There is no point in us fighting
「うーん。まずいっすねぇ……」
現在のチップ数は、ガラミユが1500、ナーチェが18500。ガラミユが圧倒的に不利だ。しかも、優勢なのをいいことに、チップで圧力をかけられるようになってしまった。そうされれば、ガラミユは引くことしか出来ることが無くなってしまう。まぁ、当の本人はまるでそれを望んでいます、とでも言いたげなプレイングをしているが。
モニターを見る限り、最初の時点でワンペアが揃っていた試合もいくつもあった。だが、ガラミユはそれをドブに捨てて負けにいこうとしているのだ。俺の1番嫌いなタイプのプレイヤーだ。負ける気ならさっさと降りろと言ったのに。
「…………」
隣を見れば、ヴィアが不安そうに両手をぎゅっと握り祈っているように見える。頬には冷や汗が1つ、たらりと作られ始めている。
「……ヴィア、そんな不安気な顔をしても、試合結果が変わるわけではありませんよ」
「辞めてくれ。それではまるで、ガラミユが負けるみたいじゃないか」
「あら、案外事実かもしれませんよ。だってあれ、誰がどう見ても負けにいってるじゃないですか」
「そんなこと……」
無い、そう思い切り否定したい気持ちがあったのだろうが、盤面を見ればそんなこと言えないのが事実だ。だが、ガラミユは神に愛されているかと疑う程に運がすこぶる良い。だから、その気になればいくらでも勝つ算段は浮かぶだろう。だが、今の彼では浮かぶだけだ。それを掴んで歩み出すつもりが無い。
「……がらがら、このまま負けるつもりなんですかねぇ」
「ブラインドも上がってきていますし、ガラミユは出来てあと2ラウンドでしょうかね。次で勝たなければ、負けは確定でしょう」
「フォールド」
「……勝者、ナーチェ」
何番煎じのやり取りに、客は沸くことも無い。元々無かったものが消えても、変化は感じられることもない。ぱちぱちと気持ちばかりのやる気のない拍手が所々から聞こえてくるだけだ。本気で勝利に賞賛を贈る者なんて居ない。そんな光景に、これ以上俺が見るに値する価値なんて無いとすら思い始めている。
「……ヴィア、私達も、1つ賭けをしませんか?」
「……断りたいけれど、聞くだけ聞こうか。どんな内容だい?」
「あちらお二人、どちらが勝つか、私と賭けをしませんか?」
「やっぱり、聞いたボクが馬鹿だった。そんなことをして何が楽しいんだい」
「おや、楽しいじゃないですか。ヴィアが勝ったら、楽しいことを教えてあげてもいいですよ」
「……そんな楽しくない嘘はやめたらどうだい?どうせ何も無いんだろう?」
「あ、バレてしまいました?それでは賭けは無しですね。残念」
「白々しいんだよ」
「ふふ、それが私ですから」
「……あのぉ、お楽しみのところ悪いんですけどぉ、試合見てくださぁい。全く動いてないですよぉ」
試合を唯一ちゃんと見ていたらしいヴェメの言葉に引かれモニターに目を移す。そこにはリバーまで進み、ガラミユは崖の端の端。今にも崩れ落ちてしまいそうな盤面が広がっていた。詳細に言えば、ガラミユはクローバーのK、ハートのK、スペードのKでスリーカードが揃っている。一方ナーチェはクローバーの6とダイヤの6でただのワンペア。どう見てもガラミユが有利だ。けれど一生ものの不利となってしまっている。何故なら、チップはナーチェの方が有利だからだ。ナーチェがチップを使って無理矢理に圧をかければ、ガラミユは場に残るために同じ量をコールする必要がある。だが、それをすればもうオールインとなっしまう。そんな状況もこれが初めましてではない。先程から何度も起こっていた事件だ。その度にガラミユは勝負から無理矢理突き落とされている。
「……折角勝ってたのに勿体ないですね。ただの自業自得です。ここで出すのを渋ったところで、未来が変わるわけじゃない」
「なら、いっそ楽になっちゃった方が、将来はきっと明るいんでしょうねぇ」
「2人とも辞めてくれ。きっと、何か考えてるに決まってる!」
「へぇ、本当に?なら教えてくださいまし。ガラミユは何を考えているんですか?」
「そんなの知るわけ無いだろう。ここからじゃ心の声は聞こえない」
「そうですかそうですか。つまりヴィアの能力はガセということですね」
「どうしてそうなるんだい!?!?君は人の話を曲げるのが本当に得意なようだね!!」
随分と御立腹になって席まで立ってしまった。その手には風のトレビアが微かに纏っている。そんな目立った行動をすれば、周りからの注目の矢を飛ばされるのは手に取る程に分かりやすい。グサグサと刺されば、態度は自然としょぼしょぼと萎縮していく。ただしヴィアはその事例からは外れる人間だったらしい。
1つ舌打ちしたかと思えば、手すりを掴んで身を乗り出し、その目に彼を目に複写した。そしていっぱいに息を吸い込んだ。そして、
「ガラミユ!!負けたらもう二度と!友達なんて言ってやらないからなー!!」
リングに向かってそう叫んだ。これが現代の高校だったのならわーだのきゃーだの大盛り上がりだったろうが、ここは生憎そんな青春真っ盛りな青空空間では無い。だから、そんな発言をすれば矢には毒をたっぷりと塗りこまれる。けれど、ヴィアはそんなのもお構い無しといった風に清々しい顔をしている。
「……そこー。うるさくするのは禁止って言ったはずだけどー?」
ヒガンがこちらに向かってそう注意を飛ばしてくる。ヴィアはそのお叱りに対して1つ、貴族らしく優雅に会釈を返した。
これを受け取ってか試合がやっと動いたらしい。
「……オールイン」
ガラミユが手持ちのチップを全て前に差し出し、そう宣言をした。




