表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Female Palace  作者: 甘語ゆうび
Chapter 1〜Preparation period〜
8/58

One day before wearing women

嘘で全てを欺き、秘密を隠し通す

それが俺のこれまでもこれからもかわることのない不変の生き様だ

目的の為なら、俺はなんだって手に入れ、なんだって切り捨ててやる

刺されても毒を盛られても死んでも死んでやらないからな


「それでライくん、ドレスはどうするの?」


例の依頼について、色々ボスから聞き出してやろうと話していたところに、ボスから言われた言われた台詞がそれだ。溜息の1つや2ついくらでも吐きたくなる。


「え?あの女装の話マジだったんですかい?俺ボスの冗談かと思ってやしたんけど」

「やっだな〜!冗談なわけないだろ、このハンサムボーイめ!」


バシバシと俺の背中を叩いてくる。痛い、色んな意味でイタい。


「でも、ドレスにしたって当てはあるんですかい?こんな貧民街に、そんな洒落たどころか高いもんあると思いやしやせんが」

「例の、あの、ミネビアさんってお嬢さんに協力はしてもらえないのかい?」


ボスの言葉に、俺は頭を抱える。いや、何も言っていなかった俺も悪い。ボスに向き直り、現状を報告する。たちまちにボスの顔は青ざめていき、最終的に真っ青になった。


「えー!?大変じゃん!ど、どどどどうしよう!?あんないかにもとんでもなさそうな所に行く手段なんて知らないし!」

「いつもみたいに偽造は出来ないんすか?」


淡々と聞けば、ボスはばかぁ!と言いながら俺の腹を殴ってきた。


「お、い、ってぇ…」


腹が凹む。そのまま穴が空く。それ程の衝撃だ。


「あれ?これでも加減したんだけどな。ライくん相変わらず軟弱だね。ちゃんと食べてる?」


腹を抱える俺を心配そうな顔で見てくる。大丈夫なわけがないだろう。この怪力ジジイ。そう言えたらどれほど楽か。言ったが最後、俺の体は土に埋められない程千切られるだろう。

腹の痛みを抱えながらもなんとか立ち上がる。それと同時くらいだろうか。執務室の扉が開かれた。

後ろを振り向けば、ファルターが立っていた。


「話し中だったか?」

「いや、大丈夫っすよ。それよりどうしたんすか、こんなとこまで」


ボスから逃げるように入口から動くことがないファルターに寄っていく。


「…ミネビアが目を覚ました。お前に伝えたいことがあるから、昨日の患者部屋で待ってるとのことだ。ミネビアの体調が良いうちにさっさと行け」

「了解しやした。それじゃボス、俺ちょっと1階に行ってきやすね。…あ、ファルくんも行きましょうや。ボスと居ても気まずいだけっすよ」


ファルターは分かったと同意の意を示し、俺と一緒に付いてきてくれる。後ろから寂しげな声が聞こえたが、知ったものか。後でいくらでも情報を吐き出してやる。



1階のクリニックの扉を開ければ、カウンターの方でフタバ先生が座っていた。彼は俺達に気付くと、こちらに歩み寄ってきた。


「おはようござ…いや、もうこんにちはですかね。とにかく、お待ちしていました。どうぞお入りください」


彼が開けてくれた扉をくぐり、ミネビアと対面する。その後、ごゆっくりとだけ言い残し、俺達を中に入れ扉を閉めた。


そこには彼女1人だけかと思っていたが、どうやら違ったらしい。


「…何でいんすか、ミナヒ」

「え?ガールズトーク」


振り返った彼女は一言そう言った。いや、それが理由になるものか。


「ミネビアちゃんと色々話してたんだよ」

「へ、へぇ、そうなんすね。あぁ、それでミネビア嬢、話って何でしょか?」


ミナヒから話題を逸らしたくて、ミネビアの方に視線を移す。ミナヒは空気を読んでか、自分の座っていた丸椅子に座るよう促した。お言葉に甘えて腰掛ければ、彼女は1通の封筒を空いている右手で俺に差し出してきた。


「…これは?」

「FemalePalaceの招待状です。会員には毎回、こうやって自宅に招待状が届くんです。私が倒れていた場所に落ちていたそうで、館に残ったメイド達に送転してもらいました。そして、次回の開催は2週間後です。ライさんにはそのパーティーから行ってもらいます。ただ、情けないことに、私はこんなざまですので、ご一緒することは出来ません。代わりに、ヴィア・ショウクレンアリーという女性にコンタクトを取っておきます。当日は、その者と合流してから会場に向かってください。1人で行かれては、怪しまれてしまいますので」

「…そのヴィアという人物は、信用出来るんですかい?」


これでとんでもない人間だったら流石に手に負えない。ミネビアは考えるような仕草を見せ、口を開いた。


「そうですね…。トレディに強い忠誠を誓っていますが、正義感の強い子です。困っている人は放っておけないような性格ですので、少し意地悪かもしれませんが、私が困ってると言えば、口裏も合わせてくれるはずです。ですが、あの子のトレディへの忠誠心はとてつもないです。ライさんが男とバレてしまっては、きっと処刑以上のことをされるかと思います。ですので、くれぐれも気をつけてください」


要するに、普通に扱う分には問題無いが、地雷を踏み抜いたら少しめんどくさい、ということだろうか。まぁ仕方がない。見知らぬ場所で1人じゃないというだけマシだ。だが、忠誠心が強いという割に、こんな行動に肩を持ってくれるだろうか、と考える自分もいる。どんな相手か分からない以上、彼女とは慎重に距離感を計らないといけないかもしれない。


「あ、あともう1点。FemalePalace内では、各々コードネームで呼びあっています。本来なら、本名を教えることも、連絡を取り合うことも出来ません」


連絡を取れないし素性も知れない?


「それは、自分が招待を受けた相手にも、ですかい?」

「そうです。FemalePalaceのことを外で話すのは禁止事項です」


それは無理な話ではなかろうか。招待をする時は別として、その後だ。その者と会ったら、少なからずFemalePalaceの話に発展するのではないだろうか。そう考えた俺の考えを読み取ったのか、後ろから声が飛んできた。


「あれじゃないのか?記憶消されちゃう的なさ」

「ミナヒさんの言う通りです。招待をした者は、代償を払い、特典を得られます。特典は…まぁ、見た方がきっと早いでしょう。あまり良い物ではありませんが」


そこで顔を下に向けていた彼女は、再び顔を上げ、俺の方を見た。


「さて、ここからは課題です。ライさん、貴方には主に3つやって頂きたいことがあります。まずは女性としての身なり、立ち居振る舞い、そして貴族として相応の品格を身につけてください。そして次に、コードネームを考えてきてください。コードネームにはルールがあって、漢字というものを2つ並べて皆作っています。何か困るようなことがありましたら、気軽に言ってください。そして、これは必要性を感じたらでいいのですが、戦闘も少し出来るとよろしいかと思います。あそこは、中々に野蛮な人が多いので…。銃を使えるだけでも、変わるかと思います」


彼女の最後の言葉を聞いた後ろからの視線がザクザクと刺さる。彼女からの視線の雨ほど怖いものはない。


「ドレスについては、私の持っている物をお貸し出来ますし、メイクや立ち居振る舞いも教えられます。ただ髪はどうしましょうか…。なにかいいウィッグでもあればいいのですが」


うんうんと悩む彼女には悪いが、貴女の執事からの視線が痛い。だが、これは仕方がないことだ。なんせ他に当てが無いのだから。


「あ、ウィッグなら、貧民街に良い職人を知ってるぞ」


ミナヒが思い出したかのように口を開く。本当ですか、とミネビアが嬉しそうに彼女を見据える。


「連絡取っておこうか?」

「是非!お願いします!」


随分とまぁ気合いの入っていることだ。本人である俺は置き去りにされている。だが、お陰でなんとかなりそうだ。


「あ、あとライは戦闘スキルも磨かせるから」


ミナヒに指を指される。随分げっそりした顔をしていることだろう。俺は反射神経である程度避けることは出来るが、戦闘なんて本当に出来ない。銃は当たらないし、長物を使えば重くてまともに操作出来ない。ナイフを使えば、距離感が掴めず上手く刺せない。精々皮膚を掠める程度だ。おまけに俺みたいな奴に、トレビアだの能力だのがあるはずもない。詰みである。だがその点、ミナヒは様々な武器の扱いに長けている。そのお陰で、交渉術は俺、戦闘面はミナヒの担当という風になっていった。


「い、いやぁ、ミナヒも俺の戦闘能力知ってやすよね?避ける逃げるが精一杯で、それ以上のことなんて…」

「出来るから言ってんだよ。あんたはやろうとしてないだけで、1度身についてしまえば、あたし以上に強くなれる」


こいつは本気で何を言っているんだ。銃で標的を狙えば、的にすら当たらない男だぞ。


「…ま、そんなわけで、とりあえず、ウィッグと戦闘はあたしに任せといて。ミネビアちゃんは、後のことお願いね」

「分かりました!ライさんを立派な淑女に仕立て上げましょう!」


変なところで結託されてしまった。ミナヒがミネビアの言葉にぐっ、と親指を立てている。手伝ってくれるのはありがたいが、何故か面倒事に巻き込まれたかのような気分になる。


「あ、そういやミネビア嬢。1つ聞きたいんすけど、良いですかい?」

「どうぞ」


息を飲む。彼女にとっては、きっと辛いことだろう。


「あの時、結局何が起こったんですかい。俺達が向かった時には、既に倒れていやしたが…」

「あぁ、あれですか...。あれは、招待状を受け取って、お礼を言った時です。その後、扉を閉めようとしたら、向こうから扉をいきなり掴まれて、口を押さえつけられて、その時に、何か匂いを嗅がせられました。それを嗅いだら、眠くなっていって、でも、耐えていたら、この通り、左腕が切断されました。何故これで済んだのかは私にも分かりませんが...」

「なんかまじないでもあるんすか?」

「どうなんでしょうか...。私はそんなもの聞いたことありませんが...」


彼女はそう言ってまた黙り込む。どうやら、会員である彼女にも知らないことは多いらしい。


「なるほど、色々ありがとうございやした。お陰でなんとかなりそうで助かりやす」

「...話は片付いた?」


いつの間にか隣に立っていたミナヒに驚く暇もなく、無理矢理立たせられる。


「えぇ、大丈夫ですよ」

「そう。それじゃ、こいつはちょっと預かるから。あとは2人でごゆっくり〜」


俺が止めても彼女は強い力で俺を外へと引っ張り出す。そして連れてこられたのは事務所の2階、客人用の接待室だ。


「そこに座って」


促された客人用のソファに座れば、ミナヒは向かい側に腰掛ける。


「なんすか、こんなところまでわざわざ連れてきて」

「良い機会だから聞いておこうと思って」


冷や汗が1つ、たらりと流れる。何を、と訊けば目の前の女は俺の顔をじっと見て口を開いた。


「何で、戦おうとしないのさ。あんたの身体能力は高めだし、なにより要領が良い。何で訓練しようとか思わないわけ?」

「訓練、ねぇ」


ミナヒの言葉に黙ることしか出来ない。答えを出してしまうのは簡単だ。単純なことだ。


「死ぬのが怖いからっすよ」


いいことでもあったかのような明るい声だった。俺の態度が癪に障ったのか、ミナヒは鋭い目つきを俺に向けた。何故どいつもこいつも眼光ばかりは鋭いのだろうか。

やがて、ミナヒは自分の中で折り合いをつけたのか、ため息を一つ吐いた。


「あんたがどう思おうと勝手だけど、死なない為に力ってつけるもんだってあたしは思ってるし、あんたの依頼を成功させる為にも、訓練は意地でもつけるから。逃げようとすんじゃないよ」

「…はは、怖いっすねぇ。でも、護身術なんて、玩具の豆鉄砲持ってるだけで結構効果ありやすよ」


俺の言葉にミナヒは動じない。意思は随分と固いらしい。彼女は偶にこうやって意固地になる時がある。基準はよく分からないが、自分を動かす何かがあるのたろう。


「…話はそれだけ。とにかく覚悟は準備しとけよ。みっちり絞ってやるから」


怖い。ただの脅しじゃないか。


「...ただの臆病者に、何を求めるんだか」

ミナヒが去った接待室で呟いた言葉は、空に紛れて消えていった。


明日からミナヒには見つからないようにしよう。そう心で決めてから、俺も接待室を後にした。

これから起こることなんて、考えたくもない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ