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第二話 廃墟の探索

砂漠の熱風が容赦なく吹き抜け、カルデア・ザフラーンの中ほどに差し掛かると、三人は空気そのものが重く淀んでいることに気づいた。かつてこの街は、交易路の要衝として知られ、夜になると遊牧民がラクダを連れて星空の下で交易を交わし、鉄製のランプが路地を照らしていた場所だった。今、視界に広がるのは崩れた砂岩の柱、風に削られた円形の噴水台、そして熱で熔けた金属製の装飾品が散乱する光景だ。空は灰色の雲に覆われ、遠くで不規則な振動が地を揺らし、静寂の中にかすかな金属の軋む音が響き渡る。瓦礫の隙間からは、焼け焦げた木材の苦い匂いが立ち上り、どこか不穏な気配が漂っていた。

ミツキは赤いドレスの裾を砂から守りながら、剣を腰に下げたまま周囲を見回した。ツバキの髪飾りが風に揺れ、黒い髪が顔に張り付く。生命の権能でルークとエリシェヴァを支えつつ、頭の奥にじんわりと広がる重さが彼女を苛んでいた。


 「…何かおかしい。この街、ただの廃墟じゃないよ。隠された何かがある気がする」


 

ルークは軽鎧の肩を軽く動かし、眼帯の下で右眼が微かに疼くのを感じていた。彼女は銀髪を風になびかせ、剣を手に警戒を続けた。


 「その通りだ。振動やこの焦げ跡…自然の災害だけじゃない。人間の介入があった証拠だ」


 彼女は地面に刻まれた浅い溝を指さし、鋭い視線を向けた。エリシェヴァは緑の瞳を細め、崩れた噴水台の陰をそっと覗き込んだ。


 「この静けさ…生き残りがいるなら、どこかに隠れてるはず。見つけ出さないと…」


 彼女の指先には草木魔法の準備として微かな緑の輝きが宿り、緊張が伝わってくる。

三人は慎重に進み、路地裏に佇む半壊した建物に辿り着いた。かつては交易商の事務所だったらしいその場所は、焦げた木製の棚と崩れた天井が無残に残り、壁には幾何学模様が焼け焦げて歪んでいる。中を覗くと、倒れた机の陰に紙の束が埃に埋もれるように放置されていた。ミツキが近づき、煤まみれの紙を慎重に手に取る。


 「…何だこれ? 文字が薄れてるけど…“取引記録”…“男性、25歳、銀貨四百”…奴隷のリストだ!」



ルークが紙を覗き込み、眉を寄せた。


 「奴隷売買の証拠だ。銀貨の額から見て、高価値な労働力か…いや、もっと過酷な用途だった可能性もある。この街、裏でこんな闇が広がってたとは」


 彼女の声には冷たい怒りが込められ、隻眼が鋭く光る。エリシェヴァが息を呑み、紙を握り潰しそうになった。


 「信じられない…。こんな帳簿が残ってるってことは、どれだけの人が連れ去られたのか…。この街、ただの交易の場じゃなかったのね」


 彼女の声は震え、緑の瞳に涙が浮かぶ。

ミツキは紙を懐にしまい、唇を噛んだ。

 

 「奴隷…だなんて…。」


 彼女の胸に怒りが湧き上がり、生命の権能の重さが一層感じられた。

ルークが紙をもう一度見直し、呟いた。


 「この帳簿、記号や紋様が刻まれてる…この地域の有力者に多いデザインだ。ここの支配者が奴隷貿易を主導してたなら、大きな家系の関与が疑われる。館の痕跡と照らし合わせれば、特定できるかもしれない」


 彼女は帳簿を手に、館の方へ視線を移した。

三人は沈黙し、風が埃を舞わせる音だけが響いた。ミツキは深呼吸し、仲間を見た。


 「…生き残りがいるかもしれない。もっと奥へ進むよ」


 彼女の声には決意が宿り、頭の重さを堪えて歩を進めた。

やがて街の中心部に近づくと、異様な光景が目に飛び込んできた。巨大な貴族の館が廃墟として屹立し、その周囲は無数のクレーターで埋め尽くされている。砂岩で築かれた館は、豪奢な窓枠と焼け焦げたカーペットの残骸が残るが、今は焦げ跡とひび割れで荒廃。クレーターの縁には黒ずんだ土がガラス状に溶け、熱と衝撃の激しさを物語る。地面には巨大な爪痕が刻まれ、魔物の痕跡と何らかの儀式的な力が混ざり合った形跡がうかがえた。


「…何!? これ、どういうこと?」


 エリシェヴァが声を上げ、クレーターの縁に手を伸ばした。


 「地面がこんなに抉れてる…空から何か落ちてきた? でも、ただの落雷じゃないよね…」

 

ルークが膝をつき、焦げ跡を調べた。


 「これは通常の魔物によってつけられた物じゃないな。確かに爪痕から魔物が絡んでいる様だが、このクレーターの大きさと熱は尋常じゃない…上級悪魔とか魔王とか、それに匹敵する存在が暴走した証拠だ。この館で何かが起きたのは確かだ。儀式か、戦闘か…」


 彼女の声は冷静だが、隻眼に怒りが宿る。

ミツキの心臓がドクンと跳ねた。


「上級悪魔…魔王…もしかして翁の言ってたイブリースの仕業かも…。」


「かもしれないな。」


 ルークは頷いた。

ミツキは館の外壁に目をやると、風に剥がれかけた紋章が目に入った。鷹を模した意匠と、薄れた文字が半壊した状態で残っている。

 

 「何この紋章、ザ…ビール…?」

 

ルークが立ち上がり、紋章を凝視した。


 「その可能性が高い。帳簿の記号と一致する。この館がザビール家の本拠地なら、クレーターの数と熱の残滓から、大規模な破壊が起きた。奴隷売買の裏で、何か恐ろしい計画を進めていたのかもしれない。儀式の痕跡もあるな」


 彼女の分析は的確で、鋭い視線が館を貫いた。

エリシェヴァが顔を曇らせ、拳を握った。


 「権力と富を誇った貴族が…こんな目に。生き残りがいるなら、真相を教えてほしい所ね…。」


 彼女の声には悲しみと決意が混じる。

ミツキは館を見上げ、灰の匂いが鼻をつく。


 「ザビール家の罪…もしかしたら奴隷のうちの誰かが仕打ちに耐えかねてイブリースと契約したのかな?調べるしかないね。」


 彼女の声には怒りと決意が混じり、生命の権能の重さが頭を圧迫する。

その後、三人は館の周囲を慎重に調べ始めた。クレーターの縁には焼け焦げた金属片が散乱し、かつての豪華な調度品の残骸が垣間見える。ルークが一つを拾い上げ、呟いた。


 「…金の装飾だ。ザビール家がどれだけ贅沢に暮らしていたか分かるな。だが、この破壊…魔王の前じゃ権力も無力だった証拠だ」


 彼女の声には皮肉が滲む。

エリシェヴァが頷き、瓦礫を覗き込んだ。


 「この館、ただの住居じゃないわ。地下に何かあるかもしれない…奴隷を隠してた場所とか?」


 彼女の声には好奇心と恐怖が混じる。

ミツキは頷き、仲間と共に館の入り口へ近づいた。焦げた木製の扉は半開きで、内部からは熱風と異様な静けさが漂う。

 その視線の先に、街の中心に聳える巨大な宮殿が現れた。砂岩で築かれたその建物は、ドーム型の屋根と尖塔が特徴的で、ザビール家の象徴だったに違いない。今は焦げ跡とひび割れで荒廃し、赤黒い炎の残滓が漂う。遠くから見ても、その威圧感と荒廃がミツキの心をざわつかせた。

 

「…あれが宮殿ね」


 エリシェヴァが呟いた。


 「ザビール家の本拠地…? こんな場所に、何か大きな秘密が隠されてる気がする」

 

「間違いない」


 ルークが剣を払い、宮殿を睨んだ。


 「クレーターの中心はあそこだ。イブリースが関わってるなら、答えは宮殿にある」


 彼女の声は力強く、決意が込められていた。

ミツキは宮殿を見据え、心の中で誓った。


 (ザビール家の闇、奴隷の悲しみ…全てを暴かないと)


 頭の重さを堪えながら、彼女は仲間と共に次の目的地へ歩を進めた。カルデア・ザフラーンはまだその全貌を隠していた。

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