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だんちょーの経緯  作者: nanodoramu
二章 ふくだんちょー こどもなおとな
17/121

かいまく  おうひのけってい

改修

王国歴三百二八年 夏


 ここはエフレディア王国の王宮、女の苑、後宮の庭園である。

 季節の草花が咲き乱れ、専門の庭師によって管理されたそれは一種の芸術の域に達している。

 花の優しい香りが、心地よさを運んでくる。


 そんな庭園で優雅に紅茶を飲んでいるのが今代の王妃、フランシス・エフレディアである。

 平均的な身長に、長くて綺麗な紅髪を背中まで伸ばしている、タレ目がちで活発で人懐こい印象を抱かせる女性だ。


 見た目の通り、活発で時折突飛もない行動をとり侍女を驚かすのは日常茶飯事である。


 淑女とは程遠い、それが今代の王妃である。

 フランシスは紅茶を飲みながら庭園を楽しんでいる。


「この紅茶、美味しいわねぇ……」


 呟くその言葉、独り言のつもりが返答があった。


「リトラニモ産らしいですよ、なんでも海を超えた所からの交易品だとか……」


 フランシスが声のするほうい振り向くとそこには一人の侍従(メイド)が立っていた。


「あら、いたの? セシリア」


 金の髪を肩まで伸ばし、毛先は縦にらせん状にカールしている、背は平均よりも高く、目も切れ長でどこか、女性だというのに何処か戦士のような鋭さを感じさせる。


 第一王妃筆頭侍女、セシリア・リリィである。


「ええ、父上はもう帰りましたので」


「そう、アーノルド様は何かおっしゃられて居た?」


 アーノルド・リリィ、つまりはセシリアの父なのだが、時たま娘の様子を見に来るのだ。

 暇なのだろうか。


「いえ、特には……? いつも通り過保護なだけでした、あ、でも、これ見てください、頼んどいたんですが、やっと手に入れたんです、いつもはダメの一点張りなんですけどねー」


 喋りながら、小脇に抱えた荷物を漁るセシリア。


「何をもらったの?」


 興味深げにフランシスが顔を近づけるとセシリアは大きくそれを広げてみせた。


「へへへ、ジャーン」


 白い布地に、肩には肩章をはめる所に、胸には文様をはめる所が。

 そして、いくつものベルトを通す穴。


 騎士服だった。


 それも、白地のそれは、地竜騎士団の物に他ならない。


「呆れた……どうしたのそれ?」


「兄上のお古です!」


 なるほど、お古か……、とフランシスは思う。


「お兄さまって地竜騎士団の?」


 セシリアの兄は、地竜騎士団に所属している団員である。


「兄上は母上に似て細くてちっこいから、私と服のサイズが同じなのです」


 セシリアはそう言うと、上着を羽織り始めた。


 しかし騎士服とはお遊びで着て良いものではない。

 騎士服とはエフレディア王国に認められた騎士のみが着る事が許される。

 いわば正装のようなものでもある。


 加護が編み込まれており、通気性、柔軟性にすぐれ。

 耐刃、耐水、耐火、耐寒を併せ持つ衣服である。


 そして、騎士の証とも謂われる服である。

 着用は騎士にしか許されない。


「どうですか? 似合います?」


 子供のようにはしゃぐセシリア。


 けれども。


「アンタそれ、ここならいいけど他で着たら捕まるからね?」


 フランシスは冷静にツッコミをいれた。


「ええぇぇぇぇ……」


 セシリアはまるで子供のように声をあげる。


 ものすごく残念そうだ。


「常識でしょう」


 まったくこの娘は……。

 何処か抜けているのが、たまに傷だ、とフランシスは思う。


「ああ、でも」


 フランシスは思い出したように笑う。


「着れるようになるわね、それ」


「本当ですか!?」


 セシリアは飛び上がるようにはしゃぐ。


「そうね……あんたでいいわ、他に適任もいないだろうし、夢が叶うわね」


 フランシス意味深につぶやく。


「え?」


 その言葉にセシリアは眼を丸くしてフランシスを見つめた。


「騎士にしてあげるから、頑張りなさい、あんたの夢だったでしょう?」


「なぜご存知なのですか!? ありがとうごうざいますけど!」


 セシリアは疑問と喜びのあまり不思議な言葉遣いをする。


「日課の剣術の訓練に、騎乗術……いつも読んでる本は白騎士物語……誰だってわかるわよ……」


 フランシスは呆れたように呟いた。


 白騎士物語とはエフレディア王国で連載している、童子向けの物語だ。

 勧善懲悪、白馬にのった白い鎧の騎士が、悪人を懲らしめるという単純なものだが、単純が故に子供受けがいい。


 この物語を聞いて騎士を目指すものも少なくはない。

 むろん男はだが。

 女性ならヒロイン役であるお姫様に憧れるのが普通だろう。


「白騎士物語は私の聖書(バイブル)です!」


 叫び、セシリアは目を輝かせる。


 剣術などの鍛錬を行っていることから、明らかに騎士のほうに憧れているセシリア、淑女としての思考回路がぶっ飛んでいる。


「そんなもの聖書(バイブル)なんて行ったら神官に殺されるわよアンタ」


「神官ごとき返り討ちです」


 セシリアは自慢げに胸をはる。


 それを見てフランシスは呆れたように、口をあけた。

 けれども、何か言おうとする言葉を飲み込んで、セシリアを促した。


「まぁいいわ……馬車を用意しなさいな、神殿に行くわよ」


「はい?」




 


***




 カタコト。

 カタコト。


 カタコト。

 カタコト。


 馬車はゆったりと煉瓦道を進む。

 周りにはスルスルと動く騎影が見える。

 護衛である。


 王妃様が乗っているのだ、当然ではある。


 護衛をしているのは王都常駐騎士団、蛇竜騎士団の護衛である。


 一角獣(ユニコーン)三頭だての馬車の周りには、蛇竜(ドレイク)に跨る、竜騎士(ドラグーン)達が守りについている。


 セシリアは馬車の中から目を輝かせて竜騎士(ドラグーン)達を見ていた。


「うわぁ。蛇竜騎士団だぁ……。格好いいなぁ……」


 そんなことをつぶやいている。


 蛇竜(ドレイク)は蛇の竜と書く、全身を紫の鱗に覆われた蛇である、足は無く、文字通り長い体を蛇のようにくねらせて移動する。


 なぜこれが竜として扱われているのかは学者にしか判らない。

 ぶっちゃけでかい蛇である、二十を超えた女が格好いいとか言っちゃう要素は皆無である。


 そんな様子のセシリアをみてフランシスは人選間違えたかと一瞬後悔した。

 しかし、フランシスの知る限り、こうみえてセシリアは女性ではまず間違いなく猿人(ヒューマ)族最強である。


 王妃様の護衛兼侍女になるにあたってセシリアに与えられた武器がある。

 セシリアに与えらた武器は(かえで)と名付けられた名刀で、遥か東方、土人(ドワーフ)の子孫と言い張る謎の一族が作り上げた切れ味を極限まで鍛えた(カタナ)と呼ばれる武器である。


 加護は守りと切断。

 攻撃の意思をもって刃を振るえばその全てを切断する。

 守りの加護がない武器などそのままなで斬りにしてしまうほどだ。

 そして魔法も例外ではない……。


 セシリアが(かえで)を使った時にそれは起きた。

 護衛への就任したときに軽く手合わせした、地竜騎士団の団長の魔法。

 土針(アースニードル)と呼ばれる、土でできた針が飛んでいくという対人用土魔法だ。


 地龍騎士団団長は初めはセシリアをお嬢様だと侮っていた。

 軽くひねって現実を教えよう(恥をかかせてやろう)としていたのだ。


 ところがいざを発動させれば、一歩下がるだけで魔法を躱し、そのまま有ろうことか土針(アースニードル)を切り飛ばしたのだ。


 それをみて本気をだした地龍騎士団団長は見事にセシリアに勝利したが、結果として左腕を失った。


 結果として地龍騎士団団長の勝利でもあるが、周りの人間からしたら悪夢であっただろう。


 セシリアにとってはいい思い出だが。


 地龍騎士団団長はその時の事をこう語っている。


「男だったら……、男だったら……、うちの娘の婿に欲しい」 


 そんな事を思い出しながらもフランシスは言葉を選んだ。


 この騎士馬鹿にどうやって説明しようかと。


「かいつまんで言うと今度、貴方の弟に女性だけの騎士団を作らせる事になったのよ、それで弟君が団長で貴方が副団長」


「ふく……だんちょう……、ふく団長? 副団長!」


 言葉を反芻してやっと事態を理解するセシリア。


「弟が騎士団長というのは引っかかりますが、というか男でしょう?」


 セシリアは変な顔をする。


「あなたの弟君、クリス君だっけ? 失伝魔法(ロストマジック)の封印解いちゃったじゃない?」


 思い出したのかポンと手を叩く。


「あー、そうでした、変身魔法使えましたね。案外可愛かった記憶があります」


 フランシスは笑い肯定する。


「何年か翼竜騎士団に在籍してるし、ちょうどいいかなって思ってね」


「なるほど、そうですね、私も何も知らぬ赤の他人よりはやりやすいかもしれません」


 納得したのかうんうん、とうなづくセシリア。


 それでね……と続けるフランシス。


「神託があったのよ、詳しい内容は陛下と大司教(アークビショップ)様しかご存知ないらしいのだけど、それで女性だけの騎士団が必要なの、それで貴方と弟君に白羽の矢が立ったのね、こう二本ぶすっと」


 笑いながら、セシリアの胸を両手の人差し指でつつくフランシス。


「フランシス様。おやじくさいですよ?」


 いつもの事なのか、軽く流すセシリア。

 オヤジくさいと言われ何気にショックを受けながらも話を続けるフランシス。

 本来なら不敬罪だが、それを気にしないくらい二人の仲は親しく深い。

 所謂幼なじみというものなのだ。


 王妃フランシス・エフレディア。


 旧名フランシス・ローズである。


 リリィ公爵家の親戚筋、ローズ公爵家の出生である。

 年の近い二人はよく一緒に遊んだものだ。


 ほとんど、セシリアの冒険にフランシスが泣きながら付いていくというものだが。


 人目がなければ、お互い呼び捨てるほどの仲ではある。


「それでね、神託だから神殿のほうも珍しく本腰なのよ?女性だけの騎士団作るにあたって全員に聖騎士(パラディン)に成らせるっていうのよ?大盤振る舞いじゃない? 怪しすぎるわよね」 


 フランシスは考え込む。


「戦争でも戦力を貸し渋る連中が、何を考えているのかわからないけど、仮に騎士団を作っても奴ら(神殿)に掌握されないようにね、私の懐刀である貴方を送るってこと」


 そう締めくくった。


 ほどなく馬車が止まり、扉が外から開かれる。 


「今日セシリアは聖騎士(パラディン)になるのよ、気合いれていきなさい。神殿の連中に決して弱みを見せないようにね?」


 そういうとフランシスは力強い笑を浮かべる。


「お任せください、神殿の連中など返り討ちにしてやります」


 言い放ち、意気揚々と先に馬車を降りるセシリア。


「お手を、フランシス様」

 

 そう言い、馬車の外からフランシスに手を差し出すセシリア。

 その姿、侍従(メイド)服なら、単なるお付きにしか見えはしない。

 けれども、今セシリアが来ているのは紛う事なき騎士の服。


 美麗衆目な若き騎士。 

 そう言われるてもしっくり来る。

 

 そんなセシリアの姿にフランシスは苦笑した。


「そういう所は騎士っぽいんだけどねぇ」


 そして、二人は神殿へと降り立った。


 

改修

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