The smell of home
嘘で全てを欺き、秘密を隠し通す
これまでもこれからも、俺の人生は変わらない
目的の為なら、這ってでもしぶとく生きてやる
俺だって普通に生きられると、証明してやる
翌日、いつもより少しだけ朝早く起き、身支度を整える。いつも通りの綺麗で可愛い欺瞞に仕上げ、今日で最後となる部屋を出ていく。
部屋を出れば、黒服や貴族達が慌ただしく階段に集まっていた。
「皆さん順番に1階へと上がってください!慌てないで!落ち着いて!」
どうやらヒガンの言った通り、今日で本当に解放されるらしい。あぁ、それでさっさと出たい貴族達が、自分が自分がと押しながら雪崩込んでいっているのか。俺もさっさと出たい気持ちはあるが、もう少し人の波が落ち着いてからの方がいいだろう。そう思う頃には、もう大半は上に上がったのか、大分人が少なくなってきている。今なら人に揉まれることなく行けるだろう。
そのまま階段を上がれば、1階へと着く。そこで、昨日喋り損ねたある人を探す。ここに居なければ、5階まで戻る羽目になる。頼む、いてくれと願っていれば、向こうから自ずと現れてくる。まぁ、ただの偶然なのだけれど。
「らいらい居ましたぁ。探しましたよぉ」
間抜けたぼんやり声が聞こえたと思い振り返ると、そこには探していた人物が居た。ヴィアとついでのヴェメだ。
「ちょ、ここでは欺瞞と呼んでくださいな。人が多すぎます。まぁ、何にせよ、探してたのはこちらもです。話したいこともありますし、1度外に出ましょう」
「あー、ヴェメは今回は出れないですぅ。ヒガン様が公式戦を開くみたいなのでぇ、そのお手伝いですぅ。なのでぇ、申し訳ないんですけどぉ、ら、欺瞞様とがらがらにお任せしてぇ……って、がらがら一緒じゃないんですかぁ?」
「あー、そのことなんですけど……」
ガラミユに頼まれていた伝言と、公式戦開催の経緯を2人に伝える。聞けば、彼女らの顔は険しくなっていった。特にヴィアだ。ただでさえ俺への警戒が拭えていなかったのであろう状態で警戒を増やせば、当然目つきは鋭くなる。
「君、自分が何したか分かっているのかい?ガラミユに協力して欲しいと言われてはいるけど、ボク個人の考えを言うならお断りだ」
「まぁまぁヴィアちゃんそう言わないでくださぁい。らい、欺瞞様はいい人ですよぉ?」
「姉さんは誰だっていい人って言うでしょ」
「そんなことないですよぉ。悪い人と良い人の判断くらい出来ますぅ」
「姉妹喧嘩はそこまでにしてください。いいからさっさと行きますよ。私は帰りたいんです。あとヴィアは一緒に来てください」
ヒートアップしそうな2人の間に割って入り仲裁する。無理矢理まとめ、ヴィアの法に手を差し伸べるが、その手は案の定というか、予想通り弾かれる。
「誰が君のような素性もしれない、心も読めないような奴となんか一緒に行くんだい」
「ヴィアちゃん、そのぱしぃは駄目ですぅ。いいから欺瞞様についていってくださぁい」
「……はぁ、分かったよ。それじゃ姉さんまたね」
「はぁい。またお会いしましょうねぇ」
姉の助言もあり、なんとかFemalePalaceを抜けることが出来、ストーンエブリシェへと上がってこれた。そこで、受付に立っている女性に話しかけられた。
「欺瞞様、お待ちください」
「はい、なんでしょうか」
外に出ようとしたところを呼び止められ、出口へと向けていた足を、受付の方へと伸ばす。
「欺瞞様は今回のパーティーをもちまして、正式の会員となりました。ですので、今後招待状を送る際の住所をこちらにお書きください」
「へぇ、そういうのって、ストーンエブリシェ側がやるんですね」
住所か。貧民街の住所は書くわけにはいかないし、本人の前でヴィアの住所を書くわけにもいかないだろう。好感度マイナスの今そんなことをしては後々が怖い。となると、1番安牌なところはあそこだろうか。多分話せば4分の3は理解してくれる。残りの1は苦労するかもしれないが。
「書けました。こちらでお願いします」
「はい……。畏まりました。こちらの住所に招待状はお送りさせて頂きます」
一瞬何か疑いを孕んだような顔をされた為、何か言われるかと思ったが、そんなこともなくあっさりと受理された。
「ありがとうございます。では私達はこれで。行きましょう、ヴィア」
「あぁ。では、失礼します」
ストーンエブリシェから出れば、陽の光と、生の風が吹き抜けていく。ずっと中に居たせいで久々の外だ。それが気持ち良くて思わずぐーっと伸びをしてしまう。
「あー、外の空気が体に染みるー。さいこー。んじゃ、行きましょうか」
「行くって、どこにだい?」
「えー?」
誰にも聞こえないようヴィアの耳に顔を近づかせる。
「貧民街」
「はぁ?」
納得がいってなさそうなヒガンの手を引き、無理矢理富裕層を出ていく。ヒガンが通交許可証を持っていなかったため、通れるか少し心配だったが、門番の警備が相変わらず緩かったお陰で、難なく2人まとめて通ることが出来た。よってこの先貧民街だ。
「あー!やっと帰ってこれたっすー!落ち着く〜」
貧民街に入り、1つ深呼吸をすれば、懐かしい空気が体中を巡っていく。本当に帰ってこれたんだ。
「ここが、貧民街なのかい?」
「そうっすよ。てかこんな格好じゃ、余計な輩に目ぇつけられそうっすね。さっさと移動しやしょうか」
「余計な輩?」
「そ。ここは富裕層みたいに、皆がお利口でうふふおほほな人じゃねぇんすよ。皆貧しいから、誰かから奪うことでしか生きれない奴らも多いっす」
「へぇ、当たり前といえばそうなんだろうけど、随分富裕層と違うんだね」
「そうっすねぇ」
なんてたわいもない雑談をぽつぽつと交わしながらも、事務所へと進んでいく。幸いなことに、彼女があまり牙を剥いてこないお陰で、難なく進むことが出来た。
そして辿り着いたのが、俺が所属している探偵事務所だ。
「ここは?」
「俺の探偵モドキの事務所っすよ。取り敢えず付いてきてくだせぇ」
ヴィアを連れて、建物の2階へと上がっていく。扉を開け、ヴィアに中に入るよう促す。
「悪ぃっすけど、今から俺は報告に行くんで、ここで待っててもらっていいっすか?あーでも、もし退屈すぎて死にそうになりやしたら、1階にでも行ってみてくだせぇ。多分良い話し相手が居るんで」
「あぁ、分かった」
「……へぇ。大人しく言う事聞いてくれるんすね」
「なんだいその言い方。姉さんとガラミユに言われてるから仕方なくだ」
「はは、そうっすか。んじゃ、ごゆっくり〜」
きぃと音を立て扉を閉めていく。俺は3階にある部屋へと足を運んだ。ボスの執務室である。
ノックをすることも無く部屋に入れば、ボスがデスクに肘を付き、暇そうに構えていた。けれど、俺が入ってきたのを見て、それは一瞬で崩れた。
「だ、誰!?」
「……酷いっすね、実の息子忘れるなんて。ライ・ビメティカミーダっすよ。お久しぶりっす、ボス」
「ら、ら、ららライくん!?今までどこで何してたの!?いやFemalePalaceに行ったんだよね?どこか怪我とかしてない?何かあったら、ちゃんとフタバくんに言うんだよ!?」
秒で近付いてこられたかと思えば、べたべたと体を触られる。今欺瞞の格好をしているせいで、はたから見たらセクハラ親父にヤられている被害者のように見えるだろう。だが、その手には確かに心配が表れていた。余程気が気じゃなかったのだろう。
「大丈夫っすよ。それより、現段階のことを報告したいんすけど、今大丈夫っすか?」
「あぁ、問題無いよ。聞かせてくれるかな?何があったんだい?」
それから、俺はFemalePalaceで体験したことを、淡々とボスに報告した。すれば、ボスの顔からは次第にふざけの感情が消えていき、考え込んでしまった。
「とまぁ、今はそんな感じっす」
「なるほどねぇ。実験だの、TOP4だの、色々言いたいことはあるけど、まぁ、依頼者の弟殺すとは、とんでもないことやってくれたねぇ」
「俺じゃねぇっすよ!なんか勝手に爆発したんすよ!って、そうじゃなくて、依頼者っすよ、依頼者!なにもんなんすか!」
デスクをダンと叩き、怒りを顕にする。ダンに聞いても知らないと言われておかしくなってしまった。
「それが、変な話なんだけど、私もよく覚えてないんだよねぇ。何で受けたのかも、今はもう曖昧なんだよ」
「はぁ!?」
そんなことがあってたまるか。元々黒い匂いがぷんぷんする依頼ではあったが、ここまでくるともう真っ黒も真っ黒だ。確実に想像の付かないヤバい何かが絡んでるとしか思えない。
「……それじゃ、何か食べ物とか、飲み物とか渡されやしたか?」
「うーん。あぁ!そういえば、差し入れにクッキー貰ったな。美味しかったよ。ライくんにも残せば良かったかな」
「それっすよバカ!!!」
「え?」
身を乗り出し、ボスの鼻を摘み、右に左に動かす。
「バカなんすかアホなんすか?依頼者とはいえ、そんな得体もなにもしれねぇような奴の出すもん食べちゃダメじゃねぇっすか!バカなんすか?それでも貧民街で暮らしてる人間っすか?ボスは地面に落ちてりゃなんでも食うんすかぁ??」
「ちょ、いたい、いたい、ぶんぶんしないで……!」
少し涙目になっているボスに勘弁して、手を離す。
「はぁ。とにかく、そのクッキーになんか入れられてる可能性は高ぇっすよ。全く、なんてことしてくれんすか」
「うぅ、ごめんってぇ……」
「分かったらもうしねぇでくだせぇよ。んじゃ俺は着替えたいんで一旦帰るっすね。あぁ、仕事はFemalePalaceの件が落ち着いたら振ってもらって構わねぇっす。今は無理っすけど」
「分かったよ。FemalePalaceの依頼は、引き続き受けてくれるんだね」
「まぁ、依頼者の弟死んだとはいえ、まだ依頼内容は達成していやせんし、それに、単純に俺があそこについて興味津々なんで」
「そうか。危険なことに首を突っ込むのは程々にしてよ」
「へいへい。そいじゃ、また来るっすね〜」
その言葉を最後に、執務室を後にした。そういえば、ヴィアのドレスもなんとかしないとなんて思いながら、2階の扉を開ける。
「お待たせしやしたー。ヴィア、ドレスなんとかしたい……って、えぇ?」
2階の応接室では、ミナヒとヴィアが何故か睨み合い、今にも殴り合いが始まりそうな女のバチバチの修羅場に発展していた。
……何で?
住所書いてるシーン、当然ヴィアは受付嬢の心が読めるので、誰の住所を書いたのか分かっています。なんでぇ?と思いつつも、突っ込んで気まずくなりそうと思ったので触れませんでした。




