第86話 新たな炎、『ロサイル=クロウズ』
決心をしたロサイルはゆっくりと教皇に近づき、お互いに目を合わせた。
「ほぅ……まだ立っていられますか……」
「こっちのセリフだ……」
2人ともに力は残っておらず、立つのも苦しい状況だった。でも2人は立った。世界を変えるために……
ロサイルは体内に炎を走らせる。全身に炎が回り、ロサイルは真っ赤になった。これが体内炎龍波の姿だった。
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また、その状況は全国生放送されていた。戦争が終了したウィニングウィンゲンツやオーシャンアイランドにも流れていた。
ウィニングウィンゲンツでその様子を見ていたヒョウルスとファルダンは驚愕の表情を浮かべた。
「ヒョウルスさん。あれって……」
「ああ。体内炎龍波だ」
体内炎龍波は自らが衝撃波となり、敵に突っ込む捨て身の技。それを教えたのは紛れもない祖父のヒョウルスである。自分の孫が傷つくような技は覚えさせない性格のヒョウルスだが、こうなるのを予想していたのか、そんな危険な技を孫に教えた。
「ヒョウルスさん! やはり教えない方が良かったんじゃ……」
「…………」
ヒョウルスの目は語っていた。後悔はない、と。我が孫が世界のために命を懸けるくらいの人間になった。
「強くなったな、ロサイル」
そうつぶやいて、それからはテレビから目を放さなかった。
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一方でリラは潜水艦でその状況を見ていた。同様に驚愕の表情を浮かべている。
それは体内炎龍波が捨て身技だと知っているからこその表情だった。そしてヒョウルスたちと同様にロサイルの事を信頼しているからこそだった。
――信じてるよロサイル。あんたは教皇を倒す。そして生きてエグレサッタ村に帰る。
リラもそう自分に言い聞かせ、北デューナに向かっていった。
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また、塔の下にいるショウザン、リキリョウ、ミーモ、ヴァームといったロサイルの仲間たち、そして側近のランスやもう力がなく動けないレミーも、誰もがそっちに注目した。
塔から出ている一筋の炎と虹色の光が北デューナを包み込んでいる。「ここは私の世界だ」と独裁政治の始まり、また、平和を象徴した優しい温かさ、どちらもを感じる炎と光だった。
そしてロサイルは放った。
自らが炎の衝撃波となり、教皇に突っ込んでいった。
何よりも速く、何よりも大きい、そしてみんなの思いを背負った衝撃波が発射された。それは何にも例えることの出来ない、「ロサイル=クロウズ」という新たな物だった。
教皇も虹色球を変形させ、大きな盾を作るが、ロサイルはあっさりと突破する。そして、教皇に激突した。
大きな衝撃波が塔を包み込み、破壊する。今度の破壊はロサイルの敗北を意味するものではない。かといってロサイルの勝利を意味するものでもなかった。ロサイルたちの勝利だった。
ロサイルに悔いはなかった。たくさんの人に愛されて、その人たちのために命を懸けたのだから。そして――――
――――2人は死んだ。
次話、ファスニード大陸大戦閉幕。英雄は果たして……