第3話:21グラムの共鳴(レゾナンス)
放課後の教室に、場違いなほど美しい転校生の少女、シオンが立っていた。
彼女が教壇で自己紹介をした瞬間、私の耳元でテスラが激しく警告を発する。
『お嬢様、こいつ……人間じゃないニャ。擬態の精度が高すぎる。……間違いなく、オメガの直属だニャ!』
シオンの瞳が、一瞬だけ私を捉えた。その無機質な視線は、私の制服の奥にある「神経端子」を透視しているかのようだった。
「如月零さん。放課後、少しお話があります」
彼女は挨拶もそこそこに、私にだけ聞こえる周波数でそう告げた。
隠れ家での対峙
私は彼女を、あえて学園裏の廃工場へと誘い出した。ここなら、地下ガレージとの通信も安定する。
シオンはスカートの裾を揺らしながら、表情一つ変えずに歩み寄ってきた。
「『零式』というバックアップ……。博士が遺した、無駄な抵抗の象徴。それを消去しに来ました」
シオンの腕が、異様な駆動音と共に白銀のブレードへと変形する。
私は迷わず、首筋の端子をテスラに接続した。
「……私の日常を壊すなら、全力で相手をするだけだよ」
――視界が反転する。
地下ガレージから射出された『零式』が、廃工場の屋根を突き破って私の前に降り立った。
必殺武装の解放
シオンの攻撃は、これまでの雑魚とは比較にならないほど鋭かった。
零式の装甲が、彼女のブレードによって次々と切り裂かれる。零式のダメージは、シンクロしている私の脳に「焼けるような痛み」としてダイレクトに伝わってくる。
「ぐっ、あぁぁ……っ!」
膝をつく零式。リンクしている私の意識が、痛みで崩れそうになる。
その時、脳内のノイズの向こうから、父の声が響いた。
『――零、目に見えるものだけがリアルではない。……魂を、位相をずらすんだ』
父のメッセージと共に、零式のOSに隠されていた**「Re-Birth Drive」**が強制起動する。
「テスラ……シンクロ率、限界突破!」
『了解だニャ! お嬢様、死ぬ気でついてくるニャ!』
零式の瞳が、青から白銀へと色を変える。
シオンの必殺のブレードが、零式の胸を貫こうとした――その瞬間。
零式の体が、陽炎のように揺らいだ。
「なっ……透過現象!?」
シオンの腕は、零式の体を実体のない霧のように通り抜けた。
零式――そして私の意識は、今、物理法則の「外側」にいた。
「これで……終わり」
零式が、シオンの胸に静かに手を添える。
その瞬間、零式の指先がシオンの内部装甲を「すり抜け」、その中心部にあるコアを直接掴んだ。
「ゼロ・エンプティ――再構成」
空気が爆ぜた。
内側から分子構造を破壊されたシオンが、断末魔のノイズと共に吹き飛ぶ。
家族の記憶
戦いが終わり、零式が活動を停止する直前。
崩れ落ちたシオンの瞳から、一筋の赤い液体が流れた。それはオイルではなく、まるで血のようで――。
「……母さん、なの……?」
シオンの口から漏れた、消え入りそうな声。
その言葉を聞いた瞬間、私の脳に、見覚えのない「記憶」が流れ込んできた。
それは、若き日の父と、私によく似た女性が微笑んでいる映像。
そして、その女性の腕に抱かれた、**「もう一人の赤ん坊」**の姿。
『零お嬢様! 意識を保つニャ! シンクロ率が下がりすぎて……リンクが、切れる……っ!』
テスラの声を最後に、私の意識は暗転した。
鼻血を拭う力も残っていない「生身の私」の手に、父のメッセージの続きが表示される。
『第三の零を探せ。それは、お前の欠片だ』
廃工場に、冷たい風が吹き抜ける。
私は遠のく意識の中で、自分にまだ「家族」がいることを予感していた。




