Last day of holiday
嘘で全てを欺き、秘密を隠し通す
これまでもこれからも、俺の人生は変わらない
目的の為なら、這ってでもしぶとく生きてやる
俺だって普通に生きられると、証明してやる
なんだ、これ。
「いやぁ、それほどでも〜。大したことないって〜」
「そんなことないよ!めっちゃめちゃに凄いことだと思う!」
あの後、応接室を出た俺は、ジレミを回収すべく、とりあえず誰かしら居るであろう食堂に立ち寄った。そこには、今も尚、ハロンがジレミの武勇伝をひたすらに、それはもうめっちゃめちゃに褒めまくっていた。そういえば、こいつ黙っていれば顔は良いし、強いし、コミュ強の陽キャチートだった。思わず言葉を失い、かける言葉も見失う。同じことを2回言うくらいには色々と信じられない。ピロナの形ばかりの敬語も完全に取れているし、この短時間でどれほどの距離を縮めたんだ。まさか俺がこんなことで負けた気になるなんて。もう色んなことに失望して死にたくなる気持ちを抑え、溜息にして吐き出す。
「ん?お、ライじゃん。そんなとこで何してんの?」
「……精神統一、っすかねぇ」
「へぇ。ミナヒさんから教わったの?」
「別にぃ?それより楽しそうっすねぇ。随分と仲良くなったみてぇで何よりっす」
「ふっふっふ。まぁね!ねぇ、ピロナちゃん!」
「あ、お鍋見てこないとー」
体を寄せてくるジレミを華麗にスルーし、そんな棒読みで厨房の方へとさっさと駆けていってしまった。名残惜しく手を伸ばすジレミに、先程の敗北感がすーっと消え、安心感が募っていく。
「ジレミィ、初対面の女の子にそんな一気に距離詰めちゃダメっすよ〜」
「えー、いけると思ったのに……」
「いって何をするんすか」
「そりゃ、その、あんなことやそんなこと、あれこれそれあれを色々……へへ、うへへ……」
前々からうっすらと思ってはいたが、こいつはやっぱり並の高校生くらいには気持ち悪い。まぁ、以前16と言っていたから、今は17か18くらいだろう。妥当といえば妥当で俺としてはとても落ち着くが、この世界では赤信号を渡るに等しい行為だ。だが、こいつの歩く車道には、車は通らないのだろう。
「はぁ。俺はもう帰るっすけど、ジレミはどうしやすか?」
「え!?帰るの?」
「ミナヒからの言いつけっすよ」
「え、羨ま……」
「ピロナにメロメロしてたんじゃないんすか?」
「ピロナちゃんは一緒に遊ぶ女友達。ミナヒお姉様は俺のお姉様。そして2人とも俺の本命」
「ちげぇっすよ」
義理だけどミナヒは俺の姉だ。それに2人も本命とは浮気じゃないか。俺が言えたことでは無いが、イラッときて思わず脛を軽く蹴ってしまった。
「あたっ。何すんだよ」
「いや、ちょっとお前最低過ぎるなって」
「ガチトーンで言わないでよ傷つくよ!!てか、ミナヒさんからの言いつけって言ってたけど、まだ明るいし、流石に過保護過ぎない?」
もう帰るということについてだろう。確かに俺もそう思うが、夜に変な寒気を感じるのもまた事実だ。何かあってからは遅いと、夜の外出は控えている。
「まぁ?やっぱ俺を欲しいと思うレディって沢山いるんすよね。ミナヒは俺が誰かに連れていかれるのを案じているんすよ。は〜!モテるって辛いっすね〜!」
「はぁ?自慢ですかぁ?ウッザ!!」
「やっぱぁ、お子ちゃまと大人の俺じゃ違ぇってことっすよ」
「むかぁ!その高く伸びた鼻いつかへし折ってやる!」
「出来るといいっすねぇ。まぁ、この世界じゃきちぃと思うっすけど」
「はぁ?舐めんなよ!俺にはスーパーハイパークリティカルチートがあるんだからよ!!」
腹立たしくメラメラと闘志を燃やすジレミを見ていると、やっぱり、俺と感性が似すぎていると思う。テンションといいチートといい、とても転生者くさいとずっと思っている。だから、ジレミと話すのは嫌いでは無い。
「ネーミングだせぇっすねぇ」
「何だって!なら試す?」
「ぜってぇ嫌っす」
「ちぇー。本気の一騎打ちとか楽しそうだと思ったんだけどなー」
「辞めてくだせぇ……」
俺じゃないけど今度やるんだから。
「ジレミー。ご飯食べていくー?」
厨房の方から顔を覗かせ、ピロナがそう声をかけてくる。その声に、ジレミはぱぁと顔を輝かせ、ピロナの方に寄っていく。
「ピロナちゃん!何処行ってたの?凄く寂しくて今にも泣き出しそうで堪らなかったんだよー!」
「そうなんだー」
と言いながら、触られる前に何か薬瓶をジレミに投げつけた。それはジレミの体に接触すると、破裂し中身が飛び出した。だが、ガラス片になることは無く、割れた瞬間に消えていった。魔法具とは便利なものだ。当てられたジレミは綺麗に顔面から突撃し、地面に倒れてしまった。
「え?何ぶちまけたんすか?」
「馬鹿を治す薬」
えぇ?
「私が調合したものなんですよ。天才って崇めていいですよ!」
「え、どうしたんすか。ジレミに当てられたんすか?」
「え、なんか今日ライ様冷たーい!ってそうじゃなくて!ご飯ご一緒に如何ですか?」
「あー、悪ぃんすけど、俺はもう帰るっす。この馬鹿だけ面倒見てくれやすか」
そう言って地面とキスしているジレミの方を指さす。
「そうですか。残念ですが、仕方がありませんね。この馬鹿だけ預かっておきます」
「そうっすね。この馬鹿だけお願いしやす」
「ちょ、バカバカうるさいよ!!」
ぴょんと跳ね上がり、起き上がったかと思えば、そう大声を上げてくる。
「おはようごぜぇやす。あとジレミ。俺はもう帰るっすから、ローブと通行認定証だけ渡しとくんで、これ使って貧民街に帰ってきてくだせぇ。門通る時、門番には認定証だけ見せりゃ良いっすから。下手に喋らねぇでくだせぇよ」
「あぁ、うん。え、本当に帰んの?一緒に食べてきゃいいのに」
「また近いうちに富裕層に行きやすから、その準備もしないとなんすよ」
「え、マジ?んじゃまた俺も連れて」
「ぜってぇ嫌っす」
抱きつかれる前にそう拒絶する。
「そいじゃ、そゆことなんで、後はよろしくお願いしやすね〜」
そう言ってさっさとミネビアの館をあとにした。
今日は女装していないからローブを纏い、体を覆い隠す。ローブ越しで見る貴族通りは、随分と眩しかった。
「ただいま〜」
帰属通りを抜け、富裕層を抜け、貧民街の自分の家へと帰ってきた。ローブとコートを片付け、リビングのソファに座り、招待状の中身を確認する。封筒を開けると、そこには2枚の紙が入っていた。1枚は招待状、もう1枚は通知設定と書かれた手紙だった。通知設定というのは、今後公式戦の招待を受けるかどうかのものであった。どうやら、公式戦は強制参加では無いらしい。だが、当然パーティーは強制参加だ。招待状も毎回ミネビアの館に届く。そしてもう1枚は公式戦への招待状だ。つらつらと今回の招待状についての詳細と、日時が書かれている。だが、そこに問題があった。
「これ、明日じゃねぇっすか」
近いうちどころでは無かった。さっさと準備して早く寝ないといけないではないか。
「はぁ。淑女も大変っすねぇ……」




