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薄桃色の空  作者: 人鳥
ぼくのお話
6/21

対照的な二人

誤字とか誤字とかありましたら、教えていただけると幸いです。

 今年は雪が降りやすい季節らしく、今日も朝から雪がちらついていた。

「おっはよー、樋口くん」

 水谷さんだ。みんなが寒い寒いと愚痴る中、今日もいつもどおり元気はつらつ。

「元気だね、水谷さん」

 思ったままを口にする。

「元気が取り柄だからね、あたしは」

「元気が一番だよ」

「言うことが若者っぽくないぞー?」

「若者らしくある必要もあまりないけどね」

「枯れてるね」

 ぼくを指差しながら笑う。

 水谷さんでなければ、今頃一発入っているかもしれない。

「よく言われるよ。本当によく言われる」

 過去の同級生たちにはよく言われてきたし、母さんにだって言われた。あの母さんが言うのだから、きっとひどいのだろと思う。

「よく言われるんだ……」

 水谷さんは意外そうに言ったけれど、昨日だって水谷さんはぼくにドライだと言ったのだ。それほど違いはないと思う。

「ま、それでもあたしは気にしないんだけどさ」

 何を気にしないのかはわからないけれど。

「そうなんだ」

「当ったり前じゃん。そうでなかったら毎朝話さないよ」

 はは、と小さく笑う。

「そういえば、どうして水谷さんは毎朝話しかけてくるの?」

 一年の時は毎朝話すような仲ではなかった。クラスは同じだったけれど、休み時間に少しだけ話す程度だった。もちろんぼくは席からほとんど動かないので、水谷さんから話しかけてきていたのだけど。

 水谷さんはなぜか目に見えて頬を赤く染めた。それがどういう感情によるものなのかはわからない。

「そ、それは……ほら、習慣だからだよ」

 なるほど習慣か。なら納得だ。習慣というものは身につけるのも壊してしまうのもなかなか難しい。

 とはいえ、一つの事実として、ぼくは水谷さんの言うところの『習慣』にある意味で助けられている。友達がいないに等しいぼくに毎朝話しかけてくれる存在というものは、とても貴重なのだ。

「なあ樋口、カッター持ってね?」

 隣の席の男子――たしか岡田といったか――が何か作業をしながらそんなことを言ってくる。筆箱からカッターを取り出し、岡田の手のひらに乗せてやる。

「サンキュ」

「どういたしまして」

 とまあ、友達ではなくても会話くらいはするわけで(名前も覚えていないのに友達とは言えない)。今のを会話と言うかどうかはさておいて。

「樋口くんってさー、同級生に対しても結構他人行儀だよね」

 それはまあ他人だしそもそも友達かどうかも危うい、とはさすがに言わなかった。ぼくもそこまで空気の読めず会話もできない人間ではない。

「そうかな? そんなつもりは全くないんだけど」

 つもりはなくても、友達と思っていないという意識がそうさせているのかもしれない。つもりがなくてもそうである、ということは往々にしてよくあることだ。同級生に対して、同級生以上の意識を持つことができない。きっとこれが『冷たい』ということなのだろう。

 チャイムが鳴って、水谷さんは自分の席に戻った。

 水谷さんがぼくの席から離れると、周りが急に静かになったように感じられた。ぼくに話しかけるのは習慣だとは言っていたけれど、もしかしたらこういうことに気を遣ってくれているのかもしれない。

 ……。

 さあ本を読もう。


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