小噺15『後払い』
○『後払い』あらすじ
先祖は元刀鍛冶で、町鍛冶をしている父を持つ男。ある晩、同い年たちとの団欒で、初めて吉原へ行った顔が青白い友人が、
「入廓料だの花魁道中見物料だの通行料だのと、色々な金を取られた」
と言う。
また、鼻の真ん中にほくろがある友人は、
「他の人が払ってなかったことを指摘したら、アイツは後払いって言われて、勘定を後回しにしてたら、帰る折に若い衆に囲まれて、仕方なく金を払った」
と言う。
ところが詳しい者に聞くと、そんな料金は存在せず、吉原慣れした若い衆に騙されただけだという。また、顔が青白い友人は迫られる度に金を払ってしまった為、肝心の女と遊ぶ金が無くなってしまったという。
それを聞いた男は、
「なるほど、そんなことをしてやがるのか」
と笑い、何やら思いつく。
翌日、男は生まれて初めて吉原へ向かう。
大門で若い衆に呼び止められて、
「吉原は初めてか」
「へぇ」
「入廓料が必要だ」
と案の定言われる。
だが男は、ちょうど前の客が何も払わず入っていくのを見て、
「あの人は」
と尋ねる。
若い衆は、
「あれは後払いだ」
と答える。
男は、
「それなら私も後払いで」
と言って中へ入る。
やがて花魁道中に出くわすと、
「花魁道中見物料だ」
と請求される。
しかしまた別の見物人が何も払わず去っていく。
男が、
「あの人は」
と聞けば、
「後払いだ」
と返される。
男も、
「それなら私も後払いで」
と言って見物を続ける。
その後も、
「通行料」
「提灯見物料」
などと次々に請求されるが、そのたびに、
「あの人は」
「後払いだ」
「それなら私も」
を繰り返し、勘定を全て後回しにしていく。
男は遊女の誘いにも生返事で、吉原中を歩き回る。
日が暮れ、帰ろうとしたところで若い衆たちが勢揃いし、
「入廓料」
「花魁道中見物料」
「通行料」
「提灯見物料」
「出廓料」
をまとめて払えと迫る。
すると男は急に、
「私は生まれてから父母に大切に育てられて、銭は諸悪の根源だからと昨日まで見たことも、触ったこともありませんでした。しかし、今日、吉原へ行って社会勉強を思い立ち、きっとこの中に銭があるはずと思って、父母が買い物に行く際に持って行く包みを持って来たのですが、それを合切袋の中でこぼしてしもうて、銭というもんがどんな形をしているのか分かれば払えるのですが」
と言う。
「銭の形も知らんのになぜ勘定を後回しした?」
「おまんまや女遊びで銭を払わなかったのか」
などと若い衆の言葉にも、
「銭探しに時間をかけてしまってはご迷惑かと思い、後払いでよろしいと聞いたモノでそう致しました」
「おまんまは野草、女遊びは町並み見物で一杯で出来ませんでした」
と言い返す。
若い衆たちは呆れながらも、
「丸くて真ん中に穴が開いていて、銅で出来ている、それが銭だ」
と説明する。
すると男は、
「あぁ、見つけました」
と言って合切袋から品物を取り出す。
それは男の先祖が刀匠鍔として造った丸形の鍔だった。
若い衆が、
「これは丸形鍔じゃねぇか!」
と怒鳴ると、
男は平然と、
「そう申されましても、皆さんが仰った通りの品でございます」
と言うのであった。




