がこういうときは助けてくださるのですが……」
言葉を濁す村長。
「本来ならと言いますと……?」
テートは気になり続きを促す。
「……実は最近、王都のグラナデウで内乱が起こっているそうでして、色々と忙しいらしく、ラライエは国境に一番近い村だというのに見回りの兵もほとんど来ません、もっとも豊かな東の国がこんな貧しい西の国に攻めてきた事はないんですけどね……」
村長は沈んだ声で説明する。
本来の見回りの兵士がいたのならば、今回の襲撃もまた違った結果になっていた可能性があるだろう。
「盗賊といい、内乱といい……国が荒れているのですね……」
思わず同情してしまい、テート自身も少しばかり悲しくなる。
「そうかもしれませんね……」。
気持ちが落ち込むような事ばかり喋ってしまい、二人とも気まずい空気になり沈黙が辺りを支配した。
静かになった広場ではパチパチと篝火が燃える音だけが響いている。
数分、数十分たった頃だろうか、ふと村の外から変な音が聞こえてきた。
ガシャン、と鳴る鉄がぶつかる様な音。
ズズー、と重たいものを引きずるような音。
村の外、闇の中から聞こえてくる。
目を凝らせば何か大きな四角い影が見えてくる。
先頭には何物かが荒い息をつきながらも、それを引っ張っている。
またガシャン、と音がなる。
鎖だ、鎖の音だ。
何者かはそれに連結された鎖を引っ張っているのだ。
何者かの後ろには繋がれてるのであろう、四角い箱のようなものが何個もつながっていた。
そして怪しい影はだんだんと広場に向けて近づいて来ていた。
怪しげな影に思わず身構える村人たち。
「今度はなんだぁ……!」
震えながらヤスケが立ち上がり剣を構えた、しかし腰が引けている。
ズズンッと箱を引きずりながら近づいてくる影。
またガシャンと音が鳴る。
「ひぃっ……」
音に怯え一歩さがるヤスケ。
盗賊の生き残りか、はたまた別の何かか……。
何かはわからないがソレは確実にこちらへ近づいてくる。
私がやるしかないか――。
決意と共に一歩進み出るテート。
松明を左手に掲げ、右手はすでに短剣を抜いている。
松明が影を照らす。
そこには荒い息を吐きながら、鎖を引っ張る銀髪の大柄な女が……。
ユカラが汗だくになりながら、トロッコを引いていた。
思わず体の力が抜けるテート、膝から崩れ落ちるように座りこんでしまった。
「ユカラ……さん?」
問わずにはいられなかった。
「ハァハァ……ん? テート……か? とういうことは村についたのか……?」
ユカラは息も絶え絶えに喋る。
「村ですけど……それはなんですか?」
トロッコを指差すテート、一つの大きさが横二メートル縦が三メートル奥行も二メートルはありそうな大きなトロッコである、一応車輪もついている。
それが三つほど鎖で無理やり繋げてある。
「攫われたものたちが……このトロッコに乗っているんだ、クリスに聖痕の訓練がてら……引っ張れと言われてな……クリスなら一番後ろのトロッコに乗っているぞ」
大きく息を吸うユカラ、よく見れば体の数箇所の聖痕が薄らとだが光を帯びている。
「同時発動は苦手だと言ったのに容赦がない……、あれは鬼だ……」
すると間髪いれずに反応があった。
「誰が鬼だ……。こんな夜道を女ばかりでゾロゾロ歩かせるよりはいいだろうと思った気遣いの結果だぞこれは?」
いつの間にか居たのだろうか、クリスが文字通り目を光らせながらもユカラの横に立っていた。
「説明するのも面倒だからそのまま運ぶか……、と言ってたではないか……それを気遣いと申すか……」
呼吸を整えながらもジト目でクリスを睨むユカラ。
「……結果的にはこちらのほうが合理的だろう? お前の訓練にもなる」
目を逸らし若干逡巡するものの開き直るクリス。
「お主は……」
呆れた声をあげるユカラ。
「それで、攫われた人たちは無事なんですか!?」
クリスたちのやり取りをみて、多少落ち着いたのか……村長が割り込んできた。
「ああ、もちろん無事だ……といっても、まだ縛られてはいるが……トロッコに載せてある」
「有難うございます……!」
村長は駆け出し、トロッコを確認しだす。
慌てたように、生き残った村人もそれに続いた。
「お前らも手伝ってやれよ?」
そう言うと手前のトロッコの端に飛び乗るクリス。
一人づつ袋を外しながら、抱き上げ村人に渡していく。
次々と出てくる女性たち。
はじめは驚いたりしている者が多く、むしろ状況を理解できている者のほうが少なかった。
しかし、村人に説明を受けると助かったという事実がわかり、皆無事を喜んだ。
けれど、すぐさま村の惨状を聞いて愕然とする。
家族や恋人を亡くしたものも多いのだろう。
盗賊の死体も村人の死体も、暗くて危ないために大した処理もできずにほぼ手付かずである。
家族や恋人を失ったものは途方に暮れて泣き出すものも少なくはない。
二つのトロッコから村人を出し切るとクリスは村長に告げた。
「この人で最後です、今夜は広場で一夜を明かすのがいいでしょう。警戒はしておくので村人は全員休んでおいてください……」
「何から何まで、有難うございます……おかげでシャルティア……私の娘も無事に帰ってきてくれただけでも十分です、本当に有難うございます」
そう言うと村長や村人たちが深々とお辞儀をした。
「……騎士として当然の事です、それが例え他国であろうとも」
そして騎士の礼を取るクリス。
村人からは感嘆の声があがる。
テートはうっとりしたように見つめている。
ユカラに関しては、誰だコイツ?というような失礼な目で見ている。
「警戒はこちらは任せてお休みください」
休憩を促すクリス。
「そうですか……では、ありがたく休ませて頂きます……」
村長はそう言うと皆を舞台のほうへ連れて行った。
クリスはそれを確認すると三つめ、最後のトロッコに飛び乗った。
「さて、こいつはどうするかな……?」
一つだけ、ポツンと置いてある袋、若干だが揺れている。
袋を剥ぎ取り覗き込むクリス。
二つの青い瞳と目が合った。
改修




