二十六話 開始
ジスタンがクリスへと騎士の礼をとった事により事態は変わった。
「そうか、ならば今回の件はただの内輪もめだな? ならば騎士団としてそこに介在することはない、できない」
グランの言葉にクリスとジスタンが頷いた。
けれども、テートだけが信じられない物をみたかのように目を瞬かせた。
「お父様それは詭弁です!」
「テート、騎士団には騎士団員としての行為を咎める事はできるが、貴族としての内輪もめに介入することはできないんだ」
グランがテートを諌めようとするも、テートはおさまらない。
「そんな、巫山戯てますわ! ジスタンはクリス様を殺しかけたのですわよ!?」
「それでもだ。貴族としての内輪の揉め事に騎士団は介入できない」
グランの言いように、テートは不満げである。
「……クリス様はそれでいいんですの?」
「構わないさ、家名とは便利に使うものだ。それに、こいつの血脈魔法に少し興味があってな、少しばかり調べたいんだ。ここで殺すのはもったいない」
テートの問にクリスは、あっさりと答えを出した。
「そんな事で!」
信じられないと言わんばかりにテートは目を見開いた。
「なに、従者にするというだけだ。所謂書類上は、という奴だ」
先程まで死にかけていたというのに、そんな事を臆面にもださずクリス笑う。
「血脈魔法程度、調べたくばいくらでも調べるといい、もっとも何がわかると言うこともないだろうが」
ジスタンは既に平常運転なのか、その言葉に棘があり、既に普段の自信を取り戻していた。
「大層な自信だな? 先程までの狼狽が嘘のようだ」
「何、女性を殺しかけたが故に、私の挟持が崩れ掛けただけの事。貴殿が男の身であればそのまま殺していたというのに、残念でならない」
外面こそ取り繕っているが、ジスタンの殺意は本物だった。
女性を殺しかけたという事実に、クリスの臣下になるという事実。
ジスタンにとっては二つとも不本意な結果なのだ。
「言うじゃないか?」
クリスが言い返し、ジスタンと互いに獰猛な笑みを浮かべた。
二人は主従というには異質だった。
「私は認めませんわ……」
そんな二人を見てテートは不服そうに呟いた。
「テートも落ち着いて、そうだ、ちょうど昼だし四人でも食うか?」
グランが皆を落ち着けようとした時だった。
部屋の外から慌ただしい声と共に無数の足音が聞こえてくる。
音が段々と執務室に近づいてくるのがわかる。
「何だ?」
慌ただしい声が聞こえ始める。
ダンと、強引に扉が開かれた。
「失礼つかまつる!」
怒鳴り声と共に一人の老騎士と二人の騎士が流れ込むように入ってくる。
先頭にいる騎士がクリスとジスタンを見て、目を細める。
「見習い共、疾くと失せよ」
老騎士が言うなり後ろに居た二人の騎士がジスタンとクリスを追い出そうとする。
「なんですの? 貴方達いきなりいらして、人を追い出そうとなさるなら、理由ぐらいおっしゃるべきじゃなくて?」
「おお、これはテート嬢。ご機嫌麗しゅう。しかし、いくら団長のご息女といえど、今はここに居らしてもらっては困りますな。見習い同様退出願えますかな?」
慇懃な態度で、老騎士が述べる。
「私達も用事があってここに居るとは思わないのですか?」
「しからば、それは後にしていただきたい、事態は急をようするのでな」
「私にも言えない事ですの?」
「左様」
二人の仲は悪いのか、互いに睨み合う。
そんな二人を見て、グランはため息をついたものの、仲裁に入った。
「諍いはいい。ミトル、何があった?」
ミトルと呼ばれた老騎士はグランに耳打ちする。
するとグランは目を見開き、驚きを露わにした。
「不味いな。思っていたよりも早い……ああ、すまんな飯は無しだ。すぐに他の部隊長達を集めておけ」
「承知……カクラ。ミスケル招集をかけろ」
「「ハッ」」
ミトルに指示を出された二人の騎士はすぐに部屋を出て行った。
部隊長を招集しに行ったのだろう。
「ジャックがまだ戻ってきてないんだが、タイミングが悪いな……おっと、すまないが三人とも今日はお開きだ。何か問題があれば後日時間をとる、それぞれ職務に戻ってくれ」
グランに言われて、三人共慌ただしく執務室から締め出されてしまった。
テートは不満を露わにし、ジスタンは何を言うこともなく、クリスはひとり考えこみながら、三人は己が職務へと戻って行った。
***
ここは翼竜騎士団東部にある森林地帯。
巨大な樹木の上で、枝に腰掛け、二人の男が話あっていた。
片方は翼竜騎士団の騎士服を着込んだ細身な男。
すらりとした長身の金髪の耳の長い男である。
「いやはや、ジャックさんも不幸な人ですね、任務失敗お疲れ様です」
耳の長い男は笑いながら、話をする。
笑っているというに、何処か人を喰ったような表情だ。
「あれは予想外だった」
反対に騎士服を着込んだ男……翼竜騎士団のジャックは不服そうに項垂れた。
「まあ、心中お察しします。今回のは間が悪いというかなんというか、竜種の縄張り争いに入る猿人が居るなんて誰も想像できませんって」
「最強の幻獣である竜種のさらに群れの上位者同士でのみで行なわれる縄張り争いに入って生きてられるとは……」
「もともと、あの群れも可笑しいんですよね、ミューデルトとステラヘレナでしたっけ? 一位二位が揃って、銀竜と戦える程の翼竜とかやばすぎでしょう」
「だが、それでも銀竜が押していたのは確かだったんだがな……」
ジャックはその光景を思い出し、ため息をついた。
「そうですね。私のほうでもあのこが乱入するまでは銀竜の勝利を確信していました、けれども」
「ああ、クリスが乱入した途端まるで息を吹き替えしたかのように……活力が戻って行くのを感じ取れた」
納得が行かないとばかりに、ジャックは奥歯を噛みしめる。
「あのこは随分と竜に懐かれてるようですね……エフレディアの王族の血は侮れないといった所ですか?」
宥めるというよりは純粋な疑問を、耳の長い男はジャックに問うた。
「公爵家では然程濃い血とは思えないが、やはりあの姿に何か関係があるのかもしれないな」
そんな男の質問にジャックは考えつつも己が予想を語ってみせた。
ある程度は予測していたのだろう。
「建国が姫、竜の巫女エリザベート・エフレディア。その失伝魔法彼の竜人の姿を模すというものならば、何かしら関係性はありそうですね……しかし、あの姿を見ると懐かしい気持ちにさせられる」
そう言うと青年は屈託のない笑みを浮かべた。
「まるで本人を知っているのかのように聞こえるが」
「建国の時にちょっとね」
ジャックが問えば、青年は淋しげに笑うだけだった。
「耳長とは長生きな種族だな、我々猿人など長くても百年も生きられんよ」
「長生きがいいなら、君も聖騎士にでも成ってみれば?」
「冗談を」
耳長の青年の提案をジャックは一蹴する。
「あれれ? 僕そんな変な事言ったかな?」
「あれは、器から溢れ出た力を使っているに過ぎない、人の身に余る力を酷使すれば訪れるのは破滅だけだ」
「酷使しなきゃいいんだよ、何事も適度にね?」
そう言って耳長の青年はからからと笑う。
思わずジャックも笑いで返したく成るような、純粋な笑み。
「……それが出来たら苦労はしない」
「そりゃそうだ!」
ジャックが否定すれば、今度は耳長の青年はケラケラと笑う。
全てを欺くような欺瞞に満ちた、混沌とした笑み。
「力を持てば必ず魅入られる、それが人というものだ」
「それは実体験かな……?」
「……」
青年に図星を疲れたのかジャックは黙り込んだ。
「あはは、ごめんごめん、冗談だよ」
そう言うと少年は、木の枝の上に立ち上がる。
「さて、そろそろ行こうかな。此度の遠征もまた失敗だね。遠征軍のほうはご愁傷様としか言えないけど」
耳長の青年は肩を竦めた。
「案外、力づくで成功させてくれるかも知れぬぞ?」
「あはは、それはないよ。だってあいつら馬鹿だもん」
耳長の青年は嘲笑い続ける。
「君が寿命で死ぬ前に叶うといいね、じゃあ僕は行くね」
そう言うと耳長の青年は、高さ十メートルはあろうかという木の枝から飛び降りる。
音も立てずに着地して、そのまま東の闇夜へと姿を消した。
「聖騎士か……未練だな、俺は選ばれなかった」
ジャックは呟き、彼もまた闇夜へと紛れていく。
二人が居た場所には冷たい風が吹き抜けていた。
***
ジスタンがクリスに使える事になった次の日の朝。
その日の朝は何かが違っていた。
何が違うというわけでもないのだ、あえてあげれば空気が違うと答えるしかないだろう。
まるで、何かを待っているような、嵐の前のような静けさが翼竜騎士団全体に蔓延していた。
そして、太陽が頂上へ差し掛かった頃、それはやってきた。
ドーン、ドーン、ドーン、ドーン。
四回響いたのは銅鑼の音。
それは宿舎の屋上に設置されている。
緊急時にのみ叩かれる打楽器だ。
その力強い音は、翼竜騎士団が宿舎を抜け、訓練場を抜け、森にまで届く。
そしてもちろん、森の前にある技術部の小屋にまで響いていた。
「この符丁……昨日パンジ殿が呼ばれてまさかとは思ったが。ついにというべきか、ようやくというべきか」
普段は喋りながらでも職務の手を止めないゴリアンが手を止めて話しだした事にクリスは驚いた。
「……何の符丁なんですか?」
聞くことは野暮かもしれないし、今この時期に鳴らされる符丁などクリスとて容易に想像はついた。
けれども、クリスは聞きたかった。
聞かなければいけない気がしたのだ。
「始まったのでござるよ、戦争が……」
「っ……」
ゴリアンに言われて、クリスは唾を飲む。
実感はないが、それなとくは察していた。
いざ言葉にされるといいようのない感覚が体を突き抜けた。
そして、朝からの空気はきっとこのためだったのだろうという納得だけが残った。
「俺たちも前線に出る機会はあるんでしょうか?」
「無いとは言い切れぬが……」
何処か遠い目をしてゴリアンは語る。
何か思い出すように、目を細めた。
「軍事費の会計処理だけで手一杯でござるよ?」
絞りだすようなその言葉。
なぜか哀愁が漂っている。
「はい?」
耳を疑ったクリスが聞き返せば、ゴリアン淡々と答えを放つ。
「戦争にいくら金がかかると思うでござるか……、金の出処、使いみち、金額のすり合わせ言ってしまえば、この三つでござるが、内訳は多岐にわたるでござるよ? 国からの金がどこまででるか、貴族からの支援はいくら配分されるのか、兵糧の資金、ぱっと思いつくだけでもこれだけあるでござる、実際に始まれば、その時折必要な処理が出て来るでござるよ。事務処理は山ほどでる、そこがクリスの戦場よ……」
「え?」
名指しに思わずクリスは聞き返す。
「前回は何年前だったか……朝も昼も、書類の山との格闘、気づけば時間の感覚が喪失、飯を食う時間さえ惜しくなる、飯を食わねば体調が悪くなり、飯を定期的にとらないから、さらに時間の感覚がなくなっていく、婆さんが手招きする。まさに負の無限回廊。気づけば身体はインクと蝋の匂いに塗れ、文字が立体的に浮かび上がる、爺さんが笑いかけてくる。疲れを疲れだと認識しなくなる。少し眠れば、夢に見る書類、少しだけのはずが気づけば長く眠っている、それでなお身体はなお気だるい。そして起きれば書類と挨拶。手を抜けば、また書類が増える……婆さんやまだ迎えは早いでござるよ。爺さんも引っ張らんでもそのうち某もいくので待ってるでござる。はは、その川渡っちゃいけないやつでござろう……? こら引っ張るなって、引っ張るなって、引っ張るなあああああああああアアアアアアアア」
ゴリアンは唐突に叫ぶ。
クリスはドン引きである。
荒い息で何かつぶやくゴリアンが落ち着くのを待ってクリスは声を駆けた。
「素直に増員しませんか……?」
「一応、いくらか……残る連中がいるが、最終決算は技術部がせねば、クリスがせねばならぬ……ここぞとばかりに余計な者を買うものもいるのでな、他の部隊のものに触らせてはならぬ、中には賄賂を送る連中もおるし、おぬし、そういうの興味ないでござろう?」
「金は別に……他の技術部の方は?」
恐る恐る聞いたクリスの問いかけに、ゴリアンは首をふった。
「部隊長のパンジ殿は兵糧隊の指揮や現地での敵方の解析、オラン殿は竜騎士隊の翼竜の世話諸々を担当するでござるし、某も小竜で兵糧や物資の配達や伝令の案を試みるでござるし、居残りの統括をせねばならぬ。そいうえば、礼がまだだったでござるな。小竜はクリスの言うとおり草食であった。お陰で飼育も上手く言った」
小竜の名前が出ただけで打って変わって、上機嫌にゴリアンはなった。
「おめでとうございます、しかし、技術部仕事多すぎじゃないですかね?」
クリスが少し愚痴ればゴリアンは思わぬ答えを返す。
「うむ、多い。しかし、本来の職務がほとんどないでござるがね」
「本来の職務というと?」
「魔法の解析や魔法の創作、兵器開発、装備開発、等が主たる職務でござる」
「名前的にそうですよね? なぜ今はそちらの職務が少ないんですか?」
「それはな、いくらがんばっても竜の吐息を超える魔法はできず、竜を超える兵器はできず、竜の鱗や牙を使った装備を超える装備など無いという事が理解できただけでござったからだ」
「それで竜の飼育が主たる職務になったと……?」
「下手な魔法道具や、貴重な金属で使った装備というのはな、竜を超えるために、竜を育てるよりも金がかかるのだ……そんなものは本末転倒でござろう? だったら竜から抜けた鱗や牙や爪を貰って装備にするのが一番でござる」
「まぁ、そうですね……」
「それで、職務が変わって、前までの職務がおまけ程度になったでござる、そして変わるときにこれ幸いと書類仕事を押し付けられたでござる」
「……」
「なに、結果最終的な会計を一手に担うことになり、ある意味やりやすくはなったがな、おかげで翼竜に金かけまくりでござる」
からからと笑うゴリアン。
翼竜にかける情熱は人一倍のようで、しかし、それは職権乱用とも言うのである。
「そうだ、一つ会計をするに当って助言をしよう、金額で揉めるのはよくある事なのでな」
「それはありがたいですね」
恐る恐る、クリスは問うた。
「慣例でな、過剰申請の不正申告があるのでござるよ」
「慣例……ですか?」
「ようは飲み代、女代って所でござるな。多少は多めに見るでござる、が出資元の王宮や支援者に大っぴらに交遊費と言えないので、大体は普段の雑費や食料品に上乗せするのでござる、ただこの慣例に乗って余計な出費を出すとこもあるのでここも注意でござる」
なるほどとクリスは思う。
息抜きは何においても必要だ。
命をかける仕事であるし、そのための処置なのだろう。
「ムカついたやつがいたら、その部隊の不正申告探しだして部隊にかける金額を減らしてやるといいでござる、貴族や数年勤めた騎士ならともかく、見習いや一年目、二年目の騎士などかつかつでござるからな」
カラカラと笑うゴリアン。
「いやはや、あれは見ものであった……昔な、技術部を前にでれない臆病騎士とか抜かしたやからがおってな。そいつの部隊の不正申告を全部適正金額になおしてやったら、部隊長がわざわざ原因を連れて土下座しにきおってな、なんとそいつの体中痣だらけの顔は膨れ上がり原型が留めてなかったでござる……」
「それは……」
恐ろしきは金の力。
「金額の査定や配分にゴネる奴がいれば交遊費を減らそうか? といえば大抵収まるでござるよ、大きな部隊は特に交遊費も馬鹿にならんでござるからなぁ、こっちが財布を握っているという事だけきちんと教えておくでござるよ」
「なるほど……」
「それと技術部を舐める真似をした連中がいたら容赦なく、恩赦無く交遊費は削るように」
「あ、はい」
なんとも言えない助言である。
だが、譲れない線なのであろう、ゴリアンの目は笑っていなかった。
「まぁ、助言としてはこんなものでござろうか……さてそろそろ行くでござるか」
おもむろにゴリアンは立ち上がる。
軽く騎士服を整えると、儀礼用の外套と帽子を手に取る。
「何処へ行くんですか?」
「式典に」
***
翼竜騎士団中央訓練場は翼竜騎士団の中でも最も広い空間をとられている。
竜騎士達の演習にも使われるのだから、当然といえば当然であるが。
今そこには約三千人にも及ぶ騎士たちが集っていた。
皆、隊列を組み並んでいる。
三千という数は、大凡翼竜騎士団本部のほぼ全ての団員だ。
中央には騎乗済みの竜騎士が二百。
その周りには少しだけ間をあけて、右手には重鎧の騎士達が五百。
左手には騎馬した軽鎧の騎士たちが七百。
後方には騎士服の一千人の歩兵騎士たち。
さらに後方には荷車や物資を囲んだ騎士たちが三百だ。
そして、さらに後方には肩章もない見習い騎士たちと雑務担当である武器を持たない騎士達経二百人である。
全てが翼竜騎士団の騎士たちである。
クリスも後方の二百人に混じっていた。
「全員集まったか? 聞こえてるか?」
拡声の魔法道具を握りしめ隊列の前に佇む台座からグランが、声を出す。
「端の奴、聞こえていたら手をあげてくれ」
四方の端に居る者が手をあげる。
それを確認してグランは満足げに頷いた。
「あー、なんだ。イスターチア帝国の侵攻が始まった」
唐突に端的にグランは言葉を告げる。
けれども騎士たちに乱れはない。
「相変わらず布告も警告も何もない、唐突な侵攻だ、本当に蛮な連中だ」
グランが失笑し、騎士たちも笑い声をあげる。
「海峡の北方からの進軍、海上に軍船が約二百船。大型戦が二十に随伴するように中型が四十、小型が百四十。おそらく人員は二万程だと思われる」
グランはそこで言葉を止め、辺りを見回した。
「相手はたった二万ぽっちだ」
言葉が文法が可笑しい、だというのにグランの声には淀みがない。
真実、そう思っているのである。
その言葉に、場が震えた。
「一人百人だ」
淡々と告げる。
何の気負いもなく、まるで今日の昼飯を決めるかのように。
数字が違うと違和感を思えたものもいるだろう。
「竜騎士隊、出立」
「「「「「応!」」」」」
グランの言葉に竜騎士たちの短い返事。
だけども、その声は大地を鳴らすほどに大きかった。
次々と翼竜達が舞い上がっていく。
けれども、ここでその数字の意味に気づく。
上がっていく翼竜達の数は大凡二百。
つまりそれは、戦争をたった二百騎で終わらせると宣言したに等しかった。
グランも竜騎士隊に向けて歩いて行く。
そこにいる、たった一匹そこに残った誰も騎乗していない最後の翼竜。
最も大きな体をした翼竜、ミューデルトだ。
グランは軽く飛び上がると、綺麗にミューデルトの首元にまたがった。
「以降の指揮は、それぞれの部隊長に通達してある、行ってくるわ。俺たちが百人倒す前には追いつけよ?」
そう言うとまたたく間に空に駆けていく、グランとミューデルト。
空に待機している他竜騎士と合流し、消えていく。
「竜騎士に遅れを取るな! 騎乗騎士、第一大隊。出発する!」
声が張り上げられたと同時に共に騎乗した騎士の一団が隊列を変えて、進んでいく。
「重装騎士、第一大隊。出発する!」
続くの重装備に身を包んだ騎士たち。
その後も、隊を名乗り順次出発していく。
最後の歩兵……物資の運搬部隊が出たところでそれは終わった。
残ったのは二百人。
「さて、これで出陣式は終了でござる。居残りの諸君は食堂へ行くでござる、一時的に全ての情報機能は食堂に纏められる事になるでござるよ」
ゴリアンの発した言葉。
それがこれから始まる、クリスの戦いの合図だった。




