第87話 温かい残った物~ファスニード大陸大戦閉幕~
――そこは真っ暗な世界だった。何というか……初めのエグレサッタ村での戦いで海に沈められたように。底が見えない。でも海と違って上も見えない。横も前も後ろも、全てが真っ暗。黒一色。そんな中をロサイルは彷徨っていた。そしてロサイルは思った。ああ、俺死んだんだな、と。それと同時にまぁいっか、という思いも芽生えていた。仲間のために命を懸け……いや、今回は全ての人のために命を懸けた。これで世界が変わればそれでいい。俺は安らかに眠れる。そういった言葉がロサイルの全身に駆け巡る。
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――――本当にこれで良かったのか?
生きたくはなかったのか? 新しい世界で仲間と笑いたくなかったのか? エグレサッタ村を笑顔の村にしたくはなかったのか? そういった言葉も流れ始めた。
生きれるかはお前次第だ。お前がどれだけ愛されていて、信頼されていて、必要とされているかで、生か死かが決まる。もし、誰かが助けようとしてくれているのなら、一筋の白い光が見えるだろう。
お前は何を望む?
そんな質問がどこからか聞こえてくる。耳にしっかりと届いてくる。
「ロサイル」
誰かがロサイルの名前を呼ぶ。どこか懐かしさを感じる温かい声だった。そう、この声は……
「お父さん……?」
「久しぶりだな、ロサイル」
お父さんがそっとロサイルの頭に触れる。温かい温度を感じた。
「大きくなったな~。この間までバレンア君と鬼ごっこして遊んでいたのに。知らぬ間に世界の英雄になってるんだもんな~」
「…………」
「ロサイル、お前はどうしたい? 生きたいか、死にたいか」
「……どっちを望んだって死ぬ運命なんだ。決める必要なんてないよ……もう、何も残っていないんだから……」
「お前は目が見えないのか? そこら辺にたくさん残っているよ」
「え……」
「使命、権利、そして……仲間がいるだろう?」
そういわれたとき、ロサイルは涙が止まらなかった。何でそんなことに気づかなかったんだ、と、自分を悔しく思う涙なのか、まだ自分には待ってくれているものがたくさんある、嬉し涙なのか。ロサイル自身にもそれは曖昧だった。
「どうなんだ? ロサイル。お前は十分に我慢して生きてきた。こんなときくらいわがままを言え」
ロサイルはお父さんの服をしっかりと握って答えた。
『生きたい……』
その答えにお父さんは笑顔を浮かべた。そして、真っ白な光のほうを指さした。
「なら行くんだ。みんなの所へ」
ロサイルは無言で頷き、白い光に包まれた……
◇ ◆ ◇
「ロサイル……ロサイル……」
声が聞こえた。お父さんの声ではない。懐かしさも感じない。かといって新しさも感じない。でも温かさは感じる。ロサイルはゆっくりと目を開けた。
「ロサイル!」
「ショウ……ザン……」
目の前にいたのは異端審問官のショウザン。今となっては異端審問官でもないかもしれないが。
そのショウザンは真っ白な光をロサイルと教皇に当てていた。その光は紛れもない、真っ暗な世界で見た光だ。
「おーい、みんなー。ロサイルの目が覚めたぞー!」
ショウザンが遠くの方に声をかける。すると、3人の人が嬉しそうな表情と安心した表情を交えてこちらにやってきた。
「本当だ! 生きてるよロサイル!」
「はぁ~、良かったです……」
「やっぱ不死身だな~ロサイル」
その3人はもちろん、リラ、エリス、バレンアだ。一緒に世界を変えた大切な仲間だ。
それに続いてヴァーム、ミーモ、リキリョウ、ピッチといった仲間もやってくる。
「みんな……」
ロサイルはそうつぶやく。するとショウザンがロサイルに話しかけた。
「みんなに感謝しろよ。お前を助けるために2日も寝ないで見守って、手伝ってくれたんだ。エリスは目を覚ますのを信じて、すぐに安定した状態に戻れるよう、全ての力を回復妖精に注いで、お前を回復している。俺が使った『光の回復層』をライト・フォース状態で、最大に威力を発揮するよう、バレンアたちは俺に力を注ぎ続けてくれた。仲間からの思いで生き返ったといっても過言じゃない」
それを聞いてロサイルはみんなの顔を見渡す。みんなが笑っている。それこそ、後悔はないと、目が語っていた。
ロサイルのために力を注げたから――――
バレンアがロサイルに手をさしのべ、優しい声で言った。
「帰ろう、エグレサッタ村へ」
「……ああ」
ロサイルは生き返ってから初めて笑顔を浮かべ、そう答えた。
リラは乗ってきた潜水艦でオーシャンアイランドへ。エリスはスノーモービルでウィニングウィンゲンツに戻ってから、陰陽の隠れ里付近行きの連絡船で陰陽の隠れ里へ。ヴァームたちも連絡船でガルナタスへ。ロサイルとバレンアはウィニングウィンゲンツにエリスの後ろでスノーモービルに乗せてもらい、ヒョウルスに挨拶してからエグレサッタ村へと帰っていった。
ショウザンは、まだやり残したことがある、と言ってその場に残っていた。ある人物と話すためだ。
「どうして、私を助けた?」
「今ここであんたに死なれたら意味ないだろう」
「どういうことだ?」
「あんたは確かに悪いことをした。許せないことをした。だけど、俺にとっては大切な家族でもあったんだ、あんたは」
「…………」
「罪を償って帰ってきなよ。そして、自分のやったことがどれだけ愚かだったか知るがいいよ」
「……感謝はしないぞ、ショウザン」
「最初からされるつもりはないよ。教皇様」
そう言ってショウザンも帰るべき場所に帰っていった。
こうして、平和な世界が戻ったのである。
英雄の名前は数え切れない人数となってしまったため、ざっくりと歴史上にはこう書かれる。
平和を愛する人々――――――
次回、最終88話です!
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