第51話 憧れた異端審問官
リラはデューナを離れ、ロサイルたちが向かったであろうウィニングウィンゲンツに向かった。樹氷の森の中にある小さな村、ウィニングウィンゲンツはリラの記憶ではあの人が住んでいた場所だったのだ。それを考えると何としてでも行かなければいけない気がした。大きなリュックを抱え、リラは北上していく……
*
ロサイルがジェットで飛んで降りた場所は、樹氷の中にある大きな広場だった。真ん中に噴水があるが気温が低すぎて水が凍っていた。あまりの寒さで体がずっと震えていた。
「それにしても寒いですね~」
「全くだよ」
エリスとバレンアも腕をこすっている。
「それでこれからどうするんだ、ロサイル?」
「この寒さは耐えられないから野宿は避けたいな……だけど、地図はリラが持ってるからここがどこら辺なのか分からないし……」
地図はいつもリラのリュックに入っている。そのリラはたった今デューナを出発したところで、待つのには何日もかかる。それ以前に会えるかも分からない。
その時、エリスが近くにあった看板を指さした。
「あの看板見てくださいよ! ここから先、ウィニングウィンゲンツって書いてありますよ!」
「お! それは村じゃないか! 早速行こう!」
エリスとバレンアは看板に従って進もうとした。その時ロサイルは、ウィニングウィンゲンツという単語から、あることを思い出していた。
――――たしかそこって……あの人が住んでいるんじゃ……
ロサイルのいうあの人というのは、リラのいうあの人と同一人物である。
――――おじいちゃん……
そう、ウィニングウィンゲンツにはロサイルのおじいちゃんがいるのだ。フラージャの町で、エグレサッタの生き残りのナージャに言われたことだ。
「……あのさ、ナージャさん。おじいちゃんの名前って分かりますか?」
「うん。ヒョウルス=クロウズさんよ。」
「あと、どこにいるかは……」
「おそらく、『ウィニングウィンゲンツ』だと思う。」
何がともあれ、行く価値は絶対にある。そう思ったロサイルは先に進んでいったエリスとバレンアを追った……
*
ショウザンはリラが出て行った数時間後に退院し、今は教会の講堂に来ていた。窓に飾られたステンドグラスが太陽の光を青色に変えてショウザンを包み込んでいる。そんな講堂の真ん中に大きな女神の像が立っている。それを見ながらショウザンは、過去の事を思い出した。
――――俺は小さい頃、強くて正義感があって役目でもないのに皆を守っている異端審問官を見て、異端審問官になったんだよな。
ショウザンは昔、誰かの役に立つ仕事がしたかった。だから警察になろうと思っていたのだ。だが、ショウザンの故郷キソーリャは、教皇の命令により破壊された。それに立ち向かっていったのがショウザンのいう異端審問官だった。結局キソーリャは滅んでしまったものの、死者が少ない人数ですみ、彼はキソーリャの英雄だ。まだ小さかったショウザンは、それが異端審問官の仕事なんだと勘違いし、異端審問官に憧れた。その後、当時の教皇は殺され、ファスニード大陸に平和が戻ったと誰もが思った。
それから10年後が今だ。再び邪悪な心を持った教皇が現れ、10年前の再現をしているようだ。キソーリャもレミーの手によって再び破壊された。
ショウザンは心の中で思った。
――――今度は俺が世界を守る。ファスニード大陸に本当の笑顔を取り戻すんだ!
その決意を胸に、ショウザンは北デューナに向かっていった……
次話、それぞれが大戦争への準備を開始する!
大激戦の首都デューナ・大戦争へのカウントダウン編クライマックス!