十三話 翼竜《ワイバーン》 襲来 聖騎士《パラディン》の可能性
改修
パカポカパカポカ。
馬車はゆったりと進む。
二頭建ての馬車が五つに驢馬が二頭。
一見すると商人同士の商隊だが、よく見れば馬車を引く馬は一角獣だ。
そして、周りを歩く者は女性ばかりだ。
しかもよくみれば女性たちも只者ではない、ほとんどと言っていいほどのものが革製の軽鎧の上に外套を着込んでおり、背中や腰には各々の得物を所持してる。
隙間から見える筋肉は隆起し、常人のそれではないことを示している。
土耳長達だ、彼らは草原を進んでいる。
中に二人ほど、驢馬にまたがる女性が見える、こちらも女性ではあるが風体は土耳長とは正反対な華奢な体に銀髪紅眼の女性である。
片方の女性の外套の隙間からは金属の輝きが垣間見える、金属の鎧を着込んでいるようだ、もう一人の小柄な女性の外套の下に見えるのは緑色の僧服である。
先頭を行くのは銀髪で金属鎧を着込んでいる女性……クリスだ。
クリスは地図と磁石を睨みつけている。
「後一刻もしないうちに王都につくはずだ。王都についたらすぐに神殿に向かうからな、準備はしておけ」
クリスが後ろの集団に声をかけた。
「わかった」
大柄で槍斧を担いだ女性、土耳長のユカラがそれに答えた。
「しかし、聞いた限りでは水を飲むだけなのだろう? 何を覚悟するのだ?
ユカラは鼻で笑う。
そんなユカラをみてクリスは癪に障ったのか、そっぽを向いた。
「……俺のときは気絶したんだ」
「それも聞いたが、今までで気絶したのはお主だけだという話ではないか? なら大丈夫だろう」
その言葉にクリスは不満気にユカラを睨む。
睨まれたユカラは肩をすくめた。
「そう睨むな、確かに体を作り替えられるというのは妙な感じなんだろうよ? 私が聞いた話では負傷や病すらも、聖水を飲んだときに治ってしまうのだろう? なら大方お主の中にあった悪い部分が治されたんだろうよ。治癒熱のようなものだろう」
ケラケラと笑うユカラ。
「……そういう考え方もあるか」
クリスは憮然とした表情で呟く。
「覚悟よりも私は楽しみだな? 聖痕だったか、強くなれるのだろう? 私が聖騎士になったらそあらためてお主に再戦を申し込むぞ?」
ユカラはニヤリと獰猛に目尻を釣り上げた。
その眼には既に闘士が滾っていた。
「考えておく……」
クリスはさも面倒くさいとばかりに、おざなりな返事を返した。
「よいよい、約束だ、まずは聖騎士とやらに成らんとな。お主の見立てじゃ全員が成れるのだろう?」
「一応な……千里眼が信用できないなら直接確認してやろうか?」
クリスは両手の指をわきわきとさせながら、厭らしく口角をあげた。
「信じていないというわけではないが、確認したいなら構わんぞ?」
だというのに、ユカラは余裕たっぷり妖艶に微笑んだ。
思った反応が帰ってこなかったのか、クリスは顔を顰めた。
「つまんねー」
クリス悪態をついた。
「何を確認するつもりなんですか?」
気づけばそこには、いつの間にかアリシアが居た。
耳はわずかに光っており聞き耳の聖痕を発動させた後が見える。
「いや別に……、聖騎士に成れるかどうかっていう……」
クリスはしどろもどろになりながらも答えた。
「あまり、デリカシーの無い事はしないようにって言いましたよね?」
アリシアは若干怒気を含んだ、声でクリスを注意した。
「ただの冗談だって、そんなに怒るな……」
けれども、クリスの言い訳が火をつけたのか、説教を始めてしまう。
「大体クリスはいつも、デリカシーが……」
うなだれるクリス。
ユカラはそんな二人を楽しそうに見つめている。
ふとそれを口にした。
「妬いているのか? アリシア」
ユカラは唐突にそんな事をアリシアにだけ聞こえるように囁いた。
「なっ!」
反論できないのか、アリシアは口をパクパクとさせながら、頬を赤く染める。
「別にクリスをお前からとったりはしないよ、大丈夫だ」
アリシアは混乱した。
何が大丈夫なのだろうか?
少なくともアリシアの今の感情は大丈夫ではない。
「村にいた頃にもそういう連中は居たし、別に気にはせんしな?」
どういう連中なのだろうか。
アリシアはユカラを小一時間問い詰めたくなってきた。
「お主とクリスはそう言う仲なのだろう?」
「違います!」
叫ぶアリシア。
その顔は真っ赤に染まっていだ。
「何が違うんだ?」
アリシアが唐突に叫んだ事に驚愕したのか、クリスはアリシアを不思議そうな眼で見つめていた。
「なんでもありません!」
アリシアはそう叫ぶと鼻息を荒く後ろのほうへ下がっていってしまった。
「からかい過ぎたかな? 悪い事をした」
ユカラが反省などしていないという表情でのたまった。
「何を言ったか知らんが、アリシアは年の割に子供っぽいところがあるからなあまり怒らせるなよ? 怪我しても治してくれなくなるぞ、再生の聖痕は標準装備とはいえ燃費が悪い」
「それは困るな」
ユカラは優しく笑う。
こっちは気づいておらんのか。
面白い……とほくそ笑む。
「何、色恋の話をちょっとな? 女の嗜みだろう?」
「女だけの村に、箱入りのアリシア……色恋に結びつかねーな……」
呆れた表情をするクリス。
別に男がいなくても色恋くらいはあるだろうに。
そんなことを考えながらも、ユカラはニヤニヤと笑っている。
「ニヤニヤしてんじゃねーよ、まったく。一応確認しておくが、王都で集合場所は宿舎だからな、あまり道草はするなよ」
「わかっているさ、何度も確認しただろう?お主は門で別れ手続きやら職務やらを片付ける、その間に我らは儀式を受け聖騎士に成り、宿舎に向かう……完璧だろう?」
そう言ってユカラは胸を張る。
「ああ、それでいいんだが。何かあったらお前らはアリシアを頼るしかないんだからな、あまりからかいすぎるなよ?」
クリスは口を酸っぱく注意する。
そんなクリスを見てユカラは過保護なやつだと思う。
けれどもこれは両想いかとも思う。
そんな、こんなで、道中歩いて行くと、程なくして王都の門が見えた。
「あれが、王都だ」
クリスが土耳長達に声をかけた。
クリスの後方からは感嘆の声があがっている。
***
エフレディア王国、王都ミナクシェル。
二方を山に守られ、二方が草原と接する。
要塞都市といっても過言ではなく、草原に接する街の城壁は二十メートルを超える。
建国以来城壁は破られたことはなく。
城壁には戦いの歴史か、戦争の傷が今でも残っている。
城壁の上には魔法砲台が設置されてあり、一撃で翼竜をも落とす威力である。
山岳部の地域から、は定期的に飛べる騎獣、翼竜や鷲獅子が飛び回り定期的に警戒の任に当たっている。
惚けている連中にクリスが声をかけ、歩を再開する一向。
程なく門に到達するかというときだった。
それに最初に気づいたのはクリスだった。
遠くに黒い点が見えたと思ったら徐々に点が大きくなっていく。
点はやがて形を表した。
それは翼竜だった。
凄い速度で近ずいてきている。
「伏せろ!」
豪っと暴風が駆け抜けた。
驢馬を下り、驢馬ごと地面に伏せたクリス。
バッサバッサと翼の羽ばたく音がした。
風が収まり、後ろを確認するクリス。
「無事か?」
「大丈夫だ」
「問題ない」
あちらこちらから確認の声があがる。
軽い擦り傷くらい負ったものはいるだろうが、大きな怪我をしたものはいないようだ。
馬車の近くに居たものなど、一角獣の魔法に守られたのだろう、目を丸くして一角獣を見つめている。
女を守るというのは伊達じゃなかった一角獣。
けれども、若干興奮しているのか嘶いているものもいる。
クリスはそららをみてほっと胸をなでおろし、騒ぎの原因。
目の前に立っている翼竜を見据えた。
土耳長達は各々の得物を構えて警戒している。
翼竜は灰色の体でクリスに向かって何か「ギャァギャァ」と囀っていた。
しばらくすると、翼竜の背中のほうでガサゴソと音がした。
そちらを見上げると、金髪ロン毛の騎士が鐙から落ちそうになっており、どうにか体制を直そうとしていた。
翼竜は背中の騎士など気にもせず、クリスに囀っている。
何かに気づき翼竜にに近づいていくクリス。
「お前ポチか? ちょっとでかくなったな」
クリスに頭を摺り寄せてくる翼竜、背中から振り落とされる騎士。
クリスは翼竜を撫でると、翼竜は嬉しそうに嘶いた。
ポチは出産で死んでしまった親の翼竜の代わりに技術部が卵から返した翼竜の一匹だ、他にも二匹タマとゴローが居る。
中でもポチは一時期クリスの騎獣と成っていた翼竜である。
もっとも、翼竜騎士団を離れてからは会う事はなかったが。
クリスに戯れ甘えた声で囀る翼竜。
「偵察の帰りか?」
クリスが聞くと、翼竜は頷くように首を大きく振った。
「そこのキザったらしい騎士がお前の新しい乗り手か?」
見れば金髪の騎士が立ち上がりポチをなだめるためか、乱暴に手綱を引っ張っている。
「扱いがなってねえな……」
新人なのだろう、その扱いは荒い。
「どうしたのですか? エッフェルドット? 急に指示を聞かずに急降下して」
騎士は翼竜をエッフェルドットで呼んでいた。
「こいつはポチだ。お前翼竜騎士団の新人か? 新人が一人で?」
クリスは騎士を睨みつける。
「失礼致しましたレディ、私は伯爵家ディラン・ライトリアと申す者です、翼竜騎士団期待の新鋭、風切りのディアンとは私の事です」
騎士の礼をとるディラン、所作がところどころ大げさで気障ったらしい。
その上自己愛臭が酷い。
二つ名を名乗るのなら戦士としての腕はそれなりにあるのだろうが。
クリスは顔をしかめてディランに問う。
「なんで、お前みたいな新人が一人でポチにのってんだ?」
クリスの問に偉そうに答える騎士。
「この翼竜の名前はエッフェルドットです。私の騎獣です」
新人扱いが気に入らなかったのか目を細めてクリスをみる騎士。
「ポチだって言ってんだろ、下っ端」
怒気を孕んだ声でクリスが言えば、騎士は薄らわらいを浮かべた。
「そういえば、昔はそんな名前で呼ばれていましたね、しかし私の騎獣になるにあたってあらためて名付けさせていただいたのです、ですからエッフェルドットです」
ディランは名前については譲れないのか言い張っている。
「それで私を下っ端と罵り、この竜の昔の名前知るあなたはどこのどなたでしょうか?」
ディランは慇懃無礼に聞き返す。
「まともに翼竜にも乗れない似非竜騎士に答える必要は感じねえな? 大方他の翼竜に乗れないで、技術部にでも泣きついたのか? それとも親に泣きついて騎士団に金でも積んだか?」
竜は基本己が認めた者しか背に乗せないが、何事にも例外は存在する。
それが技術部に育てられた三竜のポチ、タマ、ゴローだ。
人に育てられた彼らは、頼まれれば簡単に乗せてしまうのである。
卵の時から育てていれば、流石に荒くれ者の騎士団といえど愛着くらい沸くもので、技術部には物凄く可愛がられていた。
そのため人を家族だと思っているその三竜はほとんど誰でも背に乗せてしまうのだ、得にポチは優しい性格のため、新人の練習にもよく使われるほどだった。
ちなみにクリスは女性の姿で、翼竜達が生まれたてから一ヶ月ほぼ付きっきりで過ごしている。
というのも母竜が死んだのはクリスが新人の頃に起きた事柄であり、竜は人族とは真逆の女系社会であり、体も雄より雌のほうが強く大きい。
幼竜は全て母竜が育てる、表向きはなるべく竜社会に近づけるためクリスが都合がいいと選ばれたのだ、刷り込みの対象、三竜にとって女のクリスは母親なのである。
判断を下したのは団長である、竜の飼育にはとても金がかかるし、幼竜は何かと危険がある、病気などで死んでしまうことも少なくはない。
何かあったときは愛着の沸いたクリスが公爵家の力と金でなんとかするだろうというコッソリせこい考えで任されていたのは団長しか知らぬ裏事情もある。
そのためクリスは育成に関しては色々な竜を卵から育てている。
クリスに真実を言い当てられたのか、ディランはぎょっとした顔をする。
「今回はたまたまです、いつもはこんな事にはならないのに今日は……」
そう言って悔しそうに唇を噛んだ。
「お前が乗り手として、認められてねーんだよ、下っ端。ポチは優しいから誰でも乗せるがもちろん好き嫌いだってある、ポチ」
クリスが声をかけるとポチはディランを手綱ごと吹き飛ばし、クリスに背を向けてしゃがんだ。
一足飛びにポチの鐙にまたがるクリス。
「アリシア! ユカラ! あとは手はず道理に動け。俺は用事が増えたので一足先に王都へ戻る!」
そう言うと手綱を捌くクリス、翼竜が翼に大魔力を集め、はばたく。
ディアンは慌てて止めようとするが、翼竜が飛ぶほうが早かった。
飛び上がり、瞬間、後ろ足でディアンを掴む翼竜。
「ちょっと!?」
声を無視して、飛び上がる翼竜。
そのまま、王都へ向けてものすごい飛び立っていった。
「ちょっとおおおおおおおおおおおおおおおおお?!」
空にはディランの叫びがこだました。
残された一同は急な展開についていけずポカンとしていた。
「なんだったんだ? クリス、怒っていた?」
「さあ……確かにあのディランとかいうのには怒っていましたけど、その後は何か思い出したような顔してましたよ? まぁクリスが先に行ってるなら神殿に連絡を送ってくれてると思いますし、私達が着く頃には門に神官が迎えに来てくれると思います……行きましょうかぁ?」
アリシアは皆を促した。
クリスを欠いたが、何事もなかったかのように一行は歩みだした。
***
ここは翼竜騎士団執務室だ。
団長グラン・サーシェスは暇そうに書類を片付けている。
横には副団長である、ジャック・テイラーがテキパキと書類を片付けている、壮年であるはずなのに、年はまだ若くみえ、一見すると優男にしか見えない男である。
「グラン団長、王都近辺の偵察のシフト表の確認をお願いします」
ジャックが一枚の紙をグランの元へ渡す。
「おー、新人随分いれてんじゃねーか? ポチ、タマ、ゴローが居るからって入って一ヶ月もしない新人に乗せるのは危ないんじゃねーか?」
懸念を示すグラン。
「だからこそ、慣れさせるためにも使えるものは使っておかないと、翼竜は技術部の愛玩動物ではないのですよ?」
厳しく言うジャック。
「だけどよう? 育てたのもあいつらだし、竜に何かあったらブチ切れるぜ? あいつら」
「その一番うるさいのが居なくなったから使ってるんじゃないですか、正直クリスがうるさくなければ、その前でも使ってましたが」
嫌な事でも思い出したのかジャックは苦虫を噛み潰したような表情になる。
「クリスなぁ……、なんだかんだで権力は一番あったからなぁ、技術部だし、会計だったし、何度か公爵家に金都合してもらったし……」
遠い眼をしているグラン。
懐を握られていては頭など上がりようがない。
「結構無理やり押し付けたのに、溺愛してましたからね……」
ジャックは思い出すように呟いた。
「あーいう、すかしてひねくれた奴ってのは案外動物好きなんだよなぁ」
持論か経験論か理論を展開するグラン、眠そうにあくびをしている。
「そうですねー、理由は人と違って純粋だからとかでしょうかね、自分は腹が黒い人ほど動物好きが多いと思います」
考察を述べるジャック、喋りながらも書類は捌いている。
そういやとシフト表を見ながら話をふるグラン。
「今日の偵察は新人のディランか。親がすっげー寄付金だしてくれたボンボンだっけ? 性格はあれだが腕は良かったから入団させたやつ」
ジャックはさほど興味がないのか、頷くだけで書類をさばき続けている。
「あいつポチに変な名前で呼んでてしかも扱いが粗いからあいつらにすっげー睨まれてたぞ? 大丈夫なのか?」
「さあ? ポチにしか乗れない奴ってのもそうそういないんですけどね、実家からの寄付金が結構多いですから体面上、一応ポチを専属につけましたけどしばらく様子みて、それでもダメなら雑用からですね」
パサッと紙の落ちる音がする。
ジャックがそちらをみるとグランが書類を落として目を見開いていた。
「え? マジ? ポチ、ディランの専属にしちゃったの?」
若干震えた声で事実を確認しようとするグラン。
「一応、要請書は眼を通してもらったと思ってたんですが……?」
ジャックは確認するようにグランに問うが、首がはち切れるかと思うほど左右にふるグラン。
「いやいやいやいやいや、クリスに聞かれたら公爵家からの援助金打ち切られるんじゃね?」
「…………しまった」
今気ずきましたとう感じの表情をするジャック。
「しまったじゃねええよおおおおおお、あいつもう団員じゃねーから団長権限とか効かねーんだぞ? どうすんだよおおおお一時の大金に眼くらんでじゃねーよ馬鹿野郎!」
悲壮な顔で怒鳴り散らすグラン。
「うるせぇな! あんたが要請書に眼とおさねーのがいけないんだろうが!」
逆ギレするジャック。
「俺のせいか!? 俺のせいなのか?!」
喧々諤々、責任の押し付け合いが始まり、団長室は混乱の渦に飲まれていた。
するとそこへコンコンと扉がノックする音が響く。
すっと姿勢を治す二人。
「どうぞ」
声をかけるジャック、さっきまでの取り乱し用は何処にいったのか、眼には知的な理性を宿している。
「失礼します……」
声をかけて入ってきたのは、新人のガルム・スレイアという男だった。
茶髪で見目はまだ若く、筋肉もそれなりについている、奥様受けを狙ったかのような男である。
「偵察からディランが戻ったのですが……」
ガルムは言いよどむ。
「それがどうかしたか? まさか怪我でもしたか?」
まさか定期偵察ごときで怪我はしないだろうと思いながらもジャックが聞き返す。
グランはいかにも大物ですよという雰囲気を出して黙っている。
この男、新人の前ではいつもこうである。
「なんといいますか、帰ってきたには来たんですが、そのポチが乗せていたのは見知らぬ女で、ディランはポチの足に捕まえられてまして……」
顔を見合わせるグランとジャック。
「…………」
「……その女、どこかに白百合の紋章とかつけていなかったか……?」
ジャックが問うと男は、「そうです」と頷いた。
「よかった。お知り合いでしたか、女とはいえ公爵家でしょう、無下に扱うこともできずおまけに団長を呼んで来いの一点張り、仕方なく呼びに来た次第であります」
ほっとした表情をしてるガルム、しかし今の二人にとってそれはとても憎らしく映る。
「…………」
「…………ディランは無事なのか?」
「あ、はい、ポチの足に捕まえられていたせいで顔は青かったですが異常はなかったです、今は救護室で寝ています」
丁寧に報告するガルム。
「……援助は打ち切られた……来月から給料下がるかもしれないけどがんばれよ新人」
いきなり呟くグラン。
団長の喋っていることが理解できないガルム。
「ハ?」
間抜けな声をだして、呆けた顔をしている。
逆に悲愴な顔を、まるで友の葬儀に出かけるがごとくの雰囲気を醸し出す二人。
翼竜騎士団の出資者はクリスの家、つまりリリィ公爵家である。
でなければクリスが一四歳の時に翼竜騎士団になど入れるはずがなかったのである。
王都には翼竜や土竜蛇竜火竜、竜を使う騎士団は王都に四つある。
王都四竜騎士団だと呼ばれる王都最強の四騎士団である。
しかし最強といえど、戦時でもない今は仕事も多くはない。
純粋な騎士、つまり武闘派などは特に仕事はすくない、逆にいうと純粋ではない騎士、技術部とかに仕事が多いのだが。
大所帯である王都四騎士団の運営は結構カツカツなのである。
騎士とは命をかける仕事である、安い給料では人員維持すらできもしない。
そのため四騎士団にはそれぞれ出資者がついている。
竜の飼育には金が掛かる、それも莫大な……、いくら王国直営といえど豪商や貴族の援助なくしてそれはままならない。
貴族の庶子で豪商の子、クリスが会計として従事するのはある意味当然のことだった、クリスが騎士団を抜けた今でも援助は続いている。
重い足取りで厩に向かうグランとジャック。
ガルムはなぜそんなに団長たちが悲愴なのかわからないでそれを見つめていた。
***
神殿での地下では儀式が執り行われていた。
土耳長達は一人、また一人と聖水を口にしていく。
薄らとした光に包まれ、髪の色と瞳の色が変わっていく土耳長達。
五十人全てがその身を聖騎士と成してゆく。
「これだけ多いと時間もかかりますねー」
アリシアの間延びした声が聞こえる。
「いやしかし凄いなこれは? こんな地下に広大な土地があるのも驚きだが、聖水と言ったか? まさか飲むだけでこれほどの力が手に入るとは……」
ユカラは手を握ったり開いたりして感覚を確かめている。
周りの土耳長達も飛んだり跳ねたり色々と体の具合を確かめているようだ。
ユカラに宿った聖痕は九つ、それなりに多い部類にあたる。
今回はアリシア達だけで儀式を行っているのですでに、聖痕の確認も済んでいる。
土耳長達の平均は大体四つから五つである。
「聖痕の数で地力が違うんだろう?クリスはいかほどの数があるんだ? 私と戦ったときは聖痕使用時の光を確認できなかったが……」
アリシアに問うユカラ。
「クリスの聖痕は今は十九のはずです……」
「十九か、只者ではないと思ったがそれほどの数か……」
ユカラは一人頷き納得する。
「あくまで私が確認できたのはです、聖騎士の歴史上、最多の聖痕数だとは思いますが」
この前なんか意味わかんないところで増えましたし、と思うアリシア。
アリシアは何か思い出すように切り出した。
「これはクリスにも言ったことですが、聖痕の多さは可能性の多さを示します、大きさは力の強さをと」
頷き、聞き入るユカラ。
「これは聖騎士の教訓のようなものでして続きがあるんです、可能性は本人次第で広がりもし、狭まりもする。力は錆びれもすれば、鍛え研ぎ澄まされる事もあるって感じの言葉です、要するに聖痕は増えもしますし、減りもします、鍛えれば強くもなるし、サボれば弱くなるって事です」
「なるほど、鍛えれば増えたり、効果が上がったりするのか」
納得したのかユカラは頷く。
「ですから聖痕が少なかったり小さかったりしても諦めないように、他の土耳長に伝えといてくださいね」
「了解した、皆が一通り落ち着いたら、その言葉伝えておこう」
二人が話しているとどうやら最後の一人が聖痕の確認まで終えたようだ。
どうやら全員が終わったようで、皆無事に聖騎士に成っている。
「体調の悪い人とか、いないですよねー?」
アリシアが問いかけると、「居ません」と返答される。
「じゃぁ、服を整えたら、宿舎に向かいますよー、街で迷子にならないようにしっかり着いて来てくださいねー」
ここにクリスがいたらお前が言うなと言っただろう。
しかし残念ながらクリスはおらず、誰もアリシアに反論するものは居なかった。
改修




