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第2話:二人の「私」の境界線


 空を裂き、爆音と共に地下ガレージへと帰還した『零式』が、静かにポッドへと収まる。

 直後、非常階段の踊り場でうずくまっていた私――如月零は、激しい目眩と共に現実へと引き戻された。

「……はぁっ、はぁっ……っ!」

 脳が焼け付くように熱い。

 鼻から一筋の血が垂れる。テスラが心配そうに私の膝に擦り寄ってきた。

『お嬢様、オーバーヒートだニャ。シンクロ率を上げすぎだニャ。生身の脳がもたないニャ』

「……大丈夫。それより、学園の被害は?」

『零式が暴れたおかげで、怪我人はゼロだニャ。でも……「謎の美少女ロボット」の動画が、もうSNSで拡散され始めてるニャ』

 私は震える指でスマホを開いた。

 画面には、校庭に降り立つ『零式』の、凛々しくも美しい姿。

 ――【神降臨?】聖華学園に現れた白い少女がヤバすぎる――

 そんな見出しと共に、数万件の「いいね」が刻一刻と増えていく。

「……注目されるのは、本意じゃないんだけどな」

 私は制服の乱れを整え、何食わぬ顔で教室へと戻った。

 教室内は、先ほどの非日常的な出来事の余韻でパニックと興奮が入り混じっている。

「見たかよ、あの白い奴! マジでヒーローみたいだったな!」

「如月さんは? どっかに隠れてたの?」

 先ほど私を馬鹿にした佐藤が、興奮気味に話しかけてくる。私は「……トイレにいたから、見てない」と短く答えて席に着いた。

 

 ――誰も気づかない。

 世界を救った最強のヒロインが、今、目の前で「知恵熱」に耐えながら教科書を開いている、冴えないガリ勉女子だなんて。

 その時、私の視界バイザーに強制通信が入り込んだ。

 送り主は、行方不明の父が残した「緊急アラート」。

『警告:オメガの暗殺ユニットを検知。目標――如月零。推定接近時間、120秒』

「……っ!? テスラ、冗談でしょ?」

『冗談じゃないニャ。オメガは気づいたんだニャ。あの白い少女を操っている「本体」が、この学校の中にいることに!』

 窓の外を見る。

 校門の向こうから、一人の「転校生」が歩いてくるのが見えた。

 整った顔立ち、無機質な歩き方。そして、その瞳の奥には、オメガの紋章が赤く不気味に沈んでいる。

 敵はもう、日常のすぐ裏側まで来ている。

 私は再び、意識を「鋼鉄の私」へと飛ばす準備を始めた。

「……テスラ。今日、塾は休まなきゃいけないみたい」

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