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悪役令嬢の中には、五人の乙女が死んでいる

作者: 月白ふゆ
掲載日:2026/07/10

 シェルディア・アーヴェント公爵令嬢の断罪は、春告祭の夜に行われた。


 王宮の大広間には、百を超える燭台が灯されている。磨き抜かれた大理石の床には、貴族たちの靴音と囁き声が薄く重なり、天井画に描かれた女神たちは、雲の上から地上の愚行を眺めていた。


 舞踏会のはずだった。


 けれど今、楽団は沈黙し、踊る者は一人もいない。


 広間の中央に立つのは、王太子エドヴァルト。


 淡い金髪に青い瞳。誰もが王国の未来と褒めそやした、美しい青年だった。


 その隣には、聖女リリアベルがいる。白いドレス。涙に濡れた睫毛。守られることに慣れた細い肩。


 彼らと向かい合うようにして、シェルディアは立っていた。


 深い夜色のドレスをまとい、銀糸で刺繍された手袋をはめ、背筋をまっすぐ伸ばしている。黒檀のような髪は結い上げられ、耳元では青い石の耳飾りが揺れていた。


「悪役令嬢」


 誰かが、小さく囁いた。


 その言葉は広間の空気に溶けず、むしろ甘い香のように広がっていく。


 皆、その言葉を待っていたのだ。


 今夜、シェルディア・アーヴェントが落ちる。


 王太子に見限られ、聖女を虐げた罪を暴かれ、公爵家の誇りも、美貌も、矜持も、すべて剥ぎ取られる。


 それを見物するために、彼らはこの場に残っている。


 正義のためではない。


 退屈な宮廷に差し出された、美しい処刑を楽しむために。


「シェルディア・アーヴェント」


 エドヴァルトが、低い声で名を呼んだ。


「君との婚約を、ここに破棄する」


 ざわめきが広がる。


 けれどシェルディアは、瞬きひとつしなかった。


「理由を、お聞かせ願えますか。殿下」


「まだ白を切るのか」


「白を切るには、まず黒である必要がございますわ」


 誰かが息を呑んだ。


 エドヴァルトの眉が、わずかに動く。


「君は聖女リリアベルを妬み、幾度も害した。毒を含ませた花を贈り、夜の廊下で硝子片を用いて傷つけ、社交界に中傷の文を流した。さらに、私との婚約に執着し、王家の意向に逆らい、公爵家を盾に取って王太子妃の座にしがみつこうとした」


 リリアベルが震えた。


「わたくし……シェルディア様を信じたかったのです。でも、怖かったのです。あの方が微笑むたびに、自分がいなくなればいいと言われているようで……」


 涙が一粒、頬を落ちる。


 その涙に引かれるように、広間の同情が聖女へ流れていった。


 シェルディアは、その様子を静かに見ていた。


 美しい涙。震える声。自分は傷つけられたのだと信じる瞳。


 リリアベルは、ただ嘘を吐いているだけの女ではない。


 彼女は、自分の悲劇を信じている。


 シェルディアが冷たく見えた。


 シェルディアの沈黙が怖かった。


 シェルディアの微笑みが、自分を責めているようだった。


 だから、傷ついたのは本当。


 怖かったのも本当。


 苦しかったのも本当。


 ならば、その苦しみに形を与えることの何が悪いのか。


 彼女の涙は、そう訴えていた。


「シェルディア。最後に認めよ。君がしたことを」


「最後」


 シェルディアは、その言葉を口の中で転がすように繰り返した。


「最後、ですか」


 胸の奥で、何かが微笑んだ。


 アルメリアが、扇を広げるように笑う。


 リゼルダが、退屈そうに顎を上げる。


 ルミゼアが、血の匂いを探して舌先を湿らせる。


 ミュレインが、涙を隠すように目を伏せる。


 モルネアが、もう眠りたいと呟く。


 シェルディアの中には、五人の乙女が死んでいる。


 そうして彼女は、今日まで生きてきた。


「では、ご覧あそばせ」


 シェルディアは、静かに微笑んだ。


「これが、わたくしの終生ですわ」


 彼女が手を上げると、広間の端に控えていた侍女が進み出た。


 侍女の名はネリア。


 シェルディアが公爵家から連れてきた、ただ一人の腹心だった。


 ネリアが抱えているのは、黒檀の箱だった。五つの小さな引き出しがあり、それぞれに銀の札がついている。


 シェルディアは、その名を一つずつ読み上げた。


「アルメリア。ルミゼア。リゼルダ。ミュレイン。モルネア」


 広間の者たちには、意味のわからない名だっただろう。


 けれど、シェルディアにはわかる。


 これは棺だ。


 彼女が自分で殺した、五人の乙女たちの棺。


「何の真似だ」


 エドヴァルトが言った。


「証拠でございます」


「証拠?」


「殿下は、わたくしを裁くために今夜の場を整えられました。ならば、わたくしも、裁かれるに足るだけのものを持参するのが礼儀でしょう」



アルメリア――完璧に咲く乙女


 シェルディアは、最初の引き出しに手をかけた。


 銀の札に刻まれている名は、アルメリア。


 完璧に咲く乙女。


 何も妬まず、何も欲しがらず、誰から見ても美しくあるためだけに作られた、最初の死体だった。


 七歳のシェルディアは、鏡の前に立たされていた。


 母は背後に立ち、彼女の顎をそっと上げる。


「俯いてはいけません」


「はい、お母様」


「笑いすぎてはいけません。軽く見えます」


「はい」


「無表情でもいけません。冷たく見えます」


「はい」


「涙は、誰にも見せてはいけません。王太子妃になる娘が、人前で泣くものではありません」


「……はい」


 その日、シェルディアは泣きたかった。


 庭で転んで膝を擦りむいたわけでも、教師に叱られたわけでもない。


 王宮での茶会で、エドヴァルトが彼女の名前を間違えたのだ。


 シェルディアと呼ぶべきところを、別の令嬢の名で呼んだ。


 周囲は笑った。


 王太子は、謝りもしなかった。


 それだけのことだった。


 それだけのことで、七歳のシェルディアは傷ついた。


 けれど、母は言った。


「気にしてはいけません。殿下はお忙しいのです」


 父は言った。


「王家に望まれているのだ。誇りに思いなさい」


 教師は言った。


「公爵令嬢なら、相手に恥をかかせず微笑むものです」


 だからシェルディアは、傷ついた自分を胸の奥へ押し込んだ。


 代わりに、ひとりの乙女を作った。


 誰よりも美しく笑える乙女。


 間違えられても怒らない乙女。


 踏まれても、花として咲いてみせる乙女。


 アルメリア。


 彼女はよく笑った。


 けれど、その根はいつも血で濡れていた。


「まずは、毒花事件について」


 シェルディアの声で、広間は現在へ引き戻された。


 ネリアが最初の包みを取り出す。


 中には、一枚の帳簿の写しと、細いリボンが入っていた。リボンは淡い金色で、端には王宮備品を示す小さな印が織り込まれている。


「リリアベル様へ毒を含ませた花束が届いたのは、十日前。注文者名は、わたくしになっておりました」


「そうだ。花屋も証言している」


 王太子側近室筆頭、ロイゼン伯爵令息が声を上げた。


 怜悧な顔立ちの男だった。


 彼は最初から怒鳴らなかった。聖女のように泣きもしなかった。


 ただ、場を正しい方向へ押し流すための言葉を選んでいた。


「花屋の証言、注文書、届け先、すべて揃っている。アーヴェント公爵令嬢が今さら何を出そうと、無駄です」


「ええ。花屋は確かに、注文書にわたくしの名があったと証言しました」


 シェルディアは、帳簿の写しを開かせた。


「ですが、支払いに使われた小切手までは、ご確認なさいませんでしたのね」


 ロイゼンの目が細くなる。


「花屋『銀梢堂』の帳簿です。注文者名はシェルディア・アーヴェント。ですが、支払いの小切手番号は、ロイゼン伯爵家のものと一致しています」


「帳簿の写しなど、いくらでも偽造できる」


「そうおっしゃると思いましたわ」


 シェルディアが軽く指を動かすと、広間の後方から年配の男が進み出た。


 王都商業組合の書記長だった。


「銀梢堂の帳簿は、組合保管の控えと一致しております。小切手番号も、王都銀行の記録と照合済みです」


 ロイゼンは怯まなかった。


「ならば、誰かが私の家の小切手を盗んだのでしょう」


「では、こちらは?」


 シェルディアは、金色のリボンを持ち上げた。


「問題の花束に結ばれていたリボンです。これは王宮女官室に納められる備品。公爵家では扱っておりません」


「王宮に出入りできる者なら盗める」


「ええ。王宮に出入りでき、ロイゼン伯爵家の小切手を使え、わたくしの名を騙っても花屋に疑われず、さらに聖女様が受け取る時間まで把握できる方なら」


 広間の空気が、わずかに冷えた。


 シェルディアは微笑んだ。


「この花束は、単独の嫌がらせではございません。これから皆様にご覧いただく一連の舞台装置、その入口ですわ」


「舞台装置?」


 エドヴァルトが眉をひそめる。


「はい。聖女様が傷つき、殿下が憤り、貴族たちが悪役令嬢の破滅を待つための舞台装置でございます」


 アルメリアが、シェルディアの中で美しく礼をする。


 完璧に咲く乙女は、完璧に反証した。


 花は毒ではなく、嘘を吸って咲いていた。



ルミゼア――血を望む乙女


 シェルディアは、二つ目の引き出しを開けた。


 ルミゼア。


 夜と血と破壊衝動。


 殺したいと囁く乙女。


 聖女リリアベルが傷を負った夜、王宮の廊下には雨の匂いが満ちていた。


 シェルディアは、自室の窓から濡れた庭を眺めていた。


 リリアベルが泣いていると聞いたのは、翌朝のことだ。


 白い腕に切り傷を作り、聖女は震える声で言った。


 シェルディア様が、硝子片でわたくしを。


 その時、シェルディアの中でルミゼアが笑った。


 わたくしではない。


 けれど、そうしてしまえばよかった。


 自分の恐怖を真実に変えるためなら、自分の肌さえ傷つける女なら。


 守るふりをして、信じたいものだけを信じる王太子なら。


 泣き声だけで事実を決める者たちなら。


 いっそ、本当に血を見せてやればよかった。


 ルミゼアは囁いた。


 硝子片など使わずとも、もっと美しく裂けるのに。


 その声を、シェルディアは殺した。


 淑女は血を望まない。


 公爵令嬢は、怒りで手を汚さない。


 王太子妃候補は、たとえ冤罪を着せられても、相手の喉元へ爪を立てない。


 だから、ルミゼアは死んだ。


 胸の奥で、何度も。


「聖女襲撃事件について」


 ネリアが二つ目の包みを開く。


 中には、医師の所見書、巡回記録、そして小さな硝子片が納められていた。


「リリアベル様は、夜の廊下でわたくしに左腕を切られたと証言なさいました」


 リリアベルが震える。


「本当です……わたくし、本当に怖かったのです。シェルディア様は、いつもわたくしを見る時、何も言わずに笑って……あの夜も、きっと……」


「きっと?」


 シェルディアが問い返すと、リリアベルの瞳が揺れた。


「わたくしには、わかるのです。あの方は、わたくしを憎んでいました。わたくしが邪魔だったのです。だから、わたくしは……」


「形を整えただけ?」


 リリアベルの唇が止まった。


 シェルディアは、優しく言った。


「傷ついたのは本当。怖かったのも本当。ならば、その恐怖に、わたくしという名前をつけても許される。そうお思いでしたか」


「違います……」


「違いませんわ」


 ネリアが所見書を広げる。


「リリアベル様の左前腕部の切創は浅く、刃の入り方が一定ではありません。王宮医師の所見では、正面に立つ相手が切りつけたものではなく、右手で自身の左腕へ当てた場合の形に近いとのことです」


「お医者様まで、シェルディア様に買収されたのですか!」


 王宮医師の顔が赤くなった。


 シェルディアは、硝子片を示す。


「こちらは、リリアベル様のお部屋の暖炉脇から見つかった香水瓶の破片です。事件現場に落ちていた硝子片と、厚み、色、香料の残り香が一致しました。瓶は、聖女様ご本人のもの」


「わたくしの部屋に、シェルディア様が忍び込んだのです!」


「その夜、わたくしは王妃陛下主催の茶会後、侍女三名とともに自室へ戻りました。王宮の巡回記録にも、わたくしが廊下へ出た記載はありません」


 ネリアが記録を広げると、警備隊長が前へ出た。


「記録は警備隊保管の原本と一致しております。当夜、アーヴェント公爵令嬢の部屋の前には、二名の警備兵が配置されておりました。令嬢が外出された記録はありません」


「ですが」


 ロイゼンが口を挟んだ。


「令嬢の侍女が身代わりに部屋へ残っていた可能性もあります。警備兵は、扉の中まで確認していない」


「よくお考えですこと」


 シェルディアは微笑んだ。


 ネリアが一歩前へ出る。


「当夜、シェルディア様は王妃陛下より下賜された青磁の茶器を、お部屋で検めておられました。茶器は王妃陛下付きの女官二名によって運び込まれ、女官たちは退出前にシェルディア様ご本人とお話ししております。時刻は、聖女様が襲われたと主張なさる四半刻後でございます」


 ロイゼンの表情から、初めて余裕が消えた。


 ネリアは、静かに続けた。


「わたくしは、シェルディア様が泣くところを見たことがございます。怒りに手を震わせるところも。けれど、お嬢様は必ず、誰かに見られる前に笑う練習をなさいました」


 一度、言葉を切る。


「少なくとも、夜に部屋を抜け出して聖女様を傷つけるような、雑な真似はなさいません」


 その言い方は淡々としていた。


 けれど、シェルディアの指先がわずかに動いた。


 ネリアは見ていた。


 アルメリアの笑みの裏で、ルミゼアが歯を食いしばる夜を。


 ミュレインの嘘の奥で、モルネアが眠りたがる朝を。


 彼女だけは、知っていた。


 シェルディアが、ただの悪役令嬢ではなかったことを。


「リリアベル様」


 シェルディアは、聖女を見つめた。


「あなたの血は、あなた自身の物語をよく覚えておりますわ」


 リリアベルは唇を噛んだ。


 その唇にも、薄く血が滲んだ。


 ルミゼアが、それを見て満足そうに目を細める。



リゼルダ――膝を折らない乙女


 三つ目の引き出しが開かれる。


 リゼルダ。


 誇りと怒り。


 決して膝を折らない乙女。


 シェルディアは、幼い頃から何度も言われてきた。


 高慢になってはいけない。


 公爵家の娘だからこそ、謙虚でいなければならない。


 王太子妃になるなら、相手を立てなければならない。


 けれど、謙虚とは何だったのか。


 自分より愚かな者に頭を下げることか。


 自分を利用する者に感謝することか。


 嘘をつかれても微笑み、侮られても黙っていることか。


 シェルディアの中のリゼルダは、いつも顎を上げていた。


 くだらない、と。


 リリアベルの涙も。


 エドヴァルトの正義も。


 ロイゼンの理路整然とした言葉も。


 貴族たちの同情も。


 すべて、薄い紙に描かれた舞台背景のようだった。


 誰も真実など欲しくない。


 欲しいのは物語だ。


 清らかな聖女。


 愛に目覚めた王子。


 嫉妬に狂った悪役令嬢。


 その三つがあれば、彼らは安心して拍手できる。


 リゼルダは、その拍手の音を心底軽蔑していた。


「社交界に流された中傷文について」


 ネリアが、複数の封書を銀盆に並べた。


 どれも匿名の手紙だった。


 聖女リリアベルは、平民上がりで卑しい。


 神殿での奇跡は偽物だ。


 王太子を誘惑した。


 公爵令嬢を押しのけようとしている。


 いかにも、嫉妬に狂った女が書きそうな文面だった。


「その手紙のせいで、リリアベルがどれほど傷ついたと思っている」


 エドヴァルトの声に怒気が混じる。


「傷ついたでしょうね。けれど、その傷もまた、今夜の舞台に必要だったのでしょう」


「シェルディア!」


 怒声が響いた。


 シェルディアは、まったく揺れなかった。


「殿下。そろそろ、個々の事件として見るのはおやめくださいませ」


「何?」


「毒花事件。聖女襲撃事件。匿名中傷文。今夜の断罪を予告する私信。これらは、別々の嫌がらせではございません」


 ネリアが、証拠を順に並べていく。


 花屋の帳簿。


 ロイゼン伯爵家の小切手番号。


 王宮備品のリボン。


 香水瓶の破片。


 王宮医師の所見書。


 巡回記録。


 王太子執務室用の紙。


 王家用の朱い封蝋。


 王太子側近室の報告書。


 そして、今夜の断罪をほのめかす貴族たちの私信。


 ひとつひとつは、小さな証拠だった。


 だが、並べられた瞬間、それらは一本の線になる。


 花束は、最初の被害。


 自傷は、悲劇の演出。


 匿名文は、世論の誘導。


 私信は、観客集め。


 そして断罪は、完成した芝居の幕開けだった。


「匿名文に使われた紙は、王立学院の女子寮では手に入りません。王太子執務室に納入される高級紙です」


 シェルディアは、一通の報告書を隣に置かせた。


「こちらは、ロイゼン様が殿下へ提出された月次報告書。紙質、透かし、裁断幅が一致しております」


 ロイゼンが低く言う。


「王太子執務室の紙を使える者は、私だけではありません」


「もちろんですわ。ですので、封蝋も確認いたしました」


 ネリアが、赤い封蝋の欠片を示す。


「匿名文に使われた封蝋は、王家用の朱。アーヴェント公爵家の封蝋は深紅です。色味も、混合香も違います」


「封蝋など、いくらでも手に入る」


「では、書式は?」


 シェルディアが二通の文を並べる。


「匿名文は、句読点の位置、敬称の省略、改行の癖が、王太子側近室の内部文書と一致しています。特に、リリアベル様を指す際に『聖女殿』と記す癖は、ロイゼン様。あなたの報告書にしか見られません」


 ロイゼンは沈黙した。


 けれど、その沈黙は敗北ではない。


 彼はすぐに顔を上げた。


「それでも、動機がありません。私がそのような回りくどい真似をして、何を得るというのです」


「殿下の望みを叶えられます」


 シェルディアは、即座に答えた。


「殿下は、わたくしとの婚約を煩わしく思っていた。けれど、公爵家を失うことはできなかった。だから、わたくしが有責で婚約を破棄される形が必要だった」


 エドヴァルトが息を呑む。


「君は……」


「そして、聖女様もまた、殿下に守られる物語を欲していた。ご自分が傷ついていることを、誰かに信じてほしかった」


「わたくしは、本当に傷ついていました!」


 リリアベルが叫んだ。


 涙は本物だった。


 そのせいで、余計に恐ろしい。


「わたくしは、ずっと怖かったのです。シェルディア様は何も言わない。怒りもしない。ただ笑って、わたくしを見ている。あの方の中で、わたくしはきっと卑しい女で、邪魔者で、消えればいい存在で……!」


「だから、自分で傷を作った?」


「違います!」


「だから、わたくしの名で花束が届いても疑わなかった?」


「違います!」


「だから、匿名文が流れた時、殿下に縋った?」


「違う、違うのです!」


 リリアベルは首を振った。


「わたくしは、ただ、助けてほしかっただけです。殿下に、わたくしを見てほしかった。わたくしが苦しいと、誰かにわかってほしかった。だから……だから、少しだけ……」


 言葉が途切れる。


 広間は静まり返っていた。


 リリアベルは、自分で自分の罪を言い切ることができない。


 彼女の中では、まだ自分は被害者だった。


 嘘を吐いたのではない。


 悲劇を、少しだけ整えただけ。


 自分の痛みに、ふさわしい形を与えただけ。


 リゼルダが笑う。


 幸福な騙し絵に執心する者は、絵の裏側に貼りついた血など見ない。


「さらに」


 シェルディアは、広間を見渡した。


「匿名文を受け取った方々の中には、それを面白がって回覧した方もいらっしゃいますわね」


 何人かの貴族が、露骨に顔を背ける。


「今夜の招待状に添えられた私信も、控えがございます。『悪役令嬢の落ちるところを見られる』。『聖女様の涙で退屈が紛れる』。『公爵家の姫君がどれほど取り乱すか賭けよう』」


 貴族たちのざわめきが、濁った。


 彼らは今夜、自分が審判者の席にいるつもりだった。


 けれど、シェルディアは違うものとして見ていた。


 まだ死んでもいない令嬢を、すでに死んだものとして扱い、その腐臭を楽しみに集まった者たち。


「皆様は、真実など欲しくなかったのでしょう」


 シェルディアは言った。


「欲しかったのは、嫉妬に狂った悪役令嬢という、わかりやすい見世物ですわ」


 誰も言い返せなかった。


 リゼルダは、満足そうに顎を上げる。


 ここから、反論の速度が変わった。


 もう、一つずつ罪を払う段階ではない。


 小さな証拠は束になり、束は縄になり、縄は断罪の場にいた者たちの首へかかり始めていた。



ミュレイン――嘘で笑う乙女


 四つ目の引き出し。


 ミュレイン。


 嘘と涙。


 本音を飲み込んで微笑む乙女。


 シェルディアは、王太子エドヴァルトを愛していたことがある。


 たぶん。


 そう思おうとしていた時期がある。


 十二歳の頃、エドヴァルトが彼女に青い花をくれた。


 庭師が育てた余りものだった。珍しい花でも、高価な花でもない。彼は、その名すら知らなかった。


 それでも、シェルディアは嬉しかった。


 嬉しかったのだと思う。


 その夜、彼女は花を押し花にした。


 翌日、エドヴァルトは別の令嬢にも同じ花を配っていた。


 その時、胸の中で何かが萎れた。


 けれど、教師は言った。


「殿下はお優しい方です。あなたは、そのお優しさを誇りに思うべきです」


 シェルディアは答えた。


「はい。嬉しゅうございます」


 嘘だった。


 それから、彼女はたくさんの嘘を覚えた。


 嬉しゅうございます。


 光栄ですわ。


 気にしておりません。


 聖女様はお優しい方です。


 殿下をお慕いしております。


 そのたびに、ミュレインが代わりに笑った。


 ミュレインは涙を流さない。


 涙を流す代わりに、嘘を吐く。


 相手が望む言葉を選び、望む温度で差し出す。そうすれば、誰も彼女の本心を尋ねない。


 そして本心は、尋ねられないまま腐っていった。


「殿下」


 シェルディアは、エドヴァルトを見た。


「わたくしが、あなたとの婚約に執着していたとおっしゃいましたね」


「事実だろう。君は王太子妃の座を失うことを恐れた」


「いいえ。恐れていたのは、王家のほうです」


 ネリアが、古い書簡の束を取り出した。


 封は切られているが、紙は丁寧に保存されている。


「これは、わたくしが十五歳から十八歳までの間に提出した、婚約解消に関する打診書です」


 広間がどよめいた。


 エドヴァルトの目が大きく開かれる。


「何だと」


「合計六通。いずれも、王家によって却下されました」


「私は聞いていない」


「でしょうね。殿下に知らせる必要がなかったのでしょう。王家にとって必要だったのは、殿下のお気持ちではなく、アーヴェント公爵家の軍事力と財力でしたから」


「馬鹿な。父上が、そのような」


「こちらは、王家秘書局から公爵家へ送られた返答書です。すべて写しを保管しております。理由は毎回同じ。王国安定のため、婚約継続を望む、と」


 シェルディアは、さらに別の手紙を示した。


「そして、こちらは殿下がロイゼン様へ送った私信の写しです」


 ロイゼンが立ち上がりかける。


 しかし、警備兵が一歩進み出て、その動きを止めた。


 シェルディアは読んだ。


「『シェルディアは退屈だが、公爵家を失うわけにはいかない。彼女には適当に花でも贈っておけ』」


 エドヴァルトの顔から、血の気が引いていく。


「それは……」


「続きもございますわ」


 シェルディアは、紙から目を上げなかった。


「『聖女リリアベルと過ごす時間は安らぐ。だが公爵家との婚約を破棄すれば、父王に叱責される。シェルディアが自ら過ちを犯してくれれば楽なのだが』」


 リリアベルが、ゆっくりとエドヴァルトを見る。


 聖女の瞳には、初めて本物の傷が浮かんでいた。


 自分の悲劇の中では、彼女は愛される乙女だった。


 だが、エドヴァルトの手紙の中で、彼女もまた道具だった。


 安らぐ相手。


 退屈な婚約者から逃げるための場所。


 王太子の中で、誰も人間ではなかった。


 シェルディアは、少しだけ笑った。


「わたくしが執着していたのではありません。殿下が、わたくしを手放せなかったのです。正確には、わたくしではなく、わたくしの背後にあるものを」


 ミュレインが、胸の奥で泣いている。


 それは悲しみではなかった。


 あまりに長く吐き続けた嘘が、ようやく口から剥がれ落ちる痛みだった。


「殿下」


 シェルディアは、静かに尋ねた。


「わたくしが『お慕いしております』と申し上げた時、あなたは安心なさいましたね」


 エドヴァルトは答えない。


「一度でも、お尋ねになりましたか」


 シェルディアは、一語ずつ置くように言った。


「わたくしが本当に、あなたを愛したかったのかどうか」


 沈黙が降りた。


 その沈黙こそが、答えだった。



モルネア――眠りたい乙女


 五つ目の引き出し。


 モルネア。


 何も憎みたくない。


 誰も殺したくない。


 勝ちたくもない。


 ただ、もう終わりにしたいと願う、最後の死体。


 シェルディアは、十三歳の夜を覚えている。


 王宮から帰った日だった。


 エドヴァルトは、リリアベルと出会ったばかりだった。彼女の素朴さを面白がり、貴族令嬢にはない清らかさだと笑っていた。


 その横で、シェルディアは微笑んでいた。


 帰宅後、母は言った。


「焦ってはいけません。殿下は一時の珍しさに惹かれているだけです。あなたは正妃になる娘ですから、余裕を持ちなさい」


 父は言った。


「公爵家の顔に泥を塗るな」


 教師は言った。


「聖女様に嫉妬するなど、品性を疑われます」


 誰も、シェルディアが傷ついたかどうかを聞かなかった。


 誰も、彼女が本当は王太子妃になりたいのかを聞かなかった。


 誰も、逃げたいかと聞かなかった。


 その夜、シェルディアは寝台の中で何度も考えた。


 明日が来なければいい。


 王宮へ行きたくない。


 笑いたくない。


 誰か、連れ出して。


 けれど朝は来た。


 誰も来なかった。


 だから、彼女はモルネアを作った。


 眠りたい自分。


 消えたい自分。


 死んだように何も感じず、ただ息をしているだけの自分。


 そうして、モルネアも殺した。


 生きるために。


 淑女として。


 公爵令嬢として。


 王太子妃候補として。


「最後に、王家への反逆について」


 シェルディアの声が、少し低くなった。


 エドヴァルトは、ようやく反撃の糸口を見つけたように言った。


「そうだ。君はこれほどの証拠を密かに集めていた。王太子を陥れるために、王宮の記録まで盗み見たのだろう。これは反逆だ」


「そうおっしゃると思っておりました」


 シェルディアは、五つ目の包みを開かせた。


 そこには、正式な告発状の控えが三通あった。


「神殿監察局、宰相府、王宮記録院へ、すでに提出済みでございます。内容は、王太子側近による公爵令嬢への冤罪工作、聖女リリアベル様の虚偽証言疑惑、ならびに婚約維持を目的とした王家による不当圧力について」


 その瞬間、広間の大扉が開いた。


 三人の男が入ってくる。


 一人は、神殿監察官。


 一人は、宰相府の法務官。


 一人は、王宮記録院の記録官。


 王太子の顔が凍りついた。


「なぜ、彼らが」


「今夜の断罪は、殿下が公に開かれた場です。ならば、記録に残す必要がございますでしょう」


 シェルディアは微笑んだ。


「わたくしを裁く場を、皆様はご用意くださった。ですから、わたくしも、皆様を裁ける形に整えて参りましたの」


「そんなもの、認められるはずがない!」


 エドヴァルトが叫ぶ。


「君は婚約者でありながら、私を告発したのか!」


「はい」


「それが反逆だと言っている!」


「いいえ、殿下」


 シェルディアは、淡々と返した。


「反逆とは、王国の秩序を害する行為です。王太子側近室が証拠を捏造し、聖女の名を利用し、公爵家令嬢へ冤罪を着せ、政治的に処分しようとしたのであれば、それを正規機関へ告発することは反逆ではございません」


 一拍置き、言い切る。


「隠蔽こそが、王国への害でございます」


 宰相府の法務官が頷いた。


「告発状は正式に受理されています。証拠品も、提出経路および保管記録に不備はありません」


 神殿監察官が、リリアベルを見る。


「聖女リリアベル。あなたには、神殿名義の証言について確認すべきことがある」


 法務官が、ロイゼンへ向き直る。


「ロイゼン伯爵令息。王太子側近室の文書流用、証拠捏造、および名誉毀損への関与について、同行を願います」


 最後に、記録官がエドヴァルトを見た。


「王太子殿下。今夜の御発言は、すべて記録済みです。陛下および王議会へ提出されます」


 広間は、もはや断罪の舞台ではなかった。


 法廷になっていた。


 処刑台に立っているのは、シェルディアではない。


 シェルディアを処刑しようとした者たちだった。


「違う」


 エドヴァルトが呟いた。


「違う。私は、ただ……」


「ただ?」


 シェルディアが首を傾げる。


「ただ、愛に従っただけだと? 聖女様を守りたかっただけだと? 退屈な婚約者から解放されたかっただけだと?」


 彼女の中で、五人の乙女が目を開けた。


 アルメリアは、美しく笑った。


 ルミゼアは、血を望んだ。


 リゼルダは、すべてを軽蔑した。


 ミュレインは、嘘を吐くことに疲れていた。


 モルネアは、眠りたいと呟いた。


 シェルディアは、そのすべてを聞いた。


 そして、もう殺さなかった。


「殿下。あなたは、わたくしが壊れているとお思いでしょう」


「……壊れている」


 エドヴァルトは、絞り出すように言った。


「君は壊れている。そんな名前のない女たちを、自分の中に飼って……証拠だの告発だの、こんな場で……」


「飼っていたのではありません」


 シェルディアは言った。


「分けていたのです」


 広間の燭火が揺れた。


「怒るわたくし。泣くわたくし。殺したいわたくし。逃げたいわたくし。嘘を吐くわたくし。どれも表へ出してはならないと言われました。ですから、名前をつけて、奥へ押し込めました」


 彼女は、胸に手を当てる。


「悪役令嬢の中には、五人の乙女が死んでいる」


 誰も笑わなかった。


 もう、その言葉を狂人の戯言として片づけられる者はいない。


「けれど、死なせたのは世界だけではありません。わたくし自身です。生き延びるために、わたくしは彼女たちを殺しました」


 リリアベルが、震える声で言った。


「では……あなたは、何がしたかったのですか」


 シェルディアは、聖女を見た。


 その顔には、憎しみも哀れみもなかった。


「救いたかったのです」


 エドヴァルトが、はっとしたように顔を上げる。


「シェルディア……」


 彼は、まだ勘違いしていた。


 自分が救われる側に立てると思っていた。


 自分が、彼女の物語の中心にいると思っていた。


「君は、まだ私を」


「いいえ、殿下」


 シェルディアは、即座に遮った。


「わたくしが救いたかったのは、あなたではありません」


 自分の胸を指す。


「ここで死んでいた乙女たちですわ」


 エドヴァルトの表情が、砕けるように崩れた。


 シェルディアは、五つの名を呼んだ。


「アルメリア」


 完璧に咲く乙女が、微笑みをやめた。


「ルミゼア」


 血を望む乙女が、刃を下ろした。


「リゼルダ」


 誇り高い乙女が、膝を折らずにこちらを見た。


「ミュレイン」


 嘘を吐く乙女が、初めて本当の涙を流した。


「モルネア」


 眠りたい乙女が、ゆっくりと目を開けた。


「誰かを壊したい私も、誰かを救いたい私も、どちらも私です。怒った私も、泣いた私も、逃げたかった私も、嘘を吐いた私も、美しく咲こうとした私も、すべて私です」


 その声は、大広間の隅々まで届いた。


「今夜、わたくしは死にません。ですが、わたくしを五つに分けていた名前たちは、ここで終わります」


 記録官が、淡々と罪状を読み上げ始めた。


 聖女リリアベルによる虚偽証言の疑い。


 ロイゼン伯爵令息による証拠捏造と文書流用。


 王太子側近室による匿名文流布。


 王太子エドヴァルトによる婚約維持目的の政治利用。


 複数貴族による虚偽証言および名誉毀損への加担。


 ひとつひとつ、言葉が落ちる。


 それは鐘の音に似ていた。


 断罪の鐘。


 ただし、鳴らされているのは、シェルディアのためではない。


 リリアベルは崩れ落ちた。


「わたくしは……ただ、愛されたかっただけなのです」


 その声は、嘘ではなかった。


 だが、本当だからといって、誰かを悪役にしてよい理由にはならない。


 エドヴァルトは立ち尽くしていた。


 ロイゼンは警備兵に両腕を取られ、なおも何かを言おうとしている。


 貴族たちは、互いの顔を見ないようにしていた。少し前まで楽しみにしていた見世物が、自分たちの首元へ刃を当て始めたからだ。


 シェルディアの父母も、広間の奥で青ざめていた。


 父が、震える声で言う。


「シェルディア、これはどういうことだ。なぜ、我々に相談しなかった」


 シェルディアは、初めて父のほうを向いた。


「相談すれば、助けてくださいましたか」


 父は言葉を失う。


「お父様は、わたくしを王家に差し出しました。お母様は、わたくしに美しく咲けとおっしゃいました。教師たちは、わたくしに怒るなと教えました。誰も、逃げてよいとは言いませんでした」


 母が口元を押さえる。


「わたくしは、何度も助けを求めました。ただ、皆様に聞こえる言葉ではなかっただけです」


 シェルディアは、黒檀の箱を閉じた。


 五つの棺が、静かに眠る。


「アーヴェント公爵家には、後日、正式に書面を送ります。わたくしは当面、母方の領地へ移ります。王家との婚約は、こちらからも破棄いたします」


「勝手なことを」


 父が言いかける。


 シェルディアは、微笑んだ。


 それは、アルメリアの微笑みではなかった。


 ミュレインの嘘でもなかった。


 リゼルダの冷笑でも、ルミゼアの危うい笑みでも、モルネアの諦めでもない。


 ただ、シェルディア自身の顔だった。


「勝手に生きるのは、今夜から覚えますわ」


 それきり、父は何も言えなかった。


 春告祭の夜は、もう終わろうとしていた。


 大広間の外では、白い朝が近づいている。


 シェルディアは、ネリアを連れて歩き出した。


 誰も止めない。


 止められない。


 彼女は、王太子の婚約者ではなくなった。


 悪役令嬢でもなくなった。


 聖女を妬んだ女でも、王家に執着した女でも、物語の都合のよい敵役でもなくなった。


 ただ、シェルディア・アーヴェントだった。


 背後で、リリアベルの泣き声が聞こえた。


 エドヴァルトが何かを叫んだ。


 貴族たちが、慌てて自分の言い訳を探していた。


 けれど、シェルディアは振り返らない。


 宮殿の回廊には、まだ夜の冷えが残っている。


 窓の外では、東の空が薄く白み始めていた。


「お嬢様」


 ネリアが、小さく声をかける。


「よろしかったのですか」


「何が?」


「あの方々を、もっと徹底的に潰すこともできました」


 シェルディアは少し考えた。


 ルミゼアなら、そうしただろう。


 リゼルダも、止めなかっただろう。


 けれど、今の彼女は首を振った。


「潰れるべきものは、勝手に潰れますわ。わたくしが手を汚して差し上げる必要はありません」


「では、これからどちらへ」


「朝食をいただきたいわ」


 ネリアは、ほんの一瞬だけ目を見開いた。


 十年近く仕えてきて、シェルディアが自分の空腹を口にしたことなど、ほとんどなかった。


 眠いとも、痛いとも、つらいとも言わない人だった。


 いつも先に、王太子妃候補として正しい返事を選ぶ人だった。


 だからネリアは、深く頭を下げるふりをして、滲みかけた涙を隠した。


「すぐにご用意いたします」


 その声が少し震えたことに、シェルディアは気づいていた。


 けれど、何も言わなかった。


 王宮の外へ出ると、空気が冷たかった。


 石畳には、夜露が光っている。


 シェルディアは一歩、朝の中へ踏み出した。


 その時、足元に伸びた影が、五つに分かれたように見えた。


 花の形。


 刃の形。


 涙の形。


 眠る少女の形。


 そして、嘘を吐く唇の形。


 シェルディアは、それを見下ろした。


 怖くはなかった。


 もう、死体ではない。


 それらはすべて、彼女のものだった。


 乙女たちとの心中は、昨夜で終わった。


 死んだのは、シェルディアではない。


 シェルディアを五つに分けていた、美しい名前たちだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、最近自分の中でブームになっている「とある曲から話を作る」シリーズです。


曲の中にある甘くて暗い「乙女たちの心中」の空気から、「悪役令嬢の中で、いくつもの自分が死んでいる」という話に落とし込んでみました。


婚約破棄、断罪、証拠返し、ざまぁの形を取りつつ、実際には誰かに勝つ話というより、シェルディアが自分の中で切り分けて殺してきた感情を、もう一度自分のものとして取り戻す話です。


完璧に笑う自分。

怒る自分。

壊したい自分。

嘘を吐く自分。

もう眠りたい自分。


そのどれかひとつだけが本物なのではなく、全部が自分だった、という感じでしょうか。


黒檀の箱、五つの名前、断罪の夜、そして最後の朝食。

そのあたりに少しでもぞくりとしていただけたなら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
内容も面白く文体も素敵で非常に面白かったです ただ他の方感想にもあるように乙女に繋げる部分が読みづらく、面白さを惜しくも損ねてしまっている様に感じました 王家や両親、聖女らが役割でしか見ていなかった…
読み辛すぎるのが勿体ない。 行間を開けるのは、地の文と「」の間だけにするとか、事件と事件の間を他よりも開けるとかする様な、短編の中でも章立てを意識した形にした方が良いと、個人的に思った。 全ての文が一…
内容は気になって最後まで読んだのですが くっそ読みづらい…。 連載で各章ごとに分けるほどの文量ではないかもだけど 1エピソードと名前ごとに話を分けてくれた方がよかったです。 あと内面で語るだけかと…
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