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だんちょーの経緯  作者: nanodoramu
二章 ふくだんちょー こどもなおとな
19/121

にわ  なんとかにはもの

改修

 


 午後の昼下がり後宮の庭園。

 そこには優雅に紅茶を楽しむ紅髪の女性と恭しく給仕する銀髪の女性の姿があった。


 フランシスとセシリアである。


 セシリアが聖騎士(パラディン)になったからといって、二人の日常が変わるわけではなく。

 いつも通り侍従(メイド)として、王妃であるフランシスを給仕している。


 変わった事といえば、剣の携行と騎士服の常時着用が許されたのと王宮の騎士団にいる魔道士により、小魔力(ポリ)の扱いが日課に追加されたくらいである。


 他の事に関してはいたって日常のままである。

 すでに、セシリアが聖騎士(パラディン)に成って数日が過ぎようとしていた。


 別段聖騎士(パラディン)になる前と殆どかわらぬ日常を過ごしている。

 なんだか最近そわそわしてる事が多くなり、侍従(メイド)の仕事も上の空になってきていた。

 見かねたフランシスが尋ねてみれば。


「私せっかく騎士になったのにやること変わってないんですけど……」


 つまらないという顔をしてのたまった。


「騎士団ができるまで、やることないでしょう?貴方に事務仕事ができるとは思ってないし、他は全部弟君に丸投げしてあるしね」


 そう窘める。。


「クリスずるい……」


 何がずるいのだろうか、クリス本人が聞いたら怒るか呆れるかしそうな台詞である。


 ここのところずっとセシリアはこの調子であり、いい加減イライラしてきた。


 フランシスはふと思い出した。


「確か貴方あての手紙が来てたわね、弟君から」


 セシリアは「へー」と興味なさそうに相槌をうつ。


「……その様子じゃ結成してからも貴方は暇かもね」


「そんな?!」


 セシリアは悲観的な声をあげた。


「まぁ読んでみたら? ハイ、手紙」


 なぜセシリア宛の手紙をフランシスが持っているかは不思議な事である。

 もっとも、セシリアは気にしないが。

 しぶしぶといった感じで封を切り、手紙を読み上げるセシリア。


「拝啓、セシリア姉さま。此度の騎士団の件にて、頼みごとがあります、王宮、できれば後宮の仕えている侍女を何人か聖騎士(パラディン)にし、結成予定である騎士団に入れて置きたく存じます、人選はお任せしますが、できるだけ王宮や後宮に詳しい人を見繕っておいてください。それと推薦人のある人物を以下に記しておきますのでその人物達の取りまとめをお願いします。 クリスより、敬具 以下推薦者……」


 つらつらと以下名前が続く。


 全て読み上げるセシリア。

 目を見開いた。


「あらよかったじゃない? 仕事ができて、侍女の仕事は第二侍女イザベラに任せるから行っておいでなさい」


 フランシスは鬱陶しいのを厄介払いできたという具合に微笑んでいる。


「行ってまいります!」


 そう叫ぶとセシリアは走り出した。


「……今から?」


 すでに時刻は午後のお茶の時間である。


 城内の侍従(メイド)を選ぶならともかく。

 城下に向かうのならば、到着する頃には日もくれてしまうだろう。


 流石に城下には行かないわよね……?と思う。


 問いかけた声は、セシリアには届かなかった。






***







 走り出し、気づけば後宮の入口にいたセシリア。

 先に王宮に詳しそうな侍女を探すことにしたようで。


 入口でぼーっと立っている。


 見張りの騎士が不思議そうにセシリアを見ている。

 しかし、立っている場所が内部なので迂闊に声をかけることもできないでいる。


 すると一人の女性がセシリアをみつけ、声をかけた。


「どうかなさりまして? セシリア様ですよね? こんなところで? そんな格好で」


 貴婦人と形容するがちょうどいい女性がそこにいた。

 年は三十手前と言った所か。

 萌木色のドレスに二つに括られた螺旋(ツインドリル)の金の髪の毛。


 手には紫の扇を持っている。

 侍女を二人ほど引き連れている。


 第二王妃、テレサ・ケルメルである。


「これはテレサ様、ご機嫌麗しく」


「セシリア様も御健勝のようで」


 ニコリと挨拶(定型文)を交わす二人。


「それで、どうなさいました?こんなところでお立ちになって、格好からして例の騎士団絡みでございますか?」


 そう言うと下から上までセシリアを確認するテレサ、女性らしくないセシリアの格好に一瞬だけ顔を顰めた。


「そうなんです、なんか王宮や後宮に詳しい侍女を騎士にしなくてはいけないらしくて、詳しそうな人がいないか、ここで探してたのです」


 それを聞いて目を細めるテレサ。


「なるほど、女性だけの騎士団と申しましても、仕事は後宮でのわたくしたちや陛下の護衛なのですね? わたくし初め聞いたときは女性なのになんと野蛮なのだと思いましたのですが、それならば納得もいきましょう」


「そうなんですか? 私も仕事の内容までは聞いてないんですが、後宮の警護なんですかね……? それだと面白くないな……」


 最後は小さく呟いた。


 あれでも、姫を護衛する騎士って格好いいな。

 でも待って、それじゃいつもと同じ気がする、アレぇ?


 セシリアの頭は混乱した。


「王宮に詳しい侍女が必要なんて、他に理由がありませんわよ? そう言うことなら、よければわたくしが手配いたしますよ?」


 セシリアはその言葉を聞いて眼を輝かせる。


「本当ですか? ぜひともお願い致します」


 テレサの手をとると有難うございます、とぶんぶんと手をふった。


「本来ならフランシス様が手配なさればよろしいのに」


 適当な所で手をいなし、呟くテレサ。


 大方、セシリア様がどう動くかみて遊んでらっしゃるのだろう、とテレサは思う。


 あの人はいつもいそうなのだ、お気に入りの彼女(セシリア)で遊んでいる。


「ありがとうございます、では(ワタクシ)はこれで、騎士団絡みでまだやることがあるので!」


 そう言うとセシリアは今度は王宮の外へ向かって走り出した。


 それを見届けるテレサ。


 そしてポツリと……呟いた。


「セシリア様が一番詳しいと思うんですけどねぇ」








***







 城下街にまで走ってきたセシリア。


 わざわざ走る意味があったのかはわからない。

 馬車を使ってもよかったのだが、騎士としての仕事があると言われ、うずうずしてるセシリアにはそんな考えは浮かばなかった。

 どこから行こうかと、手紙を広げる



・・・


以下推薦者


地竜騎士団団長より推薦 ランド・クラスラーが娘 リラ・クラスター

翼竜騎士団団長より推薦 グラン・サーシェスが娘 テート・サーシェス

蛇竜騎士団団長より推薦 ヴァイス・ケドラスが娘 フェイト・ケドラス

火竜騎士団団長より推薦 ファーフニル・エルトスが娘 レイト・エルトス

王都傭兵組合組合長より推薦 ザルクが娘 ティターニア

王都傭兵組合組合長より推薦 ストレンジ・トリスが娘 ラグラシア・トリス

王都ミナクシェル孤児院院長より推薦 孤児 レイラ・スターシャ

王都ミナクシェル孤児院院長より推薦 孤児 ナタリア

王都ミナクシェル孤児院院長より推薦 孤児 ロフィーナ

ステラの酒場 商人組合より推薦 ステラが娘 ミリア

ダイラスの娼館 娼館組合より推薦 ダイラスが娘 テミル・リード

ダイラスの娼館 娼館組合より推薦 奴隷 ルミナス



 王都四騎士団の団長の娘がはいってるあたり、何かしらの圧力がかかっている事がわかる推薦者名簿。

 

 しかし、そんな事はつゆにも思わないセシリア。


 ぼーっと道の真ん中で名簿を見つめている、正直往来の邪魔である。


「十二人かぁ……、騎士団長の娘さんから奴隷まで、よみどりみどりだ……」


 セシリアは名簿を見てよくわからない事を呟いた。


「うーん、誰にしようかな……四竜騎士団長の娘とか羨ましいから最後でいっか」


 何が羨ましいのかは、セシリアにしかわからない。


 普通の女性は荒事を生業とする騎士団長の娘より、高貴な公爵家のほうが羨ましく思うものなのだが。


「先に娼館の二人にしよう、騎士が奴隷を助けるっていうのは基本だよね」


 うんうん、と頷いて娼館へ向かうことに決めたセシリア。

 何が基本なのかはセシリアにしかわからない。


「片方は経営者の娘さんかな?」


 進もうとするセシリア。


 あたりを見回し確認するが、今まで王宮の侍女をしていたセシリアに王都の娼館の位置などわかるはずもなく、立ち止まってしまう。


「むむむ……」

 

 セシリアは唸りながら考えた。


 そうだ人に聞こう!


 道を聞くという結果に辿りつた。

 あたりを見回すセシリア。


 すると一人の少年が目にとまった。


 坊主頭に、半袖短パン姿のやんちゃな子供という感じの少年である


「そこな少年、今暇か?」


 ちょっとだけ騎士っぽく(偉そうに)訪ねてみるセシリア。


 子供に格好をつけたいのである。


 セシリアの心の中では騎士にどんなイメージを持っているのやら、仮に覗けたとしても全ての騎士に叩かれるような内容であろう事は確実だが。


 少年はちょろっとあたりを見回し、自分か? と己を指差した。


「うむ」


騎士っぽく(偉そうに)頷くセシリア。


「なんでしょうか? 貴族様? 俺……、私が何かいたしましたでしょうか……?」


 なんだかとても怯えている少年、一応はセシリアの偉そうな立ち振舞に貴族だと判断したようだ。


 しかし、その目は得体の知れないものを見てるかのように揺れていた。


 セシリアは一瞬だけ不思議そうにしたが、すぐに騎士っぽく(偉そうに)尋ねることにした。


「道の聞きたいのだが、ダイラスの娼館という場所を知っているか?」


「それなら、そこの裏路地(スラム)入って、突き当りを右にいって、そのまままっすぐいくと、酒場が見えますから酒場の左手にいくと、奴隷市場があります、それでその奴隷市場を横切って、多分そのへんでは一番大きな建物が見えると思うんで、そこですよ」


 身なりとは反してとても丁寧に応える少年。

 硝子ものを扱うかのような丁寧さである。


「そうか、大きな建物だな?」


 セシリアは二つ以上のものを同時に考えられない……。


 最後の言葉だけ拾いあげたセシリア。


 有難うというと、少年の手をとり鉄貨を握らせるセシリア。


「それで何かおやつでも食べなさい」


 そういうと颯爽とスラムに入っていった。

 ポカンとする少年。

 ちなみに鉄貨一枚あれば、四人家族が一ヶ月は余裕でくいつなげる金額である。


「ありがとう貴族様ー!」


 そう叫んで、鉄貨を大事そうにしまい走り去る少年。


 この少年、実は孤児で裏路地(スラム)に捨てられていたのを娼館の下女が見つけて、下働きとして育ててもらったという理由で裏路地(スラム)の道に詳しいのだが。


 年端もいかぬ少年に裏路地(スラム)の道を聞くという、馬鹿げた事をしたセシリアだが、その強運でもって、場所を知り得ることができた。


 聞いた結果、大きな建物であるという事しか頭に残っていなくても……。


 







 ***

 






 暗く狭い裏路地(スラム)


 能天気に鼻歌を口ずさみながらセシリアは裏路地(スラム)を歩いていく。


「騎士は強いぞー♬ 格好いいぞー♬ お姫様ーを奪えいとれー♬ 歯向かう敵はみなごろしー♬」


 物騒な歌詞であるがセシリアの愛読書(バイブル)である、白騎士物語の演劇化されたさいに、とある有名な音楽家が作った歌である。


 この歌を作った半年後、その音楽家は自殺したが。

 自殺したことで有名になったとも言える。


 そんな物騒な歌を歌いながら呑気に裏路地(スラム)を歩くセシリア。


 白い騎士服に、銀の髪の女。

 裏路地(スラム)には似つかわしくない、そんな印象を受ける。


 陽気に歌っているのが、さらにそれに拍車をかける。


 目立つのだ、とてもつもなく。


 本来なら、いくら王都とはいえ年頃の女性が裏路地(スラム)に足を踏み入れたなら、三日もすれば売春婦のできあがりだろう。


 それが貴族の娘でもない限りは。

 貴族の娘であれば身代金目的の誘拐になるだろう。


 裏路地(スラム)とは、それほどまでに危険な場所なのだ。


 王都であるのに王都にあらず。


 そこは法とは違う何かで動いている。


 そんな場所だ。


 けれども平然とセシリアは歩いてゆく。 


 となれば、当然目をつけられてもおかしくはない。 


 そして、既に二人ほどが、セシリアの後をつけている。


 顔は布を巻いて隠しているが、体は細くも引き締まり、足音一つしない。


 明らかに裏路地(スラム)の人間である。


 ぼそぼそと小さな声で会話をしている。


「気狂いか? 変な歌を歌ってやがるぜ」


 背の低い方の男が高いほうの男に話しかける。


「格好もありゃ、紋章は外してあるが地竜騎士団のもんだな? この王都で女が騎士団の制服なんぞ着てるってのはどういうことだ? 首をはねられてもおかしくはないが……おい、ベイン。お頭に報告しようぜ?なんだかおかしい」


 背の高い男は怯えたように小さな男、ベインに話しかける。


「怖がりだなジョンは? 大丈夫だってただの気狂いさ、たまにあるだろ?」


 貴族の家系で、気狂いや知恵遅れが発生した場合、家から一生ださずに飼い殺しにすることもあるが、家が小さい貴族はそんな事をする余裕はない、かなりの確率で殺してしまうだろう、けれども稀に殺せない事情が発生する。


 理由は様々だが、のちにその事情が解消したとする、すると今度は処理に困るのだ。


 飼い殺しにする余裕がなくなったりが殆どだが、事情は様々だ。

 赤ん坊の時なら処理は容易いが、大人になるとそうもいかない。

 故にそんな時は処理の代わりに裏路地(スラム)に捨て置かれる事は珍しくもないのだ。


 王都の裏路地(スラム)の闇は深い。


 セシリアをそれだと判断したベインは「ウヒヒ」と下品に笑う。


「見た目だけなら上玉だぁ、ひさかたぶりに楽しめそうだってのに親方に報告なんてしちまったら、台無しだろう? 連れて行くのは事が終わってからでいい」


 そう言うとセシリアの後をつける、小さな男ベイン。


「いい体してんじゃねぇか? 楽しみだろう?」


 ベインに問われて背の高い男、ジョンは一瞬だけ考える。


 そしてそのままベインの甘い言葉にそそのかされ、何を想像したのかゴクリと唾を飲み込んだ。


「このまま進めばちょうどよく袋小路だ、そこでやるぞ? 俺が気をそらせるから、隙をついてジョンは動きを封じろ。わかったか?」


 こくりと頷き、承諾するジョン。


 程なくしてセシリアが袋小路に突き当たった。


 いくぞと目で合図を送るベイン。


 手で承諾の合図をするジョン。


 セシリアは首をかしげながら、あたりを見回している。


「お嬢さんどうしました?」


 顔布を外し、人の良さそうな笑顔を浮かべ。


 ベインはセシリアに話しかけた。


「あれ? さっきから後ろをついてきた人ですか? 何か用です?」


 セシリアの言葉に驚愕し、目を細めるベイン。


 なんだ、この女、尾行に気づいていた……?

 ならなぜ、こんな袋小路似に入る……と僅かに疑問に思う。


 だがすぐに執り成して平静を装った。


「人違いではないでしょうか? 私はたまたまここをとおり掛かっただけですから、それより道に迷ったなら案内しましょうか?」


 少々強引だが、無理やりはぐらかすベイン。


 セシリアに近づきながら左手を背中に隠し、後ろにいるジョンに合図を送る。


「本当ですか?」


 セシリアは嬉しそうな顔をしている。


植物捕縛(プラントバインド)!」


 ジョンが叫び、こっそりと詠唱していた魔法を発動させた。


 次の瞬間裏路地(スラム)の木々でできた家から、枝が蔓が高速で伸び始めセシリアに巻き付かんと襲いかかる。


 このままではアラレもない姿でセシリアが縛られてしまう。

 一瞬先を想像し、勝どきをあげるベイン。


「やったぜ、上玉げっと……だ……ぜ?」


 しかしそれを見て、雄叫びを上げようとしたベインの言葉が途切れる。


 巻きついているはずであろう、枝や蔓が全て消えているのだ。


 見れば地面には枝や蔓の残骸が細切れになって落ちている。


「は?」


 それがなんなのかベインには理解できなかった。

 それを理解しようとした瞬間。

 ベインの視界に一瞬の銀光が煌めいた。


「え?」


 ベインの視界は回転する。


 ポトッと耳に鈍い音が響いた。

 不思議に思うが体は動かない。


 そして、気づけば低い位置から、セシリアを見あげていた。


 あれ、なんで?

 ベインの意識は、そこで途切れた。






***





 ベインの首が落ちた。


 ドサッと体が倒れる音がして、首があった場所からは噴水のように血が吹き出している。


 あり得ない……とジョンは思う。


 確かに、少しおかしな獲物であった。

 けれども、相手は獲物であったはずなのだ。


 いつもなら、このままあとはお楽しみ……、その後ボスに報告して褒美だってもらえるはずだった。


 だけど、なんだこれは、とジョンは思う。


「本当に(この子)はよく切れます」


 ベインの首を落とした女はうっとりと刀を見つめている。

 その姿は妖艶で、見ているだけでも男を惹きつける。

 何か蠱惑的な魅力があった。


 けれども、どこか狂気を帯びている。

 言い知れぬ恐怖がジョンを襲う。


 やばい……、やられる……だけど、どうしたらいい?


 ベインは好色な奴だが、決して弱い奴ではない。

 何度も共に死線をくぐり抜けた、ジョンにとっては相棒とも呼べる男だった。


 それが、一瞬で……死んだ、のだろう、首を跳ねれて生きている人間など居はしない。


 しかし、そんな事はありえるのだろうか、とジョンは思う。

 けれどもジョンの思いとは裏腹に相棒であるベインは、既に目の前に倒れている。


 どうする……!? 


 幸い女はこちらに気づいていないのか、剣を見て笑っている。

 逃げる機会は今しかない。

 けれども、ジョンの耳にガチガチと煩い音が聞こえてくる。


 なんだこの音は、バレるだろう!?

 

 半ば怒りにも似た感情がジョンに湧き上がる。

 音の発生源を耳をこらして聞くとそれは。


 自分の口から響いていた。

 歯の根も合わぬ、とはこの事か。

 ガチガチと音を立てて、歯と歯がぶつかり合う。


 とまれ……とまれ……とまれ……!


 けれども、ジョンの意思とは無関係に、歯はぶつかりあう。


「くそっ」


 腕を噛み強引に音を止める。


 これで、なんとか……。


 思ったのもつかの間、ピチョンと水が飛び散る音がする。

 腕を噛んだまま、音のしたほうを向くと。

 既にそこには、セシリアが佇んでいた。

 セシリアはジョンを見てにっこりと微笑んだ。


 その顔は火照っていて、とても官能的で……。


 思わず恐怖をわすれて呆けたジョン。


「おじさんも敵かな……?」


 銀光がきらめいた気がした。

 このままでは殺される、とジョンは思う。

 急いで、口から手をはずし、何か言い訳をしようと動いた瞬間。

 視界がずれた。







 



 

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