5 クラス決めの試験が始まる
退屈な学園長の祝辞がようやく終わった。
「続きまして、新入生代表挨拶。新入生代表、エディル・スタッカート様」
「はい」
男子生徒の一人が席を立ち、壇上へと向かった。
一挙手一投足に華があり、人を引き付けるオーラを放っている。
この国の第一王子、エディル・スタッカート。
乙女ゲーム『エターナルグリーンアカデミー』のメイン攻略対象だ。
「うわ……すごい美形……」
「本物の王子様……」
「素敵……」
彼が演台の前に立つと、女子生徒たちのうっとりとした声があちこちから聞こえてきた。
彼女たちの視線は、完全にエディル王子に釘付けになっていた。
「新入生の皆さん、本日はご入学おめでとうございます。この栄えある緑の魔法学園で、皆さんと共に学べることを心から光栄に思います」
爽やかで、非の打ち所がない完璧なスピーチだ。
王族としての品格と、同年代の若者としての親しみやすさが両立している。
「きゃあっ、エディル様ー!」
「こっちを見てくださったわ……!」
「声も素敵……イケボよ、イケボ……!」
まるでアイドルのコンサート会場のような熱気だ。
俺はそんな光景を冷ややかに見つめながら、
「……さて、ゲーム本編の流れをおさらいしておくか」
頭の中でこの後の展開をシミュレーションする。
原作ゲームではエディルの挨拶が終わった直後に、最初の破滅フラグが発動する。
王子の挨拶が終わって、ヒロインであるオリヴィア・フォルテッシモがその立派な姿に感心している。
そこにリオン・アルクセルが彼女の元に歩み寄り、最悪の一言を口にする。
『なかなか美人だな。俺のものにならないか?』
公衆の面前で、初対面の公爵令嬢をいきなり口説くという暴挙。
当然、心優しくも芯の強いオリヴィアは、その誘いをきっぱりと断る。
すると、プライドを傷つけられた原作リオンは逆ギレするのだ。
『俺の誘いを断るだと……? 公爵令嬢がお高く止まってるじゃないか。いいから、付き合えよ! おらっ!』
その横暴な態度を見とがめた正義感の強いエディル王子が、オリヴィアをかばうようにリオンの前に立ちはだかる。
そして、王子はリオンを厳しく断罪する――。
この一連の流れによって、リオンはヒロインと王子、そして周囲の生徒たちからのヘイトを一気に集めることになるのだ。
最悪のスタートダッシュだった。
「……まったく馬鹿げてる」
俺はため息をついた。
そんなことをすれば、学園生活が始まる前から破滅が確定するようなものじゃないか。
当然、俺は絶対にそんなことはしない。
俺の目標は、全ての破滅フラグを回避し、平穏な人生を最速で手に入れることだ。
悪目立ちなど、もってのほかだった。
会場が割れんばかりの拍手に包まれる中、エディル王子の挨拶が終わった。
彼は満足げな笑みを浮かべ、壇上から降りてくる。
俺は気配を消し、壁と一体化するようにして、彼が通り過ぎるのを待った。
こっちに気づくなよ……。
変なフラグを発生させたくないからな。
ふと、エディル王子がこちらを向いた。
壁際の俺とはかなり距離があるはずなのに、明らかにその視線は俺を捉えている。
「……!」
しまった、目が合った。
俺は内心で舌打ちしたが、表情には出さない。
今さら視線を逸らすのは不自然だ。
エディル王子は爽やかな笑みを浮かべる。
ここで無視をすれば、それこそ悪目立ちにつながる。
「…………」
俺は無言で一礼し、すぐに踵を返した。
これ以上のやり取りは危険だ。
「相手を完全に避けるっていうのは、案外難しいんだな……」
ゲームの画面越しに見ていたキャラクターが、今は目の前で生きている。
行動パターンが決まっているゲームとは違い、彼らには彼らの意思があり、ときには予測不能な動きをするんだ。
やはりゲームと現実世界でのRTAは全くの別物だと、あらためて痛感させられた。
とはい、入学式で悪目立ちするという最悪の事態は避けられたらしい。
「ふう……まあ上々だろう」
俺は胸をなでおろし、大きく息を吐いた。
最初の関門は突破できたようだ。
やがて入学式はすべてのプログラムを終え、閉会の辞が述べられた。
「さあ、次はクラス分けテストだ。ここも最適ムーブで切り抜けるぞ」
魔法学園での生活は――破滅フラグ回避RTAは、まだ始まったばかりだ。
俺は気持ちを新たにし、次の目的地であるテスト会場へと向かった。
※新作第5話です! 今日はここまで! 明日の12時に続きを投稿します~!
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