Pre-game nutrition
騙すなら最後まで騙しきれ、決して化けの皮を剥がしてはならない
惑わすならば惑わされるな、丸め込まれる馬鹿になってはいけない
自分の心すら殺せ、そんなもの俺の人生に邪魔だ。同情の模造品であり続けろ
「うーん。1階には居なさそうっすね……」
少し休憩しようと、共有スペースの角にあるお洒落なくつろぎスペースに設置されている1人用のソファにドレスを気遣いつつも腰をかける。
先程まで1階を練り歩き、色んなところを見て周っていたが、どこにもヒガンは居なかった。公式戦が始まってしまったら、少しの間でも、暫く話せなくなってしまうだろう。だから、始まる前に捕まえておきたいと思ったのだが、どこにも居ない。そのまま連れ帰らないでちゃんとリリースするから出てきて欲しい。
(うーん。とは言っても、他に居そうな場所なんて部屋くらいしか……。ん?)
そうだ。まだ地下6階には行っていない。FemalePalace内でヒガンの行きそうな場所だなんて知らない。そもそもFemalePalaceを出歩くのだろうか。いや、全く想像が付かない。こんなにあちこち探し回っていないのだったら、部屋で俺を待ってくれているとしか思えない。そうと思えば、足はるんるんで6階へと向かっていった。
6階にあるヒガンの部屋の扉をノックして声をかければ、中から入ってきていい旨の返事が聞こえてくる。その承諾を受け取り、意気揚々と扉を開ける。
「ヒガン、お疲れ様っす。緊張とかしてねぇっすか?」
「してない。ライが来てくれるかどうか分からない方が緊張した。でも、来てくれたから、もうしてない」
「……なんすかそれ」
ふふ、と軽く笑って抱きしめられる。女の格好をしているせいで、周りからは綺麗な百合と見られるだろう。だがその違いは当人達にはよく分かる。俺達の百合なんて、とても華やかな造花だ。
お互い満足すれば自然と抱擁は解かれ、ベッドに横並びで座った。
「公式戦の方は順調なんすか?」
「うん。ギャラリーも少ないし、準備ももう終わってる。けど、懸念点があるとしたら、ガラミユかな」
「ミユちゃん?何でまた……。精神面とかっすか?」
「いや、自分が心配しているのはそういうのじゃなくて、公式戦が終わった後のガラミユが心配」
「公式戦の後?奴隷脱却してからってことっすよね?確かにどうなるんすか?多分、素直に解放ってわけにもいきやせんよね?」
「そうだろうね。まぁ、自分は奴隷脱却が成功した例を見た事が無いから分からないけど、多分、また誰かの奴隷になるか、貧民街に追放されるかだと思う。どのみち、自由なんて用意はされないと思う。公式戦の報酬はあくまで奴隷脱却だけで、その後は関与しないから。どこにどう捨てられようが勝手にしろってこと」
嫌な話だ。希望が見えたと思えば、今度はまた違う絶望に落とされる。やっぱり、この世界で男が自由に生きられる場所なんて無いのだろうか。
「嫌な世の中っすねぇ。ま、仕方ねぇことではありやすか。けどまぁ、貧民街にくるなら、うちで世話できるんで、そうなったらまだ救いようはありやすね」
ガラミユが望めば、だが。彼の性格上、もしかしたら変な要求をされてしまうかもしれない。
「まぁ、ガラミユのことは真理に任せれば問題は無いと思うけどね」
「……まぁ、それはそうっすね。それじゃ、ヒガンも問題無いなら、俺はもう行きやすね」
「え」
ベッドから立ち上がると、後ろからそんな寂しそうな声が聞こえる。これから公式戦となり、俺は邪魔だと思ってさっさと撤退しようと思っていたのだが、そんなの関係なしに振り返って抱きしめたくなる。
「その、ライ。公式戦、始まるまでもうちょっと時間あるし、まだ、一緒に居たい、な〜って……」
「うーん。もう一声欲しいっすかね〜」
「え、あ、寂しいから、一緒に、居てくれる?」
上目遣いでドレスをきゅっと掴まれそう言われれば、大抵の男なら初々しさと可愛さでころっと落ちてしまうだろう。俺も例外ではない。だけど、それを態度にはしたくない。
「うーん。まぁ?No.4のヒガン様のお願いとあらばぁ?聞いてあげねぇこともねぇっすよ」
「本当に?」
「なんでこんなことで嘘つかなくちゃいけねぇんすか。ヒガンが望むなら、ずーっと居てもいいっすよ」
「それはちょっと重いからやだ」
「えー」
顔を見合わせれば、ふふ、と笑いが込み上げてきて、2人で大笑いしてしまう。ここがFemalePalaceなんていう淑女の地獄の園だろうと、最低限好きだと思えた人となら、常人並に幸せだと思える。
「そういやヒガン」
「何?」
「今回、TOP4は来てるんすか?」
「来てるよ。トップ4は、パーティーだろうと公式戦だろうと、絶対来なくちゃいけないからね。勿論トレディも居るよ。まぁ、今回は仕切り諸々自分がやらなくちゃだから、出番は無いだろうけど」
「なるほど。んじゃヒガンにも聞いときたいことがあるんすけど、ビーテア・ラチェアナヴィって女の子知っていやすか?」
俺がその名前を出した瞬間、ヒガンは鋭く俺を睨みつけてくる。触れたらまずい話題だったろうか。
「……ライ、その名前、どこで知ったの?」
「ミネビアに教えてもらったんすよ。友達だって」
「ミネビア?確か前にも聞いた気がする」
「栗毛を三つ編みにしていて、眼鏡かけてる子っすよ。知りやせんか?」
「……あぁ、究明ね。友達というか、利用されてるだけな気がするけど。あいつが友達なんて作ると思えないし。でも、なんでビーテアについて知りたいの?」
「多分、俺の血の繋がっている姉で、ずっと探している人なんすよ。だから、何か知っていることがあるなら、教えてくれねぇっすか?」
ヒガンは少し迷いを見せたが、すぐに口を開いてくれた。
「女神接待役で、ビーテアの傍にずっといつつも、会員達と定期的に交流をしていた。自分も、ビーテアと何回か一緒にお茶を飲んだことがある。ビーテアはNo.持ちでは無かったけど、貴族たちからひどく好かれていた。だけど、正直言って、自分はあんまり好きじゃなかった。なんか、面の皮が厚いっていうか、何考えているかよく分かんない人だった。セラは会員達の中にビーテアが居るとか思ってるらしいけど、正直、それが本当なのかもよく分かんない。行方不明になってからもビーテアの名前は聞くし、今も信仰心がある人は居ると思う。けど、本当に何がしたいのか、どんな人なのかも、結局分からなかった。少なくとも、自分は苦手」
「へぇ。要するに、頭のネジぶっ飛んでそうってことっすね」
「それ、実の姉かもしれない人に対して言うセリフ?」
「言いたいことも分かりやすけど、大分前に別れっきりの状態のまんまだし、もしかしたらそうなってるかもしれねぇって話っすよ。最悪のことは常に考えてたねぇとじゃねぇっすか」
「へぇ……」
若干引かれ気味な顔で見つめられる。確かに、自分の姉弟とあれば、健やかに健全に育っていてほしいとは思うが、道はいつどこで踏み外して轢かれてしまうのか分からない。それは俺自身が1番よく分かっている。誰だって、その可能性は秘めてしまっている。
部屋の時計を見れば、もうそろそろ開場時間になってきている。
「さて、そろそろ時間っすね。ヒガン、行きやしょうか。今後どうなるかは置いといて、ミユちゃんの勇姿を見届けるのを、手伝ってくだせぇよ」
「……そうだね。行こうか」
今回の主役は俺ではなく彼だ。1歩引くのなら、それを見届けるくらいの義務は持っていると言い張りたい。
ライくんは本命が絡むと途端にバカになります。それ以外の女はそれなりにいい男ムーヴで扱えるのに
それと1月から私用でちょっとバタバタするので投稿期間開いちゃう可能性あります。お許しを〜
あと皆様よいお年を〜。来年も甘語をどうぞご贔屓に〜




