Poker is a serious
騙すなら最後まで騙しきれ、決して化けの皮を剥がしてはならない
惑わすならば惑わされるな、丸め込まれる馬鹿になってはいけない
自分の心すら殺せ、そんなもの俺の人生に邪魔だ。同情の模造品であり続けろ
「ペット……。ここだね」
ヴィアは立て札を確認し、そう言ってドアノブを捻り開けた。扉の向こうの必要最低限の質素な部屋では、ガラミユが角で蹲っていた。
「え、ミユちゃん?何してるんすか?そんなとこで」
「震えてんだよ……。お前らには一生分からないだろうな。主人にボコボコに打ちのめされる気持ちがよぉ……」
「別にボコボコに打ちのめされると確定したわけじゃないのだけれど。それどころか、君は勝つ気でいるつもりだろう?」
「はぁ?そんなことないし。大体!俺なんかが勝ったら、ヴィアや、ヴェメにだって、きっと迷惑がかかる。俺を庇ってたことだって、きっとすぐバレるに決まってるし!それでもいいわけ?」
大切な人を見つめる彼の顔は今にも泣きそうな程臆病に心配をしていた。だが対するヴィアは揺れることなく清々しい程に真っ直ぐな瞳をしていた。
「あぁ、構わないよ。ボクは君にかけられる迷惑なら快く歓迎するさ」
ヴィアの発言に信じられないとドン引くが、それは俺だけではなく、ガラミユもそうだったらしい。
「え、ヴィア!そんなこと言っちゃダメだ!俺が悪かった。迷惑だなんてかけたくないし、これからかけることも無いから!」
「……え、あぁ。じょ、冗談だ!いや、まさかそこまで必死に言われるとは……」
ヴィアは嘘が下手だ。本気で迷惑を歓迎すると思っている節がある。そしてこの微妙な空気はいたたまれない。
「はぁ。全く、2人とも素直なのかそうじゃねぇのか、よく分かりやせんね」
「素直じゃないのはガラミユだけだろう?」
「はぁ!?」
ガラミユの怒声が響き渡ったところで、彼への心配はもう無用だろう。こういう時は、これ以上の余計なお世話はかけない方が本人にとって都合がいいもんだ。
「てか、1番最初にミユちゃん助けたのって俺っすよね?なんか言うこと無いんすか?」
「…………。あ?」
大分長い沈黙の末に言われたことはノンデリが過ぎるキレ芸だった。なんでこの世界の野郎共は素直にありがとうの5文字すら言えないんだ。教育が足りてないと言ったらこの世界では不謹慎と言われしまいかねないから心に留めておくだけにする。
「……はぁ。もういいっす。素直に感謝を求めた俺が馬鹿だったっすね」
「はぁ!?んだそれ!」
「わけが分からなくて腹が立つなら、素直にありがとう、くらい言ってくれていいんすよ?」
ガラミユは俺の言葉に頭を抱えうんうんと唸り、眉間に皺を寄せている。
「なんかむかつくからぜーったいやだ!」
「ちぇー。本当に素直じゃねぇっすね。ヴィアもそう思いやせんか?」
「ここまで怒鳴り散らかすほど素直じゃないのは、君に対してだけじゃないかい?ボクと話す時は案外色々話してくれるけれど」
「えぇ?」
ヴィアの話が随分と信じられない。でも、少し考えれば妥当だろうか。ガラミユは随分とヴィアに感謝の意を示しているように感じる。捻くれはしているけど。
「おい、なんかお前嫌なこと考えてるだろ」
「考えてねぇっすよ。どうしたんすか、急に。読心の能力を持つヴィアの影響でも受けたんすか?」
「そんなんじゃないし!ただ、いやぁなにちょにちょ気持ち悪い顔してたから気になっただけだよ!」
と言って思いっきりグーの拳で殴られるが、軌道が分かりやすいお陰でくつくつと笑いながらでもひらりと避けれてしまった。
「くく、にちょにちょって……。なんかおもろいっすね」
「避けるな!そして笑うな!」
「まぁまぁ、いいじゃねぇっすか。お陰で緊張もほぐれてきたんじゃねぇっすか?」
「あ?そ、そんなことは、な、なくは無いけど?」
「頑なに認めたくねぇんすね」
「うっさい。ライのせいで緊張がほぐれただなんて思いたくない!」
ふん!と分かりやすい童心でそっぽを向かれてしまう。相変わらず分かりやすいツンデレなことだ。
「そうっすか。ま、リラックス出来たなら大丈夫っすかね。てなことで、イカサマのプロから最後に1つ助言を差し上げようと思いやしてね」
「はぁ?助言?別に要らないけど」
「あまり余計なこと教えないでくれよ」
この場にいる全員の2人から有難い冷ややかな視線を向けられる。言い方が悪かったとはいえ信用は底辺の底の底に埋められているらしい。
「ひでぇっすね。ただ……勝つことを恐れるな、って言いたかっただけっすよ」
「はぁ?」
「いいっすか?どんなに怖くなっても相手が罵ってきても殴ってきても周りから何を投げられても仲間に情があっても!」
そう言いながらガラミユに迫り壁に押し付け、逃げる気も無いだろうがこういうのは壁に手をつけるものだろう。
「賭けてでも勝てる一手を手に入れたんなら、絶対に勝ってくだせぇよ。勝ちをフォールドするプレイヤーに価値なんてねぇっすよ。そんなつもりなら、最初から台に乗らねぇでくだせぇ。……賄賂とかコネとか、1番萎える卓っすよ」
随分なドアップから解放してやれば、ひょろひょろにへたりこんでしまった。
「……ライは、俺に何を期待しているんだ。やるからには、少しは勝つ気ではいる。でも、そんな強い一手なんて」
「来るから言ってんじゃねぇっすか。あ、そんなに不安なら、ウォーミングアップでもしやすか?丁度信頼出来るディーラーもいやすから、イカサマの心配とかもねぇっすよね?」
と言ってヴィアの方に視線を向ける。
「え?ボク?」
「他に誰が居るんすか。これ以上無いほど信用出来るディーラーいやせんよ〜?」
「その言葉はとても有難いけれど、生憎ボクにディーラー経験なんて無いのだけれど?」
「トランプシャッフルして適当に5枚ずつ配るだけでいいんすよ。チップも無い形だけのドローポーカーなんすから」
「……はぁ、分かったよ。それで?トランプはあるのかい?」
「そこら辺に置いてあった気がする。確か……。あ、あったあった」
ガラミユが控え室のテーブルに置いていたトランプを取り、こちらに持ってきて、そのまま椅子に座った。俺も向かいの椅子に座る。
「これでいい?」
「……それ、裏面に小さく数字あったり、変な折り目付いたりしてねぇっすよね?」
「してないよ!……多分」
「その多分が不安っすけど、まぁどうせそれしかねぇだろうしそのトランプでいいっすよ。やりやしょうか。ヴィア、頼みやしたよ」
「はぁ。分かったよ、仕方ないな」
ヴィアは少し嫌そうにしながらも、トランプをシャッフルしてくれる。それを5枚ずつ、俺とガラミユの方に投げてくれる。
「はい。手札見てくれ」
配られた5枚を確認すれば、クローバーのA、ハートのJ、クローバーの4、スペードのJ、スペードの6。ワンペアだ。数字といいスートといいなんとも言い難いほど微妙だ。まぁ、この状態だと、捨てるのはクローバーズとスペードの6の3枚だろうか。だけど、Jのワンペア、Jのワンペア……。
「何か宣言はあるかい?」
「2枚ドロー」
「4枚ドロー」
俺が2でガラミユが4。随分と踏み切ったものだ。彼は今までに見た事ないほど真面目な顔をしており、よっぽど真剣なことが分かる。
「えっと、2と4……。はい、配ったよ。確認してくれ」
慣れない手つきで再びシャッフルし、カードを配る。それを受け取り確認する。
「……へぇ。どうっすかミユちゃん、勝てそうっすか?」
「話しかけてくんな。数字なんて教えないぞ」
「別に聞いてねぇっすよ」
「さて、2人とも準備はいいかい?」
「俺はいつでも大丈夫っすよ」
「俺も、大丈夫」
俺達の同意を受け入れ、ヴィアが高々と声を上げる。
「それじゃいくよ。ショウダウン!」
ヴィアの言葉で、一斉にカードをオープンする。結果は、俺がクローバーのA、ハートのJ、スペードのJ、スペードのA、ダイヤのJでフルハウス。ガラミユがダイヤの7、スペードの7、ハートの7、クローバーの7、スペードのQでフォーオブアカインド。俺の負けだ。
「あちゃー。負けちまいやしたか。にしても、一気に4枚ドローでよくフォーカードなんて作れやしたね」
「自分でもびっくりした……。Q以外は全部数字も小さいし役も揃ってなかったから、ワンペアでもと思って棄てたんだけど……」
「それがまさかフォーカードになって帰ってくるなんて、そのクイーンは勝利の女神様っすね」
「勝利の女神……」
なんて復唱しながら、ガラミユはちらりとヴィアの方を見た。だが思ったよりガン見になっており、見られた本人に当然気付かれた。
「ん?どうかしたかい?」
「え、いや!なんでも、ない……」
なんてあわあわと縮こまった返事を返し、顔を伏せてしまう。どんな世界でも、年頃の男女はすーぐ甘酸っぱい恋愛をしたがる。
「はぁ。これだから若者は困るんすよ」
席を立ち、2人を置いて入口へと向かう。これ以上俺はお邪魔だ。
「え、ライ、何処行くんだよ」
「適当に時間潰してくるだけっす。また後で会いやしょうね」
飄々とした笑みでそう言ってバタンと扉を閉じ、ある人を探しに行く。
そういえば、ヴィアは心が読めるのだから、ガラミユの思いも分かるのではないだろうか。
そういえば、あと2日で今年が終わりますね。この世界にも一応年末年始はありますが、ハッピーニューイヤーなんてハッピーな祭りごとは貴族達の性格的に多分ない。年なんて気づいたら明けている。でもおしゃんなレストランでワインカチンって言わせながら会食とかはしてそう。貧民街は皆でバカ騒ぎしてます




