Overfeeding sweets is poison
「貴族ナーチェが混乱状態にあるため、一時休戦とする。再開は30分後だ。プレイヤーの2人はそれまでにはここに戻ってくるように」
ヒガンの宣言により、ただでさえガラガラのコロシアムは、人足がコツコツと音を鳴らし消えていったせいで、常時鳴いていた閑古鳥がさらにカァカァと鳴いてしまった。店ではなくとも、閑古鳥の鳴き声は聞こえてくる、なんて言いつつ耳には届くわけではない。
「休戦ですかぁ。ヴェメ達もぉ、どこか行きますかぁ?」
「そうだね。少し、ガラミユと話に行くとしよう。きっと混乱している」
「それはやめといた方がよろしいかと思われますよ」
席を立とうとしたヴィアを呼び止めれば、眉を顰められる。
「不安になるのは私にも分かります。ですが、これは彼の問題です。今、このタイミングで、外野がぴーひゃら騒ぎ立てるものではありません。私達に出来ることはもう致しました。あとなにをどうするかは、彼の選択すべきことです。そこにヒントなんて甘いお菓子を与えてはいけないかと、私は思いますよ。お菓子の食べ過ぎは体に毒ですからね」
にこやかに言いのければ、ヴィアは更に不機嫌を顔に描いていく。出来上がったお世辞にも可愛いなどとは言い難い苦悶な表情で暫し考え悩んでいたようだが、はぁ、と伸ばし棒が何本も付きそうな程の長い溜息が吐かれ、崩れ去っていった。
「悔しいけれど、君の言う通りかもしれないね。ボクが言えることは、全部言ったはずだ。手を握って、送り出せたはずだ。でも、今ガラミユが迷っているのなら、やっぱり助けてあげたい。……そう思うことは、罪だと思うかい?」
「罪だなんて、そんなスケールの大きな話では無いとマジレスをしたくなってしまいましたが、そうですね。私が言えることがあるのだとすれば……自分で考えろ、でしょうか」
ヴィアを指さしてそう言えば、はぁ?と彼に似た鈍い切れ味のある疑問符を飛ばされる。
「ふふ。だって、ミユちゃんも必死に悩んで、答えを出して抜け出そうとしている最中なんですから、貴女も同じように、悩んで結論を出さなくては。若者は悩んでこそですよ。大人になって短調になる前に、いむぱい悩んで、いっぱい道を切り開かないと」
「……なんだか、年寄りみたいなことを言うんだね」
「おばあちゃんみたいですねぇ。でもぉ、ヴェメはら、欺瞞様の言葉に賛成ですぅ。ヴィアちゃんはぁ、がらがらといーっぱい幸せにこにこになる為にもぉ、いーっぱいうーんと悩まなくちゃですよぉ?ヴイアちゃんの人生は、全然終わってないんですからぁ」
「人生?」
「こっちの話ですぅ」
姉妹と女の秘密の交わし事だろう。突っ込んでもいいことが無い話だ。
「……お菓子は毒と言ったのはそっちだろう。与えすぎじゃないか」
「そんなこと無いですよぉ。ヴィアちゃんはぁ、このくらい与えないとぉ、自分のこと過信評価しちゃうところありますからぁ。これはお菓子じゃなくてぇ、現実という鞭ですよぉ」
「だとしたら、随分スパルタな姉なことだね」
「ヴィアちゃんだけですよぉ。すくすく元気に育ってほしいですからねぇ。今ヴェメはぁ、鞭をぺちぺちしているんですよぉ」
スパルタには見えないのだが、心では鬼の鞭を振るっているのかもしれない、なんて妄想をしてしまったが、そんな真っ当なヴェメは想像が付かない。どう足掻いてもキャラ崩壊だ。甘いお菓子を口いっぱいヴィアに分けてあげている方が、ヴェメにはずっとお似合いだ。
「ふふ」
「ん?どうしたんだい?急に笑って」
「いえいえなんでもありませんわ。ただ、甘いお菓子が食べたくなってしまっただけです」
「おぉ、ヴェメもお腹ぐぅぐぅ空いてきましたぁ。何か食べにいきますかぁ?」
「いいですね。私マカロンが食べたいです。普段食べられませんので」
「それはいいが、そんな時間あるのかい?なんだかんだ話してるうちに、試合が再開してしまうかもしれないよ」
「だったらぁ、ここに持ち込めばいいんですよぉ。少しくらいなら大丈夫ですよぉ」
それが黒服の発言なのだろうか。俺の考えが間違っていなければ、黒服はFemalePalaceのスタッフのようなものだろう。
「……貴族がこんなところでお菓子を貪るだなんてはしたない。なんて、周りに思われてしまうかもしれませんよ?」
「むむ。確かにですねぇ。ヴェメは問題ありませんがぁ、欺瞞様とヴィアちゃ、真理様にとっては大問題ですねぇ。それじゃ、お菓子はがらがらが勝ってぇ、奴隷脱却おめでとどんどんぱふぱふパーティーの時にぃ、いーっぱい食べましょうかぁ。ヒガン様も呼んでぇ、共有スペース貸し切っちゃいましょ〜」
「そんなこと出来るのかい?」
「出来ますよぉ。だってぇ、公式戦終わったらぁ、皆帰っていきますからぁ。だからぁ、お菓子を美味しく食べられるようにぃ、ヴィアちゃんはいーっぱい、がらがらのことをぉ、考えてあげてくださいねぇ」
「……ん?あ、あぁ。でも、何をどう考えたらいいんだい?ボクは十分ガラミユを信頼している。不安になることだって無いし、勝つかどうかを乗り切るのは、彼の問題なんじゃないのかい?」
「もぉ。ヴィアちゃ、真理様ってば鈍感ですねぇ。それならぁ、最後のヒントですぅ。真理様はぁ、がらがらのこと、好きですかぁ?」
「は?」
「随分と楽しそうじゃないか」
ヴィアが疑問を顔に出した途端、後ろからそんな声が聞こえてくる。声の主は、以前パーティーの時に俺の腹を突き抜け、貫通させたNo.1だ。振り向けば、そこにはシュレントだけでなく、ヒガン以外のTOP4、セランカとペールトも一緒に居る。
「あらあら皆様お揃いで。TOP4が何用でしょうか」
2人を庇うように前に立ちそう問いかける。すると、セランカが口を開いてくる。
「お久しぶりでございます、欺瞞様。あぁ、真理様も、お目覚めになったようで何よりで御座います。非常に嬉しい限りですね」
「白々しい言葉をどうも有難う。それで?なんで来たんだい?」
「ガラミユ様についてお聞きしたいことがあるんです。お2人は、ガラミユ様と仲がよろしいという情報が入っておりますので」
「……誰から聞いたのか、とおききしたいのですが、そんなことより、貴女方の話を先に聞きましょう。私達にお聞きしたいこととは?」
「では単刀直入に聞いてしまうのです。……奴隷ガラミユがイカサマしているんなら、さっさと言った方がいいのです。我々TOP4は、公式戦公平性を保たなくてはいけないのです。よって、イカサマは誰であろうと許されないのです」
ペールトは目を細め、にこやかにそう言ってくれる。
「はぁ?イカサマ?彼がそんなことをするはずが無いだろう。可能性があるなら、相手の貴族の方だ!」
「おやおやまぁまぁうふふふふ。そんな感情任せに決めてしまってはいけませんよ。いえ、それも素敵なことではございますが、私が聞きたいのは、貴女の感情等という換金にも値しない物ではなく、結論、答えを求めているのです」
セランカの圧に耐えきれないとばかりに椅子から崩れ落ちれば、そんなヴィアを逃がすまいと背もたれに手をつき逃げ場を塞ぐ。
「セランカちゃーん。流石にやりすぎなのですー。って、ん?」
「……あ、な、なんでしょうかぁ?」
「むむむむむ〜?その喋り方に、そのウェーブのかかった髪色っ!貴女、黒服のヴェメちゃんなのではありませんか?」
声が出ない程言葉を失い驚いているヴェメ。そんなヴェメに追い討ちをかけるように、手足を木の幹で拘束する。止めに入ろうとすれば、後ろから肩に手を置かれる。
「なぁ、余所見すんなよなぁ。あいつらは楽しんでんだ。俺様にも楽しませろよ」
「……楽しませるとは、何を?」
「TOP4が会員を使って楽しむことなんて、1つしかないだろぉ?俺様に、お前の秘密を教えてみろよ」
「はぁ?」
なんで、俺がそんなことを教えなくちゃいけないんだ。大体、そんなものをして何が楽しいんだ。いや、楽しいんだ。相手の弱みを握れば、相手を手中に丸め込める。げらげらと汚い唾を飛ばしながら、みっともなく下位の自分の更に下位の人間を踏みつけるんだ。その快感は、俺だって味わったことがある。
「俺様が思うに、お前は何か、特別大きなもんを隠し持ってそうだよなぁ……。なぁ、教えろよ。でないと今度は、穴開けるどころじゃ済まねぇぞ」
「…………」
どうするのが正解だろうか。いっそ、獲物が喜びそうな人工の餌でも撒いてにげてしまおうか。後々のことはいつかの自分がなんとかしてくれる。大丈夫、だって俺なんだから。今は、今を切り抜けられればなんだっていい。こんな奴らと話せば、どこから何を盗られるか分かったものでは無い。
「自分の居ない場所で、随分好き勝手やってるみたいじゃん」
口を開きかけた時、俺にとって、今世界一よく通る声が耳を突き抜ける。全員の視線が、その人物に注がれる。
「TOP4が寄ってたかって、会員イジメ?随分と楽しそうだね」
「ヒガンじゃねぇか。どうしたんだ?そろそろ試合再開だろ?こんなとこに油売りに来ていいのかぁ?」
「別に。何も問題無い。それより、3人はなんでここにいんの。早く席に戻りなよ」
「……そうですね。そろそろ戻らなくては、試合がすぐに始まってしまいますね。行きましょうか。シュレント様、ペールト様」
「チッ。次会ったら絶対身ぐるみはいでやるからな。覚悟してろよ」
「またお会いするのですー!ばいばいなのでーす!」
セランカの言葉で、恐怖のだる絡みをしてきた2人を剥がし、見事帰らせてくれた。彼女にも色々と思うことはあるが、今はセランカに感謝しよう。
「ごめん。ちょっとガラミユと話してて、対応が遅れた。3人とも、大丈夫だった?」
「……私は問題ありません。お2人は?」
「ボクは大丈夫だ。変な洗脳にもかけられていないはずだ」
「ヴェメも大丈夫ですぅ。どこも怪我していませぇん」
「そう。なら良かった。んじゃ、自分もそろそろ行くね」
「あ、待ってくれ!」
去ろうとしたヒガンを呼び止めたのはヴィアだ。手を伸ばし、ヒガンの瞳から映るヴィアは、随分と不安気だ。
「試合前というのは分かってる。だが、1つ聞かせてくれ」
「はぁ。1つだけね」
「……ガラミユは、大丈夫だろうか」
「……知らない。自分には、心を読める力なんて無いから。あんたは、とっくに知ってんじゃない?読心の真理」
背中を見せ、手を軽く振りながら行ってしまった。よくあるかっこいい去り方が似合っていらっしゃることだ。
「ボクなら、知っている……?」
好きなんて聞かれたって分からない。ボクはヴェメが好きだ。ガラミユが好きだ。一緒じゃないか




