第4話:放課後のマッド・ティータイム
シオンとの死闘から一夜明け、私の体は鉛のように重かった。
『フェーズ・シフト』の反動は想像以上で、登校しても授業の内容が全く頭に入ってこない。
「……ねえ、如月さん。知ってる? シオンさん、急に転校しちゃったんだって。あんなに美人だったのに、一晩でなんて変だよね」
クラスメイトの噂話を、私は机に突っ伏したまま聞き流す。
消えたんじゃない。私が消したんだ。
カバンの中のテスラが、小さな声で念じるように伝えてくる。
『お嬢様、今は眠るニャ。バイタルがボロボロだニャ……』
だが、その微かな安らぎを、教室のドアを開ける無機質な音が引き裂いた。
「――今日から、行方不明になった上月先生に代わり、物理と工学実習を担当することになった。**『東 鉄也』**だ。よろしく」
その名を聞いた瞬間、私の眠気は凍りついたように吹き飛んだ。
教壇に立っていたのは、白衣を無造作に羽織り、隈のひどい瞳を眼鏡の奥で光らせた男。
その名は、父の古い手記に何度も登場していた――父の唯一の弟子であり、ライバルだった男の名だ。
指導という名の尋問
放課後。私は逃げるように地下ガレージへ向かおうとしたが、呼び止められた。
「如月。君の提出した課題の回路設計……少し独創的すぎるな。放課後、準備室へ来なさい」
拒否権はない。私はテスラをカバンに隠したまま、理科準備室の重い扉を開けた。
室内には、高校の備品とは思えない最新の演算機が鎮座し、怪しくファンを回している。
「……先生。回路に間違いがあったなら、書き直します」
東は椅子に深く腰掛け、コーヒーを一口啜ると、私を射抜くような視線で見た。
「間違いではない。むしろ正解だ。……**『零式』のOSに使われている論理構造**と同じ、完璧な正解だよ」
心臓が跳ねた。
カバンの中でテスラが戦闘形態へ移行しようとする振動が伝わる。私はそれを手で制した。
「何のことか、わかりません」
「隠さなくていい。私は君の味方だ。……今のところはね」
東はモニターをこちらに向けた。そこには、昨夜の廃工場での戦闘データが、波形となって表示されていた。
「フェーズ・シフト……。一馬(父)は、ついに魂をデジタル化したというわけか。だが零、君の脳はもう限界だ。今のシンクロ率を続ければ、君は一ヶ月以内に廃人になる」
謎のティータイム
東は、怪しげなカプセルをテーブルに置いた。
「これは脳の神経接続を補強するサプリメントだ。受け取りたまえ。君が壊れては、私の研究も、君の父の捜索も終わってしまう」
「……どうして、助けてくれるの?」
「オメガは私の師の傑作だが、同時に私の失敗作でもある。私はね、零。君と『零式』が、その先にある**『第三の存在』**に辿り着く瞬間を特等席で見たいだけなんだよ」
東は不敵な笑みを浮かべ、それ以上は何も語らなかった。
彼が味方なのか、それともオメガに情報を流す内通者なのか、今の私には判断できない。
だが、準備室を出ようとした私の背中に、彼は最後にこう付け加えた。
「気をつけるんだ、零。学園の地下……旧講堂の跡地には、オメガさえも感知できない**『忘れ去られた初期ロット』**が眠っている。……君のパパが、最初に造った『失敗作』だ」




