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第二十九話 久し振りの朝日

トッサカンの迷宮の仮眠室。

 異次元にあるこの空間には昼夜の概念がなく、魔術的な照明が柔らかく室内を照らしているだけだった。

 

「……んぅ……」

 

 ミツキは、ゆっくりと身を起こした。

 体の節々はまだ痛むけれど、あの鉛のような重だるさは消えている。

 隣のベッドでは、ライラやエリシェヴァがまだ安らかな寝息を立てていた。

 

「……目が覚めたか」

 

 部屋の入り口から、落ち着いた声がした。

 振り返ると、いつの間にかムルガンが立っていた。戦いの時の煤や汚れを落とし、孔雀の羽飾りも整えられた、いつもの凛々しい姿だ。

 

「ムルガンさん……。おはようございます、でいいのかな?」

 

「ああ。……体調はどうだ?」

 

「おかげさまで。まだちょっとフラフラするけど、もう大丈夫です」

 

 ミツキが力こぶを作ってみせると、ムルガンはフッと小さく笑った。

 

「ならば良い。……行けるか? 皆、もう転移の準備ができている」

 

「転移?」

 

 ミツキが首を傾げると、ムルガンは広間の出口――現実世界へのゲートを示した。

 

「ああ。……『後片付け』の時間だ。現実世界へ戻るぞ」


  

――――


 

 トッサカンが指を鳴らし、迷宮のゲートが開く。

 光の渦を抜けた瞬間、ミツキたちは瓦礫と化したカラート・シャムスの広場に立っていた。

 その瞬間だった。

 

「……っ、まぶし……!?」

 

 ミツキは思わず手で顔を覆った。

 瞼の裏を焼くような、強烈な黄金色の光。

 恐る恐る目を開けると、東の空から、圧倒的な質量の「光」が降り注いでいた。

 

 ウリエルの冷たい擬似太陽ではない。

 肌を焦がすような熱と、生命力に満ちた、本物の太陽。

 

「……夜が、明けてる……?」

 

 ミツキが呆然と呟く。

 ずっと止まっていた星空が消え、青い空が広がっている。

 

「どうして……? さっきまでは、まだ夜だったはずじゃ……」

 

 エリシェヴァも戸惑いの声を上げる。

 セレスティアの祈りが原因で夜が止まっていたのなら、彼女が意識を取り戻した今も、すぐには戻らないはずだと思われていたからだ。

 

「……不思議だな。自然に動き出したにしては、唐突すぎる」

 

 ルークが太陽を見上げ、訝しげに眉をひそめる。

 だが、その疑問に答えたのは、ミツキの隣にいたセレスティア本人だった。

 

「……なんだか、身体が軽いんです」

 

 セレスティアは、降り注ぐ陽光を浴びながら、自身の胸に手を当てた。

 

「ウリエルが……あの怖い炎の気配が消えたからでしょうか。胸のつかえが取れたみたいに、フッと楽になって……。そうしたら、空が……」

 

「そっか!」

 

 ミツキがポンと手を打った。

 

「セレスティアさんが『もう怖くない、安心だ』って思ったから、祈りの力が解けたんだよ! きっとそうだよ!」

 

「なるほど……。ウリエルという恐怖の根源が消滅し、セレスティアの心が解放されたことが、世界の理を元に戻したのか」

 

 ルークも、その解釈に納得したように頷いた。

 誰も知らない。

 

 遥か上空で、業を煮やした魔王(母親)が、指パッチン一つで無理やり夜を剥ぎ取ったことなど。

 

「……よかった。本当によかった……」

 

 セレスティアの目から、大粒の涙が溢れる。

 自分のせいで世界を閉ざしてしまったという罪悪感が、この太陽の光によって、ようやく許された気がしたのだ。

 

「おお……お天道様だ……」

 

「夜が……明けたんだ……」

 

 瓦礫の影から、人々がおっかなびっくり出てくる。

 涙を流して祈る老人。はしゃいで走り回る子供たち。

 ヴィクラムが、泣きじゃくる娘の肩を優しく抱く。

 

「さあ、泣いている場合じゃないぞ。……我々には、やるべきことがある」

 

 その言葉を合図に、復興作業――いや、大掃除が始まった。


「よーし! 力仕事なら任せて!」

 

 ミツキは袖をまくり上げ、崩れた石壁の撤去に取り掛かった。

  「破壊の権能」で岩を粉砕するのは危険すぎるので、純粋な身体強化(生命の権能の応用)で、瓦礫を持ち上げて運んでいく。

 

「ミツキ、無理はしないでね。……私は怪我人の手当てに回るわ」

 

 エリシェヴァは、ロクサーナと共に広場に簡易的な診療所を作り、街の人々の治療を始めた。

 パズズの護符を外した効果で疫病の症状は治まっているものの、長引く避難生活で体調を崩している人は多い。二人の手際よい治療に、住民たちから感謝の声が上がる。

 

「僕は、街の連中をまとめてくるよ。神官がいなくなって混乱してるみたいだし、誰かが指揮を執らないと」

 

 ルークは、持ち前の冷静さとカリスマ性を発揮し、呆然としている自警団や若者たちに的確な指示を出し始めた。

 

「そこの君たちは東の瓦礫を頼む。水汲み班はこちらへ。……大丈夫、教会はもういない。これからは自分たちの手で街を守るんだ」

 

 その凛々しく、貴族然とした姿に、セレスティアが「ルーク、かっこいい……」と頬を染めて見惚れているのを、ミツキは見逃さなかった。

 

 そして――。

 

「……そこだ。右へ3ミリずれろ」

 

「は、はいっ!」

 

 一番の重労働を担当していたのは、意外にもムルガンだった。

 彼は槍『ヴェール』を振るい、神殿の崩落しかけている巨大な柱や、道を塞ぐ巨大な岩を、重力操作のような力で軽々と持ち上げ、安全な場所へと移動させていた。

 

「す、すげぇ……」

 

「あれが、異国の神様か……」

 

 街の人々が、畏敬の念を込めて見上げている。

 普段は近寄りがたい軍神のオーラを放っている彼だが、今は黙々と、そして驚くほど丁寧に、瓦礫の下から家具を掘り出したり、倒れた荷車を直したりしている。

 

「ムルガンさん、意外と几帳面なんですね」

 

 ミツキが水を差し出しながら茶化すと、ムルガンは汗もかかずに涼しい顔で答えた。

 

「……破壊は一瞬だが、再生には手間がかかる。父上(翁)もよく言っていた。『壊すときは派手に、直すときは丁寧に』とな」

 

「あはは、翁らしいや」

 

 その横で、トッサカンが「あーあ、アダムスのせいでラーヴァナ様の遺跡もボロボロだよぉ」とぼやきながらも、空間魔法で瓦礫を一箇所に集めるゴミ収集車のような役割を果たしていた。


  

 ***


 

 夕暮れ時。

 作業が一区切りついた頃、広場には大鍋が据えられ、炊き出しが行われていた。

 食材はトッサカンが調達してきたものと、街の人々が隠していたものを持ち寄ったもので、温かいスープが振る舞われた。

 

「おいしい……!」

 

 ライラが、スープを飲んで目を細める。

 隣では、子供たちがパンを分け合い、笑い合っている。

 まだ街は瓦礫だらけだ。ウリエルやカシムの支配の爪痕は深い。

 それでも、今日という日は、確かに「新しい始まり」の日だった。

 

「……いい街になりそうだな」

 

 ヴィクラムが、スープの椀を片手に呟いた。

 その視線は、楽しそうに笑うセレスティアと、その輪の中にいるミツキたちに向けられている。

 夕陽に照らされたその横顔は、娘の成長を喜ぶ父親そのものに見えた。



 ――――



 その平穏は、唐突に破られた。

 

 ザッ、ザッ、ザッ……。

 

 広場に、一糸乱れぬ重厚な足音が響き渡る。

 炊き出しを楽しんでいた市民たちの笑顔が凍りつき、スプーンを落とす音が静寂に響く。

 街の入り口に現れたのは、ボロボロになりながらも整然とした隊列を組んだ神官兵たち。

 そしてその先頭には、黄金の髪をなびかせ、聖槍『ロンギヌス』を携えた男――教皇アダムスが立っていた。

 

「……アダムス!」

 

 ミツキが即座に立ち上がり、剣を構える。ルークやエリシェヴァも臨戦態勢に入る。

 異次元から自力で帰還したアダムスは、衣服こそ煤け、多少の消耗は見せていたが、その碧眼に宿る冷徹な光は些かも揺らいでいなかった。

 

「……ふん。随分と楽しそうだな、異端者ども」

 

 アダムスは広場の様子を一瞥し、鼻で笑った。

 だが、その足がピタリと止まる。

 彼の前に、一人の青年が立ちはだかったからだ。

 

「そこまでだ、教皇」

 

 ムルガンだった。

 彼は槍『ヴェール』を地面に突き立て、アダムスとミツキたちの間に不動の壁として立ちはだかる。

 

「……まだやるか、ムルガン」

 

 アダムスが槍を構え直す。周囲の空気がピリピリと張り詰め、一触即発の殺気が渦巻く。

 神官兵たちも武器を構えるが、彼らの顔には明らかな疲労と恐怖の色が濃い。異次元からの脱出で、彼らもまた限界を迎えていたのだ。

 

「無益な争いは好まん」

 

 ムルガンは静かに告げた。

 

「宣言しよう。この街、カラート・シャムスは、今日より――アガスティア連邦国の保護下とする」

 

「……何だと?」

 

「聞いた通りだ。ウリエルは滅び、カシムも消えた。もはやこの地に教会の秩序はない。……ならば、古き盟約に従い、この地の管理権は我ら古き神々が引き受ける」

 

 ムルガンは背後に控えるロクサーナに目配せをする。

 ロクサーナは無言で頷くと、一歩前に出て杖を掲げた。

 

「我が主、パズズ様の名において――拒絶せよ」

 

 彼女が魔力を解放すると、街全体を覆うように薄紫色の霧が噴き上がった。

 それはパズズが魔界からロクサーナを通して展開した『疫病の防壁』――悪意を持って侵入する者を即座に病魔が蝕む、絶対的な拒絶の結界。

 

「この結界と、我が槍がある限り、貴様らにこの街の土は踏ません」

 

 ムルガンの宣言と、ロクサーナが展開した魔王クラスの結界。

 

 アダムスは目を細めると、街のハズレの大きな渓谷、かつてラーヴァナの遺跡があった東の森の方角を見た。

 

 ――彼ほどの「超人」ならば、無理やり突破することも不可能ではないかもしれない。だが、その代償として、消耗しきった神官兵たちは結界の毒牙にかかり全滅し、戦いの余波で街は消滅、自身も深手を負うだろう。

 ウリエルを失い、戦力を消耗した今、これ以上の損失は「秩序の維持」にとって致命的となる。

 アダムスは数秒の沈黙の後、聖槍を下ろした。

 

「……賢明だな」

 

 それは、負け惜しみではなく、冷徹な計算の結果だった。

 

「良いだろう。薄汚い廃墟など、くれてやる。……だが、勘違いするな」

 

 アダムスは踵を返し、ミツキたちを肩越しに睨みつけた。

 

「これは撤退ではない。『転進』だ。

 智天使ウリエルの消滅、魔王の跋扈、そして翁の巫女の出現……。この事態は、もはや一教皇の手に余る。

 ――天上界の『上位存在セラフィム』に報告させてもらう」

 

「セラフィム……!?」

 

 ミツキが息を呑む。

 ――セフィラム、ウリエルよりもさらに上位の、最高位の天使たちの事だ。

 

「次に来る時は、我ら教会の総力を挙げた『聖戦』となるだろう。震えて待っているがいい」

 

 アダムスは片手を上げ、神官兵たちに撤収を命じた。

 整然と去っていく白亜の軍勢。その背中には、敗北感など微塵もなく、確実な破滅を約束する死神のような不気味さが漂っていた。

 

「……行ったか」

 

 軍勢が見えなくなるまで見届けた後、ムルガンは小さく息を吐き、槍を収めた。

 広場に、安堵の空気が広がる。

 

「助かった……のか?」

 

「ああ、なんとかな」

 

 住民たちが顔を見合わせ、やがて歓声が上がった。

 教会が去った。長い夜が明け、圧政者が消えた。本当の意味での「解放」が訪れたのだ。


 しかし、ミツキたちの表情は晴れやかではなかった。

 広場の隅に集まった一行は、深刻な顔で話し合っていた。

 

「……アダムスは去った。だが、奴は『転進』だと言った」

 

 ルークが腕を組み、眉をひそめる。

 

「奴らが体勢を立て直せば、必ずまたここへ来る。……カシムもウリエルもいない今、この街には指導者も守る力もない。このままでは、無防備な獲物だ」

 

「ええ……」

 

 エリシェヴァも不安げに頷く。

 

「それに、疫病の影響もまだ残っているわ。誰かが指揮を執って、街を立て直さないと……」

 

 その時、ムルガンが静かに口を開いた。

 

「俺が残れれば良いのだが……そうもいかん。アダムスの工作により、我が国の防衛にも穴が空いている可能性がある。すぐに戻らねばならん」

 

「そんな……じゃあ、どうすれば……」

 

 ライラが途方に暮れる。

 沈黙が落ちた。誰が、この荒れ果てた街を背負い、教会の脅威から守り抜けるのか。

 ミツキは顔を上げ、ある人物を見つめた。

 

「……ロクサーナさん」

 

「え?」

 

 名を呼ばれたロクサーナが、驚いて顔を上げる。

 ミツキだけではない。ルークも、エリシェヴァも、そしてムルガンも、彼女を見ていた。

 

「ロクサーナさんしか、いないと思う」

 

 ミツキは真っ直ぐに言った。

 

「あなたはこの街のことを誰よりも知ってる。疫病を使ってまで子供たちを守ろうとした覚悟も、手段を選ばない強さもある。……あなたが、新しい太守になるべきだよ」

 

「な……何を言っているの!?」

 

 ロクサーナは狼狽した。

 

「私は……子供たちを病気にした張本人よ? 多くの人から恨まれているかもしれない。そんな私が、街の顔になれるわけがないわ!」

 

「でも、あなたは逃げなかった」

 

 エリシェヴァが、優しく言葉を継いだ。


「あなたは汚名を被ってでも、命を守ることを選んだ。……その強さは、今のこの街に必要なものだと思います」

 

「それに、魔術の知識もある」とルークが付け加える。

 

「パズズの加護があれば、ウリエル亡き後のこの街を、物理的にも魔術的にも守れるはずだ」

 

 仲間たちからの信頼に、ロクサーナは言葉を失い、視線を彷徨わせた。

 私には資格がない。これだけのことをしておいて、指導者になどなれるはずがない。

 そう言って断ろうとした、その時だった。

 

『――ロクサーナ』

 

 心の内側。精神の深淵から、愛しい主の声が響いた。

 

「……っ、パズズ様?」

 

 ロクサーナは胸元を押さえる。そこにある契約の印が、温かい熱を帯びていた。

 

『恐れることはない。お前は、誰よりもこの街の痛みを知っている』

 

 パズズの声は、いつもの陰鬱な響きではなく、父親のような穏やかさと力強さに満ちていた。

 

『かつて我々は、闇に紛れて子供を守った。……だが今は違う。太陽の下で、堂々と民を守る時が来たのだ』

 

『パズズ様……ですが、私一人では……』

 

『一人ではない。私がいる』

 

 その言葉に、ロクサーナの心臓が大きく跳ねた。

 

『私は「境界の掟」により、この地に留まることはできない。だが、お前とのパス(契約)を通して、この街全体を覆う「守護結界」となり、お前を支えよう』

 

 パズズは、優しく語りかけた。

 

『お前が街の「声」となり、私が街の「盾」となる。……二人で、この街を治めるのだ。我らが愛した、かつての平穏な日々を取り戻すために』

 

「……二人で……」

 

 ロクサーナの瞳から、迷いが消えていく。

 孤独な戦いではない。主と共に、今度は光の中で戦えるのだ。

 彼女は深く息を吸い込み、顔を上げた。

 その瞳には、かつての冷徹さとは違う、指導者としての静かな決意が宿っていた。

 

「……分かりました。お引き受けします」

 

 ロクサーナの宣言に、ミツキたちが安堵の表情を浮かべる。

 

 『――だがその前に。まずは「清算」といこうか』

『え……?』

 

 ロクサーナが戸惑う間もなく、広場に一陣の風が巻き起こる。

 

『子供たちを「絶対防御」で守る代償として、街に満たした私の「疫病」。……脅威が去った今、もはや無用の長物だ』

 

 風が唸りを上げた。

 それは砂塵を巻き上げる物理的な風ではなく、魔力そのものを帯びた、赤黒い風だった。

 風は生き物のように家々の隙間を抜け、簡易診療所で病に伏せる人々の体を撫でていく。

 

「な、なに……!?」

 

「黒い霧が……体から……?」

 

 エリシェヴァが驚愕の声を上げた。

 風が触れるたび、あちこちの方角から、コールタールのようなドス黒い瘴気が集まり、空へと舞い上がっていくのだ。

 護符を持っていようがいまいが関係ない。この世界中に漂う「パズズの病の概念」そのものが、風によって根こそぎ刈り取られていく。

 

 ――各街で彼の守護の副作用として高熱にうなされていた子供の呼吸が穏やかになり、衰弱していた老人の頬に赤みが差した。

 

 吸い上げられた無数の黒い霧は、螺旋を描いて空高く舞い上がり――やがて、パズズの笑い声と共に、異界の彼方へと霧散していった。

 

『案ずるな』

 

 空気が澄み渡り、街から死の気配が消え失せた。

 

『病を与え、そして奪うことこそが、私の権能だ』

 

 圧倒的な支配力。

 かつては疫病を操る神として崇められ、今は病の王として畏怖される、パズズの真の力がそこにあった。

 

『これで、街は清められた。……さあ、胸を張れ、我が契約者よ』

 

「はい……っ! ありがとうございます、パズズ様……!」

 

 そこへ、ムルガンが一歩進み出た。

 

「覚悟を決めたようだな。……ならば、これを持っていけ」

 

 ムルガンは、自身の腰に帯びていた短剣――ヴェルカナドゥ王家の紋章が刻まれた儀礼用の剣を外し、ロクサーナに差し出した。

 

「ムルガン様、これは……」

 

「俺の名代としての証だ。だが、勘違いするなよ。全てをお前に丸投げするつもりはない」

 

 ムルガンは、ニヤリと不敵に笑った。

 

「俺が国に戻り次第、すぐに文官と建築士、それに防衛のための兵をこちらへ派遣する。街の復興と、新たな統治体制が整うまでは、我が国が全面的にバックアップしよう」

 

「……!」

 

「お前は一人で全てを背負う必要はない。堂々と胸を張り、俺たちをこき使えばいいのだ」

 

 それは、あまりにも心強い後ろ盾だった。

 ロクサーナは震える手で短剣を受け取り、深く、深く頭を下げた。

 

「……ありがとうございます。この命に代えても、この街を守り抜きます」

 

 その姿に、ミツキたちは笑顔で頷いた。

 かつて絶望し、治癒を捨てた魔女が、今度は主と共に、そして多くの仲間に支えられ、街を癒やす指導者として立ち上がる。


 

 こうして、カラート・シャムスの未来は、彼女たちの手に託されたのだった。

 

 

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