I don't care about the outcome side GALAMIYU
出した宣言は再びオールイン。チップ8000を全て場に差し出す。
「はっ、ガラミユ正気か?調子に乗ってると足元掬われるぞ」
「ご忠告どーも。けど、俺はもうあんたに勝つ気で今ここに居るからな。負けるつもりで出したわけじゃない」
チップを出す手はもう震えたりしなかった。それに心の内側が安心した、と呟いていた。一緒にいた時間を数えるならば、ナーチェの方が圧倒的に長い。なのにも関わらず、揺さぶられるのはヴィアの言葉ばかりだ。
「勝者、ガラミユ!」
この感情変化を恋煩いだなんて言うのなら、俺の心は随分と浅ましく安っぽいものなんだろう。だって、彼女とはまだ出会って数ヶ月経ったか怪しいくらいの関係だ。
「……フォールド」
そんな女性に恋焦がれるだなんて、随分と惚れっぽいことだ。こんな安っぽいまやかしに夢を見るなんて、俺は彼女の傍に居続ける資格があるのだろうか。
「レイズ」
「……ちっ」
いや、何を馬鹿なことを言っている。こんな俺を認めてくれたのは誰だ。泥まみれで、捻くれてて、逃げ越しのダメな俺を認めてくれたのは誰だ。そんなの、ヴィアしか居ない。彼女が俺をどう思っていようと関係ない。この病気が一生治らなくたっていい。
「……フォールド」
「勝者、ガラミユ!」
拍手喝采が鳴り響いている。それはラウンドの数を増やすごとに勢いが増している。その中に、彼女は居るのだろうか。俺の事だけを、見てくれているのだろうか。
「……コール」
相手のチップはもう残り僅かだ。恐らく、次のラウンドが手一杯といったところだろうか。俺の手札はハートのKとクラブのK。そして現在のコミュニティカードはスペードのKとダイヤのK、そしてハートの2。フォーカードが既に完成している。
「……レイズ」
迷わず相手よりも倍のチップを差し出す。しがらみも未練も、全て断ち切ったはずなのに、手は震えている。この震えはなんなのだろう。勝利が近付いているということへの高揚感だろうか。それとも、以前の主であった彼女を負かせてしまうという罪悪感や恐怖だろうか。俺が勝ってしまったら、彼女の地位名誉は確実に地の底に沈んでしまう。そしたら、他の貴族に目の敵にされる。そしたら、彼女は家も使用人も失うかも。そしたら、そしたら、そしたら……!!
「……違う」
俺はもう、ナーチェとは何も関係が無いんだ。全部ぜんぶゼンブ断ち切ったんだ。それなら、何故相対するナーチェの歪んだ表情を見て震えているのだ。何故呼吸が荒いんだ。
可哀想だなんて思ってはいけないんだ。殺す相手に同情なんて必要ない。
「はぁ、はぁ……」
「ガラミユ、体調が優れないようだけど」
「大丈夫だ。まだやれる……」
「……そう。ナーチェ、宣言は?」
ヒガンの問いかけに、ナーチェは瞳孔をひどく震わせ、固く結んでいた口を恐る恐る開いた。
「……オール、イン」
その宣言に目を見開いた。ナーチェは俺から見ても分かるほどに手を震わせていた。それは死の淵の淵に立たされた者の形相だった。誰かの死に触れることはあまり無い。逆に言えば、ごくまれにある。そんなほぼ無いごくまれが、俺はずっと忘れられない。だから、分かる。ここで俺が居座れば、ナーチェは死ぬ。
「…………」
「コミュニティカード1枚ね」
ヒガンが場にカードを1枚出す。出されたカードはスペードのA。しかし、こんな状況で残りの2枚なんてどうだっていい。彼女を嫌っている運が、彼女の味方をするはずが無い。
「……えっと」
ここの正解は居座ることだ。そうすれば、試合はもう終わる。この地獄みたいな時間から解放される。良いことじゃないか。何を悩む必要がある。引け、引くんだ。今すぐ引き金を引くんだ。
頭をよく狙って。大丈夫だ、誰にも責められたりしない。皆が俺を褒めてくれるさ。だから、どうか──
「……コール」
「…………」
ゆっくり、おやすみ
「……手札オープン」
ヒガンの掛け声で、それぞれ手札をめくる。俺はKのフォーカード、ナーチェは、スペードのAと、ダイヤのAでワンペア。
俺の、勝ちだ。
「勝者、ガラミユ。また、ナーチェのチップが0となったため、この勝負、奴隷ガラミユの勝利!!」
今までの比じゃない程の拍手喝采が鳴り響き、会場が凄まじい熱気に包まれる。だけど、不思議と嬉しいという気持ちは湧いてこなかった。いや、どこかにいるのかもしれないが、今の俺には見つけられない。だって、それ以上に、よく分からない黒いもやもやが押し潰してくるのだから。初めての感情に、整理が付けられない。
「…………」
「ガラミユ、奴隷脱却おめでとう」
ヒガンに声をかけられ、我に返る。
「あぁ、あ、ありがとう……」
「……細かい手続きはまた後でやる。ナーチェと話したらいいよ。多分、今しか時間取れないから」
「は?それってどういう……」
「残された時間は大切にしてあげなよ」
そういってヒガンは、TOP4とトレディの座る席の方へと行ってしまった。残された時間、なんて嫌な言い方をするものだ。
「……ナーチェ」
「おめでとう、ガラミユ。あたしの負けだ」
「…………」
覇気のない声だった。何かが抜け落ちたかのような虚ろな瞳は、何も映し出してはいなかった。
「ありがとう、ナーチェ。そして、ごめんなさい。俺が、勝ってしまって」
「……チッ。お前のそういうところが嫌いだ。なぁ、ガラミユ、どうせあたしはもう最期なんだ。こっちに来い」
かつての主人の命令に迷うことなく従い、彼女のすぐ隣まで歩く。俺が隣まで来たのが分かったのか、ナーチェは車椅子を動かし、俺に真正面に向き合う。そして───
俺に飛びかかり、両手で首を絞めてきた。
「ぐっ……!」
「お前は生まれた頃から全部持ってた!!なんで、なんでお前ばっかり、ずるい、ずるい。ずるいずるい!!ぜんぶ、全部!あたしが出来ないことを、お前はなんだって出来た!!あたしが欲しいもの全部!お前は持っていやがった!!!なんで、なんで……。どうして……。ほんとうに、いいな、羨ましいな。いいな……。なんで、あたしは、いつも、いつも……。どうして……」
気を失いそうな程に強かった力は、徐々に弱まり、俺の肌には涙が伝ってきた。俺のものでは無い。頭上から落ちてくる、ナーチェの涙だ。
「……ご主人、さま」
「止めろ。お前にもう、あたしをそう呼ぶ権利は無い。黙れ」
「それじゃ、ナーチェ」
「なんだよ」
ナーチェの涙をそっと指で拭い、抱きしめた。
「……は?」
「なぁ、俺らってさ、めっちゃ馬鹿だったんだな……。傷つけて、傷付けて、嫌いなのに、嫌いになれなくて。お互い、ただの子供だったんだな」
「はぁ?あたしはもう21だ!馬鹿にするな!」
「してねぇよ」
「してるだろ!!」
お互い涙を流しながら、必死にこれ以上の涙を止めようとする。でも、そんな努力なんて何も意味が無くて、思いとは裏腹に、止まらなくなってくる。
ずっと主従、それ以下の関係性の糸で繋がっていた俺と君の糸が、今日やっと、ちゃんとリボン結びに出来た気がした。
まっくらやみもほどをいきすぎるとただのうまとしか。でもそうじゃない




