Saint's Brainwashing Technique
嘘で全てを欺き、秘密を隠し通す
これまでもこれからも、俺の人生は変わらない
目的の為なら、這ってでもしぶとく生きてやる
俺だって普通に生きられると、証明してやる
「セランカとの?それ本当っすか?」
「こんなことで嘘はつかない」
セランカは俺が1番最初に目を付けていた人物だ。話すことすら手こずると思ったが、こんなあっさりいってくれるとは。
「それで、機嫌が変わらないうちに行かなきゃだけど……」
ヒガンは、そう言いながらも、表情は暗く俯いていた。普段喜怒哀楽が乏しい彼女だが、ここまで落ち込まれては誰にだって分かる。
「何か嫌なことでもあるんすか?」
「……セラは、洗脳の能力に、氷のトレビア。目を合わせただけで氷漬けに出来る。他に、話したり、触ったり、その場に居るだけで影響がある」
「へぇ、本当に厄介な能力っすね」
「そう、だから、行かないで欲しい」
裾をきゅっと指先で掴み、俯きながらもそうお願いされる。男嫌いの彼女からそんな風に言われては、少し揺らぎそうになる。
「無理っすね。今後の為にも、TOP4とはお友達になっておきたいんで」
「……そっか。それじゃ、1つ言わせて」
「なんすか?」
ヒガンが掴んでいた手を離したのを見て、そう聞く。
「話し合いは長引かせないで。何されるか分かんない」
「分かりやした。さっさと話してさっさと撤退しやす。それにしても、随分と俺のことを心配してくれるようになりやしたね。そんなに俺のことが気になりやすか?」
「ぜ、全然。そんなことない」
「そうっすか。残念っす」
分かりやすく肩を落としたと同時に、足音が曲がり角の先から聞こえてきた。
「……誰か来たっすね。隠れやすよ」
「ならついて来て。この先に備品を収納してる部屋がある」
「分かりやした。足音は立てねぇでくだせぇよ」
「そっちもね」
小声で短くやり取りをして、ヒガンの案内に従い、警戒を怠ることなくその部屋へと向かった。
ヒガンに連れられた部屋は異質だった。元々、地下4階が物置なんだから、地下5階に何を置くんだと思っていたが、これは分けた方がいいだろう。だってここに置かれているのは、メスやら献血パックやら、他にも名前も知らない医療器具や薬瓶が置かれていた。
「もう誰も居ないと思うから出よう。セラのとこに行かないと」
そんな部屋に着いてヒガンが1番に発した言葉はそれだった。
「……そう、っすね」
色々聞こうとしたが、今はセランカに会いに行く方が先だ。そのあとにここのことは聞けばいい。欺瞞を身にまとい、ヒガンの案内に従い、セランカの元へ向かった。
「ここ。ここがセラの部屋」
地下6階の右奥の部屋の前で、ヒガンはそう言う。この先に、洗脳の能力を持つセランカ・ドゥビユエーラが居る。
ごくり、と音が鳴ったかと思えば、唾を1つ飲み込んでいた。緊張というか、武者震いというか、懐かしい気持ちだ。大きい相手との話し合いは胃がもたれそうな味がする。
「心の準備はいい?」
「いつでもどーぞ」
ヒガンは小さく頷き、扉を3回ノックする。
「セラ、居る?欺瞞を連れてきたよ」
「どうぞお入りください」
扉の奥から声が聞こえてくる。その声に従い、部屋の中へと入っていく。
その部屋はヒガンと同じような間取りだが、置かれている物はまるで違う。大きい本棚にはびっしりと聖書が詰められ、宗教を彷彿とさせるものが整然と並べられていた。セランカが座っているテーブルセットには、優雅なティーパーティーでも開ける小物が揃えられていた。
「随分と遅かったですね。何をしていらしたんですか?」
「欺瞞を探すのに少し時間がかかった」
「そうでしたか。それでは仕方ありませんね。ここまでお連れ頂きありがとうございます」
「うん。それじゃ、自分はこれで」
この場を逃げようとしたヒガンの手を掴み繋ぎ止める。当然彼女は不機嫌そうな顔で振り返ってきた。
「なに?」
「2人きりだなんて恥ずかしいです。折角です。ヒガン様もお話しましょう」
こんな奴と2人きりにするな。そういう念を込め、ヒガンを見つめ続ける。
「……はぁ、分かった。セラもそれでいい?」
「構いませんよ。お好きなだけいらしてください」
「ありがとうございます。それより、本日はお話の機会をくださりありがとうございます」
「いえいえ。私も欺瞞様とはお話してみたかったので。お礼を言うのはこちらの方です。ささ、美味しいクッキーもご用意致しましたので、こちらも是非お召し上がりください」
セランカはそう言って、テーブル上にあるクッキーを示す。
「ほら、ヒガン様もお座りになって」
「あぁ、うん」
嫌そうにヒガンは無理矢理座らせられた。これで何かあった時はどうにかなるだろう。
「それで、お話とはなんでしょうか。トレディ様に内緒にしていますので、手短にお願い致しますね」
「あら結構。私も長々とお邪魔するおつもりは最初から御座いませんので。要件は特にありませんわ。セランカ様とお話してみたかっただけです」
このお茶会と化した話し合いに対しての俺の目的は、セランカという人間を探ることだ。それ以外にも、持ち帰れる物があるなら何でも持ち帰る。
余計なことは考えるな。前世でやったことと同じことをやればいい。
こんな聖女モドキを、俺の所に堕とすことなんて簡単だ。
「ふふ、それはそれは嬉しいことですね。それより道中、誰にも見つかりませんでしたか?地下6階に来るまで大変だったでしょう?」
「いえ。ヒガン様が一緒でしたので」
実際はヒガンと共に降りたのはたったの1階だが、そんなことを言っては5階に出入りしていたことがバレてしまう。
「そうでしたね。それはなによりです。そういえば、真理様のことは残念でしたね」
「えぇ。あれ以来、彼女とは1度もお話出来ていませんので、不安で仕方が無いのです。セランカ様は、何か知ってることはありませんか?私、彼女の事が心配なんです!」
態とらしく声を荒らげ、目に少しの涙を溜める。流れない程度が丁度いい。
「あら、そうだったのですね。ですが申し訳ありません。私も、代償を支払うことになってしまった方については、詳しく存じあげていないのです。トレディ様にお話出来れば良いのですが、私から聞いても、あの方はきっと話してくれないでしょう」
「それでは、私が直接お話する機会をお作り願えませんか?」
「ただの一般会員がトレディ様との面会を申し込むのですか?それを私から話して、トレディ様が引き受けて頂けるともお思いですか?」
「どうでしょう。やってみなければ分かりませんよ。案外あっさり受けてくださるかもしれません」
「それは神に誓って無いでしょう。トレディ様は神聖なお方ですから。そんな方に簡単に触れられては、トレディ様だけではなく、私、いえ、TOP4のいい迷惑です。ですよね?ヒガン様」
「え、あぁ……」
ヒガンは辛そうに頭を抑えながら、なんとか返事を返した。目が虚ろで、顔色も良くない。明らかに様子がおかしい。
「ヒガン様、大丈夫ですか?私が分かりますか?」
「ぎまん、でしょ。分かるよ……。うっ……」
再び頭が傷んだのか、一層辛そうな表情をして呻き声を上げた。
「大変です!すぐに運ばなくては!」
セランカは席を立ち、ヒガンの方に駆け寄る。そして、彼女の頬に手を伸ばそうとしてくる。俺はその行動に危機感を感じ、セランカの手を弾き、ヒガンを抱き寄せた。
「痛い!何をされるのです!」
「それはこちらのセリフです!ヒガン様に何をしたのですか!」
「何を?私は何もしていません。ヒガン様が急に体調が悪くなって仕舞われただけです。それより、そのまま放置されるのはよくありません。急ぎベッドに横にしなければいけません。私の部屋の物をお使い下さい!」
「……結構です」
よく分かった。この女とは話が出来ない。そんな女の部屋にヒガンを置いておくわけにはいかない。いや、俺が置きたくない。
「ヒガン様は、私が責任を持って彼女の部屋までお運びします。でも最後にお2つ、個人的にお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「えぇ。ご自由にどうぞ」
「では、お言葉に甘えて。私達がここから出られないのは何故ですか。そして、いつになったら出られますか」
これが分かれば、次の策が立てられるかもしれない。もし、今の計画が破綻しても、まだ手は残っているかもしれない。いや、無くても作るしかない。
「ふむ、そうですね。実はそれはトップシークレットなのですが、特別にお教えするのも悪くはありません。理由は1つ。ビーテア・ラチェアナヴィというお名前に聞き覚えはありませんか?」
「……聞いたことはあります」
確か、ミネビアに俺のことを教えた人物だ。そいつが何者なのかは未だ掴めていない。
「その方、行方不明という扱いになっているのですが、実はまだ生きているのです。そして、現在も尚、名前を変えてFemalePalaceへ在籍しております」
「はぁ?」
「ふふ、信じられませんか?ですが事実です。ビーテアが誰なのかは誰にも分かりません。私達TOP4にも分かりません。ですが、会員の皆様が出られない理由は1つ。それははっきりしています。実験期間です」
「実験期間?」
嫌な気配しかしない単語の並びだ。何が実験だ。きっとろくでもないことに決まっている。
「そう、実験期間。もう人として機能しなくなってしまった貴族の方々を、ビーテアを経由して知り合った研究者の皆様が再利用するのです。会員の皆様が出られないのは、被検体の見定めです。私はそういったことには精通していませんので、詳しいことは存じ上げませんが、ビーテアが言うには、被検体は数人必要なのだそうです。それには、お亡くなりになってしまった貴族だけでは足りないようでして……。ですので、生きていてFemalePalaceに貢献をあまりされていない貴族を研究者の皆様に差し上げているのです。我々は足手まといの会員を楽に廃棄出来る。研究者の皆様は、楽に被検体が得られる。所謂ウィンウィン、というやつです。期間と致しましては、普段通りなら4、5日程度で終わります。あぁ、このことは普通の会員の方は全て知りませんので、他言無用でお願い致しますね」
「は、はい」
人間じゃない。人を人と思っていない。何が実験だ。何が楽に廃棄だ。何が被検体だ。何がウィンウィンだ。俺はこんなことに口出しして、全部訂正してひっくり返せる程に強くもないし、そんなことをしようと言ってくれる正義心は住んでいない。何も出来ないんだ。
もう目を閉じてしまったヒガンを抱えて、入口へと歩く。
「あら、もうよろしいのですか?」
「えぇ。本日はお時間頂戴頂き、ありがとうございました」
「いえいえこちらこそ。楽しいお茶会でした。またご一緒しましょうね」
「えぇ、喜んで」
そう言い残し、セランカの部屋を出た。
なんとも言えない気持ちだ。だが、強いて言うならば、心臓に穴を開けられた気分だ。あんな戯言、反吐が出る。それが現実なのだと言われればそれまでだ。だけど、そんなものでちゃんちゃんと片付けられるのが気に食わない。俺に正義なんてものは似合わない。こちらから願い下げだ。だからこれは、皆を救いたいんじゃない。俺が気に入らないから口を出す、ただの自己満足だ。
俺の目的は確かにFemalePalaceの破壊だ。それは決して揺るぐことは無い。でも、それだけじゃない。人体実験の破壊、そして、ビーテア・ラチェアナヴィを見つけることだ。
頭のいい人の探り合いは書いてて疲れます。多分ライくんは私の書いてること以上に色んなことで頭を巡らせています。多分今回で更に考えること増えました。止めて欲しいです。




