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だんちょーの経緯  作者: nanodoramu
三章 Daughters of the tragedy Country of the wasteland
33/121

Prologue Triumphant

改修

 日の光が入らぬよう厚いカーテンで囲まれた暗い部屋がある。

 机がいくつかあり、あちこちに書類や書物が積まれている。 


 床には剣や鎧がいくつか転がり、棚には薬品だろうか不思議な色を液体が入った瓶が並んでいる。

 日の光が届きにくい部屋の隅にはさらに扉があった。

 そこをあけると、一際暗い部屋がある。


 小窓こそあるが、そこにもカーテンがかけられ、他にあるのは大きめのベットが一つだけ。

 もっとも、ベットの横には細剣(レイピア)が立てかけられているが。

 ベットの上にはピクリとも動かず仰向けに眠る女性の姿がある。


 肩ほどで切り揃えられた銀の髪をしており、服は短パンにシャツ一枚という格好である。


 クリスである。


 何を隠そうここは騎士団宿舎のクリスの部屋、団長室である。

 まるで死んでいるかのように身じろきしない、生きているとわかるのはその胸の上下とそれによる呼吸音だけである。


「………………」


 静寂の中静かな寝息だけが響いている。 

 コンコンと扉をノックする音がした。

 途端にクリスは眼を覚ました。


「朝か……」


 ポツリと呟き、欠伸をする。

 よく寝たと思う反面、寝足りないとも思うが、扉を叩かれたのだ、誰かお越しにきたのだろう。

 するとガチャリと扉をあける音が聞こえた、そちらを向くとそこには、小柄な女性……アリシアが立っていた。


「朝じゃないです、お昼です……寝すぎです」


 聞こえていたのか、クリスの呟きに返すアリシア。


「用事がないときは寝ていてもいいだろう……?」


 ベットからおり、大きく背筋を伸ばすクリス、パキポキと音がなる。


「もう、他の皆は午前の訓練を終えて昼食をとってますよ? 団長がそんなんでいいんですか?」


 アリシアが不満げにクリスを見つめた。


「書類仕事ができる奴が居ないんだ……お陰でこっちは連日徹夜だよ。少しは労ってくれ……」


 主に領収者の類が、それも食事関係の、とは口に出しては言わないものの、やはり食料に関する領収書は郡を抜いている。


 王宮の裏手にあるという土地柄食料の運搬させる業者にも気を使わなければならない。


 いっそのこと、自分たちで畑を作るか、騎獣を使って運搬してもいいかもしれないとクリスは思っている。


「それはそうなんですけどね……でも団長がいないと士気に関わりますよ?」


「しばらくは、基礎訓練だけでいい……まだ人数が揃ってないからな、今日も今日とて人集めだ」


 騎士団の人数は現在六十七名、まだ目標の二百には半分も足りてない。


 かといって傭兵を雇うように集めてしまえば、人選に問題が出る可能性もある。

 いやむしろ、傭兵のように金で雇えるならどれだけ楽だろうか。

 仮にその辺の女を金で強引に雇って、聖騎士(パラディン)にしても役に立つともわからない。

 正直、土耳長(アマゾネス)達すら、クリスはまだ信用していない。


「昨日、姉上が連れてきた十二人はどうだ?」


 様子を尋ねるクリス。


「午前の訓練にはきちんと参加したましたよ、小さい子もきちんと最後まで参加してました」


「そうか、昨日は案内をして、雇った料理人(コック)の腕試しがてら歓迎会をして飲み食いしただけだからな……、問題なさそうでなによりだ」


 下は十歳くらいだったろう、孤児院の子供達。


 訓練内容は翼竜騎士団のそれに近いものだが、平均的な猿人(ヒューマ)の成人男性でもすぐへばるようなものなのに、ついていける……という事実に僅かばかり感嘆する。

 聖騎士(パラディン)になることによる、身体能力の増加は計り知れない。


「それより、ご飯にしましょう? もう待ちくたびれました、おばちゃん(コック)達の料理は朝も美味しかったですし楽しみです」


 アリシアはお腹がすいたのか、クリスを急かした。


「なんだ食ってないのか?」


 大食漢であるのに珍しいこともあるものだ。


 先日の宴会では山積みにされていた蒸し芋を一人で食べ尽くしていた記憶がクリスの脳裏によぎる。


「クリスを待ってたんですよ、まったく」


 プンスカといった感じに起こるアリシア。

 それだけ見ていれば可愛いものだが、アリシアは二十歳である。


 クリスは、見た目が子供なら別にいいかとも思っているが。


「別に待たなくてもいいんだが……」


 そんなクリスをあえて無視し、「行きますよ」と手を引っ張るアリシア。


「まだ着替えてないんだが……」


「問題ありますか?」


「……ないけど」


「じゃあ、行きますよ」


「あいよ……」


 クリスは引きずられるように食堂へと向かった。








***







 食堂は広い。


 最大二百人が同時に食事を取れるほどの広さがあるのだが。


「相変わらず混雑しているな、二百人くらいは余裕だと思ったんだが……」


 現在六十名程度しかいないこの騎士団。

 それなのになぜこんなにも混雑するのだろうか。


 今日はアリシアに連れられ、食事を取りに来たが、普段は書類仕事に埋もれているため、頼んで部屋に届けてもらっているためよくわからない。


「先に席を取ってきます、クリスは食事をお願いします」


 アリシアは席をとりに向かう。

 途中で幾人かと挨拶を交わしながら奥へと進む。

 もう中のいい奴でもできたのだろうか、時折立ち止まっては話している。


 クリスは全体を見回してみた。


 なるほど、よくみれば混雑している理由もわかるというものだ。


 聖騎士(パラディン)一人一人の食べる量が凄まじい。

 山盛りのパンに、果物、スープや時折、菓子のようなものまでかいま見える。

 クリスには仕入れた記憶がないので、きっと仕入れた食材で食堂のコックが作ったのだろう、美味しそうに口に運んでいる。


 あちらこちらのテーブルには食べ終わった食器が山と積まれている。

 それを運ぶ給仕のおばちゃんも忙しそうだ。


 基本一人用はトレーであり。

 底が深いトレーを用意したので、そんなに皿を使う必要はないのだが、水物用の皿で嵩張るのかと思った。

 食堂は増設するかなとクリスは思う。


 食堂用に雇ったおばちゃん(コック)達もてんてこ舞いと言った様子で次々に料理を作っている。


 それをみてクリスは調理室のおばちゃん(コック)達に声をかけた。


「おばちゃん達、調子はどうだい?」


 近くにいた、エプロンをつけた恰幅の良い女性が反応した。


「ああ、団長さんかい、どうもこうも忙しすぎさぁね、あんたらよく食うねぇ」


 呆れたふうに言い放つおばちゃん、額に汗がうっすらと見えるがどこか嬉しそうである。


「まぁ作りがいがあるってもんよ」


 そう言って腕まくりをするおばちゃん。


「頼むよ、けど無茶はしないでくれよ? こんな面倒な所に来てくれる人なかなかいなくてさ、審査も厳しかったろ?」


 事実、金払いは良い物の、審査は厳選された。

 専門の料理人(コック)というのは技術云々以前に体力仕事だ、普通なら男の仕事場でもある。


 クリスとしては別に雇ってもいいとは思うが……、年頃の女性が多い現状、色恋で風紀を乱されても困る。

 一応、王都四騎士団と呼ばれる騎士団の各ご息女がいるのだ、何かあろうものなら、下手な軋轢を生みかねない。


「そうさねぇ、ところで団長さんもお昼食べに来たんじゃないのかい?」


「ん? ああ、そうだったな……二人分、片方は多めにたのむ」


「あいよー、ふたりぶん片方多めねー、ちょっとまってな」


 すると、さっと奥に手を伸ばしてトレーを二つ用意するおばちゃん。

 次々に食べ物を載せていく。

 パンに粥に林檎にシチューに焼肉に……次々に食べ物が盛られていく。


「多いな……」


 思わず頬を引きつらせるクリス。


「そうかい? 皆平均でこんくらい食ってるよ。団長さんがそんなんじゃもたないよ? 試作品だけどこれも食っときな」


 そう言うとクリスのぶんのトレーに止めだと言わんばかりに卵乳冷菓(プリン)を乗っけるおばちゃん。


「ありがとう……」


 顔を引き攣らせながら礼を言うクリス。


 ふと横のトレーをみるとアリシアの分はクリスの五倍はあろうかというほどに盛られていた。


「……まじで?」


「あのちっちゃい僧服の子だろ? あの子は朝から食べたからねぇこんくらい余裕じゃない?」


 否定できない、アリシアの食べる量はやはり聖騎士(パラディン)でも多いらしい。


 クリスの頬はもう頬は痙攣している。


「まぁ、いいか。もっていくよ、ありがとう」


 再び礼をいうと、クリスはトレーを二つもってアリシアを探しに行こうとする。


「団長さん」


 するとおばちゃんが引き止めた。


「なにか?」


 振り向き、クリスは問い返す。


「女の子だけだし、暑いのはわかるんけど、いい年した子がそんな格好でうろついたらだめだぁよ?」


 クリスの格好は寝起きのまま、短パンにシャツ一枚である。

 確かにこれで、外にでるのは憚られるとは思うものの。

 寝間着であって、普段着というわけではないのだ。


 アリシアが寝起きのクリスを引張ってきたせいであってクリスのせいではない。


「……善処するよ」


 クリスは返答し、席を取りに行ったアリシアを探す事にする。

 辺りを見回すとアリシアはすぐに見つかった、レイトの隣にいたのだ。


 赤い騎士服を来ているレイトはよく目立つ。

 アリシア事態も緑の僧服ということもあり、土耳長(アマゾネス)達が来ている急ごしらえの無地の騎士服に比べるとだいぶ目立つ。


 クリスと目があうとアリシアが手をふった。

 アリシアのとった席へと歩いていく。


「あいてるのか?」


 テーブルの上にはすでに食べ終わったあとの食器だろう、皿やトレーが山と積まれてある。


「これはこれは団長殿、すぐ場所をあけます!」


 するとレイトがさっと食器を重ねだし、クリスの前にスペースを作りあげた。


「ああ、助かる」


 クリスはトレーをそことアリシアの前に置いた。


「ありがとうございます」


 さっそくかぶりつくアリシア。


 朝も大分食べたと聞いたが、朝と昼ではやはり違うのだろう、ものすごい速度で書き込んでいく。

 それをみて、自分も席につくクリス。


「団長殿は寝起きですか?」


 クリスの格好を見て思ったのだろうレイトが尋ねた。


「ああ、遅くまで書類をちょっとな……それよりお前は……馴染めそうか?」


 レイトは火竜騎士団の騎士団長の娘だ。

 そして、父親はファーフニル・エルトス侯爵である。

 家名だけみるかぎり、一番気をつけなければならないのはこいつなのだが。


土耳長(アマゾネス)と聞いたときはナンダソレ? とは思いましたがなかなか気のいい奴らではないですか、問題などあろうはずがありませぬ」


 なぜか誇らしげに言い切るレイト。

 心配は無用そうだ。


「そうか? 他の連中も何か問題はないか聞いてないか……?」


「別段特にはありませぬ、というか我らも土耳長(アマゾネス)達もここに来た次期に大した違いはないと言う事ではないですか? 何かあるのはこれからでしょう」


 返答するレイト確かに理にかなっている。


「それもそうだな……」


 本人に問題がなさそうなら、それでいいか、とクリスも食事を始めた。


 他種のパンにシチューや煮物がメインのようだ。

 パンを一口大にちぎって口へ運ぶ。


 悪くない、おばちゃん(コック)も中々の腕のようだ。

 他愛のない会話もしつつ、食事を進めていく。


「味は悪くないが多すぎだろ……」


 初めは良かったものの、すぐに腹が埋まり、食事に対する興味が失せていく。


「団長殿は少食なので?」


 既に料理を突つくように食べていたクリスを不思議そうにレイトがみつめている。


「少食、というわけではないんだが、基本多くても二,三人前しか食わん、おばちゃん(コック)に聞いたら平均で五人前も食うのな?」


「そうですね、これが聖騎士(パラディン)の普通なのでは? 皆それなりに食べるので意識はしませぬが」


「俺も食おうと思えば食えるんだろうか……? いや、いい……そんな食べるきはしない」


 独り言ち、ふぅとため息をついてお茶をすするクリス。


 パンを二つとシチューを食べて終わりである、結構な量が残っている。

 気づけばアリシアが自分の分をすでに食べ終わり、その視線をクリスの食べ残しへと向けていた。


「食うか……?」


 その言葉にアリシアの目が光った。


「その黄色いのもらっていいですか?」


「ん? ああ、ほら……」


 と卵乳冷菓(プリン)を渡せば満面の笑みでパクつくアリシア。


 随分と美味そうに食べている。

 これだけ美味そうに食べてもらえるのだから、作ったがわも嬉しいだろう。


「アリシア殿はよく食べますね、我々からみてもとても多いと思います」


「……それはなんとなくわかってる」


 力なく微笑むクリス、アリシアのは既に病気だと思うことにしている。


「ま、問題が有ろうと無かろうとしばらくは人集めをしないといけない……、火竜騎士団の身内にお前みたいなのはいないのか?」


「私みたいのと申されますと戦える……という意味でよいでしょうか?」


 クリスは他にあるのか? とも思うが、口には出さずに頷くだけで、続きを促した。


「残念ながら、自分の知人にはおりませぬ……お役に立てなくて申し訳ない」


 なぜか心底残念そうな顔をするレイト。


「大げさだな? もとよりそこまで期待もしていないさ……居なければ探しに行くだけだしな……」


「では、騎士団で何処かへ遠征に?」


 何処か嬉しそうにレイトが眼を輝かせている。


「ああ、南西の小国にな……ただ騎士団全員でじゃない、まぁ俺と、行っても数人だな」


「南西の小国? レスターとかスルメンとかでしょうか?」


 聞き返すレイト、すらすらと他国の名前が出てくる所をみると案外地理には詳しいのかもしれない。


 侯爵家ならば、何かしら政治的教育を受けていてもおかしくはないのだが。


「いや、ウェスタリアだ、国境も超えるし、十字教ではないから少しばかり面倒そうだがな」


「ウェスタリアって砂漠と荒野の国ですよね?」


 唐突にアリシアが口を挟んだ、どうやら食事を終えたようで山と積まれた食料は跡形も無い。


「ああ、そうだな、この暑いのにわざわざ行きたくもないが……まぁ王妃様の心当たりだ、行くしかあるまい」


「頑張ってくださいね」


 何処かなげやりな様子である。


「行かないのか? 名物料理とかあるかもしれないぞ?」


 名物料理という言葉にアリシアの瞳がほんの少し揺らいだ。


聖痕(スティグマ)の指導が私本来の仕事ですし……まだろくに使えない子のほうが多いんですよ? それに合流予定の神殿の聖騎士(パラディン)も待たなければなりません……余りもらいますね」


 そう言うと、当然のようにクリスの食べ残しに手を伸ばす。


 既に自分の分であろう五人前以上はあっただろうそれを平らげている。


「やるよ……それもそうだな、しかし、そうなると面倒かもしれんな、使えないのを連れて行っても足でまといだしな……ここの管理をするのも必要だし、俺一人で行くか……?」


 砂漠に慣れていないもの、それも魔法を使えない女だけで砂漠を旅するなど自殺行為に等しい。


 聖騎士(パラディン)の力を使えてこそ旅することはできるかもしれないが、魔法と違い聖痕(スティグマ)に応用性は低く、おおよそ戦闘以外のことに向いている能力は多くはない。


 足手まといと聞いてレイトが僅かに気落ちした表情を見せるものの、クリスはすでに見ていなかった。


「一人旅か……悪くないな……」


 一人なら別に、女のままいかなくてもいいし、誰かの世話を焼かなくてもいいし、羽を伸ばせるか? とクリスは思う。


「よしっ……一人で行くか!」


 クリスは一人こっそりとほくそ笑んだ。




 



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