regrettably reach out one's hand
嘘で全てを欺き、秘密を隠し通す
これまでもこれからも、俺の人生は変わらない
目的の為なら、這ってでもしぶとく生きてやる
俺だって普通に生きられると、証明してやる
「おいテメェら何してくれてんだ!お陰でこんなんになっちまったじゃねぇか!」
「元はといえば、貴女がヒガン様に余計なことを言ったせいでしょう。足を切られたのだって自業自得です。擦り付けてこないでください」
「はぁ?なんでそうなるんだ!大体、お前が素直にガラミユを渡してくれれば良かった話だろうがよぉ!お前のせいで公式戦まで受けることになっちまったじゃねぇか!」
「公式戦はそちらが言い出したことでしょう!?」
さっきからずっと俺と足無し貴族とのこんな感じの問答が続いている。タイミングを見てガラミユ連れてさっさと逃げたいのだが、彼女がしつこく俺を掴みそうはさせてくれない。なんでヒガンにあそこまでされて懲りてないんだ。しつこい。
「はぁ、もう貴女と話してもきりがありません。ガラミユはこちらで預かります。公式戦のルールは先程話した通りポーカー。なにか異論はありますか?」
「ある!大ありだ!!公式戦はもうなんでもいいが、ガラミユはおいていけ!!誰があたしを運ぶんだ!!」
「はぁ、知りませんよ。それだけ叫べるのなら、地面を這って移動することだって出来るのではないですか?」
「貴族のあたしが這って移動だと?何言ってんだ。テメェ、ふざけんのも大概にしろよ」
「そんな体で何が出来るというのですか。ガラミユ、行きましょう」
女の手を無理矢理振りほどき、ガラミユの手を取る。そのまま彼の手を引こうとしたが、逆に引っ張られる。そのせいで一瞬体制を崩しかけた。
「っと。ガラミユ?」
「……俺、ご主人様についてくよ」
「はぁ!?」
「よし、それでいい。おいで、ガラミユ」
両手を広げ、ガラミユを歓迎するかのような振りをする。彼女を見ていれば、ガラミユと繋いでいた手が震えて離すことが出来ない。いや、離しちゃ駄目だ。また、あんな目に遭ってしまうかもしれないのに、何で。
そんな俺の不安を感じたのだろう。これだけわかりやすければ無理もない。ガラミユは俺に密着し、誰にも聞こえないよう気を配りながら、耳打ちしてきた。
「ヴィアかヴェメにこのこと伝えて。ヴェメは普段から動き回ってるから分からないけど、ヴィアはこの前の5階の部屋に居る。1回しか行ってないけど、ライならどうせ覚えてるでしょ」
「でも、ヴィアは……」
「大丈夫、ライの事情は話してある。今ならきっとライの力になってくれるだろうから、素直に頼ってれば」
毒にならない毒をつきながらも、俺が助かることを伝えてくれる。要件を伝え終われば、ガラミユは俺から離れ、足を失った彼女の元へ歩いていってしまった。
「それじゃ、多分次は公式戦?とにかく、またな」
ライ。誰にもバレないよう、声には出さず、口の形だけで俺の名前を呼ぶ。その顔は恐怖なんてないといった風に、こちらが震えてしまう、怖いくらいの笑顔だった。
その後、何も考えられずに部屋に戻り、ただベッドに突っ伏していた。
ここに来てからずっと上手くいっていない。当然、初めてなのだから思い通りにいかなくて当然だ。だけど、俺にとってそれじゃ駄目なんだ。ボスは長期的になりそうみたいなことは言っていたが、依頼者の為にも、俺の為にもさっさとこの依頼を終わらせてしまいたい。
そんな色んなどうでもいいことを悶々と考えていると、時間はあっという間に過ぎていく。外の日の高さを唯一知れる時計が、長い針を35、短い針を10に止めていた。そろそろ行かなければ怒られそうだ。軽く身支度を整え、部屋の電気を落とし、ヒガンへの手土産を持ってから地下6階へと向かう。
このFemalePalaceには、消灯時間という消灯時間は無いらしい。午後22時を過ぎれば常夜灯になり、いつもより暖かい雰囲気の廊下になる。電気が落ちることも、部屋に入れないなんてことも起こらない。深夜に出歩いても、意外と誰にも怒られない、人も少ないし、お陰で自由にあちこち出入り出来る。地下6階にも、いつもよりスムーズに移動出来た。
ヒガンの部屋の扉をノックすれば、向こうからドアが開けられた。
「珍しいですね、ヒガン様の方から出てくるだなんて」
「いいでしょ別に。入って」
ヒガンに部屋の中へと誘導され、上品な椅子に座らされる。テーブルには申し訳程度のクッキーが置かれていた。
なんだか、FemalePalaceに来てからずっとヒガンの部屋にいる気がする。
「んで?なんすか?」
「明日の朝、会員達が解放される。……だから、欺瞞とは暫く会えない」
こちらにとっては嬉しい報告だが、ヒガンは悲しそうに目を伏せた。
「嫌なんすか?どうせ公式戦ですぐ会えるのに?」
「確かに会えるけど、でも、多分準備に時間かかるから、日程も遅れる。自分は初めて開くから……」
「え、公式戦ってTOP4で準備するんすか?黒服とかじゃなくて?」
「黒服にも手伝ってもらうけど、基本的に指揮をとるのは引き受けたTOP4。はぁ、めんどい」
言葉の通り心底面倒臭いという感情を込めた溜息を吐いた。
「そんなに嫌なら、受けなきゃ良かったじゃねぇですか。てかなんであんな怒ってたんすか?馬鹿にされたからっすか?」
「いや、別に自分に対してのあいつの言葉はそんなに気にしてない。気に食わないのは、欺瞞があれこれ言われたこと」
「俺?何でっすか?」
単純にハテナが浮かんだ俺の顔をまじまじとヒガンに見つめられる。そして急にふい、と顔を逸らされる。
「え、ちょちょ、なんすか?」
「……自分で考えれば?」
「え、え〜……。あ!あれっすか?好きな子虐められてんのがムカついたんすね〜?」
どうせ違うと否定されるかと思ったが、彼女の反応は全然違うものだった。
「……多分、そうなんだと思う。欺瞞だからムカついた」
その言葉に、咄嗟に返せる言葉が何もない。どうせ、そのうち冷めてなくなってしまうのに、何をそんなに舞い上がっているんだ。
「はぁ、本当に俺の事が好きなんすね」
「認めたくないけどそうだよ。他のTOP4を手駒にしようとしてるのも、正直やだ」
「わがままっすねぇ。んじゃそんなわがままなヒガンにプレゼント」
そう言って、懐から1枚の紙を取り出す。貧民街の事務所の座標を書いたメモだ。
「……なにこれ?座標?」
「正解。貧民街にあるその建物にくれば、俺に会えやすから。来れるならいつでも歓迎しやすよ」
「え?いいの?」
「最初からNOのつもりなら渡したりしやせんよ」
「……ありがと、タイミング見て行くから」
メモを両手でぎゅ、と大事そうに握り、嬉しそうに瞳孔を揺らし、頬を赤く染めている。
「それじゃ、もう夜も遅いし、朝解放されるならさっさと寝ないとっすね。あ、TOP4も出るんすか?」
「選択制。セラとレンはいつも帰ってるから、今回も帰ると思う。ペトは普段からずっとここに居る。自分もいつもは帰ってるけど、今回は公式戦の準備があるから残る」
「へ〜。そうなんすね」
テーブルに置かれたクッキーをひとつまみしながら、適当な返事をする。勝手にずっと囚われているのかと思ってたが、その予想は外れたらしい。
「それより、もう帰るの?」
「そうっすね。あ、でも会えたらでいいんで、1つ伝言頼みたいんすけど、いいっすか?」
「いいけど、誰に?」
「ヴェメっていう薄い紫髪の黒服っす。ガラミユが向こうに持ってかれたってのと、公式戦についても伝えてくだせぇ。ヴェメも、ミユちゃん庇ってたうちの1人なんで」
「分かった。それより、あのペット向こうに渡したんだ」
またね、と手を振り玄関に向かおうとしたところに、そんな言葉が投げられる。そんなことを言われては、無視してさっさと帰って寝るなんて出来ない。両手をきつく握りしめ、悔しさを噛み締める。ガラミユの為を思うなら、あれも1つの正解だったかもしれない。元の主人の元に帰って変わらぬ生活をする。でも、それだけしか出来なかったのだろうか。考えれば考える程、腹立たしくなる。あの女にも、ガラミユの手を掴めなかった自分にも。
「ライ?」
「……なんでもねぇっす。なんでもねぇ、けど」
むしゃくしゃした気持ちを抱えたまま振り返り、ヒガンに真正面から抱き着く。人肌に触れれば、自然と心が穏やかになっていく。温かい。
「ら、ライ?」
「……ここに来てからずっと、全然上手くいってくれないんす。人の命は軽いし、話は通じないし、イレギュラーなことばかり起きるし」
「うん」
ヒガンは戸惑いながらも、俺の背中に腕を回してくれた。優しく相槌を打たれれば、ライだけのものじゃなくて、東としての自分が抱えているものも全部、ぽろっと話してしまいそうになる。もう、手遅れかもしれない。でも、その手遅れはきっと元のプラマイゼロに自然と戻っていく。そうであってほしい。
「でも、ヒガンと話すのは結構好きなんすよ」
「へ!?」
「意外っすか?」
「……まぁ、うん。ちょっと。ライは、自分のことで遊んでるとしか思ってなかったから」
「遊ばれてる自覚あるんなら、こんな男さっさと切っちまえばいのに。男は処分やら、粛清やらの対象なんじゃないんすか?」
正直、何で彼女がここまで俺の事を好きでいてくれてるのかが全く分からない。最低なんだって知ってるなら、余計に何で。
「……ライが、優しいからやだ」
「はぁ?」
何を言われたのか理解出来なくて、腕の中にすっぽり収めていた彼女の顔を見る。そうしたら、向こうも顔を上げ、俺の顔を見てきたせいで、目が合ってしまう。
「ガラミユの件だってそうでしょ。あの子を庇ったって、ライにはなんの得も無い。寧ろ損が増えるだけ。なのに、なんで庇ったの?」
「それは、単純にミユちゃんが友達だからってだけっすよ。別に普通なことじゃないっすか。見ず知らずの人を助けたりしやせんよ」
なんていいながら、俺とガラミユの初対面は、彼が主人に襲われていたところを助けたことだ。あの時、俺とガラミユは間違いなく見ず知らずの存在だった。なのに、俺は彼を助けた。でも違う。あれは俺を守りたかっただけだ。
「そう。それじゃ、自分にあんなに親身になってくれたのはなんで?」
「優しさを売っておけば、後々利益になるからっすよ。ね?最低な考え方っすよね?」
本当はそんなこと、一切考えていなかった。ただ単純に、路頭に迷っている少女が、惨めで、哀れで、可哀想だと思ったから。だから、手を差し伸べたいなんて、偽善ぶったことを思っていたんだ。
ヒガンを抱きしめているのが怖くて、そんな嘘を言いながら、抱擁をそっと解いていく。名残惜しそうに手を伸ばされても、それをやさしく拒絶するしか出来ない。彼女に離れたお陰で、この部屋も離れられる。軽く手を振り、ヒガンに一時の別れを告げる。
「そんじゃヒガン、また会いやしょうね」
「……待って!!」
回したドアノブは、彼女の声によって15度程度で止まった。手を離せば、また元の位置に戻っていく。けれど、俺は振り返ってヒガンの顔を見ることが出来ない。
「確かに、ライは最低だと思う」
正直すぎるが、分かってるじゃないか。
「だけど、やっぱり優しい人。ライはただ、自分に最低だって言って、そうなろうとしてるだけの優しい人。いい人でもヒーローでもない。だから、ただの優しいだけの人。それがライでしょ。自分は、やっぱり、そんなライが好き。でも、離れてやっぱり違うって思うかもしれない。今がどうしようもなく好きなだけかもしれない。だから、その、少し考えるから、考えて、まだ好きだったら、ちゃんと好きです、って言っていい……?」
熱烈な告白(仮)を受け取れば、顔を見ないなんて最低な行動は出来ない。そんなこと言われずとも、きっと君は、俺のことばかり考える。もっと、もっと俺だけを見ていて欲しい。
ヒガンに近付き、彼女の手をそっと取る。そして、地面に片膝をつく。
「ら、ライ?」
「別にいらねぇっすよ、そんな告白。ずーっと、好きでいさせるし、ちゃんとした好きは、俺から言うんで。だから、これはヒガンがもーっと俺の事ばかり考えちゃう魔法っすよ」
手の甲に軽くキスを落とせば、絵本の王子様になった気分を味わえる。らしくなくて、少し笑いそうになってしまった。それに、これは欺瞞の格好でやるもんじゃない。もっとそれらしい服を着ていたかった。文句を内心垂れながらも、ゆっくりと立ち上がり、ヒガンの顔を見つめる。真っ赤で口を開けっ放しで情けない。普段の彼女とは大違いだ。
「あ、えと、そ、そう、なんだ」
「そうっすよ。それに、そうしねぇと俺ヒガンに殺されそうっすから」
今俺が男嫌いのヒガンと一緒に居ても死んでいないのは、彼女が俺を好いてくれているからだ。要するに、その恋の魔法が解けてしまえばあら不思議、きっと俺はざくりと殺されてしまうだろう。それがここのルールなんだから。
「え、あぁ、そういう……」
「そうそう。それじゃ、俺は本当に帰るっすよ。もうこれ以上引き止めたりしねぇでくだせぇよ?」
「だ、大丈夫。今言いたいことは、全部言った」
「そうっすか。んじゃまた。待ってるっすよ」
「……うん。またね」
慣れてなさそうな控えめな笑顔で、軽く手を振るヒガンを見たのを最後に、部屋を出ていく。
よし、やりきった、何事もなかった、よし。
……俺も少し冷静になった方がいいのかもしれない。
そういや、奴隷契約について説明してませんでしたね。この先出来るか分からない(出来なくても無理矢理ねじ込むかも)ので、先に説明します。奴隷契約とは、その名の通り主人(奴隷目線の自分の契約相手)に全てを捧げ、逆らうことは一切無く、命令には全て従順に従わせて頂きます。そんな感じの契約です。ちなみに無理矢理破ろうとしたら当然きつい制裁です。内容は主によって様々です。
これは富裕層にいる男殆どが強制的に交わされているものですが、例外でそうではなく、富裕層で自由に暮らしている男も居ます。ファルターが正にそれです。彼は男ですが、奴隷契約は結ぶことなく、使用人として契約を交わしています(現代とあまり変わりません。普通の雇用契約です)
よって、男が奴隷契約を結ぶことは絶対ではありません。でも、奴隷契約を結んでないと、周りから白い目で見られます。だからファルターが1人で外に出るのはあまりよくないのですが、彼はそんなの気にせずがんがん1人で出掛けます。辞めてあげて
あと黒服もまともに説明入ってないんですけど、それはまた次の機会に……。他にも富裕層と貧民街の男の違いとかもまともに説明入ってませんね。頑張ります




