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第十五話 教皇と孔雀


ムルガンが構えるのと同時に ゴッ! と、アダムスの姿が消えた。


神官兵たちの目には捉えられない、音を置き去りにする神速の突撃。

黄金の光の槍と化したアダムスが、ロンギヌスを真っ直ぐに突き出し、ムルガンに迫る。

 

「――召喚する」

 

ムルガンは、その神速の槍に対し、静かに迎撃の言葉を紡いだ。

彼の目の前の空間が歪み、アダムスの突撃に合わせて青白い光が溢れ出す。

 

キィィィィィン!!

 

アダムスの黄金の聖槍は、ムルガンの目の前に出現した青白い槍によって、完璧に受け止められていた。

それは、ミツキたちが使うどの力とも異なる、星空を凝縮したかのような冷たく神聖な輝きを放つ槍だった。

 

「……! その力……"翁"の物か!」

 

アダムスは、弾かれた槍の穂先から伝わる異質な力に、初めて純粋な「驚愕」に目を見開いた。

 

「――我が名はムルガン。我が槍は『ヴェール』」

 

ムルガンは、青白いヴェールを回転させ、アダムスを弾き飛ばす。

 

「そして、お前の言う通り。この力は"翁"より賜りしものだ」

 

「……チッ」

 

アダムスは後方へ跳躍し、体勢を立て直した。


 (……魔王共とは質の違う、厄介な力だ)

 

アダムスは即座に決断する。この男は、ミツキ達とは次元が違う。この戦いは、もはや「浄化(作業)」ではない。

彼は、背後に展開している神官兵たちに向かって、冷徹に命令を下した。

 

「――全軍、退がれ」

 

「え……!? し、しかし猊下!」

 

神官兵たちが戸惑う。

 

「聞こえなかったか。この男は、貴様らが手を出してよい領域にいない。この場は私一人で『清める』。

貴様らは直ちにこの遺跡を離れ、街の全域を包囲せよ。先ほど逃げたネズミ(ライラたち) 一匹たりとも、街の外へ出すな!」


 

「は……はっ!!」



 神官兵たちが慌てて遺跡から撤退し、アダムスとムルガンの二人だけを隔離する「包囲網」を遠巻きに形成し始める。

 

「――そして、結界の術式を変更する」

 

アダムスは、ムルガンから目を離さず、この地を覆う神力の性質を切り替えた。

街全体を覆っていた広範囲の「索敵結界」を解除し、そのリソースを、今まさに**退避していく神官兵たちを、これから起こるであろう戦闘の「余波」から守るための『防御結界』**へと張り替えたのだ。

 

「……面白い」

 

ムルガンが、青白い槍「ヴェール」を構え直す。

 

「部下を守るためとはいえ、自らの『目』を塞ぐとはな。随分と余裕がある」

 

「貴様を『消し去る』のに、索敵など不要」

 

アダムスもまた、聖槍『ロンギヌス』に全神力を集中させる。黄金の光が、先ほどとは比べ物にならない密度で圧縮され、槍がまるで「小さな太陽」のように輝き始めた。

 

「貴様の国ごと、この世界から消し去ってくれる」

 

「やってみろ」

 

――二つの超常の力が、三度みたび、激突した。

 

ズウウウウウウウウウウウウウン!!!

 

黄金の神力と、青白い「翁」の力が衝突した瞬間、音さえもが消滅した。

 

光の奔流が天を突き、衝撃波が地を走る。

 

ミツキたちが戦っていた「街外れの遺跡」は、まず衝撃波の余波だけで完全に粉砕され、砂塵と化した。

 

遠巻きに包囲していた神官兵たちは、アダムスが展開した『防御結界』に守られていなければ、その余波だけで全員が消し飛んでいただろう。

 

「馬鹿な……!? 教皇猊下が……押されている!?」

 

「結界が軋んでいる! これほどの戦いとは……!」

 

アダムスの「浄化」の黄金の光と、ムルガンの「破壊」の青白い光がせめぎ合い、空間そのものが悲鳴を上げる。

 

「消えろおおおおっ!」

 

アダムスが、感情を抑制するという教えすら忘れ、憎悪を込めて神力を叩きつける。

 

「無駄だ」

 

ムルガンは、その全てを槍「ヴェール」で相殺し続ける。

 

アダムスの聖槍『ロンギヌス』と、ムルガンの『ヴェール』が、一秒間に数百という常軌を逸した速度で交錯する。

 

黄金の軌跡と青白の軌跡がぶつかるたびに、大気は裂け、衝撃波が周囲の砂漠をクレーターだらけに変えていく。

 

「……チッ!」

 

アダムスは、ムルガンの槍が自らの聖槍と互角以上に渡り合っている事実に、苛立ちを募らせた。

 

(まつろわぬ国の王が、私と互角だとでも言うのか……!)

 

アダムスは大きく後方へ跳躍すると、聖槍を一度手放し、両手を天に掲げた。

 

「――ならば、我が『原初』の力を見るがいい」

 

「!」

 

ムルガンが槍を構え直す。

アダムスの背後に、黄金の光が集束し、巨大な魔法陣が展開される。


 『――万物は『秩序』より生まれ、『穢れ』は『骨』へと還れ――』


 アダムスが古い言葉で詠唱をする。その途端、天から無数の黄金の「光の槍」**が、ムルガン目掛けて降り注いだ。


 「――!」

 

ムルガンは、その神速で降り注ぐ光の槍の雨を、超人的な体捌きと槍術で回避し、弾き始める。

 

だが、掠めた槍の一本が石壁に突き刺さった瞬間、ムルガンは違和感に気づいた。

光の槍が突き刺さった石壁は、塵になったかと思うとまた新たな形を作り出し、純白の「骨」のような物質に変異していたのだ。


 (これは…!)


 雨のように降り注ぐ槍を回避しながら辺りを見わすと辺りの木々、遺跡、土……大地そのものが槍が当たった途端に塵と化し新たな物質に変化しているのだった。

 

(……光ではない。神力で物質を一から「再構築」しているのか……!)

 

――『創造のエデンズ・リブ』。かつてアダムスが今とは"原初の魔女"となってしまった、イブを生み出した「肋骨」を模した、万物を神の秩序へと還す、彼の原初の力である。

 

「どうした。避けるだけか」

 

アダムスが嘲笑し、骨槍の雨がさらに激しさを増す。

 

「……なるほど。それがお前の『創造』か」

 

ムルガンは、全方位から迫る必殺の骨槍を前にしても、動じなかった。

 

「だが、翁の力は『天上神ことわりの外』にある」

 

ムルガンは、槍「ヴェール」を地面に突き立てた。

 

「――時空よ、歪め」

 

ムルガンの青白い力が、槍「ヴェール」を通じて大地に流れ込む。

黄金の骨槍がムルガンを呑み込もうとした、その直前。

アダムスの足元の空間が、まるで水面のように揺らめいた。

 

「な……!?」

 

アダムスは、ムルガンが骨槍を迎撃するのではなく、ずっと自分アダムスの足元の「座標」を狙っていたことに気づいた。

 

ムルガンの力は、アダムスの神力と真正面から「打ち合う」のではなく、アダムスが存在する「空間」そのものを捻じ曲げ、**別次元へと「落とす」**ためのものだったのだ。

 

「貴様……! この力は……翁のっ……!」

 

黄金の骨槍が大地に降り注ぐと同時に、アダムスの足元の空間が完全に崩壊する。

アダムスは、自らが放った最大出力の神力の奔流もろとも、ムルガンが開いた異次元の裂け目へと飲み込まれていった。

 

「ぐっ……おのれええええええええええっ!!」

 

アダムスの最後の絶叫が、空間の歪みと共に消え失せる。

直後、主を失った黄金の光柱(骨槍)が暴走し、凄まじい爆発となって大地を焼き尽くした。

 

ズドオオオオオオオオオオオオン!!!

 

凄まじい爆音と地響きが砂漠全体を揺るがし、遺跡や森があった場所には、**深さ数百メートルにも及ぶ巨大な渓谷**が、アダムス自身の力によって、皮肉にも刻み込まれていた。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

砂煙が晴れた渓谷の縁で、ムルガンが槍「ヴェール」を杖代わりに、浅く息を吐いていた。

さすがの彼も、アダムスを丸ごと異次元に飛ばすという荒業は、全魔力を使い果たしたようだった。

 

「……ふん。"超人"(アダムス)とはいえ、あの次元の狭間から自力で戻るには、少し時間がかかるはずだ」

 

ムルガンは、アダムスが消えた渓谷を一瞥した。

 

「足止めは、完了した」

 

彼は「勝利」するためではなく、ただ「時間稼ぎ」と「結界解除」のためだけに、この場にいたのだ。

ミツキたちの避難は完了し、アダムスは一時的に戦場から排除された。

 

「では、さらばだ。教皇アダムス」

 

ムルガンは、誰もいなくなった戦場に背を向けた。

 

「……そうだな、次はラーヴァナの御前で会おう」

 

ムルガンの姿は青白い光と共にその場から掻き消え、後には、静寂と、アダムスが自ら作り出した巨大な傷跡(渓谷)だけが残された。


 

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