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だんちょーの経緯  作者: nanodoramu
二章 ふくだんちょー こどもなおとな
23/121

ろくわ あにとちりゅうきしだんとこじいん

改修

 大気が乱れ雲が厚くなる。

 積乱雲と呼ばれる雲である。

 

 黒く大きな雲がゴロゴロと音を鳴らしている。

 ついには雨が降り出した。

 

 それはすぐに土砂降りになる。

 

 そんな雨のかな篭を抱えた黒髪の少女が、駆けていく。


 まだ年若い十歳程の少女である。

 青いワンピースを着こみ、その下に覆い隠すように篭を入れていた。


 息をきらしながらも、急いでるのか少女はその足は止めない。

 ぬかるんだ地面から泥が跳ねその服を汚すのも厭わず駆けていく。


 少女が走っていくと目の前に平屋ではあるがそれなりに大きな建物が見えてきた。


 門には大きな文字で『ミナクシェル孤児院』と書かれている。


 少女は裏口に回り込み、ドンドンと扉を叩いた。


 すると中から、眼鏡をかけた初老の女性が、扉を開けた。

 女性は少女を見ると驚いて、声をあげた。


「まぁ、ミリア。びしょ濡れじゃないの? 中へお入り!」


 中にミリアを招きいれる女性。


「なんてことはないわ、マーサ院長。皆のためだと思えば雨ぐらいへっちゃらよ」


 勝気な答えを返すミリア。

 ワンピースの下に隠していた篭を取り出すとドンと机の上においた。


「いつも余り物で悪いけど、ちゃんと美味しいところ選んできたから、皆で食べてね」


 篭の中には野菜の瓶詰めや干し肉などが入っている。

 音が聞こえたのか、奥から子供達が顔を覗かせた。


 孤児院の子どもたちだろうか、皆一様に痩せている。

 ミリアが手をふると手をふって返してくる。


「いつもありがとうね、あなたがくると子供たちも喜ぶわ」


 マーサがお礼を言うと気恥ずかしそうに頬を染めるミリア。


「気にしなくてもいいわ、期限の危ない保存食ばかりだし、うちも在庫処分ができてちょうどいいの」


 ミリアの家は酒商である。


 酒の肴として野菜を漬けたものや干し肉やチーズ等も多く扱っている。

 酒場も同時商っているのだが、生ものを扱うのは手間である。

 併設されている酒場はあくまで撒き餌であり本業の酒商への投資なのである。

 そのためどうしても、保存食が多くなってしまう。


 すると問題は期限であり、何日持つかと言われたら、精々三ヶ月が関の山、夏のこの時期では一ヶ月もてばいいほうである。

 もちろん期限を見越して品物を買うものどうしても、余りがでてしまうのだ、それをこの孤児院に格安で下ろしているというわけだ。


 中にはミリアのこずかいで買ったものもあるのだが、あえてそれは言わないのが華だろう。


「あなたの家で扱う瓶詰めの野菜は美味しいから、野菜の嫌いな子供達が食べてくれるからとても助かっているのよ」


 そう言うとマーサは錫貨を二枚ほど、ミリアに渡した。


「いつも安くて助かっているわ」


「毎度ありっ」


 ミリアは錫貨を受け取ると満足そうに笑う。


「じゃぁ服を脱いで、代わりのを貸すから着替えましょうね」


 そう言うと奥の部屋から、服を持ってくるマーサ。

 ミリアがそれに着替え終わる頃、再び扉を叩く音がした。


「あら誰かしら? ミリア。雨が止むまで悪いけど奥にいって子どもたちと遊んでてくれる?」


 そう言うとマーサは扉を開けにいった。


「任せてっ」


 ミリアは誰が来たのか気になったものの、奥の部屋にいる子供たちのもとへ遊びに向かった。


 ミナクシェル孤児院は王都の名前を関してはいるが、私営であり商家や貴族の寄付で成り立っている。

 戦争の前まではそれでも十分だった。

 しかし、四年前の戦争が起こり、親をなくした子供たちが大量に増えたのだ。


 そのため経営は悪化の一途をたどる。

 そしてそれから、子供達は大人になったら働いて自分が育ててもらったぶんの金をある程度返す義務が生じるようになったのだ。


 ミナクシェル孤児院ではエフレディア王国での成人。

 十四歳になるまでを期間としている。

 その期間にかかる金額の一部、銀貨一枚。

 それを一年で返さないといけないのである。


 銀貨一枚あれば一人で二年は生活できる金額である。

 成人になりたての者が普通に働いただけで一年で銀貨一枚など稼げるわけがない。

 稼ごうと思えば、それこそ男なら荒事の世界か、女なら娼婦にでもなるしかない。


 しかし、一度裏の世界に足を踏み入れてしまえばそうそう簡単に一般国民にもどることも難しい。


 期限以内に払いきれないものは強制的に王宮の兵士になるか女性なら住み込み侍女として貴族に召抱えられるのである、つまり奴隷である。


 正確には期間奴隷という、生活こそできるが特殊な事でもないかぎり、孤児院の場合十年は一般国民に戻ることはできない。


 期間などと枕詞はついているが、その扱いは普通の奴隷と余り変わることはない。

 衣食住の保証がつくだけマシではあるが。


 魔法の掛かった首輪をつけられ、逃げられもせず、死なない程度に酷使されるのだ。

 どちらを選ぶかなどは本人の自由だが、正直どちらも似たようなものである。


 この決まりは寄付をしてくれる、貴族によって作られた。

 孤児院自体はマーサが経営しているものの、実際は貴族のいいように使われているだけである。


 だが中には例外もある、途中で里親が金を払い孤児を買う場合である。

 子供の生まれない夫婦、労働力の欲しい家、娼館の人集め。


 理由は様々である、それこそ奴隷として買われていく子供もいるくらいに。


 マーサとて本来人身売買などしたくはない。

 けれど、それがまかり通るほどに孤児院の経営は厳しいものなのだ。

 子供達を売ったお金で子供を育て、育てた子供達すら売っているようなものだ。

 しかし、孤児院に入るお金は養育費で消えていく。


 負の悪循環である。


 過去にミリアもこの孤児院にいたのだ、戦争で両親を失くし、そのまま孤児院に引き取られ、運よく今の子供のできない両親に買われたのだが。


 最近、今の両親が酒商で稼いだ金で、神殿で神の奇跡とやらを受けて母の腹に子が宿ったのだ。

 後継として買われたはずだったミリアは今現在微妙な立場にあるのだ。

 ミリアが奥の部屋で子供達に本を読んでいると怒声が響き渡った。


 何か交渉でもめたのかな?

 

 ミリアはそっと聞き耳を立てた。


 たまにあるのだ。

 マーサとてここの経営をただこなしているわけではない、子供を売るにしてもできるだけ高く売るのだ。


 そのために尽力することは厭わない。


 要するに高く吹っかけるのだ。


 そのため裏の商売からの買い付け相手では時たま揉めることもあるのだ。


 もちろんそれでも正規の奴隷商人から買うよりは遥かに安いのだ。

 当然だ、どのような理由で引き取られようとも名目は里親なのだから。

 しかし、今回は様子がおかしかった。


 怒声が響いたにして静かすぎるのだ、本来怒声が響くような状況なら相手は荒れており、マーサを恫喝したり、ものに当たったり、喚き散らしたりするだろう。


 今回そのどれもがない。

 不安にかられ、本を読む声を途切れさせたミリア。

 子供達も不安なのか、心なしか怯えているように見える。


「ちょっと様子みてくるね?」


 そう言うとミリアは子供たちを残し、玄関へと向かう。

 服に隠してある護身用の短剣(ダガー)をいつでもとれるように身構えて。


 そうっと扉から玄関を覗く、誰もいない。

 となるとミリアが入ってきた裏口か、裏口は炊事場と直接繋がっている。

 そのため机や椅子もあるので、大体の商売の話は炊事場で行うのだ。

 足音を立てないように、静かに炊事場へと向かう。


 炊事場への入口に屋内側からは扉はない、衝立が一枚あるだけである。

 炊事場に近づくと声が聞こえてくる。


 見知らぬ男が二人に女が一人にマーサの声も聞こえてくる。


 どうやら揉め事は収まったようで、談笑しているようだ。


 少しだけ安心するミリア、ほっと胸をなでおろした。


 しかし、こうなると何を話しているか気になるものである。


 衝立からそっと顔をだし、ミリアは炊事場を覗く。

 雨が降っているというに室内は照らされ明るかった。


 普段灯りすらも節約しているのだが。


 大事なお客が来たのだろうか?


 見ると男が一人、見知らぬ女性に向かって土下座していた。

 そして謝り倒している。


 もうひとりの男性は紅茶を飲みながら笑っているが、マーサはおろおろとしている。


 そして土下座されている女性は、潤んだ瞳でその男性を見つめていた。


「どういうこと?」


 思わずミリアは言葉を発してしまう。


「おや?」


 紅茶を飲んでいた男性がミリアに気づき話しかける、目は切れ長で金髪、顔立ちは整っており、地竜騎士団の制服を着込んでいる。


孤児院(ここ)の子かな? こんにちわ」


「こんにちわ」


 笑顔で挨拶されて思わず挨拶を返してしまうミリア。

 するとマーサもミリアに気づいた。


「あらどうしたの? 何か用事かしら?」


「いえその、さっき叫び声が聞こえたので様子を見に……」


 マーサは納得が言ったのか頷いた。


「心配しなくても大丈夫よ、ただの勘違いだったらしいから」


「勘違い?」


「俺のせいなんで、気にしないでください」


 土下座男が済まなそうに謝罪する。


「ええと、その……」


 言いよどむミリアをみて得心が言ったのが紅茶のんでいる男性が微笑んだ。


「失礼、レディ、私はエンバス・リリィと申します、地竜騎士団の騎士でございます。そこで土下座しているのが同僚のカイン、そしてそこでむくれている女性が、我が妹セシリア・リリィで御座います」


 エンバスはきざったらしく言い放つ。


「紹介に預かった、カインだ、騒がせたようですまない」


 土下座したまま、さらに謝罪するカイン。


 もはや土下座を通り越して地面に穴を掘りそうな勢いである。


「セシリア・リリィです……」


 女性がむすっとした表情で挨拶する、顔が若干赤い。

 確かにどこか金髪の男に似ている。

 よく見ると全員同じ服を着ている。


「私はミリアです、ステラの酒場の。ここにはいつも食料の余りを卸してるんです、今日は届けてる途中で雨がふってしまって、濡れてしまった服が乾くまで待っているんです」


 挨拶を聞いて、何か引っかかるのか、セシリアは歯に何か引っかかったような顔をした。


「それで何を揉めていたんですか?」


「ああ、それはね……」


 エンバスが説明する。








***












 時刻はほんの三十分遡る。

 セシリアは人に道を聞き、奇跡的に孤児院へとたどり着いた。

 雨が降っていたのもあって、結構びしょ濡れになっていた。

 するとそこにはカインが居り、先に扉を叩いていた。


「地竜騎士団のものだが、マーサどのはおらっしゃるか?」


 扉が開きマーサが顔をだした。


「まぁ騎士様、雨にお濡れになって、どうぞ中へ、そちらの方もどうぞ」


「追いついたか? エンバス、用事は済んだのか?」


「エンバス?」


 セシリアが疑問げに反復する。


 聞こえた声が予想と違ったのか、カインが振り向いた。


「失礼、連れが来る予定でしたので背格好が似ていて、勘違いしました、お許しを、貴方も孤児院に用事がおありですかな? どうぞお先に中へ」


 そういうとカインはセシリアに先を譲った。


「ありがとう」


 セシリアは素直に頷いて中へと入った。

 カインも後に続く。


 昼とはいえ厚い雲のせいで屋内へと入るが薄暗い。

 何かに足をぶつけるカイン。


「昼とはいえ、こう雨が降ると暗くてかないませんな、灯りをつけても?」


「構わないわ」


 マーサの了承をとるとカインは呪文を唱えた。


「光よ……」


 するとカインの手のひらに輝く光球が現れ、ふわふわと浮き上がり室内は明るく照らされた。


「騎士様は素敵な事ができますのねぇ」


 マーサが褒め、セシリアも感嘆した。


 光の球の魔法、辺りを明るくするためだけの魔法だが、これが案外使い手が少ない。


 理由としては他に代用できるものが腐る程あるからなのだが、それでも何もないときには便利な魔法である。


「これくらいは初歩ですとも、うちの騎士団のものなら誰でも使えますとも」


 褒められたのはまんざらでもなさそうだが、カインは謙遜する。


 地竜騎士団の扱う、地竜(ストライダー)は暗い地下の洞窟や土の中で生活しているのだ、そのため地竜騎士団の竜騎士(ドラグーン)はこの魔法が必須だったりする。


「それで、ご用件はなんでしょうか?」


 マーサが尋ねる。


「失礼、先にどうしても気になることがありまして」


 言うなりセシリアのほうを向き、カインは胡乱げな眼でセシリアを睨んだ。


「そこな女、何者だ? 紋章こそ外しているがその服は我が地竜騎士団のものだろう? 言い訳如何では切り捨てるぞ?」


 カインは背中に背負った槍に手を伸ばした。

 マーサはそれを見て、荒事の雰囲気を感じ取ったのか少しばかり離れた。


 カインを見つめるセシリア。


「この服は兄上のお古を拝借したんです、似合うでしょう?」


 そう言って自慢気に微笑んだ。


「兄とは誰だ? 仮に兄から譲られたとしても騎士服とは国が騎士に賜われたもの! それは貴様が着ていいものじゃない、今すぐここで脱げ!」


 大きな声で女性に服を脱げというカイン。


「ここで……?」


 問い返すセシリア、何を考えたのかその顔はちょっぴり赤く染まっている。


「貴様の兄とやらには、後で所属を調べて説教をしてやる! いいから早く脱げ、女風情が着て良い物ではないのだそれは!」


 大きな声でまくし立てるカイン。

 騎士服を着るというのは主に仕えるということだ。

 命をとして主命に従う。

 私営の騎士団だとしてもそれは変わらない。

 安易な覚悟で着て良いものではない。


 だからこそ、それに憧れるものといのも少なくはないのだが。


 カインにとっても騎士団の制服というのはそれなりに思い入れのある物である、そのためこのような物言いになってしまうのだ。

 もっとも場合によってはすぐに切り捨てられてしまう時すらあるのだが。


 しかし、セシリアにそんな事は関係ない。

 紋章を外してしまえば良いと、王妃も認めている。


 カインとしては大真面目に言っているのだが、セシリアは御年二十三歳。


 蝶よ花よと甘やかされ育てられてきたが、最近は自分より強い男性ならば結婚してもいいと公言しているのだ。

 

 さらに、普段働く後宮は女の園。

 色恋の話など腐るほどあるし、むしろ話題は事欠かない。


 むしろ、セシリアとて、好んでその手の話を聞いている。

 つまり、人並みに異性に興味はあるのである。


 しかし、今回は見知らぬ異性に服を目の前で脱げと言われたのだ。

 セシリアにとってこんな事は初めての体験である。

 大声でしかも人前で異性の前で服を脱げと迫られる。


 王妃様が許可された事を言えば問題なく済むのだが。


 セシリアの頭はパンク寸前である。


 顔を赤くしてぷるぷると震えている事しかできなかった。


「ええい、まどろっこしい! 脱がぬならその服ここで剥いでくれるわ!」


 カインが声を荒げ、セシリアの肩に手をかけた時だった。


「人の妹に何をしてるんだ君は?」


 声がかかった。

 声の元を辿れば、エンバスが戸口に立っている。


 その後、事のなり行きを話し。


 セシリアの仕事のこと、王妃様公認であることを話し、カインが土下座するに至る。


 ちょうどそこにミリアが来たのである。






***







「本当にすまなかった!」


 カインが頭をこすりつけるように土下座をしている。

 けれどもそっぽを向いているセシリア先ほどからずっとこの調子である。


「そろそろ、許してあげなさいセシリア。カインも悪気があったわけじゃないんだ」


 見かねたエンバスが優しく窘めると、セシリアは、はい……と不承不承に頷いた。


「申し訳ございませんでした!」


 カインは頭を下げ続ける。


「もういいです……」


 何処か疲れたように言い放つセシリア。


「温情ありがとうごうございます!」


「カインも、もう立ちなさい。騎士たるもの主以外にそう簡単に頭をさげるものじゃないよ」


 その言葉を聞いて我に返り、カインは立ち上がる。


「やっと話しが進められるよ」


 エンバスはほっと胸を撫で下ろす。


「セシリアから先にどうぞ、レディファーストさ、別に聞かれて困ることはないだろう?」


 エンバスが気障な言い回しで、セシリアに先を譲った。


「まぁカインのおかげで少し時間がかかったけど、こちらの用事も急ぐ事じゃないさ」


 軽くカインを睨むエンバス、怖気づいたのかカインが一歩下がる。


 この男こうみえて公爵家長男、つまり公爵家次期当主である。

 王の従甥である一桁の王位継承権すらもっている男である。


 騎士団というのは所属しているとどんな爵位だろうと内部では準男爵として扱われる、逆に平民だろうとも。

 あくまで表向きはだが、結局元の爵位が高ければそれに応じた扱いになってしまうのは仕方のないことであろう。


 公爵家ともなれば尚更だ。

 名前で呼び名う仲ではあるが、平民の出のカインは同期であろうと刃向かえる要素はないのである。


「女だけの騎士団の用事です。ここには三人ほど、推薦されたものがいるので確認と連絡をしに来ました」


「ああ、はい、確かに私が推薦させて頂きました、レイラにナタリアにロフィーナですね、あの三人は来年で孤児院を卒業するんですが、その正直頭のほうは良くないのです、別に騎士の方を馬鹿にしてるわけではないのですが、三人は運動が得意ですので、この話しを聞いたときに、娼館に送るよりはと思いまして」


 セシリアは手紙を見て頷いた。

 名前をを確認したようである。


 娼館に送るのと命を賭ける仕事につくのどちらがいいかと言われたら普通は迷わず娼館を選ぶのではないかとミリアは思うが口にはしなかった。


 マーサ院長もどこか頭がおかしいのかもしれない。


「その書類、僕にも見せてくれるかい? 興味がある」


 エンバスが手を伸ばす。


 セシリアが手紙を渡す。


「クリスからの手紙か、王妃様の騎士団の団長なんだってねクリスは……、僕は一般団員でしかないというにクリスには頭が下がるね……」


 何か思うところがるのか、エンバスは唇を噛んだ。

 その瞳は何を思っているのか、深く揺らいでいた。


 エンバスは頭を振り払うように動かすと、改めて視線を手紙に落とした。


「王都四騎士団の団長の娘が勢ぞろいか、随分と豪勢な面子だね」


 ある名前をみて、エンバスは目を丸くする。

 そしてミリアを見た。


「失礼ミリアさん、君の名前もここにある。 もしや君の家はステラの酒場かい?」


 ミリアは唐突に話題を振られ慌てふためいた。

 なり行きで話しを聞いていたけれどまさか自分が話題にあがるとは露ほども思っていなかった。


「はい、私の家は酒場ですけど? え? 私の名前がどこにあるんですか?」


 ミリアの頭の仲が疑問符で埋め尽くされた。


「ほらここに……」 


 エンバスが手紙を見せてくれた。

 丁寧に名前を指で指している。


 ステラの酒場 商人組合より推薦 ステラが娘 ミリア。


 ミリアは頭を鈍器でガツンと殴られたような気持ちになった。


 子供ができて用無しなのはわかるけど、こんな形って。


 ミリアは段々と気が遠くなっていった。

 

 そして、そのまま倒れてしまう。


「大丈夫ですか?」


 セシリアが支えるの反応はない。

 どうやら気絶してるようだ。


「気絶するほど衝撃的だったのかな……?」


 エンバスは気まずそうに頬をかいた。


「気絶するほど嬉しかったんじゃ?」


 セシリアは大真面目に宣った。


「なるほど、俺も騎士になれると聞いたときははしゃぎまわってうるせえってオヤジな殴られたからな」


 肯定するカイン。


 カインもセシリアも両方クソ真面目だから性質が悪い。


 エンバスはこいつら実は気が合うんじゃないかと思ってしまった。

 マーサはミリアを奥へと運んでいってしまった。


 とても話しを続ける雰囲気では無くなってしまった。


 エンバスは大きくため息を付いた。

 

「マーサ院長が戻ってくるまで待つとしようか」


「そうだな」

 

 カインもそれに同意した。

 セシリアもそれに倣う。


「そういえば兄上達はなんで孤児院に来たのですか?」


「ある意味セシリアと同じさ、来年孤児院を卒業する若いので優秀そうなのがいればと思ってね、うちの騎士団は数年まえ団長と副団長がそろって代替わりしたからね、その影響でまだちょっとばかし毎年の入団者の数が減っていてね……」


 セシリアを一瞬見つめるがすぐに視線を逸らすエンバス。


「そうなんですかー。大変ですねー」


 セシリアは呑気にお茶をすする。


「なんでも、陛下の御前で女性に腕を切られたとかで恥ずかしくて辞めちまったんだっけか? 副団長もそれを追いかけて行方不明だとか聞いたな」


 訳知り顔で説明するカイン、その女性が目の前にいるとは夢にも思うまい。


「何処かで聞いたなー?」


 何処だっけ?最近聞いたような?


 セシリアは考えるが思い出せず、気のせいだろうとお茶をすする作業に戻る。


「まぁ有名な話しだしな……。女のほうの名前はなぜか伏せられてるんだけどな、不思議なことだが……結局に切られた本人と現場にいた副団長は行方不明、真相は闇の中ってな。この噂のせいで、弱小騎士団のレッテルを貼られたからなうち……」


 カインは不満げに目を細くする。


「このお茶受け美味しい……」


 しかし、セシリア既に興味をなくしたのかお茶受けとしてマーサが出してくれ、胡瓜の酢漬け(ピクルス)を齧っている。


 ちなみにステラの酒場で扱っている品物である。


「女性には詰まらない話しだったかな……」


 ため息をつくと、カインも胡瓜の酢漬け(ピクルス)齧り始める。


「うまいな……」


 ポリポリポリポリポリポリポリポリポリ…………。


 部屋には胡瓜の酢漬け(ピクルス)|を齧る音が響いていた。


 小皿の上のお茶受けがなくなる頃、マーサが奥から戻ってきた。


「お待たせしました、ミリアは奥の部屋に連れて行きました、別段異常はないようですぐに目を覚ましますと思います」


「大事がないようで良かった」


 エンバスは微笑み、出迎える。


 セシリアとカインはお茶受けの最後のひと切れをかけて争っている。


「それで騎士様はどのようなご用件でいらしたのですか?」


 二人を尻目にエンバスに話しかけるマーサ。


「私も妹と似たようなものでしてね、騎士に成れるような男児はいませんかね?」


 すっと胸元から、一枚の金貨を取り出すエンバス。


「十二歳以上で十人ほど見繕えませんか?」


 マーサの目は金貨に釘付けである。


「はい、勿論居ます、ただ今は男の子達は離れたところにある孤児院の畑にでていまして。お会いになるのならばお呼びしますが?」


 畑と聞いてエンバスの顔が歪む。

 泥仕事はエンバスの嫌いな事の一つである。


 汚れてまで会うきはないのかかあっさりと金貨をしまった。


「いえ結構、畑仕事をお邪魔するのも悪いですし、今日は帰ります」


「そうですか……、それは残念です……」


 マーサ非常に落胆した表情をみせる。


「帰るぞカイン? 何をしている……」


 帰るためにエンバスがカインに声をかけるが、まだ争っていたのか空中で胡瓜の切れ端が浮いている。


 よく見ればセシリアとカインが楊枝で奪い合っている。

 なんという無駄な技術だ。


 カインがエンバスに声をかけられ一瞬気がそれた時だった。


「もらったあああっ」


 どうやらセシリアが勝利をおさめたようだ。


「ちぃっ」 


 悪態をつくカイン、非常に悔しそうに顔を歪ませている。


 セシリアは美味しそうに勝利のひと切れを味わっている。


「馬鹿なことしてないでいくぞ、セシリアもはしたない、フランシス様に言いつけるぞ?」


「すいません」


 しぶしぶ帰るしたくをするカイン。

 セシリアはフランシスの名前を聞いてビクっとして固まった。


「ごめんなさい」


「わかればいい、ではマーサ院長。我々はこれで、ちょうど雨も止んだようですし、失礼させてもらいます」


 気づけば雨はやみ、真夏のうだるような暑さがぶり返し始めていた。


「それでは」と、二人は外に出て行った。


 二人を見届けてから、マーサが遠慮がちに申し出た。


「三人に会われますか?」


 セシリアは静かに頷いた。



 


改修

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