1st 鎮魂歌
「僕らの出会いに意義はあるのか
僕らの想いに救いはあるのか
待ちわびたあの日のために
昨日を生きて今日を紡ぐ」
歌が聞こえる。
「辛い道の先に光が見える
暗い道の先に心が見える
振り返らず
歩き続ければ
たどり着けるのだろうか」
潮騒が響く崖の上、彼女は歌う。
「僕らの出会いに意義はあるのか
僕らの想いに救いはあるのか
待ちわびたその日のために
今日を生きて 明日を願う」
それは鎮魂歌。
それは散って逝った者たちへの最後の贈り物。
そして終わりの旋律が紡がれ、海の音だけが静寂を包む。
「・・・参りましょう。散魂の儀は滞りなく成し遂げられました。」
巫女服に包まれた彼女は踵を返し、待機していた馬車に乗り込む。
その後を侍女が付いて回る。鎖帷子を着た彼女たち親衛隊は馬車の護衛をするべく自らも馬に搭乗する。
「姫様。」
「城に帰ります。馬車を出してください。」
「・・・御意。」
馬車に付いた小窓を開き、空を見上げる”姫”。
彼女を見守る太陽と月は今日も変わらず世界を照らしていた。
繰り返し行われる儀式。約束は守られ、破られることはない。
産声が上がるその日まで。
日本とは異なる国。地球とは異なる星。私たちが住んでいるこの世界とは異なる、異世界。
未だ名もなき「ノスタルジア」と呼ばれることになるこの世界に彼の人が生まれる、僅か10年ほど前の出来事であった。
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