Ⅱ Scramble for a White lily
改修
外套をかぶり旅の装いをしてる女性が三人、街の中を歩いていた。
駱駝を二頭引っ張り、その背には荷物を背負わせている。
クリス、ユカラ、テートの三人である。
「必要なものははこれで揃ったでしょうか?」
テートが声をかけた。
「ああ、問題ない。これで十分だろう両替もしたし、砂漠用貫頭衣も買ったし、駱駝も買った」
クリスが確認しながらも、答える。
「クリス、この砂漠用貫頭衣とやらを着るのなら、外套でよくはないのか?」
ユカラが不思議そうに問いかけた。
「なん……だと……!?」
途端驚愕に彩られるクリスの表情……目を見開いて固まっている。
確かに肌を隠すっという意味では外套で十分である。
「そんな事言わずに、せっかく買ってもらったのですから着ましょうよ? きっと似合いますよ」
テートがフォローする。
クリスの表情をみて何を思ったのかユカラが呆れたように声をだした。
「お主も変なところが抜けてるなぁ……」
「たまたま気づかなかっただけだ……」
クリスは少し不貞腐れた。
クリスは無駄を嫌う。
だというのに、自分から無駄な事をしてしまうのは少しばかり自身に苛立った。
「まぁいい、もう街に用はない。とっとと出よう今日中に国境は超えたい」
すぐに気を取り直して次の行動に移るクリス、立ち直りは早い。
すでに入ってきた方向の東門とは逆の西門の所へ向かって歩き出している。
慌てて二人も後に続いた。
程なくして、西門が見えてきた。
東門とは違い大きく厚い作りになっている。
敵国ではないといえ、国境に一番近いのだから当たり前といえば当たり前だが。
しかし、何か騒がしい。
門前には人だかりができている。
見れば東門以上に多くの衛兵が集まっている。
衛兵が何かをしゃべるようで一人が前に進み出た。
クリス達も何事かを聞こうと前に進みでた。
「現在、サレナの街に盗賊、サイレント一味が忍びこんでいるというため、全門を封鎖させてもらいました。商人や旅人の方々には申し訳ありませんが、騎士団のほうで逗留所を用意いたしますので、この騒ぎが収まるまで逗留させて頂きたいと存じます」
突然の衛兵の宣言。
門を封鎖するのだという。
辺りは一瞬騒然となった。
しかし、今度は急激に騒がしくなる。
当然だ、ここは国境沿いの街である。
既に荒野も近く、目立った資源も、交易もない寂れた街である。
国境沿いという、どうしても寄っておくべき拠点だからこそ、ギリギリで栄えているような街なのだ。
当然ここにいる人たちは、街の住人よりも外部の人の割合のほうが遥かに多い。
特に旅人や商人などはその最たるものだ。
故に次々と衛兵に罵声を浴びせ始めた人々は旅人や商人である。
「ふざけんなー、なんの権利があってそんな事しやがる!」
商人風の男がが憤慨し叫ぶ。
「そうだ! そうだ!」
民族衣装を着た小さな小男が激しく同意した。
「土蚯蚓の繁殖期だぞ! 俺たちがアレを狩らなきゃお前ら肉が食えなくなるんだぞ! それでもいいのか!」
狩人風の男が叫ぶ。
「そうだ! そうだ! もっと言ってやれ!」
小男が煽るように同意した。
「国に帰って薬をおっかさんに届けなきゃいけないんだよ! 通してくれよ!」
痩躯の男性が叫ぶ。
「そうだ! そうだ! 救える命を見殺しにするのか! 何様のつもりだ!」
小男が憤慨するように同意した。
若干、不自然なほど騒ぐ小男。
この状況、文句の一つも付けたいのは理解できる。
けれども、少しばかりこの、小男は過剰に過ぎた。
賛同するのは理解できる、クリス自身も出られないのは流石に苛立つ。
だが、この小男は自身の文句を言うでもなく。
只管に、他人の文句に乗っかって煽るだけなのだ。
質の悪いクレーマーにしか見えない。
この小男が騒ぎすぎるおかげで、クリスも文句を飲み込む程に。
ここまであからさまだと、意図的に煽っているようにしか見えなかった。
「そこのチビ煽りすぎだろ……落ち着けよ」
クリスはそっと声をかけた。
「あん、なんだいねーちゃん! 俺に文句あんのか?」
「騒ぎすぎだと言ったんだ、騒いで変わるものでもないだろう?」
「けー! 何言ってんだ! これが騒がずに入られるかい!」
「盗賊が入っただけだろ? 封鎖されたら、時期捕まるだろう」
「何言ってんだ! サイレント一味といえば、ここらじゃ、最強最悪の盗賊団よ! 鋼鉄のゲハラ様に拷問のピアラ、なぞの覆面首領レティ様までいるんだぜ? ここいらの衛兵じゃ無理無理、相手にもならないぜ」
矢鱈と詳しい、小男。
「有名なのか?」
「エフレディアじゃ知らんが、少なくともウェスタリアじゃ有名さ、逆らうやつなんて何処にもいねえ」
小男は自慢気に語る。
「そうか、では何故、お前はそんなに詳しいんだ?」
「そりゃ、おめえ、俺は鋼鉄のゲハラ様だからよ!」
瞬間、商人、狩人、旅人、衛兵、その全ての目が小男に集まった。
「あっ……」
間抜けな男である。
「えっ? ちょっ ?ち、違いますよ……?」
今更取り繕っても無駄である。
衛兵が数人歩み寄り、小男の肩に手を伸ばした。
「ちょっとあっちで話そうか? 煽ってたのは事実だしな?」
衛兵の手が肩にかかろうとしたその時。
ズムッと鈍い音が聞こえた。
すると小男に手を伸ばしていた衛兵が倒れ伏す。
「バレちゃしょうがねえ!くそっそこの女ちょうしコキやがって!」
ゲハラは叫ぶ。
途端倒れた衛兵をみて逃げ惑う人々。
残った衛兵達は徐々に距離を詰めながら武器を構え始めた。
ユカラとテートも後ろに下がり、片手平剣をいつでも抜けるように鞘に手を伸ばしている。
ちなみにこの片手平剣は王都の騎士団御用達の標準武装である。
ユカラは槍斧が得意なのだが、流石に旅に持って行くには邪魔なようで、今回は置いてきている。
「お前の自爆だろう……」
クリスは完全に切れた様子で呟いた。
けれども、眼は何処か半笑いだ。
それがゲハラに火をつけた。
「てめぇ、舐めやがって! 俺はサイレント盗賊団、切込隊長のゲハラ様だぜ!」
改めてゲハラと聞いて騒めく衛兵達、腰が引けている。
クリスは不思議そうな顔をした。
聞いたこともないとばかりに、完全に覚めた目つきで見つめていた。
「旅人か? なら運が悪かったな! 見目はいいじゃねえか? 今なら謝れば俺の女にしてやるぜ? ガハハ」
ゲハラは大きく口をあけて笑う。
体の大きさに見合わぬ豪快な性格のようだ。
「小男の癖にガハハとか……迫力ねーなぁ……断るに決まってんだろ? きめぇ」
それを聞いても、飄々とするクリス。
台詞からして完全に挑発している。
「なら、力づくで俺の女にしてやらぁ!」
頭に血が登ったのだろうか。
ゲハラは叫びながらクリスへと突っ込んでくる。
駆ける間に手足が僅かに発光した。
詠唱破棄でも身体強化。
肉弾戦を主軸とする戦士だという事が伺える。
クリスはチラリと衛兵の様子を確認するが、ゲハラに怯えているのか誰も動こうとはしなかった。
職務怠慢も甚だしい……、仕事しろ仕事、国境なのにこの練度……盗賊がのさばるのも仕方なしか?
クリスがそう思いつつも憂さ晴らしがてら、ゲハラをどう倒そうかと思案したときだった。
クリスが動くよりも先に白刃が煌めいた。
テートが、片手平剣を片手に前に飛び出していた。
「テート?!」
思わず叫ぶクリス。
「こいつは私がやります……!」
ゲバラと相対するテート。
片手平剣をゲバラに向かって振り下ろした。
ガキンッと鈍い音が、響く。
テートの振り下ろした片手平剣はゲハラの片手についている手甲に受け止められていた。
「なんだ、ねーちゃんも俺の女になりたいってか!」
ゲハラは下品な笑みを浮かべ、テートを舐めまわすように視姦する。
「巫山戯たことを!」
次々剣を繰り出すテート。
しかし、全て片手で受けられる。
時には弾かれた。
「女にしちゃ、腕は立つが俺様には勝てねーよ」
ゲバラがテートの剣を手のひらで受け止めた。
そして、ぐっと力をこめる。
するとどうだ、剣がまるで紙くずのように握り潰されたのだ。
その事実に驚愕する面々。
クリスさえも、感嘆している。
「サイレント盗賊団、鋼鉄のゲハラとは俺のことよ! 俺には剣はとおらねー!」
ゲハラは大きな声で名乗りをあげる、。
そのまま、テートを蹴り飛ばした。
「盗賊如きがっ」
なんとか受身をとり、テートは悪態をつく。
しかし、蹴られた衝撃で外套が外れてしまい、騎士服が顕になる。
「おいおい女の癖に騎士服だぁ? しかもそりゃ、翼竜騎士団の黒服じゃねぇか? 女騎士? 慰安婦かおめえ?」
ゲハラが下品に笑う。
「翼竜騎士団にも慰安婦がいるってかー、それなら俺も入りてーな」
完全に馬鹿にしている。
翼竜騎士団の名前を聞いてか、戦闘を伺っていた衛兵達にざわめきが走る。
短剣を取り出すテート、その目は怒りで燃えている。
「我が名はテート・サーシェス! 翼竜騎士団長グラン・サーシェスの娘ですわ!」
叫びながら、テート短剣を振りかざす。
「だから、きかねーって」
キンッと硬質な音がして弾かれる短剣。
テートはそれでも次々の攻撃を繰り返す。
戦闘は徐々に激しくなる。
一方少しだけ離れて、冷静に観察するクリス達。
「なんで、テートあんなに切れてんの?」
不思議そうに眼を丸めていた。
「さぁな? 初めから何かに怒っていたようだが、翼竜騎士団の名前をあのゲハラとかいう男が喋ったときに、さらに怒ったように思えるな」
実際はゲハラのクリスを俺の女にしてやる発言に切れかけて思わず突っ込んでしまっただけなのだが、恋する乙女は無謀である。
「ああ、親の事を言われて切れたのか……でもテートじゃあの男はきついだろ? お前はどうだ?」
そして、知ってか知らずか、おそらくは後者だが、呑気に戦闘を観戦するクリス。
「私でもあれほどの相手ならば、槍斧がなければ苦戦しそうだな、聖騎士になった事で身体こそ強化はされているが、聖痕の使い方はまだ掴みきれん」
逆にいえば、槍斧があれば苦戦しないと言っているようなものだ。
ユカラのその顔には自信が垣間見える。
「だろうな。テートもみた感じ聖痕はまだ使えないようだし、どうするかな……?」
「しかし、あの男もよく攻撃をはじく、いつかを思い出すな?」
ユカラはクリスを見て、広角を釣り上げた。
「さて、いつだかな……?」
惚けるクリス。
「いつかまた再戦を挑むから覚悟しておけよ?」
「聖痕くらい使えるようになったらなぁ」
クリスはやる気なさげに答えた。
ユカラに勝つと、模擬戦だろうと土耳長の視線が痛いのだ。
駐屯所で何度か繰り返しているが、いっこうに視線は厳しくなるばかり。
本人は気にしていないというくせに、周りの視線が痛いのはどういうわけか、そんな理由もあってクリス的にはあまり戦いたくない。
仮に戦ったとしても負ける気もないが。
そんな事をクリスが考えているとユカラが小さく声を漏らす。
戦況に変化があったのか、クリスがテートを確認すると、右腕が……袖の下だろうが、僅かに光を灯している。
「土壇場で使えるようになるとか、演劇の主人公か……」
クリスは呆れた声をあげる。
しかし、千里眼の聖痕をちゃっかり発動させている。
「右腕に、左足の裏? 右腕は豪腕か? 足は移動補助系かな……? 目もわずかだが……千里眼じゃないな……なんだ?」
「さてな? しかし、千里眼の聖痕はそんな所まで見えるのか? なかなか便利なものだな」
「ああ、便利だろう? 服くらい透かして見える」
「男だったら覗き放題だな?」
ピシリと固まるクリス。
まさかな?
ギギギと錆びた絡繰のように、ユカラの顔を見上げると、すでにその視線は戦闘に向いていた。
ちょっぴりほっとするクリス。
途端。
「あれはなんだ……?」
ユカラは神妙に呟いた。
テートとゲハラ。
その戦闘は一見膠着状態に思えた。
テートが短剣を振るうもはじかれる。
よしんば当たったとしても肌にかすり傷くらいはつくが通らない。
「くすぐったいぜぇ? ねーちゃんもソロソロ諦めろや? 楽にしてやるぜ?」
卑下た笑いをしながら、ゲハラは短剣を握潰そうとする。
何か理由でもあるのか、ずっと武器破壊を狙っている。
「このぉっ」
声をあげ短剣を振り抜くが硬質な音が響き、弾かれる。
「ハァハァ……」
テートは荒い息をつきながら、再び短剣を構えた。
ゲハラは笑いながら、テートに近づく。
「無駄だって言ってんだろ? そんなチンケな武器じゃ手甲どころか、俺に傷をつけることだってできねーぜ? そろそろ飽きてきたし、終わらせてやるよ」
気合一声。
ゲハラは力む。
するとゲハラの体に小魔力が巡り、大魔力を呼び寄せる。
体は膨れ赤みが掛かる。
まるで赤銅のような色合いだ。
さらに筋肉は膨張し、その姿は一回り大きくなる。
「どうだ、逞しいだろ? 照れることはないぜ、すぐに舐めた口を聞いた女共々ひぃひぃ言わせてやるよ」
なおも卑下た笑いで挑発を繰り返すゲハラ。
テートの怒りが頂点に達する。
巫山戯るな、クリス様は私のものだ! こんな奴にくれてやるものか!
テートの思考もゲハラと余り変わらないが、言わぬが華である。
そして、テートは強く願った。
力が欲しい……こんな奴に負けない力が。
すると、不思議な事にテートの体に力がみなぎる。
騎士服の上からではわかりにくいが、いくつかの聖痕が光を発する。
再び短剣を構え斬りかかるテート。
手を前に出し、手甲で受けるゲハラ。
「無駄だっていってるだろぅ? ……ありゃ?」
甲高い音がして手甲が落ちた、同時にゲハラはいくらかたたらを踏んだ。
「急に重くなりやがった?」
ゲハラは気味の悪いものを見るような眼でテート観察する。
警戒を増したようで僅かに目尻が釣り上がる。
しかし、たたらを踏んだ隙を逃すまいと追撃をかけるテート。
「まぁ、わざわざ受けてやる必要もないんだよっ?」
けれども、紙一重で全てよけられる。
もっと、はやく……いえ速度ではないもっと確実に……。
テートが願う。
するとどうした事か、ゲハラが急に動きを止め、顔をきょろきょろし始めた。
「増えやがった? なんなんだおめえ!?」
ゲハラが叫び、当たり構わず腕をふり回す。
しかし、何が増えたのか、外から視る限り何かが増えてないどいない。
周りからみれば気が狂ったのかとでも言われそうな光景である。
「あれはなんだ……?」
「見えない敵に攻撃してるような……幻覚でもみてるんだろう。幻覚の聖痕とでもいうのかな、あの目は」
クリスは考察する。
千里眼に寄って手に入る情報ではゲハラは幻覚を見ている事が理解できる。
そして、その幻覚を作っているのがテートの眼だという事も解る。
「なんとも、厄介なものだな……? しかし、ああも腕を振り回されては近づけまい? 鋼鉄のゲハラなのだろう? 体そのものが武器だと思うが」
「さて、どうだかな……? 聖痕はもう一つ光ってる、まぁ危なくなったら助けるさ……? いい訓練だろ」
クリスはそう言って戦いを見つめる。
目が常に光っている、消費の大きい千里眼を発動させているというのは、テートを思っての事だろう。
何かおかしければすぐさま飛び出せるように、手の剣に、体勢は整えていた。
ところがふと手をさげ、聖痕を停止させるクリス。
「どうした?」
ユカラが問う。
「テートが勝った」
「バカみたいにふえやがって! それで勝てると思ってんのか?!」
ゲハラは叫びながらも、手を振りまわしている。
幻覚に攻撃しているのだろう。
ゲハラは思う。
なんだこれは、あたっても触れた感触がない、……となればこれは幻覚、幻影、呼び方はなんでもいいが、とりあえずはそれに類するものだろう。
女の癖に魔法をと思う反面、魔法武器かと辺りを付ける。
落ち着け、幻覚なら音がしないはず……冷静になるんだ。
口とは裏腹に内心は冷静なゲハラ、これは誘いである。
そして本気になった証でもある。
身体強化も徐々に増やし、喋りながらも耳を研ぎ澄ませ、音でテートの位置を探っている。
そして唐突に喋るのをやめた。
目を瞑って音を探るゲハラ。
幻覚が多いのなら見なければいい。
ゲハラはそう結論をだした。
何処だ? 足音を聞き分けろ……!
ゲハラは耳がいい、そのため音にものすごい敏感なのだ。
そして金属音が大好きなのだ、鍛冶場の音や戦場の闘技場の剣戟音、どれもがゲハラの好きな音だ、聞くと一種の興奮すら覚える。
だからゲハラは相手の武器を破壊する。
刃物を破壊したときの音はゲハラは幸福な感情をもたらすから。
あの短剣を砕いてやる。
そう思いながら待ち構えるゲハラ。
しかし、その思いは叶わなかった。
ゲハラは胸に衝撃を受けた。
背中から差し込まれた、テートの一撃は骨と筋肉の隙間を抜け、ゲハラの心臓を貫いていた。
「なん……で……音はしなかった……」
その言葉を最後に前のめりに倒れるゲハラ。
それを静かに見つめるテート。
「気配を消すのは得意ですの……」
テートの足の裏で光った聖痕は無音の聖痕と呼ばれるものだ。
発動すれば文字通り音をけし、気配を極限まで抑える事ができる代物だ。
実はクリスを厩で観察したときからすでに使っていたのだが。
ストーカーがしやすくなる至高の聖痕で。
本来は密偵や暗殺などに向いている、テートが聖騎士になって初めて使えるようになった聖痕である。
周りは騒然となった。
女が盗賊団の、それも切込隊長、鋼鉄のゲハラを打ち取ったからというのもある。
しかし、前半の戦いはいい、だが後半がおかしかった。
聖痕を知らぬものが見ればゲハラが狂ったとしか思えないような、行動だった。
喚き散らし、突然静かになったと思ったら、後ろから刺されて死ぬ。
見た限りでは間抜けすぎる最後である。
テートはクリス達のほうを向くと微笑みながら歩き出した。
衛兵が今初めて気がついたとばかりに、テートに近寄ってくる。
役たたずどもめ。
そう思いながらもクリスもユカラと共にテートを迎えにいく。
「少々疲れましたけど、私勝ちましたわ……、初めての実践としてはいい方ではないかしら?」
テートは不安げにクリスに問いかける。
「十分だ、及第点をやろう」
クリスは案外と厳しい。
「そうですか、ほっとしました、なんだか……疲れましたわ……」
テートそう言うと倒れこむ。
気絶しているようだ。
クリスが受け止めた。
「聖痕の使いすぎだな、まだ殆ど使えないというのに無理をする……」
クリスそのまま抱き上げた。
所謂お姫様だっこである。
本人が起きていれば狂気歓喜していただろうが、残念ながら気絶しているのが度し難い。
「今日はここで宿をとるしかなさそうだ」
「仕方あるまい……、しかし、見込みはある。剣もいい腕だった」
ユカラも手放しで褒めた。
そしてクリス達は、騒いでいる衛兵達を無視しては宿を探し始めたのである。
改修




