8 Aクラスの生徒たち1
翌日の朝。
登校すると、魔法学園の掲示板の前に人だかりができていた。
新入生たちが、昨日行われたクラス分けテストの結果を確かめている。
「クラス発表か。まあ、結果は見えているな」
俺は余裕たっぷりだった。
昨日の試験の手応えからして、最上位クラスは間違いないだろう。
掲示板の前まで行き、自分の名前を確認する。
「あったぞ。1年A組、リオン・アルクセル――最上位のクラスだな」
これで快適な学園生活を送るための第一歩はクリアだ。
質の高い授業を受け、優秀な生徒たちの中で目立たず過ごす。
それが俺の描く理想の学園生活だった。
「……ん? 同じクラスに……」
俺は自分の名前の周辺に目を走らせ、思わず眉をひそめた。
そこには、見覚えのある名前がずらりと並んでいたのだ。
カチュア・グレイブ、エディル・スタッカート、そしてオリヴィア・フォルテッシモ……。
乙女ゲーム『エタグリ』の主要キャラクターが全員、俺と同じAクラスに集結していた。
「主要キャラ勢揃いか。ゲーム通りだな」
つぶやいたそのとき、隣に一人の女子生徒がやってきた。
赤い髪をツインテールに束ねた勝ち気そうな美少女――。
彼女は俺をちらりと一瞥すると、すぐに掲示板へと視線を移した。
――こいつ、カチュア・グレイブだな。
ゲームの立ち絵そっくりの容姿を見て、俺は即座に理解した。
貴族の子息がほとんどの魔法学園において、彼女は平民出身の特待生だ。
ゲームではヒロインの親友ポジションになるキャラクターだった。
「Aクラスか……ま、あたしの力なら当然よねっ」
そのカチュアは掲示板を見て、小さくガッツポーズをしている。
「――やっぱりあいつも」
と、俺の方をチラリと見た。
「やあ、君も同じクラスかい。よろしくね」
俺は爽やかに挨拶してみせた。
まあ、最低限の礼儀や挨拶をしておかないと目立ってしまうからな。
ただし、必要以上にかかわるつもりはない。
あくまでも最小限、最低限の接触にとどめ、深いかかわりをもたず、フラグも発生させない――。
それが俺の、破滅フラグ回避の基本戦略である。
と、
「リオン様もご一緒のクラスですのね……」
さらに隣から声が聞こえた。
視線を向けると、そこには金髪縦ロールの公爵令嬢オリヴィアがいる。
『エタグリ』のヒロインであり、俺の破滅フラグ発生源その一だ。
カチュア以上に、絶対にかかわりたくない相手だった。
と、そのオリヴィアが俺の方を向く。
これがゲームなら彼女にかかわらないように最適化した動きで回避できる。
が、現実はそうはいかない。
この人ごみの中では、早々に退避するのも難しいし、あからさまに逃げ出したら、それはそれで妙な印象を与えかねない。
――落ち着け。
俺は自分自身に言い聞かせる。
別に彼女と会話をしたからって、それが即座に破滅フラグにつながるわけじゃない。
要は――地雷を踏まなければいいのだ。
「これから同じクラスですわね。お二人ともよろしくお願いしますわ」
オリヴィアが穏やかに微笑んだ。
「……何、あんた。あたしのことを知ってるの?」
「もちろんですわ。とても才能のある特待生の方がいらっしゃると評判でしたもの。それに――」
オリヴィアがカチュアから俺に視線を向ける。
「筆記、実技ともトップクラスの得点だったというリオン様のことも――」
「いや、僕なんて大したことないよ」
俺は謙遜してみせた。
「才能と美貌を兼ね備えた君たちと知り合えて光栄だ。これからよろしくね」
……歯の浮くような台詞を言ってしまったかもしれない。
上品に装おうとするあまり、変なキャラになってしまったか?
まあいい、このタイミングで切り上げるぞ――。
「では、僕はこれで」
会釈をして、俺は去っていく。
「な、何よ、あいつ……あたしのこと、う、美しいって……もうっ」
背後からカチュアの照れたような声が聞こえた。
「ふふ、お噂とは随分と印象が違いますね」
クスリと笑うオリヴィアの声も聞こえる。
まあ、悪印象は持たれていないようだ。
とりあえずは――これでいい。
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